第百五十一話「新たな敵」 稲妻が水面を走り、泳いでいた猫達はピクピクと痙攣を起こして水面に浮かんで いる。 それを見て、スレイブが表情を和らげてその場に座り込んだ。 「はは、や、やったね〜」 何とも気の抜けた声を出してスレイブが笑った。すると、ディルクはスレイブの 頭をゴシゴシと撫ぜた。 「よくやったな。いつまでもあんな所で戦っていたら体力が尽きて、いつかは殺ら れちまうのがオチだ」 いつまでも頭を撫ぜるディルクの手をスレイブは退けて、少し怒った様にスレイ ブがディルクを見る。 「ぶ〜! 頭を撫ぜるのはもう止めてよ〜。子供じゃないんだから〜!」 「ん? まだ子供じゃなかったのか?」 「違うよ〜!」 俺は何気なくディルクを見た。ディルクは、黒い髪に、黒い目をしている。背中 には大きな鞘がある。だが、その鞘は今や横方向に曲げている。そうしないと、座 れる訳がねぇ。それに、あの大きな剣はボートの底に置いている。 剣の幅は約二十センチといったところだな。安っぽい小さな盾ぐらいの大きさは ありやがるな。 ディルクは防具というものがねぇな。服を着ているぐらいで、武器のみだ。まあ、 この剣が盾代わりになるから大したもんだぜ。 そんな事を考えながら、ディト爺の方を見ると、ディト爺は別の方向に目をやっ ていた。それに気付いた俺は、ディト爺が見ている方向を見た。その方向は、あの 猫達が出て来ていた草むらの方だった。 見たところ、別に変な異変はない。新たに猫が出て来ている様子もねぇな。 いつまでもその方向を見ているディト爺の肩を軽く叩いて、 「どうしたんだ?」 と尋ねると、ディト爺は俺の方を向いた。 「ふむ……。何やら嫌な気配がするのでな……。もしかしたら、また新たなゴーレ ムを送り込んでいるのかもしれん」 「うわわわわ!!」 と、突然ボートが大きく揺れ始めた。揺れるボートから身を乗り出して辺りを見 回すと、湖の水面が揺れているのがわかった。 「くっ、何だよ、この揺れは!?」 ディルクがボートの底に置いていた大剣を握りながら、辺りを見回している。 すると、ディト爺が水面をじっと睨み付けた。そして、水面に向かって銃を構え た。 「湖から何かが出てくるわい! 全員、迎撃準備じゃ!」 すぐにスレイブが立ち上がって水面に向かって銃を構える。ディルクは大剣をボー トの底から持ち上げると、ブンッ、と風を斬る音を上げて天にかざす。 「湖の底から、何かがやって来るわい! 全員泳ぎには自信があるの?」 ディト爺の問い掛けに誰も答えようとはしなかった。何しろ、その言葉が意味す るのは水中戦を覚悟しろって事だ。 俺はすぐに剣の柄に雷光の力を封じるドラゴンの牙の様な物を取り付けた。 水中戦となるんだったら、雷による攻撃をすれば全員にも危険が及ぶ。どんな敵 かは知らねぇが、今回は接近戦のみしかねぇな。 次第に水面に黒い影が見えてくる。その影はゆっくりと大きくなっていきやがる。 くそっ、何が出て来るって言うんだ!?
