第二十一話〜第三十話

第二十一話「レイスと共に…」
  くそ、俺がもう少し早く逃げ道を見付けていれば、ディト爺は今頃助かっていた
はずなのによ。
  俺は、天井の穴を上った所に部屋を発見し、そこで横になっていた。
  何しろ、疲れが溜まっている今は、とにかく疲れを癒す事が一番良いのだ。下手
に動いて、又罠の連続とかあったら、まともに走る事が出来るかわかんねぇからな。
  横になりながらディト爺の事を考えていると、次第に眠たくなってきた。
  この部屋は罠が無い事が判明している。何しろ、入ってすぐに調べたからな。
  もう、疲れたぜ……。
  俺は、いつしか眠っていた……。

「起きな……」
  何処からか、俺を呼ぶ声が聞えて来た。
  もしかしたら、ディト爺かも?  それとも、俺は長い夢でも見ていたのか?
  俺は少し期待して、まぶたを開いた。
  そして、そこにいたのは……。
「レ、レイスだー!」
  驚きのあまり、壁に頭をぶつけてしまった。
「いってぇ……」
  て、それどころじゃねぇ!  レイスが目の前にいるじゃねぇかよ!
  もしかして、さっき見た奴か?
  俺は急いで扉を開けた。
「逃げるな……」
  へっ?  俺に用でもあんのかよ?  嘘だろ?
  俺は扉を開けて出ようとしていた。
  すると、何処からか何かが落ちてくる音がした。
「あ、あれは!」
  上を見た俺は、大きなタライが降ってくるのが見えた。
  ゴンッ、タイラが見事にヒットした。
「な、何故タライが……」
  あまりの痛さに頭を押さえると、素早くレイスを見た。
「な、なんだよ?」
  レイスは、ゆっくりと近付いてくる。しかも、カマを持って構えているじゃねぇ
かよ。もう、駄目だな……。
  素早くしゃがんだその刹那、レイスがカマで何かを斬った。
  俺じゃねぇよな、体も痛くもねぇし、意識もある。
  て事は、あいつ、何を斬ったんだ?
  周りを見てみると、五つの爆弾が真っ二つにされて床に転がっていた。
  もし、レイスがこの爆弾を斬らなかったら、俺はまず死んでいたな。
  だが、どの道、死ぬのは一緒かもしんねぇな。
  何しろレイスだぜ!?  勝てるわけがねぇ。
  とにかく、今出来る事は逃げるぐらいだ!
  俺は、一気にダッシュして、部屋の中へと入って行った。
「待てと言うのが聞えないのか?」
  そのレイスの声を聞いて、一瞬止まってしまった。
  やべぇ、何で止まってんだよ。
  だが、それに隙にレイスは俺の目の前まで来ていた。
  くそ、逃げられねぇって事かよ……。
「逃げるな……。ただし、俺についてこい……」
  そのレイスは、俺を殺す気はねぇ様だな。
  だが、逃げ様としたら、まず殺されるな……。
  俺は素直に従う事にした。
  何しろレイス俺を殺さねぇって事は良い事だしな。ここで死ぬわけにはいかねぇ
し。今はこいつの言う通りについて行ってやるか……。
  レイスの後ろをついて行くと、突然何かにぶつかった。
「いてて……。ん?  何だよ、これ」
  そう、俺の目の前には見えない壁があったのだ。レイスは簡単に素通りしている
のによ。まったく、不公平だぜ。
「どうした……」
  先に進んでいたレイスが、後ろを振り返って俺を見た。
「ったくよ……。壁だよ、壁!  見えねぇ壁!」
「……先に行っているぞ……」
  けっ、ふざけたヤローだ。
  俺は、見えない壁に手をつけて、先に進む事にした。
  まだまだ先は長いな……。

第二十二話「ガラスの部屋」
  前にあるのは目には見えない壁だ。いや、ガラスだな……。
  それにしてもよ、このガラスの壁、普通は床を見ればわかるんだが、暗くてよく
見えねぇんだよな。これじゃ、ぜってーにぶつかるな。まあ、仕方ねぇか。
  俺はガラスの壁に手つけて歩いて行った。
  こういう罠は、たいがい遠回りに行くのが常識ってもんだ。だが、ここでは違う
可能性はある。何しろ、今までがトラップだらけだったな。
  部屋を見回すと、ここには何も無い事がわかった。
  ぜってーにこの部屋には床に罠がある。今までがそうだった様に、油断させてお
いて、罠があるって事が普通だったからな。
  右手を見えない壁に手をつけて進んで行くと、見えない壁に頭をぶつけてしまっ
た。
「いてて……」
  見えない壁を手で触って調べた。
  すると、下の方に高さの低い通り道がある様だな。
  どうやら、匍匐前進しかねぇ様だな。
  しかし、この姿を見た奴はどう思うだろうな。無茶苦茶馬鹿に見えるだろうな。
「お前は馬鹿か?」
  声の主は、あのレイスのヤローだ。
  レイスはあきれた様に俺を見ていた。
「うっせーな!  俺は見えない壁と戦っているんだよ!」
「……早くしろよ……」
  レイスは、冷たい一言を言うと部屋の奥にある階段へと行った。
  くそっ、こっちの苦労も考えろよな!
