第六十話「勝利」 確りと照準をゴーレムに合わせ、少し考えてみた。 ちょっと待てよ、ここで奴を銃でぶっとばしてもディト爺がゴーレムの中から出 てくるって事は必ずしも出来ないよな。奴の体を狙ったとしても、少し傷をつける 程度にど終わってしまうって可能性は十分にある。 だとしたら、一番効果的な所はただ一つ……。 俺は銃の照準を奴の口元に合わせる。 元々こういった物はパチンコを扱うのと同じだな。ただ、基本的に玉がが違うっ て事と、飛ばし方が違うって事だけだ。 銃を構え、ゴーレムに確りと狙いを定め、そして、ゆっくりと引き金を引いた。 カチ……。 またもむなしく響くこの音。 どうやら、使う為には何かをしなくてはならねぇ様だな。 迫り来るゴーレムを少し見て、まだ距離が十分にある事を確認すると、銃を確り と見た。 銃をよく見ると、上の方に小さなボタンがあるのが見えた。 そのボタンを押すと、銃は少し青白く輝いた。 これで準備完了か? もう少し銃を見ると、何か変わったネジのような物がついていた。 そのネジを右にゆっくりと回すと、再び銃を構えてゴーレムの口に照準を合わせ た。 ゴーレムはすぐそこまで迫って来ていて、数秒後には俺は完全に潰されちまうと いった状況だった。 「くらいやがれ!」 銃の引き金を引いた刹那、物凄い威力を持った何かが銃から飛び出したのがわかっ た。 それは一瞬の出来事だった。 次の瞬間、ゴーレムは前回よりも吹っ飛び、壁に思いっきり激突した。 ドコーーーーーーーン! と、物凄い音がしたかと思うと、凄い地響きが起こった。 ゴーレムを見ようとしたが、壁に激突した際に煙が立ち、どのような状況になっ ているのかが全くわからなかった。 しばらくして、その煙がようやくなくなった。 俺は恐る恐るゴーレムに近付くと、ゴーレムは見事に壁にめり込んでいて、全く 動く気配はなかった。 どうやら倒したようだな。 そう思っていると、何処からか聞き覚えある声が聞こえて来た。 「全く、なんちゅう無茶をするのじゃ? 御陰で儂の体が傷物になってしまったで はないか」 そう、その声は紛れも無くディト爺の声だった。 ディト爺の姿を探すと、ゴーレムの口から出て来ているのがわかった。 ディト爺は何とも疲れきった顔をしていた。 どうやら、助かった様だな。これで先に進めるな。 「ほれ! ゴーレムの内部に鍵があったぞ」 ポイっと鍵を投げると、俺はその鍵がここの部屋を出る為に必要な鍵である事に 気が付いた。 偶には役に立つよな。ディト爺は。 そう思いながらディト爺に近付いて、銃を渡した。 「これ、ディト爺のだろ? ゴーレムの奴が投げてきたんだぜ。ま、こいつの御陰 で助かったがな」 ディト爺はにやりと笑うと、ゴーレムから足早に離れて行った。 俺も続いてゴーレムから離れると、扉の前まで歩いて行った。
第六十一話「実は……」 「で、なんでそんな事をしたんだ?」 俺はディト爺を怒って見ていた。 俺達が今いる所は、あの部屋を抜けた所だ。あの扉を開けるとすぐに直進の通路 が続いていた。 そこを俺達は今歩いている。 「そ、それはじゃな。何となく触ってみたかったからじゃよ」 「勝手に触っている場合か!」 と、ディト爺を殴り付ける。 今、俺達の話はディト爺のある行動についてだった。 それは、ディト爺が猫型ゴーレムに飲み込まれている時、ディト爺はある物を見 付けたそうだ。それはあの鍵ではなく、何個かのスイッチだったそうだ。 そのスイッチには『猫暴走スイッチ』『猫復活スイッチ』『猫ソング』など、色々 書かれていたそうだ。 ディト爺は、ゴーレムが壁にぶつかった時、ゴーレムが動かなくなってしまった ので『猫復活スイッチ』を押したそうだ。 俺があれ程苦労したのは、ディト爺が何度も『猫復活スイッチ』を押したからだ そうだ。 どうりで中々倒せないはずだぜ。