第百五十二話「凍り付け!」 次第に大きくなっていくその影は、直系が約三メートルといったところだ。かな り大きいぜ。 ザザザザザザザザ……。 激しい水音がして、湖から何かが出て来やがる。それは、巨大なゴーレムだった。 しかも、今回もまた猫型ゴーレムだ。 ゴーレムが湖から姿を現した刹那、ディト爺がすぐに銃で撃つ。だが、その放た れた風を右腕で防ぐと、何事もなかった様に俺達のボートに近付いて来る。 ゴーレムとの距離は約十メートルといったところだ。この距離だと、すぐに……。 俺は、ボートから飛び降りようとした。だが、そんな俺の服を誰かが引っ張った。 振り向くと、ディト爺が俺の服を引っ張っていた。 「待つのじゃ。水中戦はハッキリ言って不利じゃ。とにかく、爺チャンに任せるの じゃ!」 そう言うと、ディト爺は背負っていた大きな袋の中をゴソゴソと探り始めた。 「ふふふ、発明品は色々持って来たのじゃよ……。確か、こんな状況の為に効果を 発揮する発明品があったはずなんじゃが……」 しばらくディト爺が袋を探っている間、スレイブは銃を使って炎の玉を発射し、 ゴーレムを撃つ。だが、ゴーレムは平然としていやがる。それどころか、時々顔を 洗っていやがる。 何度もスレイブが銃でゴーレムを撃つが全く効果がない。 「あったわい! これじゃ! 『一発ギャグで辺りは寒々! 寒すぎて凍りついちゃ うわ〜! いや〜、寒い〜!』じゃ!」 「発明品の名前に変な叫び声を付けてんじゃねぇ!」 思いっきりディト爺を殴ると、ディト爺が袋から取り出した物を見た。それは、 種の様な物だった。それをディト爺は湖に投げ入れると、種が湖に落ちた地点がす ぐに凍り始める。パキパキと音を立てながら、湖は一気に凍っていく。そして、ゴー レムがいた場所も凍りついてしまい、とうとう湖全体が氷の大地と化した。 ディト爺はボートから飛び降りると、呆然としている俺の方を見た。 「ふむ、早く行かなくては氷がいつ溶け出すかわからんわい。すぐにこの湖から離 れるぞ!」 その言葉を聞くと、俺達はボートから飛び降りて凍りついた地に足を付けた。 ディト爺はボートに近付くと、ボートの後方の辺りに付いていた小さなボタンの 様な物を押した刹那、ボートはどんどん小さくなって、手のひらサイズになった。 「さ、早く行くぜ! ゴーレムがすぐにでも動き出すだろう。その前に、湖から逃 げて陸で戦おう。水中戦は不利だからな」 ディルクが大剣を背中の大きな鞘に入れながらそう言うと、俺達はすぐに陸に向 かって走り出した。走っている方向は、さっき、俺達が猫の大群と死闘を繰り広げ ていた場所だ。 凍りついた湖に、ゴーレムの顔と胴体が見える。足元までは見えやしねぇが、そ の大きさはかなりのもんだ。顔の大きさだけでも一メートルはあるんじゃねぇか? ジロジロとゴーレムを見ながら走っていると、誰かが俺の肩をポンポンと叩く。 振り向くと、それはスレイブだった。 「た、た、大変だよ〜! 湖の氷がもう溶け始めているよ〜! 早く陸に行かない と大変だよ〜!」 慌てた口調でそう言うと、ボートがあった位置を指差した。そこに目をやると、 氷が溶け始めていて、既にかなり溶けていた。ゴーレムの場所が溶けるのは時間の 問題だ。 それを見て、前方に広がる陸地を見る。距離にして約十メートルってところだ。 それ程遠くはねぇから、すぐに陸地に到着出来るな。 少しだけ走って再び後ろを見ると、既にゴーレムがいる場所の氷は溶けていた。 しかも、氷が溶ける速度はかなり速い。俺達との距離は数メートルってところだ。 氷が溶けて湖に入るのは問題ねぇんだが、ゴーレムがいた場所の氷が溶けたのは 厄介だな……。とにかく、急ぐしかねぇ! 後方で既に動き始めたゴーレムを見て、更に足が速くなっていく。
第百五十三話「猫が来る」 後ろを見れば、湖の氷は更に溶けて行くのがよくわかる。今や、俺達のすぐ後ろ まで溶けかかっていた。つまり、氷は陸地近くまで溶けていやがる。 「到着したよ〜!」 先頭を走っていたスレイブが陸地に到着すると、すぐに湖の方を向いて銃を構え た。 俺も、そしてディト爺もディルクも陸地に到着すると、全員が湖の方を見てそれ ぞれの武器を手に構えた。 だが、隣にいたディト爺は唸った。 ディト爺はしかめっ面をして銃を握っていた。 「ふむ……。どうやって奴を倒すかが問題じゃの……」 「動力部を狙ってはどうだ?」 不意に、そのディト爺の隣にいたディルクが答える。だが、ディト爺は首を横に 振った。 「駄目じゃ。動力部は体内にあるわい……」 ディルクとディト爺の会話を聞いていると、後ろにいたスレイブが俺の肩をトン トンと叩く。振り向くと、スレイブは慌てた様子で湖の方を指差していた。 「た、た、大変だよ〜! 動き出して、こっち向かって来ているよ〜!」 その指先の方向である湖に目をやると、ゆっくりとした動きではあるが、巨大な 猫形ゴーレムがこっちに向かって動いていた。 くっ、もう動き出していやがったか……。