  俺は匍匐前進で床をしばらく進んで、上の方に手を上げた。
  すると、さっきまであった壁は無くなっていた。
  ゆっくりと立ち上がると、辺りに壁があるか調べた。
  どうやら、狭い通路だって事がわかった。右は壁で、左も壁だ。後ろはさっきの
低い通路で、前が狭く続く通路がある。
  今いる所から、前方には階段がある。だが、少し距離があるな。多分、そこに行
くまで遠回りしなければいけねぇんだろうな。
  俺はガラスの壁に手をつけてゆっくりと、そして慎重に進んで行った。
  しかし、見えないってのは辛いな……。一瞬でも見えたら楽なんだがな……。
  そんな事を考えながら進んでいると、また、あのレイスが階段からやって来た。
「まだそこにいたのか……。早くしろと言ったはずだぞ……」
「うっせーな!  だぁら、目には見えない壁があって進みたくても中々進めないん
だよ!」
  レイスは、俺をちらりと見た。
「破壊しろ……」
「出来たらやっているさ!」
  そう言うと、レイスはカマを持って身構えた。
「……ふせてろ……」
  レイスがそう言ったので仕方なくふせた。
  すると、ガシャーン!、とガラスが割れる音がした。
  立ち上がって辺りを見回すと、ガラスの破片が床に多く落ちていた。
「そんな事が出来るんだったら初めからそうしろよな!」
「早く来い……」
  レイスは俺を全く無視して先に進み出した。
  あのレイス、ふざけたヤローだぜ。しかし、何で俺に用があるんだ?  しかも、
ついて来いとはな……。どう考えても変だな。普通、殺すはずだぜ。何かわけでも
あるんだろうな。
  俺はガラスの破片を踏みながら階段へと向かった。

  階段を上ると通路に出た。
  真っ直ぐ進むと左方向への曲がり道となっていた。
  そこを更に進んで行くと、一つの扉があった。
「この奥だ……」
「おい、この扉に罠はねぇだろうな?」
「知らないな……」
  無愛想なヤローだぜ。
  俺は扉を調べて、罠が無いか見た。
  どうやら罠はねぇ様だな。
  扉を開けると、部屋の中に入った。
  辺りを見回して見ると、部屋の左隅の方に何かが床にあった。正面には扉がある
な。
「その扉は開かない……」
「そうか。で、開ける為には?」
  レイスは部屋の左隅の床を指差した。
  近寄ってその床を調べた。
  どうやら鍵穴が四つあるな。その真ん中に色の違う床があるな。鍵穴はその床を
囲むようにそれぞれ、東西南北に一つづつあった。
  メレンゲが、鍵を残しとけって書いてたのは、この時の為に必要だったからか?
まあ、どっちみち鍵はずっと持っていたがな。
「さてと、早く鍵を入れてあの扉でも開けっか!」

第二十三話「四つの鍵穴」
  床に空いた鍵穴を見て、俺はポケットから鍵を取り出した。
「まずは鍵を適当に入れてみっか」
  適当に四つの鍵を選び、その鍵をそれぞれの穴に入れてみた。
  だが、何も起こらなかった。
  んじゃ、この床の色の違う所を踏むって事か。
  その床は、縦、横それぞれ三十センチの正方形だ。
  俺は躊躇わずその床を踏んだ。すると突然、ガタン、と揺れやがった。
  まさかと思って天井を見ると、やっぱり天井が少しだけではあるが下がって来て
いた。
  どうやら、間違えると天井が下がる様になっているな。こりゃぁ辛いな。多くの
失敗は死だな。
  鍵を穴から抜くと、鍵を確りと見た。
  一つ一つ少し形が違うな。
  今度は床の鍵穴を覗いて見た。だが、暗くて見えねぇ。
  これはあくまでも感だが、鍵以外の物をここに入れると天井が一気に落ちてくる
可能性があるかもな。何しろこのダンジョンだからな。有り得るな……。
  しかし、何か明かりがあれば鍵穴の形が少しでもわかるかもしんねぇのにな。
  でもよ、ここの鍵が開いたとしてだ、あの扉が開いたとしたらその奥には一体何
があるんだ?  宝か?  それとも、まだ通路が続いているだけって事はねぇだろー
な。もし、そうだとしたら一体何処まで俺についてこいって言うんだ?
