(11) それからエレンがもどったのは霧がでてきたあたりのことだった。 「ねぇ、本当に覚えてないの?少しのことでも?」 わたしは彼女の三重人格が珍しくて訊いた。二重人格なら聞いたことあるけど。 「しつこいわねぇ、知らないわよ。どうでもいいけどこの霧なんとかならないの?前が 全然見え......ああー!ちょっと、リーゼル言い伝えの紙かしなさい!」 「いやですわん。あたくしが持ってるんですからねん。貴女なんかにかすものですか」 「いいからかしなさい!」 エレンはリーゼルから言い伝えの書いた紙をひったくると大声だ叫んだ。 「息止めて!霧を吸い込んじゃだめよ!」 わたしはあの言い伝えを思い出した。霧を吸い込むべからずだ! と言ってももう遅い。バッチリ吸い込んでしまったし......。 「なんか気持ち悪いです、霧のせいですかねぇ?」 ラッセが口元を押さえて言った。リーゼルも気持ち悪そうだ。 「あなたたちには何ともないのですわねん?」 「あたしは、見えない風が常にあたしを守ってくれてるのよ」 エレンって便利。さすがエレメンタラーだよね。 「そういや、何でぼくらには何ともないんだろう?」 「さっき、フェリアにプロテクションかけられたからだろ」 そういえば、エレンが青色の時に戦闘したんだっけ?防御の呪文をアルテアとイムサイ にかけて...結局エレンがレイピアで倒したんだけど本人は覚えてないし、言ったところで 無駄だから黙っていたんだった。 「そんでフェリアには何ともないわけ?」 「え、あ、うん。べつに何ともないよ。でもこの霧の匂いはやだ」 霧の匂いっていうか、臭いなんだろうけど、なんかラベンダーとミントが混ざったかんじ の臭い。エルフ族のあたしにとっては大嫌い。あたし自身ラベンダーが嫌いなんだけど。 「霧に匂いなんてあるのん?どんな嗅覚してるのかしらん」 リーゼルに思いっきり否定された。 「なんかまた人格変わりそう。今日はどうしたのかしら? とりあえず、風で霧を吹っ飛ばしてみるか。ちょっとどいてな」 言いながらかわってるよエレン。今度は銀色...男勝りの方だ。 「風よ、風の精霊よ。この霧を飛ばせ!ウィンドフライ」 水を浮かせたときと同じウインドフライを言ってるけど、ちょっと違うみたい。 聖霊使いってよくわからない。第一聖霊と精霊と生霊の区別がつかない。生霊っていうのは 何となくわかるけど、あとの二つはどう違うんだろう?戻った時に訊いてみようっと。 エレンが霧を吹っ飛ばそうとしたけど、これは失敗に終わった。何しろ相手はただの フヨフヨ浮いてる霧だもん。飛ばしてもすぐ戻ってくる。 結局どうしたかって、あたしがラッセとリーゼルにプロテクションかけて、ダッシュで走った の。そしたら今度は二つに分かれてしまった。 なぜ分かれたかって、あたしとアルテアとイムサイが穴に落っこちたんだ。 言い伝えに足下注意があったのを落ちながら気づいてしまったのだ。 「フェリア〜!もっと早く言えよ。そういうことは〜」 「どこまで落ちるんだろう?落ちたら痛いなぁ......」 「イムサイ、そんな惨めなこと言うなよ!フェリア、フライかなんか覚えてないのか?」 アルテアって...ものすごい心配性?いやでもイムサイもなんかずれてるし、エレンの病気 がうつったのかな? 「あたしがフライなんて覚えてると思ってるの?」 「期待はしてない」 あっさり言われた...なんてヤツだ。 「あっそ、それじゃイムサイとあたしだけフライかけるわよ」 「え?ちょ、ちょっと、覚えてたのかよ〜?」 「ふんだ。もう知らないもんね。バイバイ、アルテア」 あたしはフライの呪文を唱えてイムサイにかけながら言った。 「鬼!悪魔!人でなし〜!」 「もとから人じゃなくてエルフだもん。残念でした〜」 口ではああ言ったけど、かわいそうだから地面にぶつかる寸前のところでフライをかけて やった。<感謝しなさいよ>エレンならこういってるだろうね。 それよりどうやって戻ろうか......。 *つづく*
(12) 「ちょっと待ってよん。貴女、仲間を放っていく気なのん?」 うるさいガキが言った。 「穴に落ちた方が悪い。俺には関係ない」 「もう、いいかげん元に戻ってよん。貴女のせいで迷惑してるのがわからないのん?」 「俺がこまるわけじゃない」 「こっちが迷惑してるのよん、銀青の方がましよん」 「あんた、『ん』つけないでしゃべれねぇの?」 「口癖をとやかく言われる筋合いはないいわん」 「あのー......」 もうひとりのガキがくちをはさんだ。 「うるさいですわんお兄様ん!」 「口出ししないでちょうだい......って何の話?」 あたしが訊くとリーゼルはヨロッと傾いた。 「何の話?じゃないですわん!あらん?もしかして戻ったのですわねん」 は?戻ったって、そういえば人格変わったのね。もう、変わらないで欲しいわ。 自分に言ってるみたいだけど、本当にうんざりよ! だいたい、青のあたしは何なのよ?変な力使ったりして、冷静に考えても使う力ぐらい 制御しなさいよ。銀のもフェリア達を見捨てて......え? もしかして、覚えてるのかしら。 「ちょっと、リーゼル、フェリア達ってたしか穴に落ちたわよね?」 あたしはリーゼルに確認した。でも答えてくれたのはラッセだった。 「そうですけど、おぼえてるのですか?」 「そういうこと。とにかく、フェリアのところに戻るわよ」 あたしはクルッと回れ右をすると背中越しに何か聞こえた。 「な、何の音ですのん?まさかモンスターじゃないでしょうねん。ちょっと、今は貴女 しか頼れる人はいないんですからねん。なんとかしなさいよん」 リーゼルったらもう逃げ腰じゃないの。強がり言ってる癖に意外と恐がりなんじゃない。 「わかってるわよ。そこで待ってなさい」 あたしは奥に行ってみた。そこで見たのは......。 「嘘...ありえないわ......だって、死んだはず......」 自分の中で叫んだ。それは、死んだはずのパーティのメンバーの一人だったから。 その人の名はメアリー。あたしの前のパーティのメンバーで、大親友。 「メアリー?どうして...こんなところに...」 「幻影って知ってる?わたしはそれよ。でもね、わたしは死んでない。あなたと同じように 生き延びているから。いつか会えるといいわ......」 言い伝えの最後は信じれば目的のものみつかるなり。 あたしが信じてたのはメアリーと会いたかったことだったのね。 「ありがとう、メアリー。あたしも会えると願ってるわ」 あたしが言うと、幻影のメアリーは微笑んで消えた。本当は嬉しいのに、悲しかった。 きっと会えるわ......。 あたしが戻るとなぜかフェリア達も戻ってきていた。 (フェリアvon) エレンと分かれてあたし達はフライの魔法で簡単に戻ることができたのだ。 「それで、奥には何があったのですか?」 興味津々にラッセが訊いた。 「あなたたち、二人で行きなさい。自分の目で確かめなさい」 エレンはキリッとした目で言った。 その後、リーゼルとラッセは嬉しそうな顔で戻ってきた。聞くところによると、母 に会ったんだとか。 「宝なんて嘘だけど、市長はきっとわかってくれるんじゃないかしら」 エレンは何かいつもと違う雰囲気をただよわせて言った。 でもその帰りにエレンはまたこんなことをいっていた。 「今度こそ高級茶をごちそうになってやるわ。 宝がなかったんだからそれぐらいはしてもらわないと」 まだ、高級茶を根に持っているいつものエレンだった。 日記に新しく記された。 「初めてのクエスト記念日!」 *つづく*