だが、こんな所で戦うのは不利だな。 湖近くで戦うのは、下手をすれば水戦になる可能性がある。出来るだけ森で戦わねぇ と。相手は巨大なゴーレムだ。森に入れば死角は多いはずだ。 そう思うと、俺は森の方へと足を進める。そして、少し森の方へと近付くと、湖 の方を見てディト爺の姿を確認した。 「おーい! 森の中で戦うんだ! 森だと奴にとっての死角は多いはずだ!」 そう言うと、ディト爺達は森の方へと足を進めて行く。 こっちに向かって来るディト爺達に近付くと、木々の間から見える湖を見た。そ の湖に大きく聳え立つゴーレム。確実にこっちに向かって来ていやがる。 すぐに視線をディト爺の方に向けると、 「で、何かいい案は出たか?」 と聞いた。すると、ディト爺はにやりと笑った。 「ふふふ、心配するでない。策はちゃんとあるわい。あのダンジョンで戦ったゴー レムと同じ戦法を使えばいいだけの事じゃ」 その言葉を聞いて真っ先に思い出したのが、あのゴーレム事件だった。 ディト爺がゴーレムの内部に入り、ゴーレムを何度も復活させて俺を疲れさせた あの事件。あれほど疲れた戦いなかったぜ。思い出しただけでも腹が立つぜ。 が、すぐにそれを忘れると、ディト爺が背負っている発明品袋に目をやる。 「で、今回もまた、あの変な靴をあのゴーレムの口から侵入しようって事なのか?」 だが、ディト爺はく日を横に振った。 「駄目じゃ。今回ゴーレムは爺チャンが作ったゴーレムではないわい。あれは飛ん で来た物に対して反応する事は殆どなかったのじゃが、今回のはそうはいかんわい。 奴の作った物じゃ。そんな事ぐらい計算の内じゃろうて」 「じゃあ、どうしろって言いたいんだ?」 俺が詰め寄る様にしてディト爺に問うと、ディト爺は隣にいたディルクの方を見 る。 「ディルクが全てやってくれるわい。残りの者はゴーレムに外面から攻撃を仕掛け るのじゃ」 ──と、話が終わった刹那、大きな地響きがする。それと、同時に湖の方に目を やると、ゴーレムが陸地に到着しているのが見える。いや、正確には、その大きな 足が見えた。 猫型ゴーレムだからと言って、猫が二足歩行しているわけじゃねぇ様だ。ちゃん と猫らしく四本足で歩いていやがる。 大きく口を開いたゴーレムは、木々の間から見ている俺と目を合わせた。刹那、 俺は体が硬直してしまった。不気味に口元を歪ませたゴーレムと俺。 「にゃぁぁぁぁぁぁ!」 と、猫が物凄い勢いで走って来る。 「逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!」 ディルクが大きく叫ぶと、体の硬直が解けた俺はすぐに森の奥へと走って行った。
第百五十四話「迫る巨大な足」 猫型ゴーレムが森に侵入して来やがると、俺達は森の奥へと走って行く。 全員が殆ど同じ方向へ走っている為、狙われたらやべぇな。 「で、なんで逃げろって言ったんだよ!? それに、一緒に走っていたらすぐに狙わ れちまうんじゃねぇか?」 すると、走りながらディルクが俺に近寄って来る。ディルクは右手に大剣を持っ て走っている。 あんな大きな剣を持ちながら走るなんて尋常じゃねぇな、と思いながらディルク を見た。 「なに、まずは一気に後退すべきだから、手っ取り早くそう言っただけの事だ。こ れから行動開始だ」 ディルクがにっと笑うと、その場に立ち止まって後ろを向いた。続いて俺も同じ く立ち止まって後ろを向いた。 「いいか、奴の口に侵入するのが俺の目的だ。そして、そのチャンスを作るのがお 前達って事だ」 「へっ、わかったぜ」 それを聞いて簡単に答えると、ちらりと後ろを見た。すると、ディト爺とスレイ ブが俺達よりも少し後ろの方で銃を持って構えていた。 「よいか、奴は口に侵入してくる全てのものに反応するわい。それを何とかして隙 を作るのじゃ」 ディト爺が後ろでそう言うと、前方から地面を揺らす音が聞こえて来る。 じっと前方を見ると、木々の間からゴーレムの前足が見えた。距離は二十メート ルってところだな。 「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 突然、ゴーレムが大きな鳴き声を上げると、物凄い音を立てて走って来るのが見 える。 すぐに剣を構えた。が、いつのまにか俺の隣に来たディト爺が俺の手から剣を取 り上げた。 「お、おい!? なんだよいきなり」 すると、ディト爺はにやりと笑って銃を手渡した。 「こっちの方が動き易いじゃろう。爺チャンは剣技で戦おう。その方が強力じゃわ い」 そう言うと、ディト爺は背負っていた袋を地面に置いて、剣を袋の中に入れてし まった。その刹那、木々の間から巨大な猫の足が見える。 「くっ、もう来たか!」 辺りを見回して、何処か隠れられそうな場所を探した。右手方向に大きな岩があっ たが、その後ろに隠れたところですぐに見付かってしまう。 ──と、前を見ると、ゴーレムがすぐ目の前にいるのが見えた。数メートル先に は巨大な足が……。 逃げられねぇ!
