フェリアの日記(1)

(1)

はぁぁぁ、あたしは、ため息を一つそしてテーブルの上で頬杖をついた。
あたしは、エルフ族で職業は魔法使い。でもレベルはピカピカの1!
エルフの特徴、とがった耳を象徴してたとき、いろんな人が”パーティ
に入ってくれないか”なんて言ってきてくれたけど、レベル1だって聞いて
から、”やっぱりいいや”で断られた。それが何度もつづいて....
だから、とがった耳を隠したら誰も来なくなった。
エルフだっていうだけで選ばれてるのかな...
....も1つため息をつき、あたしは、ピカピカの冒険者カードを手にし
写真の中のあたしを見た。
生まれて初めての証明写真、あたしはビックリしてて顔がこわばってる。
冒険者になれて飛び上がるほど嬉しかったのに...

雪解けの季節、あたしは冒険者になる!と決めて、大都市エベリンまで
駆けつけた。
族の長様は、あたしが冒険者になることをものすごく反対されたけど、
あたしがあきらめないのを見て許してくれた。
仲間からも、お金までもらって見送りにきてくれたんだよね。
エベリンでは、冒険者になるために資格試験があった。
何も知らなかったあたしだけど、持ち前の強運を発揮してテストは
なんとかクリアー。
魔法だって、優しい老夫婦の魔法屋で安く覚えることができた。
残りは仲間だった...

ここ、冒険者ギルドにきて、はや、10日。
お金だってそろそろやばいし、なんとかしなきゃ。
でも、やっぱりあたしには冒険者向いてないのかも...
長様が反対したのはこういうこと?
それに、冒険者になったら書こうと思ってたこの日記もかけないなんて...
やめようかな...あたしにはきっと無理だったんだよ。
あたしが放心状態のなか、気が付いたら2人の男(人間)が目の前に立っていた。
「何か用ですか?」
あたしが聞くと1人の男が、
「パーティを組みたいんだ。あんた魔法使いだろ?」
えっ...?
「どうして...」
あたしが言いかけると、口を利いた男がスッと何か差し出した。
あ、それあたしの冒険者カード!!!
「返してよ!」
あたしは、男からサッとカードを奪い取った。
まったく、なんてことを。
「アルテア、またやったのか?」
ずっと黙ってた男の方が言った。
アルテアと呼ばれた人はペロッと舌を出した。
なんてヤツ、これだから人間は..っと出かけた言葉をのみ込んで。
あたしは怒りをおさえつつ彼らを見た。
格好からみてファイター...でも双子?
「イムサイ、魔法使いだぜ」
アルテアはイムサイという男に囁いた。
「わかってる。ぼくらは魔法使いを仲間にしたくて、
 もしよかったら仲間になってくれないか?」
イムサイは、優しい目をして言った。明るい鳶色の目。
思えばすごくかっこいい人たち...なんてみとれてる場合じゃない。
あたし、エルフを隠してるはずだしそれに...
「でも、あたしレベル1なの」
ようやく言えた言葉...断られるの承知で、でもこの人たちでもし
断られたら冒険者はやめる!そう決めた。
彼らは驚いたように見たけど笑って自分の冒険者カードを差し出した。
「俺達だって初心者」
アルテアのカードもイムサイのカードもレベル1と書かれていた。
「俺は、アルテア、こいつはイムサイ。ファイターだ」
予想していたのと全く違った。
「ぼくら似てるけど双子じゃないんだ。年子」
イムサイが補足する。
あたしの中で暖かい安心感を感じた。
だいじょぶ、この人たちならきっと...
あたしは、決意を固めると改めて自己紹介した。
「初めまして、こんにちはあたしはフェリア。魔法使いで...
 エルフなの」
あたしは、とがった耳を出しておじぎをした。

そして、日記にはじめてインクがとんだ。
「念願のパーティ成立日!」
                       *END?*

(2)