〜エレンvon 〜【1】 「ちょっと、どうしてくれるのよ!あんたのせいで汚れちゃったじゃない!」 あたしは自分でもうるさいと思う程のキンキン声をあげた。この時のあたしはまだ冒険者 なりたてだった。。それでもって三重人格だったけど。 「うるさい人、それぐらい洗ってあげるわ、いらっしゃいこっちよ」 そう、この人こそあたしが洞窟でみた大親友メアリーだった。 メアリーは会った時からあたしを大嫌いだったんだ。それはあたしも同じだった。 「そう、それじゃそうさせていただくわ。ところであんた誰?」 「メアリー・カトレット。あんたのことは知ってるわ。そうね...エレンでどう?」 彼女は予見の能力の持ち主だった。 「勝手に愛称つけないでよ!あたしには...」 「シルミア=エルミナンって名前があるって言いたいんでしょ?」 この時のあたしはすごい目をしてメアリーを見てたと思う。 「どうして......?と、とにかくあたしはシルミアよ」 「あんたにその名前は似合わないわ。エレンの方が呼びやすい。それにこれは決定したのよ」 「聞いてないわよ、そんなこと!」 「さっき言ったわ」 何なのよ!すっごく悔しい...っていうか強引じゃない、あたしこうゆう女って大っきらい! 「悪かったわね。わたしもあんたなんて大嫌い」 メアリーが言った。 何よ、何よ。まさか予見できるの? 「そのまさか。着いたわ」 あたしは顔をあげるとそこには安宿があった。 「ここ、宿じゃない。あんたんちに行くんじゃないの?」 「物わかりの悪い...わたしは冒険者なのよ。何考えてるの」 「冒険者!?あんた冒険者だったの?」 あたしが驚くのも無理ないと思う。だって、メアリーのカッコはすごく派手でお嬢様みたい だったから。せっかくお屋敷に行けると思ったのに、よくも騙したわね。 「騙すも何もあんたが間違えただけ。それからあんたの思いなんかすぐ筒抜けなんだからね」 やな性格〜。 「なんだメアリー、友達?」 奥から二枚目の男が三、四人出てきた。 「けっこう美人じゃん。で、どーしたん?」 「わたしが彼女の服を汚したの」 メアリーが男達に言うと彼らはまたかって顔で見た。 何か裏があるわね? 「ちょっとあんた。エレン、洗濯してあげるんだからわたしの言うことも聞いてくれるわよね?」 「何それ?聞くだけなら良いわよ、言ってみなさいよ」 昔っから強がりなあたしはメアリーを睨みながら言った。 「よかった。わたしたちとパーティ組まない?ちょうどエレメンタラーが欲しかったの。 ここにはファイターもクレリックも詩人に魔法使いがそろってるわ」 「わかった、あんた盗賊ね。わたしエレメンタラーだって言ってないし思ってもいないもの」 「ご名答、さすが......の人だわ」 「その話はやめてちょうだい」 「なら、良いわね?」 詐欺っていうのはこういう人ね。人の弱みにつけこむなんて最低。 「あたしを嫌いじゃないの?」 「もちろん大っきらいよ。でもあんたが必要なの」 「......」 もうあたしは何も言い返せなかった。メアリーの強引さには勝てないと思ったから。 「断ったら?」 「地の果てまで追いかけてでも説得するだけ」 「あんたって性格悪いって言われない?」 「よく言われるわ。褒めてくれてありがとう。よろしくねエレン」 「......よろしくメアリー...」 あたしたちは握手を交わしたけどあたしはその手をギリギリと締めてやった。 メアリーも同じ事をしてきたからよ。 あたしとメアリーの出会いはこんなかんじでお互い睨みあいの状態だった。 それが今では大親友なんだから驚いちゃうわ。 *つづく*
〜エレンvon〜【2】 あたしには、メアリーの他にアレンティーという大親友がいた。ただ、そのアレンティーは すごく変わり者だったけど。 とりあえず、メンバーの紹介だけしておくわ。 リーダーのレーンはファイター、クレリックのラルゴ、魔法使いのサイト、詩人のリュート、 盗賊のメアリー、エレメンタラーのあたし、そしてこれから登場するファイター兼ソーサラーの アレンティー。総勢7人の大パーティ。 このアレンティーはすごく酒乱で冷静...三重人格の青色のあたしと同じなのよ。 何が変わり者かって、それは男言葉を使うことだったのよ! 顔はかわいいしあたしよりとは絶対ないけど男にはもてるタイプだと思うわ。 例のごとくメアリーが連れてきたわけだけど。 「ガキばっか...」 これが彼女の第一声。 あのときのあたしはまだ12歳ぐらいだったからパーティでは最年少、ガキと言われても仕方ない 頃なのにその言葉にカチンときた。 「ガキ...?それじゃあたしから見たらあんたはおばさん、おばあさんの世界ね」 さすがに今思うとおばあさんは言い過ぎだったと思う。せめておばさんがちょうどとか。 「うるせーくそガキ、こんなやつらとパーティなんてこっちから願い下げ、悪いが帰らしてもらう」 「ちょっとエレン!あんたは余計なこと言わなくていいのよ」 メアリーがあたしを叱咤したけどくそガキの言葉にプッツンしたわけ。そのあと大喧嘩 になって、まぁ、まだガキなあたしだったからアレンティーなんか相手にしたら負けが見えてる。 「やめなさいよエレン」 「あたしはエレンなんかじゃない!あたしはシルミアよ。何度言ったらわかるのよメアリー?」 「シルミア?あんたシルミアって言うのか?」 驚きの表情で言ったのはアレンティー。この頃のあたしは自分の存在がどんなのか全く わからなかった。 「そうよ、そんなに驚くことないんじゃないの?」 「エレン...それが問題になるのよ。あんたが一国の王女なんてしれたらどうするのよ?」 またメアリーはあたしのことをエレンと言った、しかも額をおさえながら。 「そんなの知らないわ!好きで王女になったわけじゃないもの」 大国ロンザの王女に生まれたくなかった......いっそ自分が消えてしまえば良かった。 何もかも抜け出したかった......逃げ出したい...その気持ちはどんどん膨らんだ...... 冒険者になれば王女なんて思われない......その一心だった......こんな自分が大嫌いだった。 かごの中の鳥なんてもうたくさん......ずっと外を見たかった......友達と呼べる人がいて 欲しかった......あたしは一体何なの......? それまで我慢していたものが溢れてきた。熱いものが頬をつたっていく。 幼いあたしはずっと寂しかった...... メアリーとアレンティーはずっとそばにいて黙っていた。それだけであたしは十分だった のかもしれない。 それからあたしは改名してエレンと名乗るようになった。 これだけは、フェリアやアルテア、イムサイなんかには絶対言えない。 メアリーとアレンティーとあたしだけの秘密だから。 *つづく*
