第三十一話「何故!?」 ディト爺が渡してくれた大きな吸盤を手に付けて、俺は目の前の壁を上り始めて いた。 一回一回、確りと壁に吸盤を片方の吸盤をつけてはもう片方のはがして更に上の 方につける。その繰り返しだった。 何度も繰り返していると、下の方からディト爺の声が聞えてきた。 「お〜い、もっと早く行かんか!」 「五月蝿い! 俺はこれでも早く行っているつもりだ!」 ディト爺に怒鳴り返すと、今現在の場所を確認する事にした。 まずは、ディト爺が居る所はまだ近くに見えるな。上にある穴は……、まだ上の 方にあるな。これだと、まだまだ時間がかかりそうだな……。 まだまだ続くという壁を見ながら壁を上り続けた。 しばらくして、何気なく下を見るとディト爺が居ない事に気が付いた。 また居なくなったのかよ。何度居なくなれば気がすむんだ? 俺はあまり気にする事無く壁を上って行った。すると、何処からか、ペタ、ペタ、 と音が聞えて来た。 なんだ? この音は? もしかして、ディト爺が壁を上って来ているのか? あ りえるな。いや、絶対にそうとしか思えねぇな。 俺は辺りを見回すと、急速な勢いで壁をこっちに向かってくる人影を発見した。 もしかして、あれ、ディト爺じゃ……。 一瞬、その人影を見ていたらさっきまで少し遠くに居たはずの人影が一気に迫っ て来てた。まるで、壁を神速で走るゴキブリの様に。 一気に迫って来て、突然俺の目の前まで来て止まりやがった。それは、手に大き な吸盤を持ったディト爺だった。そして、ディト爺は俺の顔を見てにやりと笑った。 「う〜む、デリシャス!」 「意味不明だー!」 思いっきりディト爺の頭を殴ると、ディト爺の手に持っている吸盤が壁からはが れて、落ちそうになった。 驚いてディト爺に手を差し伸べると、ディト爺はその手に捕まった。すると、ディ ト爺は何故かにやりと笑った。 「死ぬ時は一緒じゃよ」 「ちょ、ちょっと待てよ、何で俺まで道連れにされなきゃ……」 俺が言い終わる前にディト爺は俺の右手を強く引っ張り、左手の吸盤をはがした 為に、俺は下へと落ちて行った。 だが、床に激突するかと思っていたが、ディト爺が入っていた風呂桶の中に落ち た為に、多少は痛かったが怪我などはなかった様だ。 ディト爺の方は、地面に激突していたにも関わらず平然と俺の隣に立っていた。 ディト爺、お前は人間離れし過ぎだ……。 それにしても、このお湯、何か色が付いているな……。更に匂いも少しあるな。 この匂いは、もしかしてお茶か!? 「ディト爺、もしかしてこれはお茶なのか?」 「ふむ、そうじゃよ」 「飲み物を粗末にするなー!」 ディト爺の頭を思いっきり殴ると、ディト爺は袋からコップを取り出すと風呂桶 のお茶を入れて俺に差し出した。 「まあ、落ち着いてこれでも飲むのじゃよ」 「風呂桶の中のお茶を差し出すなー!」 思いっきりディト爺の頭を殴ると、ディト爺はそのお茶を飲み出した。 「飲むなー!」 更にディト爺の頭を殴ると、冷静に考えた。 これだけの量のお茶をこの風呂桶に入れたって事は、もしかしてもうお茶は残っ ていないって事だよな。食料が無い今はお茶だけが頼りだというのにお茶が残って いないって事はかなりピンチだな。 「何を考えているのじゃ?」 ディト爺はのんきに俺に聞いて来た。 「あのな、今の状況をわかっているのか?」 「何をじゃ?」 「今は食料が無いんだよ! そんな時に頼りになるのはディト爺が持っているお茶 だけなんだよ。そのお茶を全て風呂の湯に使うなんて……」 俺が言い終わる前にディト爺は袋から何かを取り出した。 「ふむ、お茶がどうかしか?」 そう言って、お茶の入ったポットを取り出した。 「まだお茶はたくさんあるぞ。いらぬ程にな」 それならまあいいか……。 そう思って壁にある穴を見ると、ここまで落ちて来た事を突然思い出した。 「せっかくあそこまで上ったのに、道連れにして落としやがって!」 ディト爺を思いっきり殴った。 ったくよ、またあの壁を上るのかよ……。 そう思いながら俺は壁を見つめていた。