第百五十五話「大きな剣」 数メートル先には巨大なゴーレムの足が見える。 今から逃げてもすぐに追い付かれちまうな。こうなったら、戦うしかねぇ! 銃を強く握り締めると、木々の間から見える足に照準を合わし、すぐに引き金を 引いた。が、何も起こらなかった。 「な、なんでだ!?」 何故か何も起こらない銃を見て、俺は驚きの声を上げた。 「馬鹿者! 引き金を引く前に銃に付いているボタンを押すのじゃ!」 と、後方からディト爺の声が聞こえて来た。 すぐに銃を見てボタンを探した。すると、銃の後ろの方にボタンが付いているの がわかった。 ん? 前はこんな所に付いてはいなかったよな……。修理した時に、ボタンの位 置を変えたのか? と、疑問を抱きつつボタンを押した刹那、銃が一瞬だけ光りを放つ。 「逃げるんじゃぁぁぁぁ!」 ディト爺が後方で叫ぶと、何気なく上を見上げる。すると、そこには巨大な足が あった。 すぐに回避しようと走り出した刹那、手を滑らして銃を落としてしまった。 「ちっ」 すぐに地面に落ちた銃を拾い上げると、右方向に走り出そうとした。が、そんな 俺の目の前にディルクが立っていて、大きな剣を両手で持って構えていた。 「伏せろぉぉぉぉ!」 その言葉に、何が何だかわからないままにその場に伏せた。と、同時に頭の上で 岩を砕くような音が聞こえた。ちらりと上を見ると、そこには大きな剣が丁度俺の 頭上にあった。しかも、剣は岩に突き刺さっていた。 ディルクはすぐにしゃがむと、岩に突き刺さった剣の刃のない二十センチぐらい の幅がある面を支えるような感じで手を掛けた。刹那、ドン、と大きな音がした。 その場に伏せながら辺りを見ると、ゴーレムの足が辺りに見える。ただ、不自然 な事に足は三本しか見えなかった。 「爺チャン! 早くこの足を退けてくれ!」 ディルクが苦しそうにそう言った刹那、俺の横にあった大きな岩が大きな音を立 てて次第に崩れていく。 「おい! 早くここから立ち退くんだ! これ以上足を支え切れないんだ!」 ディルクが額に汗を滲ませながら苦しそうにそう言う。すぐに俺はそこから走っ て行き、ディト爺とスレイブがいる場所まで行った。そして、あの岩があった場所 を見た。それを見た俺は思わず動きが止ってしまった。 さっきまでいた場所にあった大きな岩は、今はもう殆ど姿がなく、そこにはディ ルクの姿が変わりにあった。更に、ディルクは大きな剣で巨大な足を支えていて、 今にも潰されそうになっていた。 「ディルク〜! 今助けるよ〜!」 刹那、スレイブが銃の引き金を引いた。すると、銃口から炎の玉が出て来た。す ぐに俺も銃の引き金を引いた。刹那、銃口から何かが発射される。すると、銃を向 けた方向の直線状にあった木の枝が風によって切り刻まれて宙を舞い、地面に落ち て行く。そして、炎の玉がゴーレムの足に当たり、同時に風がゴーレムの足に直撃 した。 「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 すると、ゴーレムはディルクを踏みつけていた足を退けて、後退して行く。 すぐにディルクがその場から走って逃れた。そして、俺達の方に走って来た。 「さっ、反撃開始だ!」 威勢の良い声を上げて、ディルクは大きな剣を天に向かって振り上げた。
第百五十六話「反撃開始」 ディルクは大きな剣を天に振り上げると、ゴーレムに向かって走り出した。 「準備はよいか? ゴーレムに対して惜しみなく攻撃をするのじゃ。そして、なん としてでも隙を作るのじゃ!」 そう言い終わると、ディト爺は剣技の構えをした。 それを見た俺は、すぐに銃の後ろについているボタンを押した。すると、銃は一 瞬だけ光を放つ。隣にいたスレイブが手に持つ銃の銃口には光の粒子を集めていた。 前を見ると、ゴーレムはこっちを睨み付けるようにしていやがる。動いてはいな かったが、今にも襲い掛かる様な体勢だった。 そして、その右方向からはディルクが気付かれない様にして木々の間を走り抜け ている。 「斗菟剣技・破陣!」 ディト爺がそう叫んだ刹那、俺は銃の引き金を引いた。そして、隣にいたスレイ ブも同様に引き金を引いた。