〜エレンvon〜【3】 このときのあたしの三重人格は今よりずっと軽いものだった。目の色すら変わらなかったわ。 なぜ変わったのかはメアリーとアレンティーのせい。 彼女たちの風貌を紹介するとこんなかんじよ。 メアリー:銀色の瞳、きつい言葉、アレンティー:青色の瞳、男言葉、冷たい、あたし:銀青の瞳、強がり、三重人格。 共通するのは今のあたしの人格と性格。 彼女たちと離れてから三重人格はひどくなった。もしかしたらあたしは彼女たちを自分に生き写ししていたのかも。 パーティ全滅の危機は4年たって、レベルもそこそこだったとき。つい最近なわけだけど今は思い出しても 涙の1つも出てこない。 それはあたしがメアリーとアレンティーと大喧嘩の最中に起こったことだったから。 その当時のクエストはそんなに難しくなかったと思うわ。どうして全滅したかっってバジリスクに遭遇しちゃったのよ。 立ち向かったファイターのレーンと魔法使いのサイトも石像になったし、クレリックのラルゴはバジリスクに踏まれて 御陀仏。詩人のリュートはその場に立ちつくしたまんま。 残った女共......あたしたちはどうしたかって、何とか逃げようとしたのよ。 どうすることもできなかった......仕方なかった。そう思わないとあたしは悲しみに溺れるわね。 「リュート、エレン、メアリー、俺がくい止めてる間に逃げろ」 そう言ったのはアレンティー。 「何言ってるのよ!あんたがいなくなったらあたしたちもおしまいよ!」 メアリーが叫ぶ。 「......わかったよ、どっか隠れそうなところへ避難しよう」 でもそんな余裕はなかった。あたしはバジリスクと闘ってたのよ。 みんな石像になって1人は死んでその現実をつきつけられたあたしは半狂乱になってた。 「あのガキ...お前らはどっかに行ってな!」 「アレンティー!」 彼女なりにあたしを心配したんだと思うわ。 「馬鹿野郎!なにやってんだ、あんたのかなう相手じゃねぇだろ?」 きつい男言葉は相変わらずだけど必死であたしを止めてくれた。そこにわずかなスキができた。 当然バジリスクはあたしを狙ったわけだけど、アレンティーが身代わりになった。 「馬鹿はどっちよ...あたしの身代わりなんかになるんじゃないわよ。 死なないでよ。たかがこんなのに死なれたら......あたしが死ねばよかったんだから」 あたしはアレンティーの上半身を支えながら言った。 「生きなさいよ......私の分まで......ごめんエレン...」 最初で最後の彼女の女言葉になった。 「嘘...死んじゃやだ...ずるいよ、あたしまだ仲直りしてないよ...ごめんねって言ってないよ。 お願いだから行かないで.......アレンティィィィィィーーーー」 それからバジリスクがどうなったのかあたしはどうやって帰ってきたのかわからない。 メアリーともリュートとも会ってない......だから死んだのかと思ってた。 悲しみ、孤独、すべてあたしの中で空回り。目の前で人が亡くなった...... あたしは何もできない、弱い人間...一人じゃ何もできない。 アレンティーの死はあたしにとってずっと心に残る思いだった。 あの男言葉も冷静な横顔ももう聞けない、見れない、会えない。 街路の中あたしはずっと泣いていた。まるで子供のように...... 彼女たちがいないならあたしが彼女たちになればいい。それからあたしは三重人格。 目の色は生まれつきなんかじゃない。あたしが変えれるようになっただけ。 こんな過去なんて絶対言えやしない。 フェリア達と出会ったのはそれから3ヶ月ぐらいたったころね。 あの子と出会ってなかったらあたしは冒険者をやめてたかもしれない。 幻とはいえメアリーは生きている...それからリュートも。 でも今会ったらあたしは過去を思い出してしまうわ。 涙は出てこないけど封印した過去はアレンティーの死を強く思い出すから。 まぎらわそうとわざとずれてるふりをするけど最近は痔になってきたのかもしれない。 「どうしたのエレン?」 「フェリアはずっとそばにいてくれるわよね?」 「え?当たり前じゃない、あたしたち仲間だもん。どこだって一緒だからね」 「おーい、次のクエスト確保してきたぜ」 アルテアとイムサイが走り寄ってきた。 あたしはそっと微笑んで空を見上げた。 もう大丈夫よアレンティー、あたしはガキなんかじゃないんだから。 *END*
〜過去編〜 「なぁ、フェリア」 急にアルテアが話しかけたから飲んでいたお茶を吹き出すところだった。 「...ケホ...ケホケホ..何...アルテア?」 もう、むせたから苦しいじゃない。間が悪いんだから。 「あのさ、そのペンダントってどうしたんだ?」 「へっ?あ、ああ。これ?」 昔人間からもらったんだっけ。ペンダントっていうのかぁ......知らなかった。 「そう、最初見かけた時に高価なもん持ってるなと思ってな」 高価な物?そんなに貴重なのかな...(←お守りだと思っていた) 「誰からもらったんだ?」 今度はイムサイまで訊いてきた。 エレンは普通にコーヒーをすすってる。 「えっと、確かロンザ国の王女様からだと思ったんだけど...」 「ガハッ...ゲホ...ケホケホ......ケホ!」 吹き出したのはアルテアでもイムサイでもない、あたしでもない。 たった一人コーヒーを飲んでいたエレンだった。 「大丈夫か?」 イムサイがエレンの背中をさすってやる。 「ケホ...ケホ...。ちょ、ちょっとそんなことあった?」 エレンがむせながらあたしの方を見た。 「あった?って訊かれてもエレンが知ってるわけないんじゃないの?」 「そ、そうかもしれないけど...でもあたし覚えてないわよ!」 何言ってるの?エレンは。 「エレン、覚えてないってどういうこと?」 「(ぎくっ)な、何でもないわ。それでどうやって手に入れたのよ?」 何かぎくっという文字があるんだけど...まぁ、いいか。 どうせまた頭の配線がずれてるんだろうし。 「あたしが今より少し小さい時にね、エルフの森で迷ったことがあるの。今でも時々迷うくらい 結構広いんだよ。 それで、みんなの所に戻れなくなってね、ちょうどその時に人間が通り過ぎたわけ。 冒険者みたいな格好でパーティ組んでて一番最年少っぽい人間があたしに近づいて来たの。 それがロンザの王女様なんだけどあたしと同じぐらいの子だったかな?そんぐらいの人が、 『これあげるわ、絶対戻れるように信じてるから』って言ってくれたの。 あたしが名前を訊いたら『ロンザ国の王女シルミア。あんたは?』この時はあたし自分 の名前の発音フェが言えなくてエとしか。だから『エリア』って言ったのよ。 それぐらいしか会話しなかったし...本当かどうか知らないけど。 長様が探しにきてくれたから。それ以来会ってないんだけどね」 何年前の話だろう?よく覚えてたもんだ。 「それって、本当にシルミアって言ってたの?」 「エレンもしつこいね...そうだよ。本当に言ってたよ」 あたしが言うとエレンは首を傾げて出ていってしまった。 何か洞窟に行ってからずいぶん人が変わったみたい。 「変なエレン」 (エレンvon) 「冗談じゃないわよ!あの時のエルフがフェリアだなんて、ずっとエリアだと思ってたのに!」 あたしは思いっきり空に向かって叫んだ。 なおさらあたしが王女なんて知られちゃマズイじゃないの! それにあれはペンダントじゃなくてロケットで中にエレンって彫ってあるのよぉー!! *END*