中でディト爺が復活するスイッチを押していた のだから仕方ない。 「ディト爺。今回はこれで見逃してやるけど、もう二度と変な事はするなよ」 そう言うと、ディト爺はにやり笑った。 「ふふ、流石は儂の夫じゃの」 「誰が夫だと言っているのかな!」 素早くディト爺を殴り、そして蹴る。 だが、ディト爺は何事もなかった様に俺を見る。 「ぬふふ、そんなに照れんでもいいではないか」 「不気味な笑いをするな!」 ディト爺を素早く殴ると、俺は足早に歩き出す。 その後をディト爺がついて来る。 まったく、ディト爺には毎回苦労させられるぜ。ディト爺のせいで無駄な体力を 使っている事はわかりきった事だな。ディト爺のせいでどんなに時間を無駄にして いるのやら。 時間といえば、ここに入って一体何日かが経っているんだ? ここに来てからか なりの時間が経っているのはわかりきった事だが。 「ディト爺、ここに来てからだいたい何日ぐらい経っているかわかるか?」 そう言うと、ディト爺は懐から時計を取り出して時間を見た。 「ふむ、どうやら今は夜の五時じゃな。それで、儂の計算によると、お主と出会っ た日から数えて四日はここにいるようじゃ」 四日もここにだと!? そんなに経っていたのか。早くここから脱出しねぇと、あ いつらをいつまでも待たせる訳にはいかねぇ。 そう考えながら、何処までも続くと思われるダンジョンの通路を歩き続けていた。
第六十二話「猫猫猫!?」 通路を少し歩いていると、左方向の曲がり角があり、更に進むと右方向の曲がり 角、そして、更に進むと左方向の曲がり角。 それにしても、やけに曲がり角が多いな。別に分かれ道があるって訳じゃねぇん だがな。 この階は、ほんと罠が少なくて助かったぜ。何しろ、前の階なんて息をつく暇な んて殆どなかったからな。 この階じゃ、水や食料も手に入ったからな。この食料を大切にしていかねぇと。 いつこの食料が底を尽きるかわかんねぇしな。 などと考えていると、後ろから何かに追われている様な感じがして俺は恐る恐る 振り返ってみた。 「ディト爺、ちょっと歩くペースを上げねぇか?」 隣にいるディト爺にそう言うと、歩くペースを上げた。 ま、まさかな。目の錯覚だよな……。 そう思いながら再び後ろを見る。 「……ディト爺、走らねぇか?」 ディト爺は少し不思議そうに俺を見たが、仕方なさそうに走り始めた。 走りながら後ろを振り替えると、そこには……。 「ディト爺! 逃げるぞ! 思いっきり走れ!」 俺は真剣な表情をしてそう言った。 「何を言っておるのじゃ? 誰から逃げると言うのじゃ?」 ディト爺は不思議そうに俺を見た。 それはそうだ。ディト爺は後ろのあれを見ていないからわからないんだ。 「後ろを見てみな」 俺は後方を指差すと、ディト爺はゆっくりと後ろを振り返った。 と、ディト爺は苦笑いをしながらすぐに前を見た。 「いや〜、大変じゃな〜」 そう、大変といった所ではない。 何故なら、そこには数十、いや数百の猫に大軍が追っかけてきていたからだ。 それが本物でないのは確かだが、一匹一匹の目が異様な色を放っていた。 赤や緑、青や黄、その他多くの色の目が存在し、全てが異様にも闇の中で輝いて いる。その不気味さと言ったら、もう、言葉では表現出来ない様な代物だった。 ディト爺も俺も必死になって走っているが、その後を不気味な色とりどりの目を 持った猫達が追いかけて来る。 ドタドタドタドタドタドタドタドタ……。 後方からは、さっきよりも大きな音が聞こえて来る。 初め、俺が後方を見た時は五匹ぐらいしかいなかった。だが、その後に後方見る と二十五匹に。そして、更に後方を見ると百匹近く。 後ろを見る度に猫の数が増えてきている様な気がする。 「ニャ〜ン!」 と、後ろの猫達が一斉に鳴き出した。その五月蝿さは耳を手で覆っても防ぎきれ ない程の五月蝿さだ。 この状況をどうやって切り抜ければいいんだ!?
