第五十一話〜第六十話

第五十一話「見落としている所は…」
「ディト爺!  早く逃げ道を見付けるんだ!」
  ディト爺に向かって叫ぶように言い放つと、素早く壁などを調べてみたものの、
全く逃げ道というものが見付からなかった。
  今までの経験からすると、壁に何かが隠されている可能性は非常に高いな。だと
すると、今回も壁に何かがあるはずだ。もし、そうでないのなら、天井だという事
もありえるな。
  だが、ゆっくりと考えている暇は全くない。天井はすぐそこまで迫って来ている
のだからな。手を伸ばせば天井に届く程だからな。
「ディト爺!  何か見付かったか!?」
  壁を必死に調べているディト爺に向かって聞いてみた。
「う〜む、駄目じゃな。全く何もないわい」
  そう言って、壁を撫でてみせた。
「この壁を見てみい。つるつるとしていて、何かを隠せるような事は出来ぬ」
  確かに。壁は奇麗に磨かれているようで傷は少ない。何かを隠すような真似はし
ないだろうな。
  じゃあ、一体何処に逃げ道があるんだ?  
  壁にはないとしたら、天井か?  いや、天井が迫って来ているというのに、わざ
わざ天井に目を向けさす必要があるだろうか?  天井だと見付かり易いしな。
  色々と考えていると、何かが頭にぶつかった。
  ふと上を見ると、そこには天井があった。しかも、俺の頭に当たっていやがる。
「やべぇな。このままじゃ潰されちまうぜ!」
  天井でも壁でもない、果たしてそんな所があったか?
  よく考えろ……。何処か……。
  そうだ!  一つだけあったじゃねぇか!
「ディト爺!  急いで床を調べるんだ!」
  急いでディト爺にその事を言うと、俺は急いで床を調べ始めた。
  さてと、急いで逃げ道を見付けるか!
  時間は少ない。何とか天井が床に達するまでに見付けないと。
  床を細かく調べてはいるが、何しろ二人だけでは時間が掛かる。更に、部屋は狭
いとは言えない広さであり、見付かるかどうかは運しだいといった所だな。
  しばらくして、必死に床を調べる俺とディト爺に次第に焦りの色が出てき始めた。
何しろ、天井がしゃがんでいても手が届く高さまでに来ていたからだ。
「ディト爺!  まだ見付からないのか!?」
  だが、ディト爺は暗い表情をしていた。
  くそっ!  一体何処にあるんだ!?
  焦りながら、床を必死に調べていたが、全く見付かる気配は無かった。
  そうこうしている内に、とうとう天井が背中に当たってしまった。
  どうしてこんな事になるんだよ。頼むから早く見付かってくれよな……。こんな
所で死んじまうなんて嫌だぜ。
「おお!  こんな所に……」
  隣にいたディト爺が、突然大きな声を上げた。
「見付かったか!」
  ディト爺の方を見ると、ディト爺は嬉しそうに笑っていた。
「こんな所にネコの像!」
「いるかー!」
  思いっきりディト爺の頭を殴ると、突然ディト爺が目の前からいなくなってしまっ
た。
  いや、違う。床に穴があいているんだ!
  ディト爺が消えた所を見ると、そこには、縦五十センチ、横五十センチ程の穴が
あいていた。
  どうやら、殴って時にディト爺が床の何処かを触ったんだろうな。それで床に穴
があいたんだろうな。
  だが、今は色々と考えている暇はない!  天井がすぐそこまで迫って来ていやが
るんだからな。
  俺は急いで穴の中へと入ると、すぐにディト爺の姿を発見し、ようやく助かった
のだと思いながらその場に座り込んだ。

第五十二話「このダンジョンには…」
「ふ〜、何とか切り抜ける事が出来たな」
  ようやく逃げ切れる事が出来た俺達は、お茶を飲みながら一息ついていた。
  ここはあの天井が落ちてくる部屋の真下に位置する所で、前方には通路が続いて
いる。
  今、通行可能なのはその通路のみである。
  俺達の上は、天井で塞がれていて戻る事は出来ないな。
「それにしてもよ、腹、減ってないか?」
  そう言うと、ディト爺の腹は、ぐ〜……、と鳴った。
「う〜む、お茶だけでは腹は減るものじゃな」
  確かにそうだな。今までお茶だけで何とかしのいでいたものの、そろそろ限界に
近くなってきやがったぜ。もう、あまり走る事は出来ないな。
「ディト爺、そろそろ行くか?」
  そう言うと、ディト爺はゆっくりと立ち上がった。続いて俺も立ちあがり、出発
する事にした。
  まずは、この通路をまっすぐと進むか……。
  俺が先頭を歩き、その後ろにディト爺が続いて歩く。
  通路は薄暗いながらも、何とか先が見えるな。
  ん?  変だな。普通、通路にたいまつの一つも見当たらないのに、こうも見える
ものか?  どう考えて変だな。
「ディト爺。このダンジョン、何だか変じゃねぇか?」