(13)〜特別編〜A-1 「ねぇ、次どこ行くの?」 あたしはフェリア、今までエレンや過去のことばかりだったから忘れられてるよね。 今、あたしたちは商業都市エベリンに滞在している。もちろん新しいシナリオとちょっと した買い物をしにきてるわけだけど、珍しいものがいっぱい! 「魔法屋に行って魔法を強化したら?」 エレンが言った。今のエレンは青色...... 「魔法屋か。そうだな今フェリアはいくつ覚えてた?」 「んっと...5つだけど使えるのは3つだよ」 「何それ?あたしなんか10ぐらいは知ってるわよ」 エレンと一緒にしないでよ!キャリアが違うでしょ、まったくぅ。 「フライとファイアとプロテクション、使えないのはサンダーとキュアー」 「何で使えないんだ?」 「う゛...」 アルテアの質問に一瞬絶句。 「あのね...その...なんていうか......唱えることはできるんだけど...失敗...するんだよね」 「ばっかじゃない?失敗ですって、あんた本当に魔法使いなの?」 うるさいな〜エレンは、魔法使いだけど新米も新米なのに。 「とりあえず魔法屋に行こうか、ほら失敗は成功のもとっていうしな失敗なんて気にするなよ」 イムサイのフォローは嬉しいけど失敗失敗って何度も言わないでよ。 嫌い嫌い、どうせ失敗魔法使いですよ。 洞窟の中で助けてやった恩を何だと思ってるんだろう? あたしは不満を言いながらも魔法屋へ行った。みんなついてきてくれたわけだけど。 「あたしも何か覚えようかしら?」 エレンは元のエレンに戻っていてチラチラと店内を覗いていた。 「エクスプロウドとチャームとか、ストップとアイスぐらいしか覚えれないと思う」 あたしは魔法メニューを差し出して言った。 「使えないヤツも覚え直せないのか?」 「それは別の料金でなら大丈夫みたいだけど」 「めんどくさいから覚えれそうなの全部試しなさいよ」 「それじゃ、お金がなくなるって......」 後先考えないエレンには何を言っても無駄なんだけどね。 「それなら大丈夫よ。この前あの市長からふんだくったわ」 「ふ、ふんだくったって...いくらぐらい?」 エレンって盗賊みたい。 「ざっと2万G。それからリーゼルとラッセから5千G、あわせて2万5千G」 ふえーー!あたし、4桁以上は金銭感覚ないからよくわかんないけど、それってリッチ じゃない? 「それと、これフェリアにって」 エレンが渡してくれたのは綺麗なイヤリングだった。 「エレン...もしかしてラッセからじゃないよね?」 「違うわよ。渡されたのはラッセだけど知らないエルフ族からじゃないの?」 エルフ族? あ、何か紋章みたいなのがある...エルフの守護神様だ! 「どうしてラッセが持ってたんだろ?」 「落としたのを拾ったらしいわよ。エルフの紋章を調べたんですって、心当たりないの?」 「う〜ん、よくわからない、見たことあるようなないような...」 でもあたしより年上の人のかもしれない。あたしも守護神様のお守りを持ってるけど、 ブローチに変わったし...。 「それだと冒険者かなんかじゃないか?」 そっか。あたしより前の冒険者になってるエルフなら心当たりはある! 「確か...」 「フェリアじゃない、何やってるの?」 あたしが言いかけるより前に本人がその場にいた。 その人は二重人格でなんとなくエレンに似ているエルフ......。 *つづく*
(14)特別編A-2 声の主はあたしの予想通りミラルカだった。 「ちょっとフェリア、あれは誰なのよ?」 すかさずエレンが口を挟む。 「ええと、あたしのエルフ族の中での友達でミラルカっていうんだけど・・・」 なんで口ごもったかなんて、三重人格のエレンの前でミラルカは二重人格だっていえるわけ がないよ。 それよりも早くミラルカはアルテアとイムサイに近づいてたんだから! 「あなたたち双子ぉー?あたしより年下だけど合格、合格」 早速と人格わかれてるし・・・、エレンはその様子を見ながらも珍しく黙っていた。 「年子だ、それより・・・」 「そうなのぉ?あまりにも似すぎてるからごめんなさぁい」 「あのう、・・」 「なぁに?何でも言っていいわよー」 言いかける度にミラルカが遮るから言える状態じゃない。 「ちょっとミラルカ」 「何よ、フェリア。どっか行っててくれない?あたしこの人達と喋ってるの、見て分からない?」 聞いた?この変わり様。格好いい男と反対に女が相手となるとすぐこれなんだから。 あたし友達とか言ったけど本当はあんまり好きじゃない。 もとよりはっきり言えば嫌い。でも本人の前では言えないからねぇ。 「それで何て言う名前なの?職業はファイターだよね?」 「ファイターであってるけど・・・」 「やっぱりね!すごいわ、レベルはいくつ?」 だーめだ。 アルテアもイムサイもすっかりミラルカのペースにはまってる。 「だっさ〜、ただのブリッコじゃないの?最初二重人格かと思ったけど」 「ちょ、ちょっとエレン・・」 「あら?何か言った?」 な、なんかまたイヤな予感・・トラブルメーカーエレンがくってかかった。 止めようにも止められない。 だって、エレンったら青色の瞳になってるんだもん! 「何か聞こえたわけ?」 「二重人格なんて違うって聞こえた。あたしは正真正銘の二重人格」 ミラルカも負けてない。それより正真正銘・・・自分ではっきり言わなくてもいいのに。 「勝った、俺は三重人格だからな」 おいおい、今度は銀色。しかも勝ったって勝負してたのか・・・? 「それぐらいでやめときなさいエレン」 不意にどこからか声がかかった。聞いたことない声なんだけど一体誰? 「メアリー!!あんた本当に生きてたの?」 銀青に戻ったエレンが叫んだ。 ところで、メアリーって誰?エレンの知り合いらしいけどそんなこと聞いてないよ。 なんか、あたしだんだんパニックになってきた。 「なんだエレン、生きてたのか?」 「リュート!!」 え、え、え?誰それ。 「それよりエレン、アレンティーとは一緒じゃないの?あんたが生きてるならあいつもいるんでしょ?」 アレンティー?なんと長い名前・・・ってだから誰なのよ。 「実は・・・」 エレンが急に暗い表情で言おうとした瞬間ミラルカがまた遮った。 「ちょっと、無視しないでくれる?それに一体どうなってるわけ?」 わけわからんあたし、アルテア、イムサイもエレンに注目する。 何か隠してるのかな? そう思った瞬間エレンは突如どこかへ消えてしまった! ちょっとちょっと、一体どうなってるわけ?あたしはもう完全なクレイジー状態だった。 *つづく*
(15)特別編A-3
消えたって不思議じゃないかもしれない。
でも、どうして?