  疑問を抱きつつ、再び適当に鍵を入れてみた。
  だが、またもや失敗だった。
  しかも、さっきより天井が更に迫って来やがった。
  めげずに鍵を入れようとした。
「おい、早くしろ……」
「うっせーな!  俺だって早くしてーんだよ!」
  待てよ、確かあのレイスはカマでガラスの壁を簡単に破壊したよな。だったら、
この扉も破壊できんじゃねぇだろーな。
「おい、あの扉も破壊出来んじゃ?」
「出来たら貴様など呼んではいない……」
  役に立たねぇヤローだな。仕方ねぇ、感に頼るしかねぇな。
  また適当に鍵を入れると、再び床を踏んでみた。
  すると、今度は北側の鍵が光り出した。
  だが、天井はまた動き出して更に近付いて来た。
  鍵が光ったって事はだ、正解って事かな。まあ、そう考える方が妥当だな。
「とうとう動き出したな……」
「あ?」
  レイスがポツリと呟いたその言葉を耳にして、上を見上げると天井がゆっくりと
動き出しているのがわかった。
  もう、失敗しても変わんねぇって事だな。
「早くしろ……」
  まったくよ、見ているだけの奴は気楽で良いぜ。
  素早く鍵を入れてみるが、結局全て違った。
  後三つも入れなければなんねぇな。果たして間に合うのかよ。時間がねーな。
  俺は急いで次の鍵を入れてみたが、結局一つも合わなかった。
「くそっ!  早くしねーと!」
  急いで鍵を入れてみるが、これまた外れだった。
  上を見てみると、天井は約3m程の高さまで来ていた。
  時間がねぇ!
  また鍵を適当に入れてみた。
  すると、西側の鍵が光った。
  後二つ!
「天井の速度が速くなってきたぞ……」
  その言葉を聞いて天井を見ると、確かに速くなっているのがわかった。
  早くしねぇとな。死んじまうぜ!
  素早く鍵を入れてみるが、中々合わねぇ。
  このダンジョンに来てから、全くついてねぇんだよな。これじゃぁ、クレイじゃ
ねぇかよ!
  何とかなんねーのかよ!  早くここから出てぇんだよー!

第二十四話「時間との戦い」
  床の鍵穴に適当に鍵を入れていたんだが、まだ二つしか合っていねぇしよ。しか
も、天井が下がって来る速度が速くなってきやがった。
  素早く鍵を入れては床を踏む、それを何度も繰り返していた。
  一体何回しただろうか、やっとの事で東側の鍵が光り出した。
「もう時間がないぞ……」
  その言葉を聞いて上を見上げると、天井は俺が立って丁度当たるか当たらないか
ぐらいまでに迫って来ていた。
「くそっ、何とかなんねーのかよ!」
  天井を見上げてそう叫ぶと、また鍵を入れ様とした。
「速度が更に速くなってきたぞ……」
  またかよ!  もう時間が少ねぇ!  早くしねーと!
  上を見る事無く鍵を入れて床を踏むが中々合わねぇ。
  だが、天井の速度は俺が考えていたよりも更に速いものだった。
  しゃがんで鍵を入れていた俺の背中に天井が当たりやがった。
  くそっ、完全に追いつめられたな。
  床に寝転がって鍵穴に鍵を適当に入れて色の違う床を手で押すが、これも外れの
様だった。
  更に天井が迫って来ていて、手を上に挙げると天井に手が付く状態だ。
  また他の鍵を入れて床を押すがこれも外れだ。
  それにしても、あのレイスのヤロー、何処に行きやがったんだ?  もしかして、
逃げたんじゃねーだろーな!  もしそうだとしたら、ぜってーに許さねぇ。あ、で
も相手はレイスだから逆に殺られてちまうな。ま、それはいいとしてだ。
  また鍵を穴に入れて床を押すが何も起こらねぇ。
  天井はもう俺の背中に少しだけではあるが当たっていやがる。
  もう、チャンス少ないな。これが最後の賭けだ!
  俺は適当に鍵を入れて床を押した。
  すると、最後の南側の鍵が光った。
「やった!」
  だが、天井は止まらなかった。
  嘘だろ!  何が足んねーんだ!?
  まさか……。
  俺は北側の鍵を回してみた。
  すると、ガチャッ、と音がした。
  くそ、そういう事だったのかよ!  もっと早く気付くべきだったぜ。急いでいて
鍵を回すのを忘れていたとは!
  俺は急いで他の鍵も回す事にした。
  次は東側だ!
  背中を天井が押しているが、何とか東側の鍵を回した。
  んでもって、次はに西側だ!
  手を伸ばして西側の鍵を回した。
  最後は南側だな。
  だが、天井が背中を強く押して、息が出来ない状態になりそうになってきた。
  もう、長くは持たない……。早くしねぇと……。
  手を伸ばして南側の鍵を回そうとしたが、ギリギリの所で届かねぇ。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
  天井が俺の体を強く締め付けた。
  もうすぐしたら、天井が俺の体を完全潰れちまうな……。
  体が締め付けられ、もう息が出来ねぇ。
  一瞬、メレンゲの顔が思い浮かんだ。
  あいつのせいで、こんな目にあっちまうとはな。ここで死ぬのかよ……。
  俺はお守りを届ける事無く死ぬのかよ……。
  だが、あのメレンゲをボコボコにするまでは、死んでも死にきれねぇ!
「メレンゲェェェェ!!」
  最後の力を振り絞って、思いっきり手を伸ばした。
  届いた!