第六十三話「更に猫」 俺達の後ろには大量の猫が追いかけて来ている。それは、更に大量に発生して俺 達を追いかける。本物の猫になのか、ミニゴーレムなのかさえわからない。 ただ、今の俺達がする事はただ一つ、逃げる事だけだ! いや、何か奴等を追い払う様な手段があるはずだ。 必死に走りながらも考える。 後ろからは大量発生した猫達が追いかけて来る。 ドタドタドタドタドタドタドタドタ……。 後ろからは猫達の足音が物凄い音をたてている。 「そうだ! ディト爺! あの銃を!」 そう、あの銃ならこいつらを一気にふっとばす事が出来るからだ。 あの威力なら、こいつらだったら一瞬で倒せるな。 隣でハアハアと激しい息遣いのディト爺が、懐から銃を取り出して素早く俺に渡す。 「死にやがれー!」 その照準を猫達の真ん中辺りに合わせると、銃の上についているボタン押すと、 一気に引き金を引く。 すると、銃の中から強力な何かが出てくる! そして、それは猫に当たり、猫の大群を一掃してくれる……はずだった。 「ふにゃ〜」 何とも情けない鳴き声が聞こえたかと思うと、猫の大群の中から一匹の猫が宙を 舞った。 その猫は、何故か鼻から血を流していていかにも燃え尽きたといった表情をして いた。 「……で、あれはなんだ?」 走りながらその猫を確認すると、ディト爺に問い掛けた。 「いや、実はじゃな。あれは単体のみ有効なのじゃよ。つまり、お主が放った弾は あの大群の中の一匹のみ当たったという事じゃ」 たった一匹のみに有効だと!? それじゃ意味が無いじゃねぇかよ! 毎回毎回泣かせる事をしてくれるじゃねぇか。 「こうなったら、とことん走るぜ!」 俺はそう言うと、思いっきり走り始めた。 だが、後ろからは依然として猫達は追いかけて来る。出口が無い限り何処までも 追いかけて来るつもりらしいな。 前方を見てもただ真っ直ぐな通路があるだけだ。 そんな不安を打ち消すかのように、突然何かが前方から迫って来ているのが見え て来た。 「あ、あれは、もしかして……」 そう、それは猫の大群だった。 後方から猫の大群、前方からも猫の大群。この状況をどうやって切り抜けろって 言いたいんだ!? ディト爺も流石に驚いた様で、お茶をこぼしながら走っている。 「こんな時にお茶を飲んでいるのは誰かな!?」 走りながらもディト爺を殴る。 前方から迫り来る猫達を一体どうやって切り抜けるかが問題だな。何か良い策は ないのか!? だが、良い策など思い付く訳もなく、前方の猫達は更に迫って来た。
第六十四話「肉食猫」 前方から迫る猫達と後方から迫る猫達。この状況をどうやって切り抜けるか。 この状況は逃げるとかそういった問題ではなく、前方の猫達をどうやって対処す るかが問題となってくる。 猫の大群だからといってもなめては駄目だ。何しろ、銃を使っても一匹づつしか 倒せない。かといって連射しても迫って来るのは時間の問題だ。 そんな事を考えていると、後方の猫の大群はすぐそこまで迫って来ている。ただ、 前方の猫達とはまだかなりの距離があるのが何よりも救いだった。 どう考えても避けられるものじゃねぇ。何か良い策はねぇのか!? 俺達は走っている為、前方の猫達に更に近付いて行く。だが、その場に止まって いると後ろの猫達に追い付かれてしまう。 「ん? ちょっと待てよ……」 俺は思わず呟いた。 何故なら、この猫達が攻撃をしてくるって事はないのでは? 第一、俺達を単に 追いかけているだけで、攻撃しようとしている訳じゃねぇしな。 じゃあ、何か投げ込めばわかるかもしんぇな。 「ディト爺、何かあの猫達を刺激するような物はねぇか?」 そう言うと、走りながら一つの人形を何故か懐から取り出した。 それは、犬の人形だった。 これを投げれば奴等の反応を見る事が出来るな。 俺はディト爺からその人形を受け取ると、それを後方の猫の大群の中に投げてみ た。 すると、後方の猫達は突然物凄い大きな鳴き声をあげて、その人形目掛けて襲い 狂っていた。 