〜お金の行方は…〜 「う、うそぉぉぉおおおーー!!」 なんとも悲壮な声がシルバーリーブに響きわたった。 そう。この声の発生源は、他でもないこの私、パステル・G・キングだった。 そして、その声の理由は……。 「どうしたんだ? パステル!」 あらら、クレイにも答えてあげなきゃね。 「そ、それがぁ、さいふにお金が…百Gを残してなくなってるのよぉ!」 「な、何ぃぃいいいーー!!」 …これでシルバーリーブ内で寝てる人はいなくなったんじゃないかしら? 「外には持ち出してないのよ、全然」 「かばんの中にこぼれてたりとか…」 「もう調べた」 見るも無惨なほどクレイの顔は真っ青。 ま、自分がどうなっているかを考えると何も言えないけど。 「何だよ、キットン並のでっかい声出して」 「それはどういう意味ですか!? トラップ」 あーあ、せっかく分類してた薬草がぐちゃぐちゃ。 トラップはみすず旅館に入ってくる時に私の声を聞いたんだろう。 だってさっきまで外出してたんだもの。 「聞いてよ、さいふの中身が…ほっとんどないのよぉ! 何か、知らない? トラップ」 横では、大声で驚いたキットンに、「おまえ、聞いてなかったのか?」と、 クレイが突っ込んでる。 「へ、へぇ〜。どっかですられたんじゃねぇのか? てめぇら、ぼーっと歩い てっから」 ムッ……! …ってちょっと待てよ。 「ねぇ、トラップ。あなた一体どこ見てるのかしらぁ〜?」 「あっ、お前、まさか…!」 「おぉーっ! いい勘だね、クレイちゃん。そうそう、そのまさか…」 「ほほぉーう…」 「・っ…」 ふっふっふ。顔がひきつってるわよぉ、トラップ…。 「なら当然、あなたが何とかしてくれるのよねぇ〜」 「え、いや、その…」 私の目に、よっぽど邪悪なものでも感じたか、だんだん後ろに下がってゆく トラップ。 「そうだよなぁ。やっぱこういうことは本人が…」 「けじめをつけないといけませんよねぇ…」 クレイとキットンにまで言われて、もはやその口からは一言も発せられない。 「…と、言いたい所だけど」 およっ、クレイ、何を言い出すの? 「今はトラップがかせぐのを待ってる金もない。…またギャンブルに走って、 借金するハメになるかも知れないし」 あ、そういや確かに。 待ってるだけでもお金はいるわけで。 百Gじゃ1日もつかどうか。 もちろん野宿になるし、ね。 「さっすがクレイ、リーダーだよな! んじゃ、おれはそーいうことで…」 「1人で稼ぐか? トラップ」 再び出ていきかけたトラップは、クレイの一言でぴたりと動きをとめた。 「まずはオーシんとこ、行くからな。商談はお前がしろよ」 …オーシ、ねぇ… まぁーた不利な条件、おしつけられるんだわ、絶対。
〜オーシの仕事…?〜 「おぉ、おめぇら、ひさしぶりだな!」 オーシの所に出向いていった私達は、意外にも、向こうから声をかけられた。 …なんか、機嫌いいみたい…? 「な、何があったの? オーシ」 「まあま、細かい事は気にしない! おめぇらさ、どーせまた金欠で困ってん だろ?」 「まあ…そうだけど…」 クレイが明らかにうさんくさそーな言葉にまゆをひそめながら答える。 だって、そうじゃない。 こんなに機嫌いいなんて絶対、何かある…。 「そこで、だな。このオーシ様がいい仕事、紹介してやっから、いっちょ行っ てかせいで来い! っちゅうわけだ」 「ちょ、ちょちょちょっと待って!」 「何だよ?」 「何だよも何も! そんなあやしさ100000%の仕事、うけるとでも思っ てんの!?」 「オーシが、あのオーシがよりにもよって仕事を『た・だ』で、なんて……こ れ以上怪しい仕事ってあるか!?」 そうよ、そうよ。 さっきからいやな予感してたけど、怪しいという言葉以外、あてはまらない じゃない、この話! でも、オーシは意外そうな顔をして、 「おめぇらに金払え、なんて言った所で払えるとは思えねぇし、クエストでも ねぇから、ただにしたのによ、そうかい。うけねぇんなら、さっさと帰った、 帰った」 う、うーーっ! 人の足下見てぇ! でも、この時、1人だけ予想外の行動に出たのだった。 「んじゃ、帰ろーぜ、みんな」 「ト、トラップ!?」 「まぁ、来いって」 みんながトラップの所に行くと、声をひそめて話し始めた。 「オーシがただで出す仕事なんて、ぜってー怪しい、そう思うだろ?」 「さっきからそう言ってるだろ」 「まぁまぁ。あのごーつくばりヤローなら、どんなにこっっちが貧乏だって、 金の請求ぐれーしてくるはずだ」 ま、そりゃそうよねぇ。だってオーシだもん。 でも、そこが怪しいんであって…。 だから、みんな「何を今さら」って顔してる。 「だぁらさ、それはつまり、おれ達にその仕事をしてほしいってことじゃねぇ のか?」 『あっ!!』 きれいにみんなの声がハモった。 そっかぁ、ただ怪しいって事に気がいって、そこまで考えなかったなぁ。 