  後方にいるディト爺の方を振り向いてそう言った。
「ふむ、何がじゃ?」
「このダンジョン、たいまつが全く見当たらないってのに、月明かりと同じぐらい
の明るさがある。これはどう考えても変じゃねぇか?」
  すると、ディト爺は少しうつむいて、近くの壁を撫でるように触った。
「ふむ……」
  ディト爺は、袋をごそごそとあさり出すと、何か変な物を取り出した。それは、
四角い形をしており、手のひらサイズといった所だな。
「んで、それは何だ?」
「これはじゃな、簡単に言ってしまえば魔力の有無を調べる装置じゃよ。ダンジョ
ンで、何かの魔力が掛けられていそうな物を見付けた時には、こいつ持っていれば
変な事にはなりはせんのじゃよ」
  そう言って、その装置を壁へと近付けた。すると、突然その装置が青白く輝き出
した。
「い、一体どうなってんだ?」
  ディト爺がその装置をゆっくりと壁から離すと、装置の輝きは消えていった。
「これはじゃな、わずかな魔力でも感じると、その魔力を元にして光を発生させる
装置なのじゃよ」
  そう言いながら、ディト爺は先頭を歩き出す。俺も続いてディト爺の後を追いか
ける。
  少し歩いていると、右折れになっていた。
「今のでわかったのじゃが、ここには部屋を明るくする魔法が掛けられている事が
わかったのじゃ。じゃが、一番凄い事は、このダンジョンが作られた時にかけられ
た魔法だという可能性は高い。つまり……」
「かなりの魔法の使い手が魔法を掛けたって事だろ?」
  俺がそう言うと、ディト爺はにやりと笑った。
「そう言う事じゃ。見た所、このダンジョンは作られて何十年も経っているはずじゃ。
そうなると、ここまで魔法の効果を持続させ続ける事はかなり難しい事となる。も
しかしたら、このダンジョンを作った者の手によってかけられたものなのかもしれ
ん」
  ディト爺は腕組みをしながらそう言った。
  いつの間にか、また曲がり角まで来ていた。通路は右方向に曲がっているようだ。
  俺達はゆっくりと歩きながら右方向に曲がった。
「つまり、このダンジョンには、魔法による仕掛けもあるかもしんねぇって事だろ?」
  ディト爺はにやりと笑いながらうなずいた。
「そう言う事じゃ。じゃから、これからは注意して進まなくてはな」
「おいおい、今更何言ってんだよ。俺はいつでも注意しながら進んでいるぜ!?」
  だが、ディト爺はにやにやと笑いながら俺を見た。
「そうか、なら、お主の額にある猫のスタンプは何かな?」
  な、何だって!?  いつの間にそんなものが!
「ディト爺!  鏡はないか!?」
  急いでディト爺に言うと、袋から鏡を取り出して俺に渡してくれた。
  鏡を覗き込んで俺の顔を見ると、確かに額には猫のスタンプが押されていた。し
かも、かなりきれいに押されているじゃねぇか!
  急いで額をゴシゴシと擦るが、中々とれやしねぇ。
  くそっ!  一体誰がこんなダンジョンを作ったんだよ!

第五十三話「家宝」
  俺とディト爺は話をしながらゆっくりと通路を歩いていた。
  それにしてもよ、腹が減って、もうあまり力が出ねぇんだよな。今の状態で大掛
かりなトラップでもあったら死んじまう可能性は極めて高いな。出来れば何もない
まま無事に食料庫へと着いて欲しいんだが……。
「ふむ、どうやらこの先は行き止まりの様じゃな」
  ディト爺の言葉通り、俺達の目の前には壁があるだけで、扉らしき物は全く見当
たらなかった。
  仕方ない、一度引き返して通路を細かく調べるか……と、ちょっと待てよ。俺達
が今通っている通路は、普通の所よりも下に位置する通路を通っている事になるん
だろ。そう考えると、ここの抜け道は同じ位置にあるって事は考えられねぇか?
「ディト爺、このまま行き止まりまで行って、天井を杖で強く突っついてくれねぇ
か?  もしかしたら何かあるかもしんねぇ」
  ディト爺はゆっくりとした歩調で行き止まりに向かって行くのを見て、俺も続い
て歩き出した。
  ディト爺は行き止まりに着くと、天井目掛けて杖で突っついた。すると、天井の
一部が少しではあるが動きやがった。
「ディト爺!  もっと強く突くんだ!」
  そう言うと、ディト爺は更に杖で天井を突いたが、それ以上は動かない様子だっ
た。
「駄目じゃ。これ以上は力が出んのじゃよ。腹が減ってどうにも……」
  仕方がない。ここは俺の出番か。
  ディト爺から杖を借りると、俺は思いっきり杖で天井を突いた。
  が、全く動く気配はなかった。
「くそっ!  何かが上に乗っかっている様だな。これ以上は無理なのか!?」
  もし、天井が動かないままだと、このままここに閉じ込められて飢え死にするし
かない。
  そうなる前に、何としてでも出なくては!