  鍵を回し、何とか床を押した刹那、天井が動かなくなった。
  そして、天井がゆっくりと上がっていった。
「た、助かった……」
  何とか助かったぜ……。
  しかし、メレンゲへの恨みに救われるとはな……。

第二十五話「再会」
  天井が上に上がっていくな……。俺は助かったんだよな……。
「おい、早く行くぞ……」
  聞き覚えのあるレイスの声が聞えて来た。
  レイスはいつの間にか俺の隣にいやがった。
  そういやぁ、こいつ、俺が死と隣り合わせの状況だったって言うのによ、助ける
所か、何処かに行きやがったんだよな。
「おめぇ、今まで何処に行ってたんだ!」
「お前の知った事ではない……」
「なんだと!」
  俺は相手がレイスという事を忘れて殴り掛かろうとしたが、レイスのヤローは扉
の方を見て、完全に無視している様だ。
「それより、早く行くぞ……」
「ちょっと待てよ!」
  俺は先に扉に行こうとするレイスに向かって叫んだ。
「その先に何があるんだよ?  それに、俺に何の用があんだよ?」
  レイスは、全く俺を無視するかの様に扉の前に行った。
  あのヤロー、ほんとにふざけていやがるぜ。大体、レイスが俺に何の用があるん
だよ。何か恨まれる様な事でもしたのかよ……。
  まてよ、レイスが恨むって事はだ、仲間が殺られたからじゃぁねぇのか?  そう
したらだ、俺は殺されるって事だよな。
「さっき言っていたな、自分に何の用があるのかと……」
  レイスは扉の前で止まり、俺を見た。
「ああ、言ったぜ」
  俺はゆっくりとレイスのいる扉の前まで歩いて行った。
  俺がレイスの目の前まで来ると、レイスは口を開いた。
「お前に会いたがっている者がいる……」
  そう言うと、扉をすり抜けて中へと入って行った。
  俺に会いたがっている奴だって?  もしかして、あいつじゃぁ!
  俺は急いで扉を開けると、部屋の中へと入って行った。
「ディト爺!  いるのか!?」
  俺が大声を出すと、部屋の隅で何かに向かってぶつぶつと言っている奴が振り向
いた。
  そいつは間違い無くディト爺だったのだ。
「ディト爺!」
  ダッシュでそこまで行くと、俺はある物を見た。
  俺の絵が飾られていて、その前には線香と蝋燭が立ててあった。
「勝手に殺すなー!」
  思いっきりディト爺の頭を殴った。
「おお、生きていたか!」
  ディト爺はとても嬉しそうに俺を見た。
「あったりめーよ!  俺が簡単にくたばるとでも思ったか?」
「思うわけがないじゃろうが!」
「で、どういう事なんだ?」
  俺が聞こうとしたら、ディト爺は俺の絵や線香、蝋燭を片づけていた。
「……生きていたか……面白く無いわい……」
「聞えてんだよー!」
  思いっきりディト爺の頭を殴ると、改めて聞く事にした。
「んで、何でディト爺がここにいるんだ?  それによ、あのレイスは一体何者なん
だよ?  最後に、どうして途中でいなくなったんだ?」
「まあ、いっぺんに言うでない。ゆっくりと話そうではないか……」
  ディト爺は袋からお茶を取り出すと、俺にくれた。
「まずは、何故途中でいなくなったかじゃが……」
  そう言うと、ディト爺は俺の方を見た。いや、正確に言えば俺の後ろの方だな。
「出て来るのじゃ」
  ディト爺は誰かに向かって言った。
  俺は後ろを振り向くと、思わず吃驚した。
  何故なら、そこには六匹ものレイスがいたからだ。
「こ、こいつらは?」
「こ奴等はじゃな、見ての通りレイスじゃ。知っているじゃろうが、レイスは死ぬ
事が出来ないのじゃ。寿命というものがないのじゃよ。かわいそうに、永遠とも言
える時を生きていかなくてはいけないのじゃぞ」
  確かにそうだったな。
  いつか、誰かが言ってたっけな。死なない死体ではなくて死ねない死体だって。
こいつらも同じなんだろうな。
「儂は、あの崩れる階段の中、こ奴等に死を迎えさしてやると約束したのじゃ。す
ると、こ奴等が出口を教えてくれて、しかも案内してくれたのじゃ。じゃが、その
出口に入ってすぐにお主の事を思い出して、引き返そうとしたのじゃ。じゃが、既
に崩れさっていて、例えお主を呼んでも、そこには来る事が出来なかったのじゃ。
儂は諦めて出口を進んでいったのじゃ」
  ディト爺は、更に話を続けた……。

第二十六話「謎のメッセージ」
  ディト爺は更に話しを続けた。
「儂は通路の奥へ奥へと進んで行くと、ある小部屋に出たのじゃ。そこから、レイ
ス達は上へに続く階段を案内してくれて、ここにたどり着いたのじゃ。じゃが、結