 あたしのパーティはアルテアとイムサイとあたし(フェリア)の3人。
 本当は、あと一人できたらヒーラーとかエレメンタラーなんかがいるのが望まし
い。
 だから、あたしたちは、まだ冒険者ギルドに居座って、ほとんどお馴染みという
か、常連になってる。
 あたしとしては、別に3人でもいいんだけどなぁ...
「おや、まだ出発しないのかい?ここは、都市だから、さっさと冒険にでないと
 借金するよ。そうだ、昨日入った新人さんかねぇ、奥のほうで座っててえらく
 綺麗な人だったけど。あんたたちにはそこのエルフの娘がいるからねぇ。
 友好的にはなれないみたいだけどねぇ」
 ギルド管理者のおばさんが教えてくれた。しかし、このおばさん話好き、世話
妬き好きで有名。
 ここでつかまったら、夕方まで帰れるかどうか...
 あたしの思いとは裏腹におばさんは珍しく話をせずギルドに通してくれた。
「今日のおばさんどうしたのかな?」
 あたしが何気なく呟くと、
「その冒険者に問題ありだったりしてな」
 とアルテアが皮肉たっぷりに言った。
 あたしは、意味がわからなかったけど、まもなくアルテアの予想はあたる。
「あれがそうかな...?」
 イムサイが言った。
「えっ?どこどこ?」
 身長が彼らより頭1つ分くらい低いから見えないのよね。
「あの人だかりだろ」
 アルテアが補足した。
 そういえば、何か奥の方が騒がしいと思ったら、10数人の人だかりができてい
た。
「何、あれ...」
 あたしたちは思い切って人だかりに駆けつけた。こういうのって確か野次馬とい
うヤツ..?

「どう、俺達とパーティくまないか」
 ゴッツイかんじの男達が綺麗な女の人に訊いていた。
 女の人はきれながの銀青色の瞳で男達をジロリと睨み、
「結構よ」
 と一喝。
「そんなこと言わねぇでさ...」
パッシィィィンーーーー!
「しつこいのは嫌いよ、出て行きなさい無礼者!」
 いきなり女の人が男を平手打ちした。
 これには、誰もが驚いた。もちろん、あたしもアルテアもイムサイも。
「何すんだこのアマッ!!」
 ちょ、ちょっとここで騒いだらまずいんじゃないカナ..
「人が下手に出ればいい気になりやがって。女だからって容赦しないぜ」
 まずい、相手は5人もいるのに...止めないと。
「待って...」
「待って下さい!女ひとりに多勢だなんて失礼ではありませんか?」
 あたしが言いかけたおりに、イムサイが進み出て、アルテアも立ちはだかる。
「そ、そうですよ。イムサイのいうとおりよ。女の子に失礼です」
 あたしも勇気をもって言った。
 少しビビリながらだったけど...
 でも、そんな気遣いを破った人がいた。
                      *つづく*

(3)

「なんのつもり?あたしを庇ってるわけ?」
 沈黙を破ったのは女の人だった。
「けっ、やってられねぇよ。おい、他行くぜ」
 そのまま男たちは去り10数人の人だかりも消え、あたしたちとその女の人の
中で気まずい雰囲気が流れていた。
 これもまずい。あたしたち、この人を仲間にしようとしてたから...
 でも正直に話すことにした。