エレンの職業は、風の聖霊使い、だから風のように消えた。
彼女以外はなんともなく、あたしもアルテアもイムサイもミラルカも、そして謎の二人メアリー
とリュートもただ顔を見合わせ首を傾げていただけで、もはやあの口悪い声も聞こえることはなく
エレンの姿はそこになかった。
「あなたたちが今のあの子のパーティね」
メアリーが話しかけてきた。
「そうですが、そちらはエレンとどういう?」
イムサイが丁寧な口調で聞き返した。
「あたしはメアリー・カトレット、エレンの旧パーティというところよ。こっちは詩人の
リュート、あたしは盗賊よ」
「フェリアです、エルフで魔法使い。この二人はファイターで年子のアルテアとイムサイ」
年子というのをやや強調してみた。
「その子は?」
リュートのいうその子とはミラルカのことだった。
でも、ミラルカはパーティでもないし、特別親しいというほどでもない。現に今会ったばっかだ
ったから言わなかった。それに自分で言うだろうしね。
「ミラルカよ、職業は魔術師、フェリアと同じエルフで19歳」
19歳?ってエルフの年だから・・・人間の年だとあたしたちって本当に若作りよね。
けど、魔術師なんて職業あるの?
「ふーん、魔術師ってまだ魔法使いの見習いみたいなのよね、フェリアちゃんの方が魔術師かと
思ったわ」
な、なんかこのメアリーって人、エレンにどことなく似てるぅー!魔術師ってそうゆう意味だったのか。
人間って何でも知ってるのね。
「素質って同じエルフでもちがうものなのか。っとすると・・・?」
みんな一斉にミラルカを見た。
あたしがまだ小さい時に冒険者になったミラルカだもの、まさか見習いはないよね?
「何よ、魔術師だって立派な職業よ、だったらフェリア勝負しましょう!」
「勝負ー?」
昔っから勝負とか好きだったのは知ってるけどさ、いきなり何言い出すの?
エレンのことも心配だし、それにメアリーとリュートってエレンの話では死んだって聞いたのに。
パニックの中、ミラルカと勝負なんて・・・。
―宿屋―
「明日のPM9:00より広場で勝負ですって?なんでそんなの受けたのよ、断りなさいよ!」
「だってぇ・・・ミラルカ強引なんだもん」
あたしは文句を言ったけど目の前にいる銀髪の少女は許してくれそうにないみたい。
「ところで、どうして逃げたのよエレン?」
メアリーが銀髪の少女・・・つまりエレンに訊いた。
「・・・・・・」
エレンは答えない。
あたしとアルテアとイムサイはただ見てるだけしか出来ない。
「だまってたらわからないわよ」
うひゃああ、おっかない、メアリーがさらに言った。
「エレン、別に怒ってるわけじゃないの。あたしたちは真実を知りたいだけ。ここにいるフェリアちゃん
たちにも知ってもらわなきゃいけないと思うわ。貴女自身一人で何でも背負いきれないでしょ?
アレンティーはどうなったの?」
あたしも知りたい、本当のエレンの過去。
「話せることだけで良いんだ」
リュートがポツリと言った。
「無理よ、もう話す事なんて出来ないわ。こんな想いはあたしだけでいいのよ!」
突如エレンが立ち上がりすごい強風を放った。
「きゃああ!」
なぜかあたし以外吹き飛ばされて行った。
「どうしてフェリアには・・・?ああそうだわ、人間じゃないからね。
そんなことよりフェリアも出てって!」
「どうなってるのかわからないけど、あたし心配だよ。エレンこのままだと壊れてくよ」
あたしは必死で叫んだ。風は強さを増しているから少しでも気を緩めたら吹き飛ばされてしまう。
「どうせ、あたしは最初っから壊れてるのよ!あんたはあたしのこと何にも知らないじゃない!」
パシッィィィィ!!!
叩くつもりなかったけど、自分の存在を否定して欲しくなかった。
「確かにあたしはエレンのこと知らない所あるよ、でも、エレンは自分のこと話さないじゃない?
いつだって隠してるような逃げてるようなで、そんなのずるいよ!!」
人はどうして逃げちゃうんだろ?あたしも今現実から逃げてる。
もう嫌だよ、エレンの為だって想ったけど本当は誰のためでもないのかもしれない。
「あんたもバカね、人間なんてそんなものよ。あたしの思い人は違うけどね。で、あたしの所にきて
どうするつもり?」
ミラルカは首を傾げて訊いた。
あたしはとっさにもミラルカの部屋に来てたのだ。
「お願い、泊めて」
少し期待をのせていったけど、
「何であんたを泊めなきゃいけないのよ」
と即答された。
「だって、エレンと喧嘩してここしか頼れるところないんだもん」
「ふーん。あたしの知ったこっちゃないわね。ちょっとそっちの部屋行ってなさいよ」
急にミラルカがあたしを追いやった。
「え?」
「いいからそこにいなさいよ!」
あたしは渋々その部屋に入った。少しきつめの香の匂い・・・。
向こうの部屋からノックの音がする。もしかしてアルテアとイムサイ?
「はぁ〜い、どうぞー」
ミラルカがドアをあけて出迎える。
「ミラルカさん、ここにフェリアが来なかった?」
やっぱり、イムサイの声。
「エレンの所にもあの二人の所にもいないからここかと想ったんだが・・・」
「悪いけど対戦するって時に来るバカはいないと思うわ。見つけたら知らせるわね」
ミラルカ・・・・・・?