それは、物凄いものであり、正直言ってあれ程までえぐい事になるとは予想もし ていなかった。 「ディト爺、この状況はかなり辛いんじゃねぇか?」 俺は苦笑いしながらそう言った。 「ふむ、確かにそうかもしれぬな」 などとこんな状況で落ち着いた事を言っている。 何でこんな状況で落ち着いていられるのかが不思議だぜ。普通は焦るもんだぜ。 だが、ディト爺は何とも楽しそうに猫達を見ている。 走りながら、そして、この状況で猫達を楽しそうに眺めていられるってかなり幸 せな奴だぜ。 だが、そんな事を考えている場合じゃねぇな。どうにかしねぇと。 前方に迫り来る猫達と後方ら迫り来る猫達。これはどう考えても倒す事は不可能 じゃねぇかよ。 いや、ちょっと待てよ。こいつらはなんで俺達を追いかけているんだ? 俺達を 殺す為か? もしかして……。 「ディト爺! 何でもいいから食べ物を出せ!」 そう言うと、ディト爺は俺に近寄って来た。 「儂を食べて」 「いらん!」 素早く殴ると、ディト爺は仕方なさそうに干し肉を二つ出して俺に手渡した。 「こいつをあの猫達の大群の中に放り込めば絶対にそこに群がるはずだ」 そう言いながら投げようとしたが、その手をディト爺が止めた。 「まあ待つのじゃ。そんな所に投げてしまっては他の猫達は儂等に群がるのはわか りきった事じゃ。じゃから、この肉を壁にかけるのじゃ」 壁にかける? そうか。壁にかければ中々取れないうえに全員に良く見える。だから、この肉を 食べようと必死に猫達がそこに集中するって事になるな。 だが、壁にかけると言っても何処にかけるかだが。 ふと壁に目をやると、壁には無数に杭が出ていた。 多分、この肉をかける為の物だろう。 このダンジョンを作った奴がわざと杭を打っていたのだろうな。 そんな事を考えながら壁に近寄ると、俺はその杭に干し肉を思いっきり力を込め て突き刺した。 ディト爺も同じく反対側の壁の杭に肉を突き刺す。 するとどうだろう。さっきまで俺達を追いかけていた猫達は、いっせいに肉の方 の近寄ってくる。 「何故に肉食猫なんて作ったんだろうか……」 そんな疑問を持ちながら俺は走っていた。 前方の猫達も肉を見付けたらしく、端っこを走って我先と肉に向かって走ってい る。 俺達はその空いている所をダッシュで走り抜けて行った。
第六十五話「猫のボタン」 「ようやく逃げる事が出来たな。一時はでうなる事かと思ったぜ」 俺達はあの猫の大群から逃げて、そのまま通路を走っていた。 もうそろそろこの通路から抜ける事が出来ると思うんだが……。 そんな事を考えていると、前方に壁が見えてきた。 そこは左に曲がっていて、そこを曲がると、すぐ近くに扉があった。 すぐに扉に近付いて罠がないかを調べようとしたが、その扉を見て変な物がある 事に気が付いた。 「な、何だこれは?」 扉にはボタンが二つ付いている。 多分、そのボタンを押して扉を開けるんだろうな。だが、もしかしてこのボタン はどちらか押せば開いて、間違えれば何か大変な事が起こるって物じゃねぇだろう な? だが、こんな所で迷っている場合じゃねぇ。もしかしたら後方の猫達がこっちに 向かって来ているって事も考えられるしな。 「ん? なんじゃこりゃ?」 そう言って、ディト爺はそのボタンをさり気なく押してしまった。 「何してんだよ!」 思いっきりディト爺の頭を殴ると、扉を見た。 「にゃ」 突然、扉から猫の声が聞こえて来る。 「……ディト爺、また変な事をしたな」 ディト爺を見るが、ディト爺は絶対に違うと言い張る。 「何を言っているのじゃ! 儂はそんな事はせん!」 そう言って、ディト爺は突然袋から何かを取り出した。 「儂がそんな事をするのならまずは猫スーツを着てから……」 ディト爺が袋から取り出したのは、一つの猫の形をした服だった。 ディト爺は素早くその服を着て、突然しゃがんで猫の様に顔を洗い始めた。 「にゃ〜」 「にゃ〜、じゃねぇ!」 思いっきりディト爺を殴ると、ディト爺は壁にぶつかってその場に倒れ込んでし まった。 