 彼女の名前はエレン。
 年齢は16歳で職業はエレメンタラー風の聖霊を操るらしい。
 レベルは12。
 パーティが全滅したらしくてここへ来ているとのこと。

「でも、どうしてパーティ組まないの?」
 あたしが訊ねると、エレンは不思議そうに首を傾げた。
 答えたくないのカナ..そうだよね。だって、仲間が死んじゃったら。あたし
だって、アルテアとイムサイに会って良かったと思うけど、いなくなったらどう
すればいいかわからないし..
 彼らもその状況を思い浮かべたのか、黙っていた。
 再び静寂がおとずれる...
....................................
「今は、ふっきれないかもしれないが、もしよければ俺達仲間にならないか?」
 アルテアが沈黙を破って言った。
「あたし、アルテアとイムサイに出会って良かったと思ってる。ねぇ、エレン
 さん気が向いたら言って...
 あたしたちとうぶんここにいるから」
 あたしも言った。あとはエレンさんの気持ち次第。
 彼女はうつむいて黙ったままだったので、結局あたしたちはギルドをでようと
した。
「待って!あたしを仲間にしてちょうだい。
 あたし、ずっと待ってた。
 パーティじゃなくて仲間っていう言葉」
 彼女が急に立ち上がりあたしたちの前に立つ。
「それじゃ..」
「改めてエレンよ。さんづけはやめてよエルフの方」
  エレンさん..うーんん、エレン。
 あたしたちは、嬉しさが顔に出つつあいさつした。
「あたしはフェリア。よろしくエレン」

 また1ページ、日記帳にインクがとんだ。
「仲間エレン加わる!」
                   *つづく*

(4)

 今回から、本格的な冒険にはいるため、少し紹介しようと思います。(有希)

              登場人物紹介
 フェリア:本編の主人公。エルフ族で魔法使い。年齢は人間の年で15歳。
      冒険者になろうとして、エルフの森を捨て、冒険者になったが、
      エルフ族でもレベルが低くてパーティに入れなかった。そして、
      エルフのとがった耳を隠していたのに仲間にならないか?という
      誘いをうけ、仲間ができた。杏色の瞳に金色の髪。
 アルテア&イムサイ:一見双子に見えるけど実は年子。1人だったフェリア
           を仲間にする。代々騎士の家系というのはご存じです
           よね。両方とも職業はファイター。鳶色の瞳、黒髪。
 エレン:16歳には見えない綺麗な美女。パーティの全滅により1人のとこ
     ろ、アルテアの言葉により仲間になる。レベルはなんと12!職業
     は、エレメンタラーで風の聖霊を操る。銀青の瞳に銀髪。
_____________________________________
 
「わぁ、広い部屋。さすが市長ってかんじ...」
 あたしの第一声が部屋中に響きわたった。
「気に入ってもらえて光栄ですよ、フェリア君。
 ところで、お茶でもいかがかな?高級茶を用意しよう」
「えっいいんですかー?」
「もちろんですよ」
 わーい。
 こちらは、ルーン市の市長ルーカスさん。
 あたしたちは、このルーカスさんに頼まれてルーン市まで来ている。
「フェリア、あまりはしゃぐなよ。俺達、用があってここに来てるんだ」
 アルテアが注意する。
「だって、見たこと無いのがいっぱいだもん」
 あたしは、はっきり言った。人間の持ってる物を見るのも珍しいけど
この部屋にあるのはすごく珍しい。
 牛みたいな(ミケドリアというらしい)剥製に、へんてこりんな絵、
いかにも高級そうな皿が並んでるし、市長を象った像があちこちにちら
ばって置かれている。
 ようは、あたしから見れば想像できないようなのがたくさんこの部屋
にはあったのだ。
「珍しいと言えば珍しいんじゃなくて?」
 ほらほら、エレンだって言ってるし...
「あたしにすればガラクタも同然だけど」
 が、ガラクタねぇ...。
 相変わらず、言うこときついなぁ。
「エレン君、貴女は物を見る目がありますね」
 げげ、市長さん。えーんタイミング悪すぎ...
 アルテアもイムサイもあちゃーって顔。もちろんあたしも。
 エレンはそれでも平然と言ってのけた。
「あら市長様、お褒めいただき光栄ですわ」
 褒めてない褒めてない。
 エレンって、少し?いやだいぶ頭の配線ずれてないか?
「ハハハハハ、おもしろい人ですね。今夜食事でもどうですか?」
 市長さんは口元をピクピクさせながら言った。
 怒ってるよ〜、どうするんだエレンー。
「お断りしておきますわ」
 今度はにっこり笑いながら言ったエレン。
「それで、市長さん。依頼というのは...?」
 イムサイが訊いた。
 市長さんは、少し困った顔をしながら言った。
「実は、ルーン市の北に洞窟がありましてですね、そこに我が娘を連れて
 行って、洞窟の奥にある宝を取ってきてもらいたい。私が行くべきなん
 ですが、忙しくてですね。娘は一応洞窟の道を心得てますからね。
 よろしくお願いしますよ」
『えーーー?』
 あたしたち四人とも声を揃えて叫んだ。
                      *つづく*