局は出口となる扉は完全に閉まっていて、儂の剣技もレイス達のカマも通用しな
かったのじゃ」
  俺は扉の方を見た。
  その扉にはいくつもの傷痕ががあったが、傷付いているだけで特に壊れている様
子も見られなかった。
「んで、こいつらは?」
  俺はレイス達を見ながら言った。
「こ奴等はさっきも言った通り、儂をここまでつれて来てくれた奴等じゃ。何らか
の恨みがあってここにいたのじゃろうが、今は疲れきっているわい。もう、ここに
いるのはうんざりじゃとよ。じゃから、この後、こ奴等を死に導いてやろうと思っ
ているのじゃ」
「ちょっと待てよ」
「なんじゃ?」
「頼むからその隣にある俺の棺を片付けてくれよ」
  そう、ディト爺の隣には俺の棺が置いてあったのだ。
  もちろん、棺にはちゃんと『トラップ』と刻まれている。
「ん?  気に入らんか?」
「当たり前だ!」
  全く、何故俺の棺まであるんだよ。
  だが、その隣にはもう一つの棺があった。それには、『ディトちゃん』と刻まれ
ていた。
「自分の名前ぐらい、ちゃんと書けー!」
  思いっきりディト爺の頭を殴ると、再び突っ込んだ。
「自分の棺まで用意するなー!」
「そ、それは伝説の奥義、二回突っ込みー!」
  再びディト爺の頭を思いっきり殴ると、今度は真面目に話しを進める事にした。
「んでよ、その後はどうするんだよ?  ここには、あの階段に続く道しか無いんだ
ろ?」
  俺がレイスに向かって喋ると、一匹が近寄って来た。
「そうだ……。俺達はこの階からはあまり動かなかったからな……。これ以上、上
の階への道は知らない……」
  こいつは、俺を連れて来たヤローだな。この声には聞き覚えがあるからな。
「んじゃ、どうしろって言うんだ?  上に行く為のヒントとかは無いのか?」
  俺がレイスに向かって喋ると、横にいたディト爺が、ゴソゴソと自分の懐を探り
出した。
「それじゃがな……」
  多分、何かヒントが書かれた紙であった様だな。 
  だが、ディト爺は中々それが見つからない様だ。
「変じゃな……。確かここにあったはずなんじゃが……」
  中々見つからない様で、何度も「あれ?」と声を上げていた。
  しばらくして、俺を見た。
「ふむ、もしかしたら……」
「ん?  何だよ?」
  突然ディト爺が俺の懐に手を突っ込んだのだ。
  俺はあまりにも理解不能な事に、一瞬混乱した。
「お、おい。何するんだよ!」
  ディト爺はまだゴソゴソと俺の懐を探っていたが、しばらくして、ピタリと止
まった。
「ん?  あったわい!」
  ディト爺は俺の懐から一枚の紙を取り出した。
  おいおい、何でこんな所にあんだよ……。第一、俺が持っているわけねーだろ。
「何で俺の懐から出てくるんだよー!」
  ディト爺の頭を思いっきり殴ると、ディト爺と共に紙を見た。
「何々、『アコネローが導くであろう』じゃと」
「アコネロー?  何だそりゃ?」
  俺は紙をポケットに入れた。
「ふむ、儂はこ奴等に死を迎えさせてやるわい。お主は先に行っているのじゃ」
「何言ってんだよ!  誰がディト爺を置いて行くかよ。終わるまで待ってやるよ」
「……すまぬな」
  ディト爺は俺を見て言った。
  しかし、まだまだこれからが辛いんだろうな。
  ディト爺と再会はしたが、このダンジョンはまだ続くんだろうな……。

第二十七話「レイスに安らぎを…」
  ディト爺はレイス達を一列に並ばせ、ゆっくりと目を閉じた。
「今からお主達に安らぎを与える。最後に言い残す言葉ないか?」
  するとレイス達の中から一匹だけ喋った。
「別にお前達がどうなろうと俺には関係無いが、一言だけ言っておく……」
  そのレイスは、俺をここまで連れて来た奴だった。
「頑張れよ……。そして、長生きしろよ……」
  あいつ、結構良いとこあんじゃねーかよ。
「それでは、目を閉じるのじゃ。何、痛くは無いわい。安心して自分の安らぎを祈
るのじゃ……」
  レイス達が目を閉じると、ディト爺は杖を強く握った。
「斗菟剣技・聖陣!」
  ディト爺が神速とも言える速さで杖を二つにわけて、杖の中にある隠し刃で何か
を斬った刹那、眩い光がレイス達を包み込んだ。
「邪なる者達に安らぎを!」
  すると、レイス達の姿は消えていった。
  ディト爺は杖を袋に入れると、俺を見た。
「行くか?」
「あったりめーよ!」
  ディト爺はにやりとすると、二枚の紙をポケットから出して俺に見せた。
「新婚旅行の為にとって置いた飛行船のチケットじゃよ。早く行こうかの……」
「関係ねーだろー!」