「とっつあん、燃え付きちまったぜ」 「何を訳のわからねぇ事を言っていやがるんだ!」 俺は再びディト爺を殴ると、真剣に扉を見た。 どうやら、このボタンを押すと猫の声が聞こえるようになっているんだな。 じゃ、もう一つのボタンは何だ? そう思いながらボタンを押すと、扉からはまた猫の声が聞こえて来た。 「にゃ〜」 今度はさっきのとは少し違って、『にゃ〜』ってのばしているな。 この二つの鳴き声を使って何かをすればいいんだな。 だが、一体何をすれはいいんだ? こんな猫の鳴き声、どうやって使って扉を開 けろって言いたいんだ? 「ディト爺。この猫の鳴き声に聞き覚えはないか?」 ディト爺に聞いてみたものの、答えはわかりきった事だった。 「知らぬ」 ディト爺と俺はこのダンジョンに入って殆ど一緒に居る。つまり、ディト爺かこ のダンジョンで知った事は俺も知っているという事になる。 俺が知らない事をディト爺に聞いた所で答えは返ってくる訳がなかった。 何か聞き覚えはないか? この猫の声に。 そう自分に何度も言い聞かせるが、全くわからない。 少し考えていると、後方から何か嫌な音が聞こえて来た。 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタ……。 「やっべぇ! 猫の大群がもうこっちに向かって来ていやがる!」 俺は急いでボタンを適当に押してみた。 「にゃ、にゃ〜、にゃ、にゃ、にゃ〜」 が、全く何も起こらない。 一体どうしろって言いたいんだよ!
第六十六話「猫大群の到着」 後方から迫る猫の大群。前方には何かの仕掛けによって閉じられた扉。 この状況をいかにして切り抜けるかだが、やっぱ扉のスイッチの謎を解くしかねぇ ようだな。 「何処かで猫の鳴き声って聞いた事が無かったか?」 静かに独り言を呟いて考えているが、全く覚えていない。 絶対に何処かで猫の鳴き声を聞いているはずなんだが……。もし、そうでなけれ ば、この通路の何処かにヒントか答えがあるって事になる。 そうしたら、俺達はもう助からないと思うべきだろうな。何しろ、後方からは猫 の大群が迫って来ていやがるんだぜ!? この状況で、どうやって通路を調べろって 言うんだ? 下手すれば死んでしまうんだぜ。どうにもならないじゃねぇかよ。 だが、ここで諦める訳にはいかねぇ! 絶対にこの扉を開けてここから出てやる ぜ! 「いや、待てよ……。もしや、あの時聞いた声では……」 隣に居たディト爺は呟きながら考えている。 「ディト爺。何かわかりそうなのか?」 すると、ディト爺はにやりと笑ってみせる。 「ああ、もしかしたらわかるかもしれぬ」 そう言うと、ディト爺は再び考え出した。 とにかく、今俺に出来る事はディト爺を見守る事ぐらいだな。 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタ……。 後方からは、猫の足音がさっきよりも確実に大きくなって聞こえて来る。 もう、すぐそこまで迫って来ていやがる様だな。 「ディト爺、頼むぜ!」 その足音をディト爺も聞いている様で、少し焦りの色が見える。 尚も猫の足音が後方から響いて聞こえる。 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタ! 更に近付いている事はわかりきった事であったが、その音は更に大きくなって来 る。 それどころか、先頭を走っていたと思われる一匹の猫が曲がり角を曲がって俺達 の見える所までやって来た。 「ディト爺! 銃を!」 ディト爺は必死に考えながらも銃を懐から取り出すと、俺に手渡した。 「くらいやがれ!」 銃の上に付いているボタンを押すと、素早く引き金を引く。 それと同時に、銃から強力な何かが飛び出る! 「ふにゃ〜」 その猫に命中すると、猫は何故か鼻血を出して吹っ飛んで行った。 何とかしねぇと。すぐに次の猫が現れるはずだ。 などと考えていると、すぐに他の猫がやって来る。 「ディト爺! 早くしてくれよ!」 そう言って、銃で猫を撃つ!