あたしは何か不思議な気持ちになった。足音が去ったと同時にミラルカの部屋に行くと、
「あんないい人いないと思うわよ。本当はこんな所にいるべきじゃないと思うけど?」
ミラルカが小さくため息をついて言った。
あたしは心底彼女が大人にみえた。
*つづく*
(16)特別編A〜完結〜
(エレンvon)
せっせと部屋を片づける自分・・・
なんだかものすごく惨めだ。
知られたくない気持ちと、言ってすっきりしたい気持ちが飛び交いぐるぐる回る。
どうすればいいのかわからない。
自分が何をしたいのか・・・
このままアレンティーのところへ逝けたらいいのに。
城にいるときも思った。
逃げ出したいって・・・、でも。
でも、結局は無駄なことだったって今気づいた。
一人じゃ何もできない。
そんな自分が悔しくて、わざと強く大きいふりしてた。
それなのに、あの子は違った。
あたしは叩かれたことなんて一度もなかった。
だから、余計にショックで・・・嫌な気持ちになった。
あの子が叩くのも無理ないよね。
あたしが悪いんだから。
(作者の視点より)
大食堂でエレンは言った。
アルテアがいちかばちかでエレンの正体を言ったから。
彼にはエレンが王女だってことを気づいてて黙っていたらしい。
テーブルには、アルテアとイムサイとメアリーとリュートが席についていた。
「アレンティーは死んだわ、あたしを庇って。謝ってないのに・・・」
淡々と語るエレンの瞳には何か強いものが秘められていた。
「そ、・・・そう。死んだのね・・・」
平然を装って言おうと思ってもメアリーはどこかぎこちない。
涙をこらえてるせいかもしれない。
「フェリアとミラルカさんは・・・?」
ポツリと言った言葉に皆が残った二つの椅子を眺めた。
「わからない・・・、でも今日じゃなかったか?決闘って」
(フェリアvon)
結局あのままミラルカの部屋に泊まった。
翌朝のミラルカはなんだか違う雰囲気だった。
「ねぇ、フェリア?やっぱり勝負は取り消すわ」
最初の言葉がこれだった。
「どうしたの?」
あたしが訊くと、
「エレンって人とうまくなってないんじゃないの。そんなときに勝負してもあたしが勝っちゃうから」
「・・・・・・」
「・・・なんてね。真に受けないでよ、昨日占ってみたんだけどあの人貴族か王族の出身みたいよ。今日のあんたの運勢は最悪。運気回復に日記帳とでてるわ。あたしが占ったんだから絶対あたるわよ!信用してよね」
ミラルカはそういうと荷物をまとめはじめた。
「出ていくの?」
「あのね・・・、あんたが出ていくのよ?あたしはこの町から出ていくの」
なんだか憂鬱な気分だった。だってあたし一人になるんだもん。
食堂の前であたしはお願いしてみた。
「一緒に行っちゃだめ?」
「だめよ。あんたには待ってる人がいるから。それじゃあね」
ミラルカがぽんっとあたしを押してあたしの手から日記帳が滑り落ちた。
わざとしたのね?と思って振り返ったけどミラルカの姿はなかった。
代わりに紙がおちていた。
「フェリア?」
急に呼ばれて紙をひろい振り向いた。
「え、エレン・・・」
今一番会いたくない人物だったのに・・・。
エレンの手には日記帳が、そしてあっという間に回し読みされていた。
「ちょっと返してよ!」
日記帳が手にはいるとあたしはダッと走った。
・・・つもりだった・・・。
でも、アルテアに手を掴まれていたのだ。
「どこへ行くんだ?」
「関係ないでしょ!」
「フェリア!」
「離してよ!!」
なんか八つ当たりしてるみたい・・・本当は違うのに。
本当は前みたいに自然となりたい。でも、できないよ・・・怖い!
「お前の戻ってくるところはここだろう?違うか?」
違わない・・・、でも戻りたくないの。
あたしとみんなの間に高い壁があるみたいなのよ。
「なにがあったかなんてわからない。だが、ほっとけない。俺達仲間だろう?」
仲間・・・!?
「フェリアもエレンもアルテアも僕もみんな仲間じゃないか。確かにレベルは低いし、クエスト数も少ないがもっと他にいいところだってあるはずだぜ?」
あたしの目には透明な液体がわき上がってはこぼれた。
初めて泣いたのかもしれない。
「回し読みして悪かったわ。でも、ここにいっぱい書いてあることあたしたちよくわかってる。これからは日記に書くだけじゃなくて、あたしたちにも話しなさいよ?あんたひとりじゃないんだから」
エレンがあたしの方に手を置いた。
あたしはただ頷くだけで声はでなかったけど想いは通じた。
日記帳
反対を押し切って冒険者になったこと
全然仲間が出来なかったとき
はじめて仲間が出来たこと
エルフを隠しててレベルも1だったあたしをスカウトしてくれた
エレンが仲間に加わったこと
三重人格でちょっとずれてるけど
一番最初のクエスト
期待の宝はなかったけれどラッセとリーゼルにとってよかったこと
エレンと喧嘩したこと
叩いてしまった・・・
いっぱいいっぱい想いが詰まってる
「いいわね、エレンは。行きましょうリュート」
メアリーとリュートも旅立って行った。
ふと、あたしは思い出した。ミラルカの残した紙を。
「言ったとおりでしょ?あたしたちみんな大切な存在なんだからね」
お昼が過ぎあたしたちは宿の一室で次のクエストの準備をしていた。
「なんか忘れてる気がするんだけどなぁ・・・」
イムサイが呟く。
「あん?やっぱおまえも?実は俺も」
「あたしも思ってた。エレンは?」
「え?市長から高級茶がないかわりのものにお金もらったんじゃなかった?」
だぁぁ、まだ高級茶に根を持ってるのね。
「それに関係してなかった?」
そういえば・・・あーーー!!!!
「あー!!思い出した、ミラルカにイヤリング渡すの忘れてた!!!」
〜FIN〜&*つづく*
(17)エレンvon
「寒い!寒い寒い寒い〜!!ちょっと、なんでこんなに寒いのよ!?」
あたし(―エレン)は思い切り目の前に広がる雪に怒りをぶつけた。
だいたい、こんな寒いのにクエストなんてできるわけ?
「前の時は、冬になったら暖かい地方に行ったのに・・・」
「あのなぁ〜、前のことを愚痴っても俺達そんなにリッチじゃないんだぜ?考えて見ろよ」
アルテアがしっかりとマントを結んで言った。
あんたはそのマントがあるからいいでしょうけど、あたしはローブ一枚なのよ?そのマントをあたしによこしなさいよ!