  ディト爺の頭を思いっきり殴り、二枚のチケットをビリビリと破って捨てた。
「もう、シャイなんじゃから……」
「それも関係ねーだろーが!」
  更に突っ込みを入れると、ディト爺は思いっきり吹っ飛んで五メートル先の壁に
激突した。
「そんな激しい貴方が好き……」
  追い討ちをかけるように走って行って鳶膝蹴りで頭を蹴った。
「今度こそ行くぞ!」
  俺がディト爺に向かって言うと、先に歩き出す事にした。
  まずはこの部屋から出る事が先だな。そこからまたあの初めに来た部屋に戻るし
かないな。
  俺は扉を開けて部屋から出ると、先に進もうとした。
「呼ばれず飛び出てじゃじゃじゃ〜ん!」
  何と扉を開けるとそこにディト爺がそこにいやがった。
「先回りしてんじゃねー!」
  再びディト爺を殴った。
「それより、さっき殴った時、なんであんなに吹っ飛んだんだ?」
  俺が聞くと、ディト爺は袋から何かを取り出して、俺に見せた。
  それは、何処かで見た事があるような靴だった。
「これはじゃな、思いっきり飛べる靴じゃよ。お主と会った時に同じ様な物見せた
じゃろ?  これをはいてこそ、ギャグと突っ込みが更に面白くなるのじゃよ。じゃ
がな、飛び過ぎて絶対に何処かにぶつかるのじゃよ」
「意味ねーもん作ってんじゃねーよ!」
  再び殴ると、今度こそ先に進む事にした。
  部屋の中にある扉を見付けると、開けて通路を進んで行った。
  しばらく進むと右折れになっていて、そこを曲がって更に進むと階段があった。
  確かここの下の部屋があのガラス壁があった部屋だったんだよな。でも、今はガ
ラスの壁はあのレイスによってある程度壊されたからな。今度は楽に進めるな。

第二十八話「猫の像」
「な、何だよこれは!?」
  俺達が居るのは地下五階のガラスの壁のがあった部屋だ。
  そこで俺達が見た物は、ガラスの壁が完全に無くなっていた変わりに、床にいっ
ぱい猫の像が置かれていた。
  床に敷き詰められているとまではいかないが、所々隙間があるだけでとても進み
にくい状況だった。
  それにしてもよ、こんな物、何処から出て来やがったんだ?  第一、ガラスの壁
が完全に無くなっているってのも怪しいな。何かこの猫の像には罠が仕掛けている
はずだ。慎重に進まねぇとな。
  特にディト爺に注意しねぇと、また変なボケでもしたらやばいな。俺は突っ込み
を入れてしまう体になっちまってるからな。
「ディト爺、変な事は言うなよ。もちろん、変な事もするな。慎重に猫の像に触れ
ない様に進んだぞ」
  ディト爺に注意をすると、今は真面目な表情をしていた。
「わかっておる。多分、触れると爆発する可能性があるわい。気を付けねば」
  助かったぜ。今はディト真面目な様だし、当分は大丈夫だうろな。
  だが、何とかしてこの部屋から出ねぇとな。
  まずは足元を見た。
  暗いながらも何かの破片が見えた。
  これはガラスの破片だな。あの時、破壊されたガラスだろうな。
  俺は慎重に猫の像を避けて通る為、周りを見まわした。
  何とか通れそうな隙間が空いている所を見付けて出口までの道順を調べてみる事
にした。
「ディト爺、しばらく待っていてくれ。今、道順を調べてっからよ」
「わかった。じゃが、早くするのじゃぞ。遅くなれば危険は増すはずじゃ」
  俺は何とか進めそうな距離とある程度の隙間を見付けると、更にその近くにある
程度の距離、そして隙間があるかを見付ける。
  そして、何分経っただろうか?  必死に出口までの道順を調べていると、突然、
ディト爺が声を上げた。
「罠が発動した様じゃな」
  罠だって!?
  俺はずっと床を見ていた顔を上げると、辺りを見回した。
  だが、特に変わった所は見られなかった。
「何言ってんだよ。罠なんて発動してもいねぇじゃねーかよ!」
  ディト爺にそう言うと、ディト爺は壁の方を指差した。
「壁を見るのじゃ」
  その言葉を聞いて素早く壁を見た。
  すると、壁には沢山の穴が空いていた。
  さっきまではあんな穴は無かったな。
「壁に穴か……。となると、矢が飛んで来るな。気を付けろよディト爺」
  また床の方を見て、猫の像を見た。
  もうすぐで道順がわかるな。後もう少しだ。
「時間が無いわい。もう行くしかない様じゃな」
「お、おい。まだ完全にはわかって無いんだぜ!?」
「早くするのじゃ!」
  ディト爺があまりにも急いでいる様だったので、俺は仕方なく今わかっている所
を進む事にした。
  俺達が少し進んだその刹那、ディト爺がそう言ったのは正解だという事が判明し
た。
  ドゴーン!