(5)

      (エレンの思い)
 だいたい、自分の娘をそんな危ないところに行かせる普通?
 あたしだったら、絶対しない。第一女の子なのよ?
 いい加減にも程があるわ。この人何考えてるのかしら...
      (アルテアの思い)
 おいおい、娘を守ってくれなんていうのを期待してたんだぜ。
このオッサン何考えてるんだ?けど宝には興味あるな。
      (イムサイの思い)
 洞窟か...、いろいろ持ち物がいるぞ。ポタカンに、ロープ、
というよりそれは用意してくれるのか?(笑)
____________________________________
      (フェリア von.)
 そんな、洞窟とはいえモンスターとかでるんだよね。やだやだー。
そんなのでたら、あたし死ぬかも?
 あ、でもあたし冒険者なんだから当たり前?
 そっかそっか。って納得してどうする。問題は、市長さんの娘さん
だよ。いくら洞窟の道を心得ているとはいえ危ないじゃないかな..?
「市長様、その娘さんて冒険者なんですの?」
 エレンが単刀直入に訊いた。
 市長さんは、
「いや、冒険者ではありませんよ。そうですね、一度会えばわかり
 ますよ。それから考えてくださって結構ですよ」
 と言ってメイドを呼びつけ伝言する。
 会えばわかるって、もしかして問題ありな子じゃないよね。
 一瞬あたしの頭にイヤな予感がしたのは、アルテアもイムサイも
エレンも同じだった。
 神様、エルフの守護神様、問題児じゃありませんようにっ!!!
 あたしは、深くお願いを心の中でした。
「ルーカス様、お嬢様はもうしばらくでくるそうです」
 呼びに行ったメイドが市長に耳打ちする...って、聞こえてる
んだけど。
「わかった。さがっていい」
 市長はメイドに命令すると特大のため息をついた。まるで、訊いて
くれと言わんばかりに...
 しかし、誰も訊こうとはしなかった。予想はついてたからね...
「お父様ん、あたくしを呼びつけるなんて、ひどいですわん。
 まぁ、お客様がいらして?
 あら、かっこいい方。双子みたい。
 それにかわいいエルフさんに綺麗な方ねん、でもあたくしの
 ほうが美しくってよ」
 や、やっぱり...。
 エレンはムッとした表情で彼女を見ていたが、
「子供(ガキ)...」
 と一言。
 あああ、もうなんでそう思ったことポンポン言うの?
もしかして、問題児を2人かかえて洞窟へいくのー?
 まぁね。エレンの言うことは正しいと言えば正しいけど、
彼女の容貌はこんな感じだ。
 140cmくらいの身長で、黄色のドレスみたいなのを着て、
目は緑、髪は赤。年齢はたぶん12歳前後。子供のくせに、
つけまつげにマニュキア、きつめの香水をつけてるらしい。
 一言でいえば派手。
「あらん、今ガキって聞こえたけどん空耳かしらん」
「...空耳ならよかったわね」
 エレンも負けじと言い返す。
 なんかやな予感。
 市長もまた特大のため息ついてるし、アルテアとイムサイは
他人事のように見ている。
 ちょっと、ちょっと見てないで何とかしようよ。
「エルフさん、あたくしの方が美しいわよね?」
「フェリア、こんなガキの相手なんかしなくていいのよ」
 ええっ、いたばさみにされるなんて...
「ガキ?言ったわね。エルフさんあたくしよね」
「えっと..あの..」
「フェリア、どうなのよ?」
 そんな〜。エレンもたかがこんなことで言い合いしないでよ。
 あたしが困ってアルテアたちに助けを求めようとよそ見すると、
なんと、彼らは市長と楽しくおしゃべりしてたのよ。
 卑怯、あたしがこんなに苦労してるっていうのに...
 イムサイと目があったけど彼は、手を合わせてそっちは頼んだ
ってかんじで片目を瞑った。
「どうなのエルフさん!」
「フェリア!」
 ええい、こうなったらいってやるわよ〜。
                      *つづく*