「ディト爺、何か良い発明品はないか?」
  あまりディト爺を頼りたくはなかったが、こんな状況じゃあ頼れる者には頼っと
かねぇと。
  それにディト爺は何を持っているかわかんねぇしな。案外、良い物をまだ隠し持っ
ているって可能性があるしな。
  ディト爺は袋をごそごそとあさり出すと、袋の中から一つの輪の様な物を取り出
した。
「で、それは何なんだ?」
「ふふふ、聞いて驚くでないぞ。これは遥か遠くの異国より取り寄せた物なのじゃ
よ。そして、その効果とは……」
  ディト爺はにやにやと笑いながらその輪の中に自分が入った。
「暇潰しが出来る!」
  そう言って、ディト爺は見事な腰使いで輪をるくると回して見せた。
「今は暇潰しをしている状況じゃねぇんだよ!」
  思いっきりディト爺の頭を殴りつけると、ディト爺を無視して何とかして天井の
一部を動かす方法を考えた。
  多分、何かの重りの様な物が天井の上には置かれているんだろうな。そうなると、
それを退ける為には何か良い方法はないだろうか?  例えば、この天井を破壊する
様な武器とか……。
  そうだ!  ディト爺の剣技が……、って今は使えねぇんだったな。何か良い方法
はないか………。
  そうこう考えていると、ディト爺は突然天井を見上げて懐をごそごそと探り出し
た。
「ん?  何やってんだ?」
  すると、ディト爺は何か銃の様な形をした物を取り出した。
「お、おい!  何なんだよそれは!?」
  ディト爺はにやり笑いながら俺を見た。
「これはじゃな、儂の家に代々伝わる家宝じゃよ。その威力は、使用者の精神力に
よって変わるのじゃ」
  そう言って、その銃を持って構えると、天井に向かって何かを発した!
  ドゴーン!
  突然大きな音をたてたかと思うと、天井には四角い穴があいていた。
「お、おい、どうしてそんな発明品がのに、今まで出さなかったんだよ!」
  だが、ディト爺は不思議そうな顔をして俺を見た。
「何を言っておる。これは発明品ではなく家宝なのじゃぞ」
「そんな言い訳を聞いているんじゃなくて……」
  ディト爺は俺の言葉を無視するかのように天井を見上げた。
「どうやら、これで先に進める様じゃな」
  ……まあ良いか。何しろ、ディト爺の御陰で助かったんだし、文句は言えねぇか。
  そう思いながら、俺は天井を見上げていた。

第五十四話「謎の行動」
「ディト爺、俺が先に行くからここで待ってろよ」
  ようやく天井に穴があいた事によって先に進む事が可能となった為、まずは俺が
先に行って様子を見る事にした。
  まずは天井の穴にフック付きのロープを投げてロープを掛けた。
  そのロープを二、三度下へと引っ張って、確りとフックが引っ掛かっているかを
調べた。
  どうやら、確りと引っ掛かっている様だな。これで安心して上に行けるぜ。
  ロープを確りと握ると、ゆっりくと昇って行った。少し昇って行くと、一つの部
屋に出た。部屋の中を見回すと、部屋の中には殆ど何もなく、唯一あったと言えば
扉ぐらいだった。
  別に罠とかはなさそうだな。そろそろディト爺も呼ぶか。
  俺は床の穴から下を見てディト爺の姿を確認すると、ディト爺に向かって手招き
した。
「お〜い、ディト爺!  そろそろ上がって来いよ!」
  と、言った刹那、突然ディト爺の姿が見えなくなった。
  変だな、さっきまでこの下に居たはずなのによ。一体何処に行きやがったんだ!?
「儂に何か用かな?」
  突然耳元でディト爺の声が聞えて来た。
  素早く後ろを振り向くと、そこにはディト爺がお茶を飲んで寛いでいた。
「お、おい、いつの間にここまで昇って来たんだよ!?」
  だが、ディト爺はにやり笑っているだけであった。
「それよりも、下を見てみい」
  下?
  俺がその言葉を聞いて下を見ると、そこにはディト爺が!
「ど、どわ〜!」
  な、な、何でディト爺が下に居るんだよ!  第一、ディト爺は今、俺の隣に……。
  俺は恐る恐る隣を見ると、いつ間にかディト爺の姿は無かった。
  い、一体いつの間に下に行ったんだよ!?  誰か説明してくれよ!
「う〜む、年寄りにはちと辛い不可思議行動じゃな〜」
  下に居るディト爺はそう呟いた。
  どういう意味なんだよ……。
  下に居るディト爺はゆっくりとロープを昇って来て、ようやく部屋まで来た。
「おい、今の行動を説明してくれよ」
  だが、ディト爺はにやりと笑った。
「ふふふ、おじじの秘密がそんなに聞きたいと申すのか?」
「何が『おじじの秘密』だ〜!」
  俺はディト爺を思いっきり殴り飛ばすと、ディト爺は不幸にも床の穴へと落ちて
行った。
「さらばディト爺よ。永遠に苦しんでくれ……」
「もう、意地悪なんだから〜」
  嫌な声が聞えてきたと思ったら、隣にディト爺がにやりと笑いながら座っていた。
「俺に近寄るな〜!」
  再びディト爺を殴り飛ばすと、部屋から出る事にした。
  とにかく、さっきのディト爺の行動は気にしないでおこう。考えると変になりそ
うだからな。
  部屋の扉の前まで来ると、扉に罠がないかを調べた。
  どうやら、扉には罠はないようだな。
  ゆっくりと扉を開けると、そこは通路となっていた。
  それにしてもよ、食料庫はまだ見付からねぇな。早く見付からねぇかな?