第三十二話「世の中そんなに甘くない」 俺は再び壁を上っていた。 くそっ、ディト爺の道連れ攻撃で下まで落ちてしまうとはな。あれさえなければ 今頃はあの穴の所まで行っているはずなのによ。 「お〜い、もう少しで着くぞ」 ディト爺の声が下の方から聞えて来た。その声に反応して上を見ると、もう数メー トルであの穴に着く距離だった。 「所でよ、穴の中はどうなってんだよ?」 俺は下にいるディト爺に向かって叫ぶと、ディト爺は少し考えた。 「う〜む、確かじゃな、かなり急な滑り台の様になっているはずじゃ。そのまま上 れば出口があるはずじゃ」 ディト爺の言う事が正しいのなら、もうすぐこのダンジョンから出られるって事 だよな。そうなら、一刻も早く行かねぇとな。 俺は次第に近付く穴を確りと見ながら、壁を上って行った。 しばらく上っていると、突然上の方で、ガタン! と、大きな音がした。 もしかして、また罠じゃねぇだろうな……。 「大変じゃ! 天井が高速で落ちて来たわい!」 その言葉に反応して天井を見ると、天井は確かに高速で落ちて来ていた。 くそっ、もう少しで脱出出来るってのによ。……こうなったら、急いで穴に入る か。 俺は急いで穴へと向かい、穴の中に入ろうとしたが俺はそこで止まり、下の方を 見た。 「ディト爺ー! 早く来い!」 「何を言っておる、お主だけでも先に行くのじゃ! 儂はこのダンジョンを自力で 脱出するわい!」 「ディト爺、何を言ってんだ! 早く来い!」 だが、ディト爺は一歩も動こうとはしなかった。 「もう無理じゃよ。ここからではあまりにも距離があり過ぎる。絶対に間に合わん わい。じゃから、お主だけでも行くのじゃ」 天井の壁は更に迫って来ている。もう数分ももたねぇな。早くしねぇと……。 「でもよ……」 ディト爺は絶対にここに置いて行くわけにはなんねぇ。俺を救ってくれた事ある しな。まだ礼もしてねぇのにここに置いて行くなんて出来なねぇ! 俺は意を決して、壁を下りて行った。 下に着くと、ディト爺の所まで行った。 「ディト爺、早く先に進むぞ」 そう言って、俺はディト爺手を引っ張って、適当に扉を選ぶと中へと入って行っ た。そこは薄暗い通路だった。 ここが何処であるかは、よくわかんねぇ。何しろ、この階は扉を開けたら全て同 じような通路があるからだ。 俺は何気なくディト爺を見ると、ディト爺は顔を赤らめていた。 「いやん、そんなに急がなくてもいいじゃない……」 「五月蝿いんだよー!」 俺は、思いっきりディト爺の頭を殴った。 「もう、激しいんだから」 「五月蝿い蝿めがー!」 再びディト爺の頭を殴ると、ディト爺は真面目な顔つきになった。 「やはり、味噌味がみそじゃな!」 「思いっきり関係ねぇだろうがー!」 更にディト爺の頭を殴ると、ディト爺は今度こそ真面目な顔になった。 「ふむ、お主、何故戻って来たのじゃ? あのまま先に脱出すればよかったという のに……」 「おいおい、俺はディト爺に助けてもらった事が何度かあるってのに、その恩人を 置いてここから一人で出るとでも思ったか?」 そう言うと、ディト爺はにやりと笑った。 「爺チャンもてもて!」 「関係ねぇだろうが!」 俺は素早くディト爺の頭を殴った。 「ふむ、まあ、ここからどうやって出るかじゃが、どうするのじゃ?」 そうだ、まだ次の階への階段が見付かってないんだよな。 一体何処にあるんだよ……。
第三十三話「必ずあるはず」 今からあの部屋に引き返す事は出来ないな。何しろ、天井が上から迫って来てい たんだからな。引き返しても、部屋に入る事は出来ないな。 仕方なく、今現在進める所まで行くしかないな。でもよ、全ての部屋には入って いるから、これ以上は無駄足だな。 「ディト爺、これから何処に行くかだが、とにかく進むだけだ。今の所、進める所 は全部行ったつもりだ。だから、今度は壁や床を細かくチェックしながら進む」 「ふむ、確かにそうじゃな。もしかしたら、見逃している所があるかもしれぬしな」 俺が先頭を歩く事になり、壁を調べながら進む事になり、ディト爺は床を調べな がら進む事になった。 だが、結局何も見付からないままであったが、あまり気にせず進んで行った。 そして、しばらく進んでいると床に何処かで見た様な模様が見えた。 「こ、これは、猫の絵の床だ!」 確か、猫の絵の床は踏むと矢が飛んで来る仕掛けだったな。 ……ん? ちょっと待てよ、確かこの罠がある通路は行き止まりだ! 結局、ここで閉じ込められてしまったって事かよ……。いや、必ず逃げ道はある はずだ! しかし、ここを通って行くとなるとかなり無理があるな。ディト爺の事も心配だ し、俺は体力が減ってきている。この状況でここから先に進むのはあまりにも危険 だな……。 くそっ、一体どうすればいいんだ!? 「トラップ、お主、地下四階で見付けた小さな紙を持っていたかな?」 「あ、ああ……、これだ」 俺はポケットから小さな紙を渡すと、ディト爺はその場に座り込んで考え出した。 俺も立っているのが疲れるので、同じくその場に座り込んだ。 