すると、炎の玉と、風の塊と、光の刃がゴーレムに向 かって迷う事なく一直線に飛んで行く。邪魔する障害物は風が切り裂いて行き、そ の切り刻まれた枝や葉は炎に焼かれ、最後にはチリとなる。 飛んでくるそれを見たゴーレムは一瞬不思議そうに首をかしげた。だが、すぐに 二本の前足を大きく上に上げると、 「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 と、大きく一鳴きしてから顔を守る様な感じで、顔の少し手前に手を出した。刹 那、風の塊がゴーレムのその前足に命中した。続いて、炎の玉がゴーレムの前足に 命中する。最後に、光の刃がゴーレムの前足に命中した。 「な、なんだよ!? あいつ、俺達の攻撃を簡単に防ぎやがったぜ!?」 全ての攻撃は前足だけで防ぎやがった。しかも、前足は多少の傷はあったものの、 焼け焦げている後も、切り刻まれた後なかった。殆ど無傷に近い状況だった。 「斗菟剣技・破陣!」 ディト爺が剣技を放つ。続いて、スレイブが炎の玉を放った。 「手を休めるでない! 今、儂らがすべき事は奴の注意をこっちに向けさせ、隙を 作る事じゃ!」 その言葉を聞いた俺は、すぐに銃の後ろに付いているボタンを押した。刹那、銃 は一瞬だけ光を放つ。そして、すぐに引き金を引いた。それと同時に、銃口から風 の塊が発射された。
第百六十七話「隙」 銃から発射された風の塊は一気にゴーレム目掛けて飛んで行く。邪魔する木の枝 を切り刻みながら、ゴーレムに向かって行く。そして、ゴーレムに風の塊が迫った 刹那、ゴーレムは物凄い速さで向かって来た風の塊を左腕で受け止めた。 「斗菟剣技・風陣!」 隣でディト爺が剣技を放つ。そして、スレイブが銃から炎の玉を発射する。 すぐに銃の後ろのボタンを押す。刹那、銃は一瞬だけ光を放つ。そして、ゴーレ ムに照準を合わすと、銃の引き金を引いた。すると、銃口から風の塊が発射された。 風の塊は迷う事無くゴーレムに向かって飛んで行く。そして、放たれた炎の玉と 風の刃と風の塊は、またしてもゴーレムが顔に当たる直前に腕でガードして、攻撃 を防ぎやがった。 ゴーレムは口元を歪ませると、にゃ〜ん、と鳴いた。 「くそっ、馬鹿にしやがって……」 俺がイライラしながらゴーレムを睨み付けたその時だった。さっきまで口元を歪 ませていたゴーレムが突然鋭い目付きに変わった。 「ぶにゃぁぁぁぁぁぁぁ!」 突然ゴーレムが鳴き声を上げて、必死に何かを払おうと暴れ始めた。よく見ると、 ゴーレムの背中に何かいるのがわかった。それは、ゴーレムの背中に大きな剣を突 き立てたディルクだった。 「にゃ!?」 が、ゴーレムは視線を俺達の方に向ける。いや、正確には飛んで来ているスレイ ブが放った炎の玉を見たんだろう。 炎の玉を見ると、ゴーレムはすぐに暴れるのを止めて右腕でその炎の玉をガード した。 炎の玉を腕で受け止めると、ディルクを落とそうとしてまた暴れ始める。 それを見た俺は、スレイブとディト爺の方を見た。 「もしかして、あいつは飛んで来た物があれば、一時そっちに集中するのか?」 俺が尋ねる様にしてスレイブとディト爺に言う。すると、ディト爺はうなずいた。 「ふむ、どうやらその様じゃな」 「とすると〜、僕達がする事はただ一つ……」 三人がお互いの顔を見る。 「とにかく撃ちまくるって事だ!」 刹那、ディト爺は剣技を放つ為に構える。スレイブは銃の引き金を引いてチャー ジを開始する。そして、俺は銃の後ろに付いているボタンを押した。 「斗菟剣技・風陣!」 ディト爺が剣技を放った刹那、俺は銃の引き金を引いた。すると、二つの風が先 を争う様にしてゴーレムに向かって飛んで行く。 風の刃は邪魔な木の枝を切り裂き、風の塊は邪魔な木の枝を切り刻む。 ディルクを落とそうと暴れているはゴーレム、自分に向かって来ている風の刃と 塊を見ると、すぐに暴れるのを止めて防御体制に入る。 「ディルク〜! 今だよ〜!」 スレイブが大きく叫ぶと、ディルクは背中に突き立てた剣を引き抜いて背中の鞘 に入れると、ゴーレムの背中を登って行く。まるで、崖を登って行く様にして。 しかし、並みの力じゃねぇな。背中に大きな剣を背負っておきながら、あの崖の 様なゴーレムの背中を簡単に登って行くんだからな……。 ガガガガガガガガ! と、ゴーレムが腕で風の刃と塊を受け止める。そして、風が止むと同時にまた暴 れ始める。 「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 スレイブが大きく叫んだ刹那、スレイブの銃口から炎の玉が発射された。