そう思ったのはあたしだけじゃない、フェリアもそう思ったらしい。
「いいなぁ、マントがあって。あたしもエレンも防寒服ないもんね」
そうよそうよ!さぁ、そのマントをおよこし!
「村についたら買えばいいじゃないか。俺だって寒いんだからな」
アルテアは貸してくれなさそう・・・・それじゃ残るは・・・
あたしとフェリアがジローっとイムサイを睨む。
「え、あ、もしかして・・・・・・?」
ふん!このぐらい騎士を目指してるなら当たり前じゃない?
それにあたしは王女なんだもの。
「お人好しだな、お前。リーゼルの呪いがまだついてたか?」
アルテアがけらけらと言った。
「あいつの話はしたくない・・・。でも、これマジで寒いじゃないか!」
「おかげであたしたちはぬっくぬく〜」
嫌みなのか何も考えていないだけなのか、フェリアもさらりと言ったからイムサイは余計に落ち込んだ。
イムサイのマントをあたしとフェリアが使わせて貰ってるけど、さすがにまだ大きいわね。ってあたしがスリムなんだけど。
「ところで、その村ってどこにあるのよ?」
あたしが訊くと、「もうすぐだ」とアルテアが答えた。
「寒ー・・・何分ぐらいかで交代っていうのはなしなのか?」
イムサイがぶちぶちと文句を言い始めた。
でも、あたしとフェリアが
『なしにきまってるじゃない!』
と綺麗にはもった。
「あ、そうだ。ならプロテクトかけてあげようか?この魔法、確か防寒にもなるって・・・あれ?どうしたの?」
言いかけたフェリアにあたしたち三人が怒ったのは言うまでもないわね。
『そういうことは早く言え!(言いなさいよ!)』
またはもり、フェリアはすっかり小さくなってしまった。
「ごめんなさ〜い」
*つづく*
(18)エレンvon
全くもう! フェリアの魔法がもっと遅かったらあたしたちなんて凍死してたわ。
あのあとすぐに吹雪になったんだもの。
それで、吹雪がやむまで近くにあった妖しげ〜な洞窟で待機中なのよね。
でも、こういう男女のパーティって案外欠点とかあるのかも。
もちろん、あたしの前のパーティでも思ってたわ。
それは、着替えよ!!
どっちにしろお金のないあたしらには着替えなんてほとんど持ってない。
濡れた服を乾かすのにも男女で区別しないと困るもの。
一応、タオルにくるまって敷居はしているわよ? でも、やっぱり嫌じゃない!
「ちょっと!! もうすぐで村に着くって言ったの誰よ? 全然着くどころか吹雪になっちゃったじゃない!!」
短気? でもね、こういうのははっきりしないとあたしとしてのプライドが許せないのよね。
「そんなこと言ったって吹雪で進めないんじゃ仕方ないじゃないか!」
イムサイの間抜けな声が聞こえてきた。
「それじゃ、さっさと進んじゃえば良かったのよ! どうしてそうしないのよ?」
「寒くてお前ら二人がぎゃーぎゃー言ってたんだろ? フェリアがもっと早くきづいていればなぁ、今頃は暖かいところで晩飯なんだけどな」
アルテアがまたフェリアのことを言い始めたものだからフェリアはまたしゅんとしてしまった。
「あのねー、アルテア? いつまでも過去のこと言ってないで前に進んだらどうなのよ?」
あたしが言い返すとまた憎たらしい声が聞こえてきた。
「それじゃ、お前は過去を捨てたわけ?」
「な・・・。それとこれとは別じゃない! とにかく、フェリアだってレベル1だけど頑張ってるじゃない? それを認めてあげなさいよ!」
「ねぇ。もういいよエレン。だってあたしが早く気づいていればいいんだし。だからこんなことで言い合いしないでよ」
あのねぇぇ〜!! 誰のために口論してるかわからないじゃない! つまらないわ。
「仕方ねぇか。とにかくそろそろ吹雪はやんだか?」
「まだみたいだ・・・」
はぁ・・・もう、なんだかつかれてきた。
「ねぇ、エレン・・・寒くない?」
フェリアが火に近づいてブルブル震えてる。
「別に寒くないわよ? ・・・・ちょっとフェリア?」
あたしはフェリアの顔を見てびっくりした。
だって、エルフって結構顔白いでしょ? フェリアも色白なんだけど、なんか白っていうより青白いもの。
「エレン、大声出さないでよ・・・頭に響いて痛い・・・」
「わかってるわよ! でもちょっとあなた熱あるんじゃないの?」
思わず大声になってる。でもそんなのおかまいなしよ。
確かに熱はあるわ・・・でも、風邪なのかしら・・・・??
「フェリア、前にこういうことなったことある?」
「ううん、・・・ない・・・と・・思う。・・・でも、なんか・・・変」
「そんなのわかってるわよ!」
「どうかしたのか?」
イムサイの心配そうな声が聞こえた。
「なんか、フェリアの様子が変なのよ。風邪だと思うけど・・・あ! こっち来ないでよ?」
「わかってる。とりあえず状態だけ詳しく教えてくれよ?」
「ええ、わかったわ。今から看るわ」
気を取り直してあたしはフェリアに質問した。
「フェリアって冒険者になる前はどこにすんでたの?」
「え・・・と、ズールの森の・・・湖の中・・・よ・・・」
湖・・・?変なところに住んでるのねエルフって。
「そう、それで四季はあった?」
「四・・季って・・・何・・・?」
「ああ、もういいわ。ありがとう」
あたしが思うには、たぶんただの風邪だと思うけど・・・少し変なところがあるのよね。
「どんな感じだ?」
アルテアが訊いてくる。
「大丈夫、ただの風邪よ。吹雪がやんだら村でお薬を買えばいいわ」
とりあえず、不可解なところを言うとややこしくなるから言わないでおこう。
本当に・・・こんなんでクエストなんかできるわけ?
だいたいドラゴンなんているのかしら・・・白熊とか雪豹の間違いじゃないの?
今回は最初からどたばたしてるわね。
あたしの苦労も少しは認めて欲しいわ。
*つづく*
(19)
ああ、もう! なんであたしがこんなに苦労しなきゃいけないわけ?
ん? あたしはエレン。主人公の座を今回のクエストで奪ったのよ。その元主人公はベッドで寝てるわ。
一応村にはついたけど宿屋の部屋が2つ。しかもシングルよ。
フェリアは風邪だから仕方ないとして、負ぶってたアルテアまでもがダウン。
伝染病かもしれないからってイムサイとあたしは「親切」な人から小屋を借りてそこに雑魚寝してる。
でも、だいたい、このあたしがこんな汚らしい部屋で寝れるわけないじゃない!!
イムサイは寝付きがいいからさっさと寝てしまったし・・・。
そういえば、この村一帯はかなり暖かい。村から出ると寒いのに。
「けほっ、けほっ」
ほこりが舞い降りる。
よくこんなところで寝られるわね・・・
あたしはイムサイを睨んで彼を起こさないように外に出た。
あんなところにいたら不衛生じゃない。
早く朝にならないかしら・・・?