今頼りになるのは、ディト爺だけだな。何かわかるまで、しばらくこうしている か……。 しばらくして、ディト爺が俺の肩を叩いた。 「のう、この床は何のトラップが仕掛けてあるのじゃ?」 「この床はだな、踏むと矢が壁から飛んで来るんだよ」 すると、ディト爺はまた考え込んだ。 一体何を考えているんだ? まあ、多分言葉の意味を考えているんだろうがな。 「所で、お主に一度来て罠を発動させているのじゃな?」 「ああ、そうだよ。しかも、すぐそこでな」 そう言って、俺は近くにある床を指差した。 すると、ディト爺はその辺りを見た。 「矢は何処から飛んで来たのじゃ?」 「初めの方は右側からで、ここから少し進んだ所は左右から飛んで来たな」 すると、ディト爺は何も無い床を見ながらにやりと笑った。 「やはりそうか……」 「何かわかったのか!?」 ディト爺は突然立ち上がると、俺を見下ろした。 「お主、ここ見てもなんとも思わぬか?」 そう言って、猫の絵の床がある通路の方を指差した。 「は? 何言ってんだよ? 別に普通じゃねぇかよ」 「そうじゃな、確かに普通じゃよ。じゃがな、お主はさっきなんて言ったかの?」 さっき言った事だって? さっき言った言葉は、壁から矢が飛んで来たって言っ ただけだよな? ……矢だと!? 普通、床には飛んできた矢があるはずなのに、何処にも無いじゃ ねぇか! 「ディト爺、これは一体どういう事だ?」 「ふむ、儂の予想では……」 そう言って、猫の絵の床の方へと近付いていった。
第三十四話「地下五階脱出成功!」 ディト爺は、猫の絵の床に近付くと、杖でその床を突つくと、壁から何本かの矢 が飛び出して来た。すると、その矢は壁にぶつかって床に落ちるはずなのに、その まま壁をすり抜けて、壁の中へと消えていった。 「な、何だ!?」 すると、ディト爺はにやりと笑い、俺の方を向いた。 「つまり、こういう事じゃ。あの壁は何らかの魔法によって作り出された偽物の壁 なのじゃよ。そこに壁があると思い込んでいては、いつまでたっても通る事は出来 ぬのじゃよ」 「どうやってそれがわかったんだよ?」 ディト爺は、小さな紙を俺に見せた。 それは、地下四階で手に入れたあの紙だった。紙には『アコネローが導くであろ う』と、書れているだけだ。 「で、これがどうしたんだ?」 「お主、ここがどのような城かは知っているな?」 「ああ、確か猫の像とか、模様をよくみるが、それがどうかしたか?」 「そう、ネコじゃよ」 「ネコ?」 俺は、その言葉の意味がわからなかったが、何気なく紙を見た俺は、一発でどう いう事なのかわかった。 「そうか! なるほど! そう言う事だったのか!」 この紙に書かれている『アコネロー』とは、『アロー』と『ネコ』という二つの 文字があった。そして、意味は、猫と矢が導くであろうって事だ。猫は床の絵の事 であり、矢はその床の絵を踏む事によって出てくる矢の事を言ってたんだな。 「ふむ、わかった様じゃな。そして、次の階への階段はこの先じゃろうな」 「じゃ、早速行こうぜ!」 「ふむ、そうじゃな」 ディト爺は、猫の絵の床を避けながら壁の方へと近付いて行った。俺もそれに続 いて壁の方へと行った。 壁まで来ると、ディト爺は早速壁の中へと入って行った。俺も壁の中へと入って 行った。 壁の中は通路となっていて、数本の矢が床に落ちていた。 「へへ、やっと次の階だな」 俺は少しほっとした気持ちになって先に進んで行った。その刹那、上からタライ が降って来て、俺の頭にヒットした。 ガーン! と大きな音がして、ディト爺も同じく頭にタライがヒットした。 「う〜む、快感!」 「快感じゃねー!」 素早くディト爺を殴ろうとしたが、床を見て何かの仕掛けが無いかを探した。 すると、タライの絵が描かれている床を発見した。そして、その床を素早く踏む とディト爺の頭に見事にタライがヒットした。 「うむむ、中々のお手並み!」 そう言って、ディト爺は手を叩いた。 「それより、早く行こうぜ。いつまでもこんな所にいるわけにはいかねぇ!」 「そうじゃな」 今度は注意しながら通路をゆっくりと進んで行くと、前方に階段が見えてきた。 やっとこの階からおさらばできるのか……。でも、まだまだ続くんだよな。今い るのは、地下五階だったな。そして、目指すは地上一階だ! 俺は、床などに注意しながら階段へに近付くと、階段をゆっくり上がって行った。 一段一段ゆっくりと上がって行くと、次の階の床が見えてきた。 「やっと、地下四階か……」 「そうじゃな。じゃが、まだまだ罠はたくさんあるじゃろう。これからも気を引き 締めて行こうではないか!」 「ああ、そうだな」 「では、ここで地下五階脱出を祝して、お茶飲みパーティーじゃ!」 俺とディト爺は、お茶をたくさん飲みながら、地下五階脱出を祝った。 やっと、地下五階をクリアーか……。 あいつら、無事でいてくれるかなぁ……。