  俺達がさっきまで居た所の近くにあった猫の像目掛けて数本の矢が飛んで行き、
矢が像に触れたと同時に爆発しやがった。
  多分、猫の像の方が爆発しやがったな。
「どうやら、あまり長居はしねぇ方がいいみたいだな」
「その通りじゃな……」
  さっきまで居た所を見て俺達は呟いた。
「そうとわかれば早速行くか!」
  足元を良く見て猫の像に触れない様に次の床の隙間に足を運ぶ。
  ディト爺も続いて進み出した。
  どうやら何とかなりそうだな。
  俺はまだ少し遠い所にある扉を見て思った。
  だが、世の中そんなに甘くはなかった。
  ドゴーーン!
  突然、俺の後ろの方で爆発音がしやがった。あまりにも近かった為か、猫の像の
破片が飛んで来て顔に少し当たった。
  その破片が偶々近くにあった猫の像に当たり、また爆発しやがった。
  近くで爆発したので、爆発の衝撃を防ごうと体を出来るだけ前にそらしたが、今
度は後ろで爆発があり、とうとう体勢を崩してしまった。
  やべぇ!  このまま倒れたら、像に当たって爆死しちまう!
  何とか体勢を元に戻そうとするが、倒れかけの今は体勢を戻す事すら出来なかっ
た。
  もう、死ぬのかよ。
  そう思った刹那、猫の像が目の前まで来た所で突然止まったのだった。
  まるで、時間が止まった様な感じだった。その時ばかりは呼吸すら出来なかった。
何しろ、目の前には触れれば爆発する猫の像があるのだから。下手に動いたら死ぬ
のは当たり前の事だ。
「危ない所じゃったな」
  そう、ディト爺が寸前の所で俺の体を捕まえたのだ。
「ディト爺、ゆっくり元に戻してくれよ……」
  何とか体勢を整えた俺は、再びこの部屋を出る為に進むべく、道を確認する事に
した。
  それにしても、ここを無事に出る事が出来るかはちょっと不安だな。

第二十九話「ディト爺は…」
  床の猫の像を確りと見ながら、先を進む事にした。
  まずは何とか猫の像を避けて通らなければなんねぇな。
「ディト爺、気を付けろよ。絶対に猫の像に触れるなよ!」
  そう言いながら後ろを振り返ると、ディト爺はじっとこっちを見ていた。
「暗い部屋でたった二人だけで……。爺チャン恥ずかしい!」
  そう言うと、ディト爺は顔を赤らめて後ろを向いた。
「恥ずかしがるなー!」
  思いっきり殴ると、気を取り直して先に進む事にした。
  まずは、近くにある隙間を足場に通るか。
  俺は近くの床の隙間を見付けると、そこを足場に進んで行った。
  ディト爺も何とかついて来ている様だな。
  床の猫の像を見て床の隙間を見付けようとした。
  その刹那、後ろの方で大きな爆発が起きた。
「ぬおー!」
  ディト爺の声だ!
  素早く後ろを振り返ると、ディト爺が何処にもいない事に気が付いた。
  嘘だろ!?  とーさっき声が聞えて来たじゃねーかよ。絶対に後ろにいるはずな
のによ。
「ディトじい―――――!」
  だが、返事は返って来る事はなかった。
  くそっ!  何処に行ったんだよ!
  その時、足が猫の像に少し触れてしまった。
  再び爆発が起る前に素早くジャンプした刹那、大きな爆発が起きた。
「熱ちぃー!」
  足が一瞬、炎に巻き込まれた様だ。
  だが素早くジャンプしていた為、炎で焼かれる事は無かった。
  助かったぜ。
  だが、着地しに成功したものの、ディト爺は何処にもいない。
「ディト爺……。何処に行っちまったんだよ」
  辺りを見回すが、何処にも人影は無かった。
  もう、探すだけ無駄か……。先に進むしかねぇ様だな。
「ここじゃ〜……」
  え?  今何処かで声が聞えて来た様な……。
「助けてくれ〜……」
  確かに何処から聞えて来ているな。だが、何処から聞えて来ているんだ?
「上じゃ〜!」
  上だって!?
  俺は素早く上を見上げると、天井を見た。
  すると、天井にディト爺が貼り付いているのが見えた。
  しかも、よく見ると天井に張り付きながら動いているじゃねぇかよ。一体何して
いやがるんだ?
「ディト爺!  何していやがるんだよ!」
  ディト爺に叫んで呼びかけると、ディト爺は動いて遠くの方へ行こうとしてた。
「何で遠くに行こうとしているんだよ!」
「まずは扉に行こうではないか。ここで話をしていたらいつ猫の像が爆発するか
わからんわい」
  確かにそうだな。ここで話をしていたら爆発するかもしんねぇしな。
  俺は床の猫の像に注意しながら、先を進む事にした。
  今いる所は扉からも近いしな、すぐに行けるな。それに床の隙間もさっきよりも
あるな。これなら楽に行けるな。
  ジャンプしながら扉の方へと向かうと、ディト爺は先に着いていて、扉を開けて
隣の部屋に入っていた。
  俺も続いて部屋に入ると、ディト爺は布団を敷いて寝ていた。
「一緒に寝んかの?」
「一生寝ていろ!」
  ディト爺の頭を思いっきり殴ると、布団から引きずり出した。
  それにしても、こんな物を何処から持って来たんだ?