第六十七話「猫の歌」 俺は銃で迫り来る猫達を撃ち続ける。銃は一回撃つごとに銃の上に付いているボ タンを押さなくてはならない。更に、一体しか当たらない為に何度も撃つ必要があ る。その為、俺は休む暇なく銃で猫達の退治をしている。銃のボタンを押しては引 き金を引いて猫を撃つ。その繰り返しだった。 「ディト爺! まだわからないのか!?」 今の俺には隣に居るディト爺の姿を見る暇すらない。その為、俺はディト爺の方 を見ずに話し掛けた。 「う〜む、それが中々思い出せぬのじゃよ。後もう少しで思い出せそうなんじゃが な……」 その言葉は俺にとって頼りないものだった。 「にゃ〜!」 突然撃ち損ねた猫が一匹、ディト爺目掛けてジャンプした。 素早く銃を構えるが、そんな余裕はない。猫はそのままディト爺へと向かって飛 びついた。 「ふにゃ〜」 だが、突然隣で猫の変な鳴き声が聞こえると、猫は早々に逃げて行った。 俺はというと、正面から迫り来る猫達の対処に追われていて、全く横を見る事が 出来ず、隣で一体何が起こっていたのかさっぱりわからなかった。 前方からは、更に二匹の猫やってくる。素早い身のこなしで迫って来る。 俺が一匹を銃で撃つと、猫は鼻血を出して宙を舞う。そしてもう一匹の猫は不幸 にもその宙を舞っている猫に激突してしまい、二匹とも床に倒れ込んでしまった。 「ディト爺、お前一体何をしたんだ?」 すると、ディト爺は前方から迫り来る一匹の猫を見付けると、その猫がディト爺 に向かって飛びついて来た刹那、ディト爺はその猫を、ぎゅ〜、と強く抱きしめて、 その猫に何度もキスをする。それは、まるで地獄の様な光景だった。猫は本当に嫌 そうな鳴き声を上げ、何度もディト爺の腕の中でもがき苦しむ。だが、ディト爺は それを全く無視するかの様に死のキスを繰り返す。そして、ディト爺が猫を離して やると、猫は一目散に逃げ出して行った。 「ディト爺。あれはいくらなんでも悲惨過ぎると思うぞ……」 だが、ディト爺は満足そうに不気味に笑う。 「にひっ」 「笑っている暇があったら早く考えろ!」 素早くディト爺を殴ると、銃のボタンを押して引き金を引き、迫り来る猫を撃つ。 「いや……、確か……、そう……そうじゃ! 思い出したわい!」 ディト爺は大きな声を上げると、早速扉のボタンを押す。俺はその間、必死になっ て猫をに近づけない様に戦っていた。 「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ〜、にゃ、にゃ、にゃ〜、にゃ、にゃ、にゃ〜」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。 突然後方から何かが動く音が聞こえてきたかと思うと、今度は扉が開く音が聞こ えてきた。 「ふむ、何とか扉が開く様になったわい」 その言葉を聞いて、俺はその場から素早く退くと、既に開いている扉へと入り、 ディト爺も居る事を確認すると素早く扉を閉じた。
第六十八話「危機は去らず」 「それにしても、ここは何処なんだ?」 俺達はあの猫の大群を避け、扉へと駆け込み助かったのだが、俺はいまいち何処 にいるのかがわからなかった。何しろ、いろんな所を歩かされていたからな。 部屋は四角く、左側の壁には扉があり、右側には何処かへと続く通路らしきもの がある。 「そういや、ディト爺は地図を書いていなかったか?」 そう言って、隣にいるディト爺を見ると、丁度地図を作成している途中だった。 邪魔をしては悪いしな、今は地図を書き終わるまでゆっくりと休んでいるか。 そう思いながら、俺は壁にもたれながらしばらく待つ事にした。 しばらくして、ディト爺は俺に一枚の紙を渡した。それは、この階の地図を書い た物だった。 「ふむ、所々歪んでいるかも知れぬが、それは勘弁してもらいたい」 そう言いながら、ディト爺はゆっくりと立ち上がる。 地図を見た所によると、俺達の現在地はどうやらこの階に来て初めに入った部屋 のようだな。つまり、俺達は鍵を取りに行かされていたって事だな。まあ、食料が あったからな、それが何よりも救いだったな。 「ふむ、先を急ぐか?」 