(6)

「もちろん、それはあたしに決まってるでしょ!」
し〜〜〜ん......静寂......
 え、え、え?なんかはずした?
「フェリア?」
「あ、あのえっと...」
 エレンが真剣な表情で見てくるからあたしはドキマギした。
〜〜〜クスッ〜〜〜
 エレンが笑った。
「クスクス、アッハハハハ」
 彼女の笑いが部屋中に蔓延する。
 やっぱり、この人頭の配線ずれてるよ。
「フフフ、おもしろいわ。
 そうね、この中ではフェリアが一番かわいいわね。
 あ、それとあたしルーア人なのよ。市長の娘かなんか知らないけど
 あんたと比べれば、あたしの方が人種的に綺麗なわけ。
 そこいらにいる凡人とちがうのよ。わかった?マセガキさん」
 おいおい、マセガキって、また余計な事言って...
どうなっても知らないから。
「ルーア人!?」
 市長の娘が訊いた。しかも、かなり驚いてる。
「そうよ。
 あたしと張り合うなら鏡見て出直しなさいっ!!」
 口調でわかるとおり、言ったのはエレン。
 はぁぁぁ、もうこれからどうなるのやら...
                    *つづく*

(7)

 市長の娘はリーゼル。
 予想通り12歳で市長の悩みの種の張本人。
 
 あ、そういえば...あたしはあることに気が付いた。
「ねぇ、市長さん。奥様はいらっしゃらないんですか?」
 あたしが訊くと市長さんは「ああ」と1つ。
「お母様は家出したのよん。あたくしとお父様を捨ててねん」
『家出!?』
 あたし、アルテア、イムサイ、エレンの声がまたハモる。
 市長の娘...じゃないリーゼルは、さも当たり前のように言った。
「まぁ、当然よねん。
 お父様はこんなガラクタ集めてるし、あたくしはこんな格好だし、
 お母様は極普通の人だからねん」
 ガラクタ...。エレンと同じ言葉。
「市長、宝ってのはどんなのだ?」
「アルテア、今そんなこと訊いてる場合なの?」
 あたしが言うと彼は、
「俺達は何の為に来ている?
 だいたいフェリア、人にはいろんな事情があるんだぜ」
 うっ、事情か...そこまで考えてなかった。
 アルテアは大人だなぁ。
「宝にまつわる言い伝えがありますよ。
 勇気あるもの洞窟に入るなり
 魚のようになれ
 霧を吸い込むべからず
 足下注意!
 信ずれば目的のもの見つかるなり」
 いかにもうさんくさい...
「お父様、それが宝とは限りませんよ」
 不意にどこからか声が聞こえた。
「ラッセ!」
「お兄様!」
 市長さんとリーゼルが同時に叫んだ。
「リーゼルを呼んでおいてこのボクを呼ばないとはあまりにも不公平
 ですからね。
 おや、これは珍しいエルフですか?
 本物を見るのは初めてですからね」
 と言って、軽々しくあたしの手を掴んだ。
 やだやだ、何なのコイツー?
「フェリアは見せ物じゃない、軽々しく触れるな」
 イムサイが、あたしの掴んでいた手を叩きあれよあれよというまに
あたしは、アルテアとイムサイの間に座っていた。
 な、なんかドキドキしてきた...
 信じられる?両隣に美男子がいるなんて。
「ふーん、妬いてるのか?
 それで、フェリアっていうんだ。かわいい名前。
 君はどう思ってるんだい、彼のこと」
 もう、だから何なのよ〜。
 この人って、周りをわかってないっていうか、変!
「ちょっと、あなた失礼じゃないの?」
 おお、エレン。もっと言って言って〜、こういうときにこそ
エレンの出番だと思うんだ。
「女を何だと思ってるわけ?」
 そうよそうよ。
「あたしを差し置いてフェリアだなんて許せないわ!!」
ガックン.......
 あたし、アルテア、イムサイ、市長さん、リーゼル、ラッセ、
つまりエレン以外全員がソファーからずり落ちた。
 さっき、あたしがこの中でかわいいっていったのエレンなのよ!
「どうしてずり落ちるのよ。
 本当のこと言ったまでよ。
 誰からも認められないあたしって何なの?なんて可哀相なのかしら。
 この美しさがわからないなんて...
 ああ、あたしって罪な女だわ」
「......」
 酔狂し続けるエレンはほっといて...話をもどさなくっちゃ。
 エレン?いいの、どうせ酔狂しながら聴いてるんだから。