「ディト爺、説明してもらうぞ」
「ふむ、実はじゃな、何とかして早く扉に行けないものかと考えていたら……」
  すると、ディト爺は袋から靴を取り出した。
「これをはいてジャンプすれば、扉まで行けるかもしれぬと思ったしのじゃよ。
じゃがな、これはジャンプし過ぎるという欠点があったのじゃよ。その為、天井に
激突してしまったのじゃ。そこでじゃ……」
  ディト爺は再び袋から何かを取り出した。
  それは、巨大な吸盤だった。
「これを使って天井を張り付いて行ったのじゃよ」
  まあ、無事だったからいっか。
  俺はあまり気にする事無く先に進む事にした。
  それにしても、このダンジョンはまだまだ続きそうだな。

第三十話「脱出可能?」
  俺達はこの部屋の扉を開けて初めの部屋に戻る事にした。
  扉に罠が無いかを調べたが、特に罠がある様子は無かったので、扉を開けて進む
事にした。
  重たい扉を開けると、正面は壁で左右は通路となっていた。
  そこで、俺はまず右側の通路へと進む事にした。
  暗く人気のない通路を進んで行くと、床が無くなっていた。その先は暗くてよく
見えないが、壁らしき物が見えた。
  もしかしたらここは、俺が落ちて行った落とし穴の罠があった所か?  可能性は
あるな。もしそうだとしたら、あの扉から左側に進んでいたらあの部屋に出る事が
出来るな。
「一度引き返すか」
  そう呟くと、後ろを振り返り再び元来た道を戻って行った。
  少し進んで行くと、開いた扉が見えてきた。そこから更に進むと今度は左折れに
なっていた。更に通路を進んで行くと、扉が見えて来た。
  ようやく元の部屋に戻れるな。
  そう思いながら扉を開けると、部屋の中に入って行った。
「……あれ、何か忘れてるような?」
  俺は突然何かを忘れているような気がしてきた。
  しばらく考えていると、ディト爺がいない事に気が付いた。
  またディト爺がいねぇじゃねーかよ!  また探さねぇとな。
  そう思って部屋から出ようとした刹那、部屋の中からディト爺の声が聞えて来た。
「い〜い湯だな〜♪」
  はぁ?  何言ってやがるんだ?  何でいい湯なんだ?
  俺は部屋の中をよく見回すと、部屋の隅の方でディト爺が風呂に入っているのが
見えた。
  俺はダッシュでディト爺の所まで行った。
「何処からともなく風呂桶を取り出して更に風呂に入って歌を歌うなー!」
  俺は思いっきりディト爺の頭を蹴った。
  すると、ディト爺は驚いた顔で俺を見た。
「そ、それは、『究極、トラップキック!』ではないかー!」
「勝手に名前を付けてんじゃねー!」
  更にディト爺の頭を蹴ると、ディト爺は仕方なく風呂から出た。
「ふむ、これからどうするのじゃ?」
「それが問題なんだよ。考えているんだが、この階の全ての部屋は完全に調べたが
結局見付かったのは鍵とこの紙だけだ」
  そう言って、俺はいくつかの鍵と小さな紙を取り出した。
「鍵の方は全てとは言わねぇが使っている。ただ、この紙に書かれていた『アコネ
ロー』ってのがよくわかんねーんだよ」
  ディト爺に紙を渡すと、俺は他に出口は無いか探す事にした。
「ちょっと待つのじゃ。儂は確か、この部屋の壁の穴から落ちて来たのじゃ。とな
ると、何処かに穴があるはずじゃ。探して見るのじゃ」
  俺は急いで壁にある穴を探す事にしたが、中々見付からなかった。
  まあ、そんな簡単に見付かるわけがねぇな。
  焦っていたら見逃す事もあるし、慎重に調べるかな。
  壁という壁を下から上まで慎重に探していると、後ろの方でディト爺の声がした。
「あったぞー!  ここの上の方じゃ!」
  ディト爺の所まで急いで行くと、ディト爺が壁の上の方を指差して教えてくれた。
「あそこじゃ!」
  そこは、床からかなりの距離があった。
  暗くてよく見えないが、確かに壁に穴が空いていた。
「んで?  どうやってあそこまで行く気だ?」
「それはじゃな……」
  そう言って、ディト爺は袋から大きな吸盤を取り出した。
「こいつを使うのじゃよ。これを使えば壁も簡単に登れるわい。早速お主が行って
くるじゃぞ」
  ディト爺は俺に吸盤を渡すと、俺は吸盤を手に持った。
  吸盤は二つあり、手に固定出来る様になっていた。
  俺は壁の上の方にある穴を見上げた。
「んじゃ、早速行くか!」

 1998年4月14日(火)21時50分26秒〜4月29日(水)12時40分00秒投稿の、帝王さんの小説21〜30話です。
 ……もう、絶好調ですね! コメント無しでいいですね。

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