第三十五話「剣技使用不可能」 「ふ〜、何とか地下五階を脱出する事が出来たな……」 俺はお茶を飲みながら呟いた。 地下五階ではかなり苦戦したな……。ディト爺がいなければ、絶対に脱出する事 は出来なかっただろうな。レイスが現れた時は、もう死ぬかと思ったが、結局、ディ ト爺が交渉して味方に付けちまったんだよな。それに、幾度となく迫り来る罠とディ ト爺のボケ……。もしかしたら、罠の数よりディト爺のボケた回数の方が多いんじゃ ねぇか? いや、となると、俺の突っ込んだ回数もそれなりに多いはずだよな。こ のまま行くと、ディト爺のボケが更に強力になって迫って来るだろうな。だが、俺 は決して負けねぇ! 絶対に負けはしない! 「そう、負けないぜ!」 ……はっ! し、しまった。つい変な方向にそれて行ってしまった。 すると、ディト爺は俺の腕にしがみ付いてきた。 「たくましい腕!」 「しがみ付くなー!」 思いっきりディト爺の頭を殴ると、俺は再び考えはじめた。 今までの罠は、色々あったが絶対に逃げ道が近くにあった。だが、少しづつその 逃げ道が見つかり難くなるだろうな。上の階層に近付けば近付く程。 それに、食料が全く無い状況だ。今は何とかディト爺のお茶で助かっているが、 この先、いつお茶が無くなるかわかんねぇ。もしお茶が無くなって、更にまだ先が あったら、まず脱出は不可能に近いな。今はまだ、体力を消費する様な罠は無いが この先いつあるかわかんねぇしな。その時、体力が残っていなかったら一生脱出は 不可能だな。 俺は考え終わると、ゆっくりと立ち上がった。 「ディト爺、そろそろ行こうか」 「ふむ、しかしじゃな、儂は剣技が使えぬのじゃぞ。精神力が尽きかけじゃよ」 「な、何だって!?」 ディト爺は少し困った様な顔をして言った。 ディト爺の剣技は今は大事な戦力だ。それに、もし避けきれない罠があったは 剣技が重要となる。 「ディト爺! どうやったら精神力を回復出来るんだ!?」 俺は急いでディト爺に聞いた。 「ふむ、ゆっくりと寝る事じゃよ。簡単な事じゃろ?」 「寝る事か……」 今は時間は大切だ。もし寝ていたら、ここを脱出する時間もそれだけ遅くなるっ て事だ。 仕方ない、この階ではディト爺の剣技には頼れないが、何とかして先に進む事に するしかないな。 「ディト爺、寝るのは後回しにするぜ。今は時間が大切な時だ。この階では剣技を 使われないが、何とかして切り抜ける事にするぜ」 すると、ディト爺はにやりと笑った。 「剣技が無くとも、儂の発明品があるわい。心配するでない」 ディト爺、おめぇの発明品が一番心配なんだよ……。 すると、ディト爺は袋から一つの太いペンを取り出した。 「これはじゃな、ダンジョンなどで、暗闇でも光る目印を書く事が出来る優れもの の品じゃよ」 「おー! 何でそれを先に出さないんだよ。もしそれがあったらあの階段で少しは 時間の短縮が出来ていたのによ」 そう言って、ディト爺から太いペンを貸してもらった。 「ただし……」 俺は、ディト爺の言葉を気にする事無く床に目印を試しに書いてみた。すると、 かなりの明るさで光っていた。 こいつは便利だな。早く出してくれてもよかったのによ。 「ただし、証拠は自動的に消滅する」 ディト爺がそう言った刹那、床に書いた矢印は奇麗に消えていった。 「誰かに見られては大変じゃろ?」 「俺達はスパイじゃねーんだよ!」 思いっきりディト爺の頭を殴ると、ペンをディト爺に返した。 「全然役にたたねぇじゃねぇかよ!」 「ふむ、ではこれなどはどうかな?」 そう言って、さっきのペンを袋におさめると、今度はさっきとは少し違ったペン を取り出した。 「で、これは何だ?」 「ふむ、これはじゃな、さっきのを改造した物でな、文字が消えない様になってお るのじゃよ」 「それを先に出せよな……」 俺は疲れきった様に言った。 この先、どうなる事やら心配だぜ……。