第百五十八話「暴れ狂う猫」 スレイブが銃から炎の玉を放った刹那、ゴーレムは突然激しく暴れ始め、何故か こっちに向かって来やがった。 ディルクは未だにゴーレムの背中にいると思われる。何しろ、ゴーレムが正面を 向いていて背中の方まで見えねぇ。ディルクが無事である事を祈るしかねぇな。 そんな事を思っていると、スレイブが放った炎の玉は、またしてもゴーレムが腕 で顔面をガードして、腕に直撃した。相変わらず腕にはかすり傷は一つもありやし ねぇぜ。 少し呆れたて見ていたが、ゴーレムが炎の玉を受けても全く止る気配はなく、す ぐにこっちに向かって走って来やがる。 すぐに銃の後ろのボタンを押すと、銃が一瞬だけ光を放つ。 「おらおらおらぁぁぁぁ! 受け取れぇぇぇぇぇぇ!」 刹那、俺は叫びながら銃の引き金を引く。すると、銃口から風の塊が発射される。 風の塊は迷う事無くゴーレムに向かって飛んで行く。 「うにゃ?」 と、ゴーレムは鳴くと、すぐに止まって腕を上げて防御体勢に入った。それと同 時に風の塊がゴーレムの腕に直撃する。 「今だよ〜! ディルク〜!」 スレイブがそう叫ぶと、ゴーレムの肩の辺りから大きな剣の先が見えた。それ は、間違いなくディルクの剣だった。 剣先が見えると、すぐにディルクの手が微かに見えた。 「うにゃ〜!」 刹那、肩まで来たディルクに気付いたのか、ゴーレムはまた暴れ始めた。今度は その場で暴れるだけだったが、今まで以上に暴れ始めた。周りにある木々は殆ど薙 ぎ倒され、まるでダンスを踊るかのようにして暴れている。 一見すると、ゴーレムの巨大ダンスショーという面白い場面にも見えるが、ゴー レムの肩に剣を突き刺して振り落とされない様に頑張っているディルクの姿を見る と、そうは見えなる。 ゴーレムはかなり接近していて、もう十メートルぐらいまで近付いていた。 「斗菟剣技・風陣!」 刹那、ディト爺が剣技を放った。すると、風の刃がゴーレムに向かって飛んで行 く。 「にゃん!?」 ゴーレムは鳴き声を上げると、すぐに防御体勢に入る。すると、剣を突き立てて いたディルクはすぐに剣を引き抜いてゴーレムの肩を走り始める。そして、ディル クはようやく首元の辺りまで行く事が出来た。 ディルクがいる場所は顔のすぐ下だ。これならもうすぐ侵入出来るぜ! すると、ディト爺が放った風の刃がゴーレムの腕に直撃した。 「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 突然、ゴーレムは大きく鳴き声を上げると、首元にいるディルクの方に顔を向け ると、鋭い目付きでディルクを睨んで、目を輝かせた。あから様に怪しく目は光輝 いて、マジで目の色が変わった。前までは黒色だった目が、今では赤色に変わって いやがる。 「にゃ〜ん!」 刹那、ゴーレムはディルクを食べようと口を大きく開いて、牙を輝かせる。 「ふむ、猫も飛びつくこの美味さ。ディルクの肉、新発売!」 「てめぇの肉を食らわせとけぇぇぇぇぇぇぇ!」 刹那、俺は素早くディト爺を殴り飛ばすと、ディト爺はゴーレムに向かって飛ん で行く。 「爺チャンも吹っ飛ぶこの美味さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「追い討ちを食らえぇぇぇぇぇぇぇ!」 素早く銃の後ろに付いているボタンを押すと、ディト爺に照準を合わし、すぐに 銃の引き金を引いた。 「って、なにをするんですか〜!」 隣にいたスレイブが驚いた声を上げて俺の肩をバンバンと叩く。だが、俺は落ち 着いた表情でスレイブを見る。 「安心しろ、ディト爺があれぐらいで死んだ事はあったか?」 俺がそう尋ねると、スレイブはすぐに首を横に振った。 「ないです〜」 「だろ?」 と、そんな話をすぐに終えると、ゴーレムの方を見た。 すると、そこにはゴーレムの腕に激突したディト爺の姿があった。だが、ディル クの姿はなかった。 もしかして、死んだんじゃねぇだろうな……。 一瞬、そんな不安を持ったが、ゴーレムをよく見ると、その不安はすぐに消えた。 それは、大きな剣が閉じようとする口に突っ掛かっていたからだ。剣は、縦にし てあって、ゴーレムの口は大きく開いていた。 どうやら、無事に侵入出来た様だな。