「それで、宝が見つかったら山分けということでいいんですね」
 あきれつつ、イムサイが訊くと市長さんは頷いた。
「頼みますよ。
 リーゼル、ラッセ、洞窟の道案内をしなさい。
 フェリア君、ラッセが無礼をしたら叩いて結構ですから。
 それより君にはアルテア君とイムサイ君がついてますか...」
 もう、市長さんまで...
 アルテアとイムサイはガードマンじゃなくて仲間なんだってば。
 あたしたちは、市長さんに見送られて問題の洞窟へと向かった。
 
 その途中、こんなこともあったんだけど...
「あーーー、大変すっかり忘れてたわ」
 急にエレンが叫んだ。
 まさかトイレ借りたかったとかじゃないよね。
 あたしの予想は見事に外れた。
「どうしたの?」
 あたしが訊くと彼女は、
「あの市長、高級茶出すとか言ってた癖に出さなかったのよ!」
 ....。
 もう誰もずっこけようとはしなかった。
                      *つづく*

(8)

 なんだか不気味な洞窟だなぁ。
 だって、洞窟に入った途端に入り口が大きな岩で塞がれちゃったのよ。これって、もしかして
絶体絶命?
 でも、こうしてても始まらない。とりあえず奥へ行ってみることにしたんだけど......。
「ちょっと、あんたたち一度は入ったんでしょ?何で岩がでてくるのよ!
冗談じゃないわ。ここで、窒息死だわ。全員御陀仏さらさら...どうしてくれるのよ!」
 例のごとく、エレンは怒りまくってほとんど八つ当たりになってる。
「窒息死はまぬがれそうだぜ。見ろよ、上の方にチッセェ穴が開いてる」
 アルテアが上を指差して言った。
 あ、ホント!小さいけど穴はあることにはある。よかったぁ〜、窒息は大丈夫みたい。
「しかし、こんなところでは食べ物がありません...ということは餓死ですね」
 ラッセが冷たく言い放った。
「だから何でそんなことになるのよ。あんたたちが入った時は何ともなかったんでしょ?
じゃぁ、あたしたちが入ったらどうしてこうなるわけ?説明しなさい!!」
 エレンは完璧頭にきてるみたい。ラッセの肩をつかんでグイグイ揺さぶった。
 ラッセはラッセでエレンなんて眼中にない様子。
「エレン、それぐらいでやめとこうよ」
 あたしが助け船を出すと今度はあたしに向かって、
「それじゃ、フェリアならわかるの?それともここで御陀仏したいの?」
 と銀青色の瞳をただの銀色に変えてじっと睨まれた...というより、目で訊ねた。
「な、何で目の色変わるのー?」
「うるさいわね。知らない、生まれつきなの。他にも青色になるけど」
「本当!?見たい!」
「良いわよ......って、はぐらかしたわね?」
 うう、ばれた〜。でも、青色に変わった。約束は守るタイプなんだねエレンって。
いや、どうせ言ってもけなされるのがオチ。これ以上はやめておこう。
 さわらぬ神にたたりなしっていうし。
「何してるのよん。地図だともう少しで広いところにつきますわん」
 先頭を歩くリーゼルがイムサイの腕にくっつきながら振り返った。イムサイは、ちょっと
迷惑そうにリーゼルを見てたけど、彼女は全然おかまいなし。むしろ、それすら気づいてないみたい。
 隊列は先頭にイムサイ&リーゼル、真ん中にエレン&ラッセ、しんがりはアルテアとあたし。
ファイターを前後にしたサンドイッチ状態で長々と歩いているの。
 こんなふうだと平和に見える?でも実際そいうわけでもなかった。だって、あたしにとっても初めて
の戦闘が訪れようとしてたんだもの。