第三十六話「食料庫は存在する!?」 ゆっくりとした歩調で進みながら、辺りに罠が無いかを確認する。 あの階段から少し進むと、一つの部屋に出た。あまり広くは無いが、罠がある様 には見えねぇな。正面に扉があるな。もしかしたら罠があるかもしんねぇ。早く調 べるか。 俺は辺りに罠が無いかを慎重に調べながら扉まで来ると、扉に罠がないかを調べ た。すると、何か罠がある事がわかった。 早くこの罠を解除すっか。 俺は早くも罠の解除の為、作業を始めていた。 ディト爺はと言うと、俺の後ろで気楽に寝ている。今は少しでもディト爺に休ん でもらって、剣技が使える様になってもらわねぇとな。 しばらくして、罠の解除に成功したと思われるので、ディト爺を起こして扉をゆっ くりと開けた刹那、突然上から何かが落ちてきて、俺の頭にぶつかった。 「いってぇー……。何だこれ?」 それは猫の像であったが、その像の後ろには字が書かれていた。 「何々、『この階、食料庫あり』じゃとさ」 「食料庫だと! 早く行こう……と待てよ。これって、単純な罠じゃねぇかよ」 こういうのは、食料庫だと言っておいて、毒入りの食べ物や、入ったら二度と出 る事の出来ない部屋だったりするんだよな。第一、何故に食料庫なんてあるんだ? 変だな……。 だが、俺が真剣に考えている間に、ディト爺の姿が見えなくなってしまった。 ……何ですぐに居なくなるんだよ。食べ物が無かったからとは言え、簡単にその 部屋が見つかるわけがねぇのによ。 「ディト爺ー!」 だが、開かれた扉の向こうからは返事は返って来なかった。 くそっ、またディト爺を探さねぇとな。手間のかかる奴だぜ。 俺は開いた扉を通り、通路を進んで行った。 しばらく進んで行くと、右折れになっていた。そこを曲がり、更に進んで行くと また右折れになっていた。 罠があるかを確認しながら慎重に進んでいると、今度は左折れになっていた。そ こを曲がり、少し進んで行くと扉があった。扉は完全に閉まっていたが、ディト爺 がいないって事はこの扉を開けて行ったって事だな。となると、罠は無いな。 ゆっくりと扉を開けると、そこは通路であり、正面は壁であった。 通路は右と左に別れていて、どちらかを進むしかねぇな。今は迷っている場合で はねぇし、とにかく適当に進むか。 俺は適当に決めて、右方向に進む事にした。 少し進むと、左折れになっていた。そこを曲がり、少し進んで行くとまたしても 左折れになっていた。そこを曲がり、少し進んで行くとまた左折れに……。 何か嫌な予感がしてきたな……。 そこを少し進んで行くと、俺の嫌な予感は的中した。 またしても左折れになっていたのだ。そこを曲がり、少し進んで行くと、何処か で見た事のある扉があった。 それは、間違いなくさっき入って来た時、開けた扉だった。 つまりだ、ここは完全にループしているだけだって事だな。これ以上ここにいて も時間の無駄だな。ディト爺もここをグルグルと回っているんだろうな。しばらく 待てばここを通るだろうな。 「な、何故ここに!?」 丁度、後ろの方でディト爺の声が聞えて来た。 「まったく、何で一人で先に進むんだよ」 「爺チャン、お腹すいてたの、だからゴメンちゃい」 「全然可愛くねぇんだよ!」 思いっきりディト爺の頭を殴ると、ディト爺は急に真面目な顔つきになった。 「ふむ、すまぬな。じゃが、どうやら儂等はここに閉じ込められた様じゃな」 「閉じ込められただと!?」 俺が驚いた顔をすると、ディト爺はゆっくりと扉に近付き、扉を開けようとした が、全く開かない様子だった。試しに俺も挑戦したが、全く開かなかった。 どうやら、この扉は一方通行の様だな。となると、出口はこの通路に必ずある。 「ディト爺。早速だが、扉を探しに行くぜ」 そう言うと、俺はまた通路を歩き始めた。
第三十七話「偶然とは恐い」 ゆっくりと歩きながら、床や壁を細かくチェックしていた。 何処かに必ず抜け道はあるはずだ。いくら閉じ込められても、このダンジョンで は、脱出方法が無かった事は一度もない。つまり、必ず何処かにあるって証拠だ。 俺とディト爺は二手に分かれて床や壁を調べる事にしていた。少しでも時間の短 縮の為にこの様な行動に出たんだが、正直言って、今回も中々見付かりそうにない な。あの無間階段の様にこの通路が崩れるって事があったら、まず助からねぇだろ うな。そうならない事を祈っておくか。 色々と考えながら、丹念に調べていた。 しばらくして、前方にディト爺が見えて来た。 「お〜い! 何か見付かったか?」 「いや、全く見付からぬわい……」 ディト爺は元気の無い声で答えた。 「そうか……」 ディト爺は腹が減ってんだろうな。 俺も少し腹が減ってきたな。食料庫、本当にあのだろうか? もしなかったら、 俺達は無事にここから脱出出来るかわかんねぇな。 