あたしはしばらくボーっとしていた。
なんとなく見覚えのある風景なのよね・・・前に一度来た? でも、こんな雪のあるところなんか来ないわ。メアリーが寒がりだもの。
そうだわ! 北風でも呼べばメアリーをつぶせたわね・・・って今頃気づいても仕方ないじゃない。
今度会ったときに・・でも・・・・・・会いたくないわね、やっぱり。
「エレン?」
「誰?」
あたしはレイピアに手をかけてふりむいた。
「やっぱりエレン! おまえだったか」
あたしを呼んだ誰かはあたしに抱きついてきた。
「ちょ・・ちょっと、誰よ?」
その誰かを手で押さえて訊いた。
「なんだ、忘れたのか? 私だ」
「・・・・・・う・・・そ・・・・・・死んだんじゃ、なかったの・・・?」
「死体でも見たのか、エレン?」
「見ては・・・ないわ。・・・でも、跡形もなかったじゃない・・・」
「ばかだな、・・・・ただいまエレン」
あたしはしばらく声が出なかった。
もし、生きていたら謝ってやろう、そして殴ってやろうって思ってた。
「おかえり、アレンティー」
*つづく*
(20)
アレンティーが生き返った? でもおかしいわよね。だって、あたしの目の前で死んだのよ? 問いただそうにも彼女が語らないことぐらいは知ってるし、無理に喋らせたらあたしの命が危ないわ。
「なんだ、エレン? そんなに私が不思議か?」
「・・・・・・当たり前じゃない。ねぇ、本当にアレンティーなの?」
相手が訊いてきたときがチャンス。
「ああ、そうだ。あのあと私は助けられたんだ。気がつくとベッドの上だった」
それじゃ、何? 死んだんじゃなくて気絶しただけだったわけぇぇ?
「まぁ、そう混乱するな。私は一度死んだところを復活の神によって生き返ったんだ。まだ私には生きろということだったのだろうな」
そういえば、アレンティーってカルマが異常に高かったわね。
「メアリーとリュートには逢ったのか?」
「この前に・・・でも、あたしてっきり死んだと思ったからメアリーには死んだって言ったわよ?」
「そうか・・・いや、いい。あいつには二度と会いたくないからな」
少し苦笑いするアレンティー。昔と全然変わらないわね・・・。
「今何してる?」
「あたしは、パーティ組んだわ。ちょっとボケてるエルフと双子にみえる年子で性格が正反対のファイター。まだ初心者だけどそれなりにいい人たちよ。アレンティーは?」
「アンバランスだな。私はただ強くなる一心で一人者さ。パーティを組んだらまた悲しみが増えるからな」
「そう・・・、あ、ねぇ今回だけあたしと一緒に来てくれない?」
あたしはアレンティーの袖を引っ張った。
「ん? 何故・・・おまえにはパーティがいるんだろう? 甘えはだめだ」
「そうじゃなくて! 今二人が風邪でダウンしてるのよ。それも伝染病らしいもの」
ここであたしはふと気がついた。伝染病だったら、あたしもフェリアに直接触れてたんだから、あたしもその病気にかかってるんじゃないかって。
「風邪・・・? ふっ、それ風邪じゃなくて空間病だろうな」
「空間病??」
「ここの村はちょっと特殊なつくりになっている。ここだけ時間が止まっているんだ。これを見ろ」
アレンティーが差し出したのは懐中時計。見ると時間がちょうど10:10で止まっているわ。
「それじゃ、あたしにもなるってこと?」
「いや、鈍感なやつにはわからない」
ズテッ。
あたしは思わずこけた。ったく何よ。どうせあたしは・・・そう思ったときにアレンティーの手があたしの肩にかかって彼女はあたしに囁いた。
「いいか、安心しろ。私も同類だ」
「・・・・よくないわよ!!!!」
あたしはアレンティーをはね除けた。
アレンティーと同じだなんて絶対嫌!!
「ふっ、いいだろう。今回に限らずどこへでもついてってやろうか?」
「え? ちょ、アレンティー?」
いきなりアレンティーはあたしの上にのっかってきた。
綺麗な彼女の顔がいつもにまして真剣な表情。
そういえば、こいつって確か・・・・・・
「ふっ、冗談だ。私がおまえみたいな小娘を相手にするわけがない。もう少し成長しないとな」
アレンティーはそういうとあたしを起きあがらせた。
そうよそうよ、こいつってアブナイ趣味に走る傾向があったんだわ。そのせいであたしはひねくれたって感じね。
「それじゃ、明日この場所に来てよ?」
「ああ、来れたらな」
「絶対よ?」
「ふっ。覚えていたらな」
むかつくぅ! 絶対からかってるわ。あの薄気味悪い笑い、・・・・・・本当にアレンティーは還ってきたのね・・・・・・。
あたしは小屋にもどった。あいかわらずイムサイはかわいい寝顔で寝ていた。警戒心っていうものを知らないのかしら。
しょうがないわね、長旅だったんだし・・・そうそう、マントを奪ったまんまだったものね。
気が抜けた・・・? どうしたのよあたしったら。よくわからないけど何か涙が出てきた。それもちっとも止まりそうになかった。
「エレン・・・どうした?」
いつの間にかイムサイが起きていた。前言撤回ね。
「何でもないわ!」
強い口調で言ってみせるけどイムサイはあたしをじっと見てくる。その鳶色の瞳には心配そうなくもりがあった。
「王女様だもんな、こういうとこは初めて?」
「そうよ。悪い?」
「悪くはないって。ただ毛布ぐらいはかぶってないと体冷えるからさ。嫌だったら僕のマント羽織ってるだけでもいい」
「・・・・・・どうしてそんなに優しくできるわけ?」
「え・・・。わからないよ、でも、弟に似てるからさ・・・」
「弟?」
「うん、クレイっていうんだけど、あいつ自分に自信がなくてさ・・・そのことをいつもアルテアやおじいさまに言われてた。僕は中間の立場にいて有利な方にいつも味方して。僕こそ嫌なヤツだよな・・・クレイはそれでも僕を慕ってくれてね、あいつが泣いてるときと今のエレンと同じなんだ。泣いてる人はほっとけないしな。聞くだけしかできないかもしれないけどさ、話せば楽になるだろ?」
そんなに年も違わないのにイムサイって大人じゃないの。
「そう。それじゃ、今からあたしが言うこと信じてくれる?」
「もちろん」
そして、あたしは話し始めた。アレンティーのこととフェリアとアルテアの病気のこと。
もしかしたら、イムサイはあたしと同類なのかもしれない。
*つづく*
1999年8月03日(火)11時03分10秒〜1999年12月29日(水)15時54分投稿の、有希さんの小説「フェリアの小説」(11〜20)、番外編などです。