第百五十九話「爆発」 ようやくゴーレムの内部に侵入したディルク。だが、ゴーレムはまだ暴れている。 「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ご!」 突然変な鳴き声を上げると、ゴーレムは再び俺達の方に向かって走り始めた。 それを見た俺は、隣にいるスレイブの手を引っ張って走り始める。 「痛いです〜! 疲れて走れないです〜! 爺チャンを助けて〜!」 「馬鹿野郎! こんな時に泣き言を言ってる暇があったら走れ!」 必死にスレイブの手を引っ張って走っていたが、あまりにも五月蝿いから、スレ イブを睨み付けた。 「背中に乗れ!」 そう叫ぶと、スレイブの手を強く引っ張って近くに寄せる。そして、少しだけ止 ると、すぐにスレイブを背負った。スレイブを背負うと、すぐに走り始める。 先を邪魔する木々を避けながら走り続けるのは容易な事じゃねえ。だが、すぐ後 ろにはゴーレムがこっちに向かって走って来ていやがる。 ちらりと後ろを見ると、ゴーレムが木々を薙ぎ倒しながら俺の方に向かって走っ て来ているのが見える。そのゴーレムの腕には、ディト爺が振り落とされない様に 必死にしがみ付いているのが見える。ドンドンと音を立てながらゴーレムは走り、 こっちに向かって来ていやがる。 「よくやるぜ……」 そう呟くと、走る事だけに力を入れ様とした。 「うにゃ?」 刹那、ゴーレムが何とも力の抜ける声を上げた。それと同時に、ドンドンという 地響き聞こえなくなった。 すぐに後ろを向くと、そこには完全に動きの止ったゴーレムがいた。走っている 最中に動きが止ったらしく、走っているポーズのまま動かなくなっていた。 「……どうしたのかな〜?」 背負っていたスレイブが不思議そうに言う。 「もしかしたら、ディルクがこいつを止めたんじゃねぇか?」 俺がそう言うと、ゴーレムの腕にしがみ付いていたディト爺が飛び降りた。 飛び降りたディト爺は、ゆっくりとゴーレムを見上げると、すぐにこっちを見た。 「ほれ! ゴーレムの口を見てみい!」 ディト爺が言った通りに口を見ると、ゴーレムから人間の手……いや、ディルク の手が見えた。 「ディ、ディルク〜!」 背負っていたスレイブがようやく俺の背中から下りると、ゴーレムに向かって走 り始めた。 口から出て来たディルクは、口に引っ掛けていた剣を引き抜くと、すぐにゴーレ ムの肩に走り、そこから飛び降りた。その下にいたディト爺が待っていたかの様に マットを取り出して地面に敷く。そこに見事にディルクが着地した。 「早く逃げろ! ゴーレムが爆発するぞ!」 そう言うと、ディルクはすぐに走り始めた。 一瞬どういう事かわからなかったが、何となくわかった気がした。 よくある自爆スイッチでも押したんだろう。それでゴーレムの動きが止り、既に 秒読みは開始されているって事だ。 すぐに走り出した俺だったが、ゴーレムの近くにまだディト爺がいる事に気付い た。 「ディト爺! 何してんだよ! 早く走れ!」 すると、ディト爺は袋にマットを詰めている途中で、少し手間取っている様子だっ た。 「にじゅ〜! じゅうきゅ〜! じゅうはち〜!」 突然ゴーレムから響くこの声を聞いて焦った俺は、すぐにディト爺の元へと走り 出した。 ディト爺に近寄ると、マットを袋に入れるのを手伝う事にした。マットを袋に一 生懸命入れていると、 「お〜い! 早く来るんだ〜!」 すると、後ろからスレイブを背負ったディルク叫びながらがこっちに向かって走っ て来るのがわかった。 ようやくマットを袋に入れと前を見ると、そこにはディルクとスレイブの姿が。 「なにしてんだよ! もう爆発するぞ!」 俺が慌ててそう言うと、ゴーレムの秒読みがハッキリと耳に届いて来た。 「ご〜! よん〜! さん〜!」 「逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!」 俺が大きく叫ぶと、全員が一斉に走り始めた。 だが、残り少ない時間でそんなに走れるわけがなかった。 「いち〜!」 その時、俺は心臓の鼓動が高まるのがわかった。死の恐怖、それが俺に襲い掛かっ て来た。 「にゃ〜ご!」 刹那、ゴーレムの情け無い鳴き声と共に、物凄い爆音が辺りに響き渡った。