「ディト爺、もう一度調べるぞ」 「ふむ、では儂はお主が調べていた所でも調べるかの」 そう言って、ディト爺は真っ直ぐ進みながら床や壁を調べに行った。 俺も頑張るか……。 そう思いながら、真っ直ぐ進み、壁や床を調べる事にした。だが、いくら調べて も見付かる事はなかった。床や壁を何度も調べたが、結局見付からずであった。 ディト爺も疲れている様で、床で寝ていた。 一体何処にあるんだ? 絶対に何処かにある事は確かなんだ。だが、何処にも扉やボタンなどは見付から なかった。となると、また天井とか? そうだ! まだ調べてなかったんだ! 何で早く気付かなかったんだ! 俺は急いで通路の天井を見て、再び調べる事にした。 よーし! 絶対に見付けてやるぜ! 俺が丹念に天井を調べていると、ディト爺がやって来た。 「どうじゃ? 何か見付かったか?」 「今探してるんだよ」 俺は天井を見ながら返答した。 「もしや、天井を調べておるのでは?」 「そうだぜ! 何で今まで気付かなかったのが不思議だぜ」 「……一つ言っておこう」 突然ディト爺の声が暗くなった。 もしかして、まさか、天井を調べていたって言うんじゃねぇだろうな。 「儂は天井を調べておったのじゃが、結局何も見付からんかったのじゃ」 やっぱりそうかよ……。 俺は一気に脱力してしまい、床に座り込んでしまった。 「一体何処にあるんだよ……」 俺が座り込んでいると、ディト爺はにやりと笑った。 「閉じ込められた二人。そして、芽生える愛……」 「芽生えるかーーーー!」 素早く立ち上がると、ディト爺を思いっきり蹴り飛ばした。すると、ディト爺は 吹っ飛んで壁に激突してしまった。 「は、激しい貴方が好き」 「苦しいながらも更に言うなーー!」 更にディト爺を蹴ったその時だった。突然、ディト爺の後ろの壁がゆっくりと向 こう側に開いたのだ。 「こ、こいつは、扉だぜ!」 何故この様な事で見付かったのかは偶然としか言いようがないが、とにかくよ かった。 俺は、扉にディト爺に貰ったペンで大きく扉と書くと、扉の中へと入って行った。 「まさかあんな事で見付かるとはな」 「ふむ、確かに」 俺は、ディト爺のお茶を飲みながら、休憩していた。 念の為、壁に扉と書いていたが、役に立つかはわからない。 今いる所は、さっきの扉のすぐ向こうだ。 「そうそう、ちょっとした地図を書いていたのじゃ。見るか?」 「ああ、見せてくれよ」 そう言うと、ディト爺は一枚の紙を見せてくれた。 「ふむ、『━』は扉を表わしておるのじゃよ。下手かもしれぬが、まずは現在の位 置を把握する為に作ってみたのじゃ」 「ありがとよ」 まあ、今は早くこのダンジョンを脱出出来る事を祈るか。 そう思いながら、お茶を飲み干した。 地下四階地図(未完成) ┌────── │ │ │ │ ┌──┬─┘ ├──┐ │階段│ ┃ │ └──┴─┐ ├┐ │ │ ││ │ │ ││ │ ──────┘│ │ ┌────────┘ │ │ │ │ ┌────────┘ │ │ ┌──┴━┴───┐ │ │ │ ┌─────┐ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ └─────┘ ├───── │ ┃ 現在地 └────────┴─────
第三十八話「ディト爺の恐怖〜前編〜」 俺達はお茶を飲み終わると、早速通路を進む事にした。 ゆっくりと、そして慎重に進んで行くと、四方に分かれ道があった。 「ふむ、一度ここで床に印を書いとかなくては、迷ってしまうぞ」 確かにそうだな。もしかしたら行った場所を忘れてしまう可能性があるからな。 とりあえず、床に印を書いておくか。 俺は床に『☆』と書いて、まずは左の方向に進む事にした。 薄暗く、そして長く続く通路をしばらく進んでいると、前方に扉が見えて来た。 俺は、扉に罠が無いかを調べた所、どうやらこの扉は開けると爆発する仕掛けが あるらしい。しかも、かなり複雑で今の俺の腕では解除する事は不可能としかいえ ない物であった。 仕方なく扉の罠を諦め、さっきの所に向かう事にした。 戻る時も、罠が無いかと注意しながら戻って行くと、四方に別れた場所に来た。 床に『この先、爆発する扉』と書くと、そのまま真っ直ぐ進んで行った。 「しかし、さっきから罠が無いな。やけにあやしいと思わねぇか?」 だが、俺が振り替えるとそこにいるはずのディト爺がいなかった。 「またかよ……」 俺はいつもの事だと思いながら、まっすぐと進んでいると、前方に人影が見えて きた。 