  そんな事を考えながら通路をゆっくりと進んで行った。

第五十五話「食料庫発見!」
  俺を先頭に歩いていると、右折れと真っ直ぐの分かれ道に出た。
  今回は、このま真っ直ぐ進んでみるか。
  俺は真っ直ぐの道を歩き出した。ディト爺も後ろに続く。しばらく歩いていると、
前方に扉が見えてきた。
  どうやら、何かあるみたいだな。
「ディト爺、ちょっとここで待ってろ」
  ディト爺を待たすと、扉に罠がないかを調べてみた。
「ん?  別に罠は無い様だな」
  俺はゆっくりと扉を開け、部屋の中へと入って行った。すぐにディト爺も続いて
入って来て、ディト爺はゆっくりと扉を閉めた。
  まずは、部屋の中を………。
「って!  ここは、食料庫じゃねぇか!?」
  そう、俺達の周りには、長期の保存が可能な食料が棚に多々置かれていた。
「ディト爺、水は無いか?」
  そう聞くと、奥の方でディト爺は手招きをしていた。
  ディト爺の居る所へと近付くと、そこには水が流れていた。水は小さな水路から
流れ出ていて、無くなるという事はなさそうだ。
  水の流れている音を聞いているだけで、何だか嬉しくなってきた。何しろ、久々
に飯にありつける事が出来るんだぜ。今までどんなに腹が減っていた事か……。
  まずは井戸水をすくって飲むと、続いて食料の方へと足を運んだ。
  ちょっと待てよ。ここにあるのは干し肉が多いな。そうなると、何か鍋とかはな
いのか?  無ければ、絶対に食えねぇな……。
「ディト爺。何か鍋はないか?  それと、火を起こすような物は?」
  俺が食料を調べながら言うと、ディト爺は後ろの方でごそごそと調べ始めた。
  しばらくして、ディト爺は俺の所までやって来た。
「ふむ、どうやら、丁度良い所がある様じゃぞ」
  そう言って、ディト爺は後ろの方を指差した。そこには、鍋や食器などが色々置
かれており、更に火が起こし易い様に普通の家庭と同じような、いや、少し古い家
にある台所の様な所があった。
  どうやら、これで腹ごしらえが出来るな。
  俺とディト爺は食べれるだけの食料を棚から取り出すと、後は鍋に水を沢山汲ん
できた。
「それよりさ、枯れ木がないとな……」
  そう呟くと、ディト爺は部屋の隅から多々の枯れ木を見付けて来た。
  へ〜。色々とあるんだな。
  などと感心していると、ディト爺は懐から何か変な物を取り出すと、それで枯れ
木に火を点けた。
  あれよあれよという間に、もう飯の準備は出来上がった。
  次第に水は熱くなり、プクプクと沸騰し始めた。
  しばらくして、ディト爺はその肉を取り出すと、肉を食べ易い大きさに切って、
皿に置いた。
「へ〜、ディト爺って料理は慣れてんのか?」
「ふふふ、儂と結婚する者は料理には困らんのじゃよ。お主は料理慣れしていない
様じゃな。そうれば、心配する事はないよ……」
  その言葉を聞いた刹那、俺は素早くディト爺の頭を拳骨で何度もぐりぐりした。
「何の心配はないだと?」
「うぐぐ、痛い〜!  これは、愛の試練なのか〜!?」
  素早くディト爺を蹴り飛ばした。
「何が愛の試練の試練だ!」
  そんな事を言っている内に食事は始まり、いつしか用意された食事を全て食べ尽
くし、そしてそのままゆっくりと寝てしまっていた。

第五十六話「戦闘開始!」
  いつまでも幸せな気分で寝ていた俺だったが、突然まぶたを開け、ゆっくりと立
ち上がった。
  本当はもっと寝ていたかったが、このままここでゆっくりと寝ている場合じゃな
いんだと自分に言い聞かせ、ディト爺をたたき起こした。
「ん?  もう行くのか?」
  俺は無言のままうなずくと、袋の中の食料と水を確認すると、顔を水で洗って、
扉へと歩いて行った。ゆっくりと扉を開けると、薄暗い通路をゆっくりと歩き出し
た。
  しばらく歩いていると分かれ道に出た。右側に行く道か、真っ直ぐ行く道か。
  当然、俺達は真っ直ぐ通路を歩いて来たのだからここは右側に曲がるしかねぇな。
「ディト爺、ここを右に行っていいんだよな?」
  念の為、ディト爺に確認した。
「ああ、そうじゃよ。儂等はこの通路を真っ直ぐ来たのじゃからな」
  じゃ、右に行くか。
  右に曲がるとまたしても真っ直ぐと続く通路があった。
  この階、通路での罠はあまりないな。だが、その分部屋の中で罠が強力だって事
も有り得るしな。気を付けないとな。
  そうこう考えている内に、今度は単なる曲がり角があった。また右に曲がる道だ
な。このまま変な所に行くって事はないよな。実は、もう戻ってこれない所に行っ
てしまうとかよ……。いや、そんな事はない。だが、言い切る事は出来ないな。だ
からこそ、注意をしなくてはな。
  しばらく進んでいると、前方に扉が見えてきた。早速その扉を調べ、罠が無い事
を確認するとゆっくりと扉を開けた。
  俺が部屋の中に入ると、ディト爺も続いて入って来て扉を閉めた。