「出た出たぁ〜、ねぇ、あれ何?」
 最初の発見者はあたし。なんか横から睨まれてるみたいで見たら何か変な鳥が出てきたのよ。
「キケロ鳥...より小さいわね。なんか攻撃してみたら?」
 戦闘になるとエレンは随分冷静だった......って、そっか。レベル十二だったんだ。
あたしは....言うまでもなく初心者も初心者だけど。
「ディルムィルパァイルン・デアル・ダ・ファイアー!」
 とっさに唱えたのはレベルの低いファイアの呪文。これしか自信ない......他のは
失敗するんだもん。
 ロッド(杖)から炎が飛び出し、見事一匹は撃破....え?撃破!?あたしが倒したの?
ホント?
 内心嬉しいながらもあたしは頭の上にクエスチョンマークが三つぐらい浮かんでた。
「やったじゃん。それで、後のも倒せよ。まぁ、俺もこいつでやってみるか」
 アルテアがポンッとあたしの頭を叩き、ご自慢のロングソードを抜いた。あれって、
家から持ってきたって聞いたけどすごく立派なものだったっけ......
「リーゼルさん、悪いんだけどその手離してもらえないかな?」
「まぁ、イムサイ様ん。あたくしを守ってくださるんじゃなくて?」
「わかったから離して下さいよ」
「イヤですわん。あんな汚らしい鳥は放っておけばよろしいんですわん」
 どうやら、イムサイは加勢できないみたいだし、エレンはガンバレの声援だけ。まさか、
戦いたくないのかな......

 何度か魔法をして倒したのはあれから十分くらい。
 そうそう、レベルはめでたくアルテアが上がったんだよね。あたしは、あと少し......
「おめでとうアルテア」
 エレンがすぐに祝福してアルテアは少し照れて頭を掻いていた。なんか、かわいい。
 イムサイはしばらく大きく安堵なため息をついて、先に歩いていってしまった。でもすぐに、
引き返してきた。
「どうしたの?」
 あたしが訊くと彼はこう言った。
「大きな泉でふさがれてる!」
                       *つづく*

(9)