ディト爺にしては珍しい事を言った。 確かにそうだな。こんな所で地図を眺めているより、先に進んだ方が良いよな。 「ディト爺にしては珍しいよな。先を急ごうってさ」 だが、ディト爺は本当に先を急いでいる様で、既に扉の方へと走って向かってい た。 「おいおい、何をそんなに急いでいるんだ?」 そう言うと、ディト爺は慌てた様子で俺を見た。 「何を呑気な事を言っておるのじゃ! 後方の扉が壊されそうなのじゃぞ!」 「何だって!」 その言葉を聞いて素早く後ろの扉を見ると、扉からは猫の爪が時々見え隠れして いる。しかも、扉の下の方は既にボロボロになっていて、猫の手が偶に見える。 「やべぇじゃねぇかよ!」 俺は地図をディト爺に渡すと、素早く立ち上がって走り始めた。 「確か、左側の扉がある方に行けばいいんだよな?」 ディト爺に確認すると、ディト爺はうなずいた。 俺は扉へと近付くと、その扉を素早く開けた。扉を開けると俺達は通路を走って 進む事にした。何しろ後方からは猫の大群がまた迫って来ていやがるんだからな。 こんな所でトロトロしていたら、いつかあいつらに囲まれちまうぜ。 通路を進んでいくと、右に曲がり更に右に曲がり、そして今度は左に曲がり、そ してまた扉が見えてきた。その扉を開けると、見慣れたあの一周する通路である事 を思い出した。 もう少しであの鍵のかかった扉だな。早くあそこに行かねぇと、猫の大群に追い 付かれちまうぜ。
第六十九話「何処までも危機は迫る」 俺達はあの一周する通路の扉の所まで行くと素早く扉を閉めた。 「何とかここまで辿り着いたな。あの猫達も流石にこの扉には気付かないんじゃねぇ か?」 そう、あの一周する通路の扉は滅多な事がない限り見付ける事はかなり難しい。 俺達は偶然にも、俺がディト爺の突っ込み、それによってディト爺が壁にぶつかっ て見付けたものだった。つまり、俺達でさえ偶然に見付けたものなのだからあの猫 の大群だと見付ける事の出来る確率は殆ど無いって事になる。 そう思って少し安心していると、突然扉から猫が爪で引っかく音が聞こえてきた。 「やべぇ! 奴等、もう見付けやがったのかよ! ディト爺、急ぐぞ!」 そう言うと、俺達は素早く走り出した。 後方の扉を見ると、もう猫の爪が見え始めていた。 どうやら、俺達は完全に追いつめられているな。あの猫の大群を全て倒す事なん て到底不可能だ。餌で引き付けた所で、すぐに効果が無くなっちまう。どうあがい ても奴等を止める事は出来ないって事か。下手したら、次の階まで追ってきそうだ な。 そんな事を考えながら走っていると、ようやくあの十字路に辿り着いた。 確か、ここは左に行ったらいいんだよな。 そう思いながら左側の通路へと向かうと、後方から猫の大群が迫って来ている音 が聞こえてきた。 ドタドタドタドタドタドタドタドタドタ……。 ふと後ろを見ると、何匹かの猫達が「にゃ〜」と鳴きながら迫って来ている。 完全にやべぇな。まさかここまで早いとは計算外だぜ。 前方を見ると、そこには扉があった。 助かったぜ! やっと扉に辿り着いたか! 俺は走りながらポケットから鍵を取り出すと、扉の前に来ると素早く鍵を差し込 んで回した。 ガチャリ。 「開いたぞ! ディト爺、急げ!」 俺より少し遅かったディト爺は、死にもの狂いで扉の中へと入って行く。その後 に俺も続いて扉の中に入ると、素早く扉を閉じた。 辺りを見回すと、正面は壁で左側も壁、そして、右側は長い通路となっていた。 「何とかここまで辿り着いたな。だが、油断大敵。何処に罠が仕掛けているかわか ねぇしな。気を付けて進むぞ」 ディト爺にそう言い聞かせると、俺達は長い通路を進み始めた。 しばらく通路を進んで行くと、後方から何かが扉を引っかく音が聞こえて来た。 と、その音がすぐに聞こえなくなってしまったかと思うと「にゃ〜ん」と猫の鳴 き声が通路に響いて聞こえた。 どうやら、もう通路に侵入した様だな。急いでこの通路から脱出するしかねぇな! 俺達はまたもや走り出した。 それと同時に、突然、床が、通路が揺れ始めた。 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。 何気なく上を見上げると、何と天井が少しづつではあるが、迫って来ているじゃ ねぇかよ! これは、どう考えてもやべぇな。とにかく、今は走るだけだ! 俺達は後方から迫る猫の大群と上から迫り来る天井の二つに狙われる事となって しまった。