もしかして、ディト爺の奴、また変な事をしようってのか? 次第に近付いて行くと、ディト爺が変な服を着ているのがわかった。 「いっつあ、しょ〜たいむ!」 は、はあ? 何言ってんだ? すると、ディト爺は突然俺の目の前から消えやがった。一体何処に行ったんだと 思いながら、辺りを見回すと、俺のすぐ足元にディト爺がいやがった。 つまり、ディト爺は匍匐前進だけで、数秒間の間に一気にここまで迫って来たの だ。もう人間業ではない。 そして、ディト爺は何を思ったのか、俺の足を突然掴みやがった。 「お、おい、何すんだよ!」 俺が思いっきりディト爺をぶっ飛ばすが、すぐに匍匐前進で迫って来て、俺の足 にしがみ付いてくる。 「だー! やめろー!」 だが、ディト爺は狂った様に俺にしがみ付いて、決して離れようとはしない。 仕方なくディト爺を蹴り飛ばしたが、また匍匐前進で迫って来た。 俺は、この時、初めて恐怖を感じた。 不気味に迫り来るディト爺は、匍匐前進で恐ろしい速さで来る。しかも、俺にくっ 付いてくる。 何か恨みがあるわけでも無いだろう。だが、何か得体の知れない恐怖が迫って来 ている様だった。 「だ、誰か助けてくれ〜!」 俺は必死になって逃げるが、ディト爺は匍匐前進で迫って来る。 更に、俺が走っているのにも関わらず、ディト爺はすぐ後ろに来ている。 「か、勘弁してくれ〜!」 もう何が何だかわからない状況だったが、逃げ回っている内に、ディト爺の姿が いつの間にか見えなくなっていた。 「た、助かった……」 モンスターの様なディト爺から逃げ出す事が出来た様だな。 しかし、恐かったぜ……。 「んもう! トラップの意地悪〜!」 「そこか〜!」 ディト爺の声が聞えて来た方向に蹴りをしたが、ディト爺は俺の足を素早く掴ん だ。 「ほっほっほっ! お主もまだまだ未熟じゃの」 「五月蝿い!」 俺は、ディト爺をほっといて、今現在いる所の確認をする事にした。 どうやら、あの通路を真っ直ぐ進んでいただけの様だな。そこで、ディト爺に追 われて、行ったり来たりをしていたから、あまり場所は変わんねぇな。 「じゃ、ちょっとあの場所に戻るか」 俺は、少し早めの歩調で行くと、あるはずの無い物があった。それは、頑丈そう な壁だった。 「一体いつの間にこんな物が出来たんだ? もしかして、罠か?」 俺は仕方なく今来た道を引き返して行った。
第三十九話「ディト爺の恐怖」 ゆっりくとした歩調で通路を進んでいると、いくつかの扉が見えてきた。 だいたい、五つあるな。通路にそって扉がある所を見ると、まだまだ通路は先に 続いているな。 全ての扉に罠が仕掛けている可能性があるな。とにかく、今は近くにある扉を調 べてみるか。 近くの扉の前まで行くと、早速扉を調べる事にした。 「ん? 罠は無い様だな」 俺はゆっくりと扉を開けると、何か嫌な予感がした。 絶対に何かある。そして、それは俺に恐怖を与える物だ、と思った刹那、扉の向 こうから声がディト爺の声が聞えてきた。 よく見ると、部屋の中でディト爺が風呂に入っているじゃねぇかよ。 「んっふっふっ……。爺チャンは〜♪ 天災発明家〜♪」 「天災って、字が違うだろーが!」 ダッシュで部屋の中に入り、思いっきり蹴りをすると、今度は部屋の外の方で声 が聞えてきた。 「食料庫発見じゃ〜♪」 はあ? 何で外の方からディト爺の声が? ディト爺がさっきまでいた所を見ると、いつの間にかディト爺はいなくなってい た。 す、素早すぎる。発明品による幻影か? 俺は少し不思議に思いながら、通路に出るとディト爺の声が聞える方へと向かっ た。 「こっちじゃぞ〜!」 ディト爺の声が聞える方へと進んでいくと、開いた扉から光がもれていた。 「やっと食い物が食べれるぜ!」 俺は期待しながらダッシュで部屋に入ると、部屋の中には完全に何も無い状態で 食料が全く見当たらなかった。 その部屋の中にはディト爺がぽつんと座っているだけであった。 「で、これはどういう事だ?」 俺は、怒りを押さえてディト爺に聞くと、ディト爺は何とも幸せそうな顔をしな がら俺を見た。 「ふむ、美味しかった」 「死ね……」 俺はディト爺にきつい蹴りをすると、続いて首締めをした。もちろん、手加減は しているが。 しばらくして首締めを止めた。 「すまんの、全部食べてしまったわい」 また幸せそうな顔で答えたディト爺に、再び蹴り! だが、ディト爺は軽く受け止めてしまった。 「まだまだ未熟じゃの〜」 「ディト爺、食べてしまったのは仕方ないから、もう先に行くぞ」 ディト爺の顔を見ずに部屋を出ると、正面に扉を見付けたのでその扉を調べる事 にした。 