第百六十話「そして安らぎ」 ゴーレムが物凄い爆発を起こし、目の前に膨大な炎が広がった。 「斗菟剣技・防陣!」 刹那、ディト爺が剣技を放った。すると、俺達を包み込む様に光の膜が広がって いく。すぐに俺達を包み込むと同時に炎が俺達に襲い掛かって来た。一瞬にして襲 い掛かって来た炎は、俺達を包み込んでいく……。と、そうなるはずだった。だが、 光の膜が炎を完全に防いだ。 不思議そうに俺がその光の膜を眺めていると、隣にいたスレイブがよろめく様に して倒れてしまった。すぐにディルクが倒れたスレイブを抱き上げると、大きくた め息をついた。 「ふぅ……。まったく、体力が殆どないくせして、よくここまで頑張ったもんだぜ。 疲れが溜まってたんだろう。しばらく休ませてやるか……」 ディルクは少し優しく笑むと、スレイブの頭を軽くなぜた。 炎は光の膜の中に侵入する事はなく、辺りの木々を焼き尽くしていた。 俺達は全員無事の様だな。これも、ディト爺の御陰かもしれねぇな。 「……ふむ、何とか助かった様じゃな。そろそろ大丈夫じゃろう」 すると、光の膜は消え失せた。 辺りを見回すと、その破壊力がわかった。周囲にあった木は近い物だとなくなっ ていて、遠くの方だと燃えている物がありやがる。遠くの方まで見渡せるほど木は なくなっていて、あの爆発を受けていたら今頃死んでいた事がわかる。 「さて、これからコーベニアに急ぐかの。まあ、急いだところで追手は儂らを確実 に見付け出せるじゃろうがの」 ディト爺はそう言うと、ゆっくりと歩き始めた。 「ちょっと待てよ! なんで俺達の居場所が向こうにはわかるって言うんだよ!?」 歩き出したディト爺の肩を掴み、ディト爺の歩みを止めさせた。 「ふむ、奴は爺チャンが作った居場所が簡単にわかる発明品を持っておるのじゃよ。 その為、何処に行こうとも居場所は奴にわかってしまうのじゃ」 「じゃあ、俺達がするべき事は、一刻も早くそいつの家に行けばいいって事だな?」 俺が尋ねると、ディト爺はゆっくりとうなずいた。 その後、俺達はこの森を出て、コーベニアに向かう事になった。燃えた木々に気 を付けながら森を抜ける頃には、太陽が空から消えていて、辺りは静寂の闇と化し ていた。 そうそう、森を抜ける間、スレイブはずっとディルクの背中で寝たままだった。 かなり疲れてたんだろう、ディルクが走っても目を覚まさなかった。 森を抜けた後、俺達はディト爺が袋から取り出したテントで、街道近くに寝る事 にした。テントはかなり大きく、五人ぐらいだったら横になって寝る事が可能な大 きさだった。 ディルクは、モンスターや追手が来ないか夜通しで見張りをすると言った。 「じゃあ、見張りを頑張ってくれよ」 俺がそう言い残して、テントに入ろうとした刹那、突然誰かが俺の肩を引っ張っ た。 「ぶ〜! ディルクは疲れているのに交代ぐらいするです〜!」 それは、スレイブだった。振り替えると、スレイブは怒って頬を膨らましていた。 「うっせーな! 俺だって疲れてんだよ! ディルクがやるって言ってんだからそ れでいいだろ!」 スレイブの手を退けると、俺はすぐにテントの中に入って行った。テントに入る と、俺はすぐに横になって目を閉じた。 「まあ、爺チャンがしばらくしたら交代するわい」 そんな言葉がテントの外から聞こえて来る。その間もディト爺とスレイブの話し 声が聞こえていたが、それもすぐに聞こえなくなった。 そして、俺は深い眠りに就いた……。
1999年1月10日(日)17時45分09秒〜01月29日(金)19時55分08秒投稿の、帝王殿の小説第百五十一話〜第百六十話です。途中で百六十○話になってるのは、気にしないでください(笑)