第七十話「恐怖」 前方はまだまだ長く通路があるだけ。後方は猫の大群が追いかけて来る。上方か ら天井が迫り来る。これは、どう考えてもピンチというものだ。 それでも俺達は走る事しか出来ない。立ち止まる事は絶対に許されない。立ち止 まれば確実に死が待っているだろうな。 今の俺は早くここから出たかった。いくらなんでも辛過ぎるからだ。食料もあれ だけで十分に足りるっていう保証は何処にもない訳だし。それに、このダンジョン に出口があるとは限らない。罠ばかりで、結局出口無しって事も考えられるしな。 しばらく走っていると、前方に少し階段らしきものが見えてきた。 「どうにか出る事が出来そうだな」 そう言って走っていると、後方の猫の大群が急にスピードアップして追いかけて 来た。更に、上方の天井が落ちて来る速度もスピードアップしていやがる。 どうやら、俺達をここから逃がしたくねぇようだな。 「でもよ、こんな所で死ぬ訳にはいかねぇんだよ!」 俺はディト爺の背中を押しながら一気に走り出す。 天井にも、そして、猫達にも絶対に殺されはしねぇ。絶対にここから出る! そう思いながら走っていると、後方の猫達がもう追い付いて来やがった。更に、 天井もすぐそこまで迫って来ていやがった。 「このままじゃ駄目だ! ディト爺は、その異常なスピードで走れる靴をはいてこ のまま走り抜けてくれ。それと、その前に銃を貸してくれ。俺は何とかこいつらを 倒しながら先を進む」 自分でも危険だとはわかっていた。だが、ディト爺という重荷を背負ったままこ こを切り抜ける事は難しいと判断したからだ。 俺の判断を正しいと理解したのか、ディト爺は袋から靴を取り出すと、まず銃を 俺に渡した。そして、ディト爺は、何とその場にしゃがみ込んで靴をはきだした。 俺は急に立ち止まる訳にもいかず、結局俺一人で走り続けた。 ディト爺の行為が危険だと判断し、俺はすぐさま銃を構えて猫達を狙う。だが、 走りながら照準を合わせるのは難しく、下手したらディト爺に当たってしまう可能 性もあった。 やべぇな。ディト爺の奴、猫に殺されるつもりか!? そう思ってディト爺を見ると、何と、猫達がディト爺を避けて進んで来るじゃねぇ か! 一体どういう事だと考えると、さっき、ディト爺が猫に対して恐ろしい行為をし た事を思い出した。つまり、その行為によって猫達はディト爺に対して恐ろしいと いう恐怖を覚えた訳だな。それで、ディト爺に対しては全く近付こうとしていない 訳だ。 そう解釈していると、ディト爺に一匹の猫が偶々当たってしまい、その猫は恐怖 のあまり、その場に硬直して立ち止まってしまった。 「ふふふ、そんなに儂の事が好きなのか」 ディト爺は猫に対して不気味な事を言うと、突然その猫を抱きしめてキスの連続 攻撃に出た。 「にゃ〜〜〜〜〜〜〜!」 猫の断末魔の悲鳴が辺りに響く。 その悲鳴を聞いた猫達は、全員その場に立ちすくんでしまった。 幾度となく繰り返されるキスの嵐。それは、猫達にとって、恐怖としか言いよう のないものだったのだろう。 ディト爺がその猫を解放してやると、その猫はその場に倒れ込んでしまった。そ れを見た猫達は、一斉に逃げ出して行った。 我先にと通路から走って出て行く猫達の中には、未だにその場に硬直して動かな い猫もいた。 「はて? そんなに儂の事が好きなのかな?」 そう言うと、ディト爺は靴をはいて一気に通路を走りぬけて行った。しばらくす ると、通路の先の方で、ドシーン! という派手に壁にぶつかる音が聞こえて来た。 どうやら無事に行った様だな。俺も行くか。 俺は急いでこの通路を走り抜けて行った。
1998年7月13日(月)11時25分24秒〜7月18日(土)18時33分13秒投稿の、帝王さんの小説第六十一話〜第七十話です。なんでこんなにネコが出てくるんだろう(笑)