  部屋の中を見回すと、部屋の中央に何か布で覆われている巨大な物があった。
  まさか、ゴーレムじゃねぇだろうな……。この部屋はやけに広いが、何かあるの
か?  まさか、ここでゴーレムと戦えって事じゃねぇだろうな。
  少しその物から離れる様にして部屋の中を調べていると、一つの扉を発見した。
だが、その扉には罠があり、俺の腕前では絶対に開ける事が出来ない様な代物だっ
た。もし、下手に触れば巨大な爆発が起こり、死んでしまう可能性もある。こんな
所まで来て死んでしまう訳にはいかない。何としてでも別に方法を見付けないとな。
  ふと扉の下の方を見ると、小さな鍵穴があった。
  どうやら、この鍵穴に鍵を入れれば開くようだな。そういや、一つだけ鍵があっ
たよな。もしかしたら開くかもな。
  俺はポケットから鍵を取り出すと、その鍵穴に入れてみた。だが、鍵をいくら回
そうとしても動かなかった。
  どうやらこの鍵じゃねぇ事は確かだな。他に鍵が何処かにあるのか?  もしある
としたら、この部屋の何処かにって可能性は高いよな。
「ディト爺!  この部屋の中に鍵が落ちていないか探してくれねぇか?」
  そう言うと、ディト爺は早速部屋の色々な所を調べ始めた。
  さて、俺も探すか……。
  と、俺が扉から離れた刹那、突然部屋の中央にあった布に覆われた何かが動き始
めた。
「進入者確認、進入者確認。戦闘モードに切り替え、直ちに排除する」
  え!?  なんだ!?
  部屋の中央にあったその物を覆っていた布は突然燃え出して、一瞬にして消えて
しまった。そして、その何かの姿が現れた。
「ゴレームじゃ!」
  そう、その物とはまさしくゴーレムだった。しかも、猫型といのが何とも泣かせ
るぜ。
  猫型ゴーレムの手には大きな小判があった。
  と、ちょっと眺めていると、その小判を俺に向かって投げ付けやがった。
  素早く後方へと回避すると、目の前には大きな小判が転がっていた。
  こんな物に当たったらすぐにあの世行きだな。何とかしねぇとな。だが、こいつ
の弱点はいったい何なんだ!?  それがわからない事には倒しようがないじゃねぇか。
「とにかく、今はこいつの攻撃を避けるしかねぇな!」
  そう言って、猫型ゴーレムの突進を難なくかわしてみせた。

第五十七話「猫といっても…」
  素早く猫型ゴーレムの攻撃をかわすと、走ってディト爺の所まで行く事にした。
  何しろ、こんな所でディト爺に死んでもらっては困るしな。
  俺が走れば勿論ゴーレムは反応して攻撃を仕掛けてくる。
  突然巨大な何かが俺の頭をかすめて壁に激突した。それは、巨大なかつおぶしだっ
た。
  おいおい、いらく猫だからって、巨大なかつおぶしまで投げる事はないだろ。
  それに、あんな物に当たったら確実に死が待っていやがるな。
  そうこうしている内に、ようやくディト爺の所まで辿り着いた。
「ディト爺!  何か有効な攻撃手段はないのか!?」
  すると、ディト爺はにやりと笑って袋をごそごそとあさり始めた。
  まあ、あまり期待は出来ないが今はディト爺にかけるしかねぇな。
  ディト爺が探している間、俺は奴の攻撃をディト爺に向かってこないようにでも
するか!
  俺は一気に走り出して、ゴーレムの目の前を通り過ぎた。
  と、ゴーレムは俺に目を付けた様で、不気味な二束歩行を始めた。
  おいおい、猫が二束歩行ってどういう事だよ?  せめて四本足で走ったらどうだ?
  などと思いながら走っていると、突然ゴーレムはまたしても何かを投げてきた。
  とっさに逆方向へと走り出した刹那、後方で、ドシーン!  と、大きな音がした。
後ろを振り替えると、そこには巨大な猫の像が床に落ちていた。
  もし、俺があのまま真っ直ぐ走っていたら確実に死んでいただろうな。相手も馬
鹿じゃねぇって事だな。
「お〜い!  見付かったぞ〜!」
  部屋の隅の方からディト爺の声が聞こえてきた。
  ディト爺は何かを手に持って立ち上がっている。
  どうやら、何か役立ちそうな物があった様だな。じゃ、ディト爺の所まで行くか。
  俺はまたディト爺の所までダッシュで向かう事にした。が、ゴーレムはそれを見
逃す訳はなかった。俺の後を不気味な二束歩行で追っ掛けてきやがる。
  ドシン、ドシン、ドシン、とテンポ良く音が響いている。
  もし、このゴーレムが無害なものであったら、結構間抜けな絵になるだろうな。
無害な猫型ゴーレム(しかも巨大)相手に逃げ惑う一人の男……。
  けっ、結構泣ける話だぜ……。
  などと考えながら走っていると、ディト爺の方から走っているのが見えた。
  おいおい、何でディト爺が走って来る必要があるんだよ!?  どう考えても今のディ
ト爺は足手まといじゃねぇかよ。
  それに、こんな所でディト爺が殺られちまったらやべぇじゃねぇか!