どうやら、罠があるな。爆発するタイプじゃねぇ。 俺は早速罠の解除をはじめた。 しばらくして、罠の解除に成功したので、ゆっくりと扉を開けた。その刹那、上 の方から何かが降ってきた。 「ばんじぃぃぃぃ〜〜!」 上からディト爺の声が聞えてきたかと思ったら、突然俺の頭に何かがぶつかった。 「いてて……」 何がぶつかったんだと思いながら、落ちてきた物を見るとそれはディト爺だった。 「快感〜!」 「快感じゃねー!」 ディト爺の頭を思いっきり蹴ると、扉をゆっくりと開けた。 「見ちゃいや〜ん!」 扉の向こうにいたのは、何故かディト爺……。 「何でディト爺がそこにいるんだよ!」 ディト爺を殴ると、さっきまでディト爺がいた所を見た。 「……嘘だろ……」 俺は思わず呟いた。何故なら、そこにいたのはディト爺だったのだから。素早く 振り替えると、そこにもディト爺がいる。 俺は驚きのあまり、一気に通路を走り出した。猛ダッシュで走っていると、後ろ からディト爺の声が聞えてきた。 「トラップ〜! 逃げないで〜!」 走りながら振り替えると、ディト爺が恐ろしい速度の匍匐前進で俺に近付いてく る。 俺は恐ろしくなって更にダッシュするが、ディト爺はそれでも付いてくる。 「助けてくれ〜!」 俺が助けを求める声を上げると、前方で声が聞えてきた。 「儂の愛しいトラップ〜!」 前方から迫って来るのは、間違いなくディト爺だった。 嘘だろ? 何でこんな事になったんだよ!? 誰か助けてくれ〜! 俺は、力尽きた様にその場に座り込んでしまい、ひたすら助けを求めた。 そして……。
第四十話「それは…」 「トラップ〜! 起きんか〜!」 この声は……。ディト爺だー! 「うわ〜! 出た〜!」 俺は思いっきりディト爺の顔面を殴ると、俺が今まで寝ていた事に気が付いた。 そう、俺は床に寝ていたのだ。 立ち上がって辺りを見まわすと、ここはあの十字通路だった。 「ディト爺、何でここまで連れて来たんだよ」 だが、ディト爺は不思議そうな顔をした。 「何を言っているのじゃ? 儂が何をしたと言うのじゃ?」 ディト爺、自分のした事を認めねぇって言うのかよ! 「ふざけるなよ!」 すると、ディト爺はゆっくりと近付いて来た。 「ち、近寄るな〜!」 俺は吃驚して後退したが、そこは壁であった。前方からはディト爺が迫っている。 誰か助けてくれ〜! もう嫌だ〜! 俺が顔を引きつらせながら、壁の方を見ながらディト爺を見ない様にしていると、 ディト爺が俺の肩に手を置いた。 「や、やめろ〜〜〜! 俺に触れるな〜!」 俺は、必死になってディト爺から逃げようとしたが、ディト爺は俺の肩を掴み、 俺を逃がすまいとしている。 俺は嫌なんだ〜! ディト爺の仲間になりたくないんだ〜! だが、ディト爺の様子が変であった。あの時とは違う様な気がするな。 「も、もしかして、俺を襲うなんて事はないよな?」 「何を言っておるんじゃ? 寝過ぎて変になったか?」 「寝過ぎだと!?」 ディト爺は、それがどうしたといった顔をした。 「全く、お主が罠を踏んでしまって、壁からガスが出てきてお主は寝てしまったで ないか」 壁からガス? 罠を踏んだ? もしかして、俺がさっきまで見ていたのは、夢だったのか? 可能性はあるな。 「ディト爺、ちょっと聞きたいんだが……」 「ふむ、何じゃ?」 俺はディト爺との距離を少し空けながら話し掛けた。 「俺は、何処で寝てしまったんだ?」 ディト爺、上を見なが唸り、突然、ポンと手を叩いた。 「そうじゃ、あの十字通路じゃよ」 あの十字通路って事は、さっき目が覚めた所じゃねぇかよ! とすると、俺が今 まで見ていたのは、完全に夢だったって事だな。つまり、ディト爺はあんなに変じゃ ねぇって事だな。 「ディト爺、とにかく、あのさ……、先に進むぞ!」 俺はあまり整理のつかないままで、ゆっくりと通路を進んで行った。 ディト爺は、本当にあんな事をしていないんだよな。多分していないはずだ。確 かに元々あんな奴だったけど、俺をあそこまで追いつめる様な事はしなかったはず だ。 俺は自分に何度も言い聞かせながら、暗い通路を進んで行った。 あれは本物のディト爺じゃなくて、夢だったんだよな……。 何度も自分にそう言い聞かせていた。
1998年4月30日(木)22時28分23秒〜5月15日(金)20時52分09秒投稿の、帝王さんの小説第三十一話〜第四十話です。やっとで地下五階脱出。手製の地図も見物です。