「塞がれてるって、どういうこと?だって、それじゃここで死ぬの?」
 あたしは、もう半泣きだ。
「待って!」
 エレンが叫んだ。
「言い伝えが正しいとしたら魚のようになれって言ってたじゃないの?でも、水の中に
入るのはイヤだから。
 ここは任せてちょうだい」
 エレンの瞳が真っ青だ。
「え、エレン?」
 イムサイが呼び止めたけど彼女は振り返りもせず泉に向かって行った。
「どうなってるんだ?」
「わかんない......でも、いつものエレンと違う......」
 エレンは泉の上に立ってブツブツと何か言った。
「風よ風の聖霊様、我にその力を与えて下さい」
 急にエレンが浮いた。フライの魔法とは違うみたい。
そして、エレンの首につけていた碧色の宝石がパァァと輝いた。
「聖霊様、風の精霊様、水を浮かせ我をお守り下さい...ウィンドフライ」
フワフワ〜〜〜ふわふわ〜〜〜
 次々に風が水を上にあげて、泉は大きな穴となった。
「す、すごいですわん。今のうちに行きますわん」
 リーゼルがイムサイの腕をガシッと掴んでぐいぐいひっぱって行った。
 すごいといえばリーゼルの方もすごい力だよね......。
「リーゼルさん、ちょ、ちょっと待って下さいよ」
 あははは、イムサイったらすっかりリーゼルに気に入られたみたい。
「あいつも変なのに好かれたもんだ」
 アルテアがボソッと言った。この人、楽しんでるねきっと......。
「あ、エレンお疲れさま。なんか魔法みたいだっ...エレン?」
ふらっ、ドサッ!!!
「お、おい、エレンどうしたんだ?」
「エレンさん!?」
 なんと!いきなりエレンが倒れてしまった。
「エレン!エレンったら!!起きてよ〜。まさか死んじゃうの?」
 あたしは、彼女を揺さぶった。でも、目を覚ましてくれない。
「フェリア、とりあえずここを通過しよう。エレンは俺が連れてく。
 ラッセはフェリアと一緒に行ってくれ」
「わかりました」
 アルテアはエレンを抱いて、あたしはラッセと一緒に泉(穴)に降りた。
 先に行ってたイムサイとリーゼルが横穴を見つけてくれたおかげで楽に進めた。
でも、あたしはそんなことよりエレンの方が心配だった。
 横穴に入ってからまた岩で塞がれ、ゴゴゴゴと音がした。たぶん、浮いていた水
が落ちてきたのだろう。岩がなかったら水攻めで溺死だ。ある意味でこれは、良かっ
たのかもしれない。

 エレン......。お願い、目を覚まして!
                        *つづく*

(10)

      (エレンvon)
(あたしが馬鹿だったわ。なんであんな大きな力使ったのよ?このまま死ぬのかしら)
〜エレン!〜
(何よ、うるさいわね。あたしならここにいるってば)
〜エレン!〜
(うっせーな。誰だよ俺呼んでるのは・・・?)
「エレン!」
      (フェリアvon)
 あたしは三回呼びかけた。
「う・・・んん・・」
 やっと目覚めたエレンはしばらくボーっとしていた。
「大丈夫か?」
 アルテアが言うとエレンは、
「あたし、何してた?」
 と聞き返した。
「覚えてないのか?」
「当たり前じゃない、そうそう、あの泉はどうなったわけ?」
 みんな唖然。だって、本当に覚えてないんだもん。
 一部始終話すとエレンはあることを教えてくれた。
「言い忘れてたんだけど、あたし三重人格なのよ。最近は出なくなったから治ったとのかと
思ったのよ。やっぱり治ってないのね。ついでに、瞳の色が銀だと男っぽい性格、今の色は
説明しなくてもいいわね。問題は青の時、冷たいっていうか、消極的な性格。
 それが、前のパーティの時のあたしだったわ。それから、あたしが出てきてきてるわけだ
けど、・・・あ、やばい。また別の人格になりそう。たぶん青色のヤツ・・・」
 言っといて、青色の瞳に変わったエレン。
 なんかいまいちわかんない。
「エレンも難儀だなぁ・・・」
 イムサイがポツリと呟いた。
 相変わらず、彼の横にはリーゼルがピットリとくっついていた。
 人格の変わったエレンは物珍しげにあたしたちを見ていた。
「エレン・・?」
 あたしが呼んでみると彼女は首を傾げた。よっぽど無口らしい。
「言いたいことがないなら先に進んだ方がよろしいんじゃなくて?」
 しゃ、喋った!
「え、あ、そうだけど・・・」
 思わず口ごもる。
「そ。それじゃ、お先に」
 エレン(青のエレン)はスタスタ歩いて行ったしまった。
 こ、これって、冷たすぎるし性格悪い〜。銀青のエレンの方が数倍まし。
 もとにもどってよ〜!

 1999年7月14日(水)23時19分45秒〜7月31日(土)09時34分54秒投稿の、有希さんの小説「フェリアの日記」(1〜10)です。

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