  俺は急いでディト爺の所まで行くと、まずは殴った。
「ったく、何してんだよ!  ディト爺が走って来る必要はなかったのによ」
  だが、ディト爺はそんな俺の意見を全く無視して後方を指差した。
  何気なく後ろを向くと、物凄いスピード(しかも二束歩行)で迫り来る猫型ゴー
レムがいた。
  ドンドンドンドンドン!
  な、なんだ!?  速すぎる!
  猫型ゴーレムは口元を異様な程大きく開けて走っている。
  何故口を開ける必要があるんだ!?
「ディト爺!  早くそれを使ってくれ!」
  そう言うと、ディト爺は懐から何かを取り出すと、それをゴーレムに投げ付けた。
  コン………。
  辺りにむなしく響く心頼りない音……。
「で、何を投げたんだ?」
  俺は弱々しい声で聞いた。
「マタタビ……」
「おめぇが吹っ飛べ!」
  と、俺が思いっきりディト爺を殴ると、何故かディト爺は猫型ゴーレムに向かっ
て飛んで行った。
「人間爆弾〜!」
  ディト爺の最後の言葉はあまりにむなしかった……。多分、発明品の高く飛ぶ靴
でもはいていたんだろうな。それであんなに飛べたんだろうな……。
  と、呑気にディト爺の行く先を眺めていると、ディト爺はゴーレムの大きく開い
た口に見事に入って行った!
「う、嘘だろ!?」
  そして、ゴーレムはその口を閉じてしまい、ディト爺の逃げ道はなくなってしまっ
た。
「さらばだ、ディト爺。今度こそ永遠に消え失せてくれ……」
  って、こんな事を言っている場合じゃねぇんだ!  何とかしてディト爺を助けねぇ
と!  だが、一体どうやってディト爺を救うんだ?
  色々考えていると、ゴーレムは俺に迫って来た。
  やべぇ!  とにかく、今は逃げながら対策を考えるとかねぇな!

第五十八話「銃」
  ディト爺が猫型ゴーレムに飲み込まれた今、俺に奴への攻撃手段はあるのか!?
頼みのディト爺は人間爆弾として猫型ゴーレムへ飛んで行き、見事に飲み込まれて
しまった。
  更に、マタタビを投げても全く効果はなかった。
  一体俺にどうしろと言いたいんだ!?
  などと考えながら走っている、猫型ゴーレムがまた何かを投げてきた。それは、
どう見ても小さな物で、何処かで見たような形をしていた。
「あ、あれは!」
  俺の近くまで飛んで来ると、それは床に、コトン、と落ちた。素早くそれを掴み
と取ると、それをもう一度確認した。
「間違いない。これはディト爺が持っていた、あの家宝とかいうやつだ」
  そう、それこそディト爺が持っていたあの家宝。あの威力なら、あいつを何とか
倒す事が出来るかもしんねぇ!
  走るのを止めると、銃を持って構えた。
  猫型ゴーレムは更に迫って来る。それを全く恐れようともせず、ただ、俺は照準
をしっかりとゴーレムに合わせて最も近寄ってくる瞬間を待った。
  巨大なゴーレムは、高さは五メートルぐらいはあるな。
  その巨体がズンズンと迫って来る。
  十メートル、九メートル、七メートル、八メートル……。
  そして……。
「くらえ!」
  猫型ゴーレムが俺のすぐ目の前まで迫った刹那、俺は素早く銃の引き金を引いた!
  突然、物凄い強力な何かが銃の中から飛び出てきた。
  それは、強力な衝撃波だった。だが、ディト爺が使った時とは全く違う威力だっ
た事は一目瞭然だった。
  ゴーレムは思いっきり吹っ飛んでしまい、完全に動きは止まっている様だ。
「何とか、倒したのか?」
  ゴーレム見ながらそう呟いた。
  が、その言葉を裏切る様に、ゴーレムはゆっくりと動き出した。
  う、嘘だろ!?  あんな攻撃を食らっていながら、まだ動く事が出来るなんて!  
それじゃ、俺に一体何をしろって言いたいんだ!?
  ……いや、冷静になって考えよう。多分、奴は今、かなりのダメージを負ってい
るはずだ。俺には強力な銃がある。何度も銃で撃てばその内……。
  そうだよな!  心配する事なんて何もなかったんだ!  じゃ、また銃で……。
  俺はゆっくりと迫り来る猫型ゴーレムに照準を合わせて、銃の引き金を引いた。
  が、何も起こらなかった。
「お、おい!  何で動かないんだよ!?」
  カチカチカチ……。
  何度も何度も引き金を引くが、全く反応はない。
  一体どうなっていやがるんだ!?
  だが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。正面からは猫型ゴーレム
が迫って来ているのだから。
  俺は仕方なく諦めると、素早く後方へと逃げる事にした。

第五十九話「猫は不死身!?」
  後方からは巨大な猫型ゴーレムが二足歩行で迫って来ていた。
  ディト爺の持っていた銃は何故か一度使っただけで使えなくなってしまった。
  更に、未だにディト爺は猫型ゴーレムに飲み込まれたままだ。
  ふと後方ほ振り向くと、ゴーレムが巨大な何かを持っているのが見えた。よく見
ると、それは大きなねこじゃらしのようだった。
  おいおい、今度はねこじゃらしかよ。一体何処に隠し持っているんだよ!?
  と、突然後方から巨大なねこじゃらしが飛んできた。素早く右側に避けると、そ
のまま真っ直ぐ走り出した。
  そのねこじゃらしが壁に激突すると、一瞬床が少し揺れた。
  おいおい、どうしてねこじゃらしが壁に激突したぐらいで床が揺れるんだよ!?
  くそっ!  ディト爺を何とかして助け出さないと、今のままでは攻撃手段が全く
ないな。逃げる事しか出来ねぇ。
  早くどうにかしねぇと。逃げてばかりじゃ疲れるぜ。
  ……いや、一つだけ方法があったな。よし、こうなりゃ……。
  走る速度を上げると、一気に壁まで走り出し、壁まで辿り着くとさっと立ち止まっ
て、猫型ゴーレムの方を向いた。
「おらおら!  とろとろしねぇでさっさと来な!」
  俺がゴーレムを挑発すると、ゴーレムはその挑発にのるかのように物凄い速さで
走り始めた。
  ドンドンドンドンドン………。
  床が激しく揺れ始める。
  そうだ、このままは走って来い!
  そして、俺の目の前に来た刹那、素早く右側に走り出した。それを見たゴーレム
も方向転換……。が、大きな巨体では急に方向転換など出来る訳でもなく、そのま
ま壁に激突してしまった。
  ドゴーーーーーン!  と、物凄く大きな音を立てて壁に激突したゴーレムは、そ
のまま壁にめり込んでしまった。
「ふ〜、何とか倒したな……」
  少し安心してその場にしゃがみ込んだ刹那、突然、何か変な声が聞こえてきた。
「にゃにゃにゃにゃにゃ〜にゃにゃにゃ〜にゃにゃにゃ〜♪」
  何だ、これは……。歌なのか?
  すると、壁にめり込んでいたはずの猫型ゴーレムが、何事もなかったように動き
始めているじゃねぇか!
  い、一体何事なんだよ〜!
  猫型ゴーレムは、大きな手を動かして自分の顔を洗っていた。
  それは、今の俺にとって何よりも不気味に見えた。
  どうすりゃいいんだー!
  今までやれる事は全てやった。ディト爺の銃を使っても倒せなかったし、更に壁
に激突させても全然平気だしよ……。俺に一体何をしろって言いたいんだー!
  だが、猫型ゴーレムはそんな俺の心境を知っているかのように笑っていた。
「ふにゃ〜」
  と、鳴いた。
  くそっ!  完全に馬鹿にしていやがるな!  絶対にぶっ殺してやるぜ!
  ……とは言うものの、攻撃する手段はないしな。どうしたらいいのやら。
  ドスン!  ドスン!  ドスン!  と、大きな音を立ててゴーレムは再び俺の方に
向かって来ていやがる。
  仕方ない、こうなったら何度も壁に激突させて、完全に潰すしかないな!

第五十九話「復活」
  ゴーレムを引き付けながら直進で壁まで一気に走り、壁の手前まで来たら一気に
方向転換をして右方向へと走る。
  ゴーレムは壁に激突し、また壁にめり込んだ。
  が、またしても何事もなかったかのように動き出す。
  一体何回こうしていただろうか?  これで五回目じゃねぇか?  それでもゴーレ
ムはまだまだ倒せそうにはない。いくら頑丈だからって、これ程壁にぶつかっても
大丈夫って事は、どうにもなんねぇんじゃねえかよ!
  いや、ちょっと待てよ。確か、鉄製のゴーレムには食塩水をかければ効果的だっ
たんだよな。
  しまった!  水はディト爺が持っているんだった!
  これじゃ、何も出来ないぜ。
  ん?  食塩水をかけたとしても、普通、すぐにはさびるわけねぇよな。例え、さ
びたとしても少ししかさびねぇだろうな。完全にさびるまで待っていたらこっちが
殺られちまうぜ。
  じゃ、意味無いじゃねぇかよ!  どうすりゃいいんだ!?
  と、ゴーレムは突然の猛ダッシュをして俺を踏み潰そうとした。俺は負けまいと
して走るが、何しろ相手は巨大なゴーレム。絶対に逃げ切れる訳でも無く、結局追
い付かれてしまった。
  ふと上を見上げると、大きな足がそこにはあった。更に前方には壁が見える。
  こんな所で死ぬ訳にはいかねーんだよ!
  そう思いながら必死に後退し、後方に向かって走り出す。俺が後方へと走り出し
た事により、走っていたゴーレムは突然止まる事も方向転換をする事も出来ず、そ
のまま壁へと激突した。
  が、それを眺めている場合ではない。すぐにゴーレムは復活する。何度も壁に激
突しているとはいえ、全く衰えを見せない所が恐いぜ。
  普通、これ程壁に激突しているといくらゴーレムだからといっても倒す事は可能
なはずだ。奴が何で鉄で作られている事は確信出来ないが、あのボディーを見る限
りは鉄製としか見えない。
  だとすると、何故奴は全く衰えもせず戦う事が出来るんだ?  奴を倒すには何か
特別な物が必要なのか?
  などと色々考えていると、またしてもゴーレムは動き始めた。
  いい加減疲れたぜ。どうにかならねぇのか?
  だが、そんな事を考えている暇はない。既にゴーレムは俺の所まで走って向かっ
ている。
  ディト爺さえいれば、何とかなるかなしんねぇのによ。どうしてあんな訳のわか
んねぇ事をしたんだよ!
  俺は再び走り出し、急いで壁へと向かった。
  このままじゃ、マジで死んじまうぜ!  早くなんとかしねぇと。
  だが、俺は一体何をすればいいんだ!?  ディト爺がいないのでは攻撃手段が……。
  ふと、自分の考えが何か変である事に気が付いた。
  何故ディト爺を頼っているんだ?確かにディト爺は偶には役に立つ。ピンチにな
れば助けてもらえるだろう。でもよ、最近、ディト爺に頼り過ぎていないか?  少
し前までは自分の力で何でもしようとしたさ。そりゃ、仲間の力も借りていた事も
多いがな。だが、今の俺は何か危ない事があったらディト爺を頼るって事ばかりじゃ
ねぇか?  ディト爺は頼りになるが、それを自分で解決する事が出来るものなら何
とかしねぇと。それに、少し無理があっても少し前の俺なら、自分で解決しようと
していたはずだ。
「そうだな……」
  自分の考えを改め、そして、自分の力を過信する事無く、自分の可能性を信じて
戦うってのもいいよな。
  俺はその場に立ち止まると、ディト爺の銃をポケットから取り出し、そして照準
をゴーレムに合わせた。
  絶対に倒す事が出来るさ。この銃を上手く扱う事が出来るさ。そして、ディト爺
を救ってみせる!
  物凄い地響きを立てて迫るゴーレムに恐怖せず、確りと照準を合わせる。
  絶対に倒してみせる!

第六十話「勝利」
  確りと照準をゴーレムに合わせ、少し考えてみた。
  ちょっと待てよ、ここで奴を銃でぶっとばしてもディト爺がゴーレムの中から出
てくるって事は必ずしも出来ないよな。奴の体を狙ったとしても、少し傷をつける
程度にど終わってしまうって可能性は十分にある。
  だとしたら、一番効果的な所はただ一つ……。
  俺は銃の照準を奴の口元に合わせる。
  元々こういった物はパチンコを扱うのと同じだな。ただ、玉がが違うって事と、
飛ばし方が違うって事だけだ。
  銃を構え、ゴーレムに確りと狙いを定めた。そして、ゆっくりと引き金を引いた。
  カチ……。
  またもむなしく響くこの音。
  どうやら、使う為には何かをしなくてはならねぇ様だな。
  迫り来るゴーレムを少し見て、まだ距離が十分にある事を確認すると、銃を確り
と見た。銃をよく見ると、上の方に小さなボタンがあるのが見えた。そのボタンを
押すと、銃は少し青白く輝いた。
  これで準備完了か?
  もう少し銃を見ると、何か変わったネジのような物がついていた。そのネジを右
にゆっくりと回すと、再び銃を構えてゴーレムの口に照準を合わせた。
  ゴーレムはすぐそこまで迫って来ていて、数秒後には俺は完全に潰されちまうと
いった状況だった。
「くらいやがれ!」
  銃の引き金を引いた刹那、物凄い威力を持った何かが銃から飛び出したのがわかっ
た。
  それは一瞬の出来事だった。
  次の瞬間、ゴーレムは前回よりも吹っ飛び、壁に思いっきり激突した。
  ドゴーーーーーーーン!
  と、物凄い音がしたかと思うと、凄い地響きが起こった。
  ゴーレムを見ようとしたが、壁に激突した際に煙が立ち、どのような状況になっ
ているのかが全くわからなかった。
  しばらくして、その煙がようやく無くなった。
  恐る恐るゴーレムに近付くと、ゴーレムは見事に壁にめり込んでいて、全く動く
気配はなかった。
  どうやら倒したようだな。
  そう思っていると、何処からか聞き覚えある声が聞こえて来た。
「全く、なんちゅう無茶をするのじゃ?  御陰で儂の体が傷物になってしまったで
はないか」
  そう、その声は紛れも無くディト爺の声だった。
  ディト爺の姿を探すと、ゴーレムの口から出て来ているのがわかった。ディト爺
は何とも疲れきった顔をしていた。
  どうやら、助かった様だな。これで先に進めるな。
「ほれ!  ゴーレムの内部に鍵があったぞ」
  ポイっと鍵を投げると、俺はその鍵がここの部屋を出る為に必要な鍵である事に
気が付いた。
  偶には役に立つよな。ディト爺は。
  そう思いながらディト爺に近付いて、銃を渡した。
「これ、ディト爺のだろ?  ゴーレムの奴が投げてきたんだぜ。ま、こいつの御陰
で助かったがな」
  ディト爺はにやりと笑うと、ゴーレムから足早に離れて行った。
  俺も続いてゴーレムから離れると、扉の前まで歩いて行った。

 1998年6月24日(水)20時31分50秒〜7月13日(月)11時25分24秒投稿の、帝王さんの小説第五十一話〜第六十話です。第五十九話が二つあるような気がするのは、気にしないでください。

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