やるじゃん、トラップ! 「んなでっかい声出すなって。おれ達が金持ってねぇってことはあいつもわか ってるから、下手に請求なんぞしたら受けてもらえなくなる。だぁらただな んじゃねーか?」 「…でも、トラップ。もし帰ってもほっとかれたらどうするんです?」 そうよね。もし私達の読みちがえで、オーシに他のシナリオも売ってもらえ なくなったら…。 私達、お金かせげないじゃない。 「ま、そん時はそん時で何もんな怪しげな仕事受けずに、バイトするか、冒グ ルに金借りて他のクエスト買うかすればいいんじゃねーの?」 あ、そっか。 他のクエストはお金さえあれば、買えるんだっけ。あははは…。 「…まあ、それじゃ、そうしようか。んじゃ、オーシまた今度な〜!!」 「クレイがそう言って帰っていくのにみんな従う。 「へぇ、おめぇら、帰るのか? せっかくこのオーシさまがいい話もってきて やったのによ」 完璧、無視。 「そうかい、そうかい。おめぇらがそんなつもりなら、いいぜ、べつに。ちぇ、 せっかく…」 今度はグチり始めた。 でも、やっぱり、無視。 …とうとうオーシは折れた。 「わーった、わーったって。待てよ、てめーら。この仕事のこと、話してやっ から」 おっけー! トラップの読みはあたったみたい。 「それじゃ、何でただなのかも話してくれるか?」 「ああ。まあ、実はだな…」 オーシはゆっくりと話始めた。
〜怪しい仕事の依頼人 1〜 「なんかこの間、猪鹿亭で酒飲んでたらよ、知らんおっさんが話しかけてきた んだ」 「ふむふむ…」 …どうでもいいけど、オーシにおっさん呼ばわりされるようじゃ、終わりね、 その人。 「名前は…確か、オウナーとか言ったと思うんだが。それでいきなり、「いい 金儲けの話があるんだが」とか言ってきやがったんだ」 なるほど。 オーシなら1も2もなく飛びつくわね。 「まぁ…内心怪しいと思いながらも期待せずに聞いてやったんだ。ま〜ぁ、頼 みこむやつをほっとくわけにはいかねぇからなぁ」 「おい、オーシ。おれらはおめぇのホラ話聞こうってってわけじゃねぇんだ。 それで何を頼まれたかが聞きてぇんだ」 「まあ待てよ、トラップ。物事には順序があるってもんだぜ。急がば回れだ」 「てめぇの順序が間違ってるから言ってんだよ、おれは」 「ほぉう。どう間違ってるんだ?」 たちまち2人の間に火花が散る。 「トラップ、やめろ」 「うるせぇ、ノル。これはおれ達の問題なんだよ」 だぁぁ…。 なぁ〜にが「おれ達の問題」よ。 単にオーシと言い合いがしたいだけ、とか、そういうのじゃないの。 クレイも同じ事を思ったようで。 「今、そんなことしなくてもいいだろ。オーシ、話のつづきを聞かしてくれ」 さっすがリーダー。 きめる所はきめる。 「よし、じゃあ話すぞ。どこまで話したっけか…? あ、そうそう。おれ様が 話を聞いてやった所までだったな」 まだ、言ってるよ、この人。 「んで、その話ってのがだな。依頼してぇ事があるんだが、冒険者をできるだ けたくさん連れてきてくれってことなんだ」 冒険者を…できるだけたくさん…? 「できるだけたくさんって強くても、弱くても…」 「そ、関係ねぇってことだ」 …何をさせるって言うんだろ? 化け物退治なら、強い人を連れてきてもらえばいいわけだし…。 それじゃ、護衛の仕事か何かかなぁ…。 んー、でも、それでも強い人のほうがいいし。 まさか、「さぁ、みんなで畑を耕しましょう!」なんて言わないでしょうね。 「それで、だな。1人連れていけば、1万Gくれるというんだな、これが」 『い、いちまんーーーっ!?』 「おい、それって1人あたりでってことかよ!」 「あたりめぇだ」 「うっそだろぉー?!」 うそうそ! 1万Gなんて……。 私達全員で…シロちゃんは数えないとしても…ひぃ、ふぅ、みぃ…ろ、6万 ー!? 1年間働いたって、そんなお金、たまんないよぉ。 「それで…どんな仕事なんだ…? それは」 「なぁに、簡単な仕事だよ」 オーシは人指し指をたてて答えた。 その仕事とは…。 …これって本当に冒険者の仕事? 何の意味があるって言うのよ〜!?
〜怪しい仕事の依頼人 2〜 あの時、オーシが言ったのは…。 「1つ山、登って下りるだけでいいんだ」 …………。 わっけわからん。 山登りに一体何の意味が…って思った私の気持ち、わかるでしょ? まぁちゃんとわかった人は一人もいなかったし、とにかく行ってみようって ことで…。 今、そのオウナーとかいう人の家の前。 ちなみにフルネームは、オウナー・ディライト・ゼシカ、というらしい。 で、その家ってのが…。 …でかいんだな、これが。 正面玄関を見つけるまで、着いてからたっぷり1時間はかかった。 っ…つっかれた〜。 「…と、とにかく、入ろう…」 「そうですね…。山に登る前から疲れてしまいます…」 そうだよぉ。 この仕事、受けるとしたらこの先まだ山登らないといけないんだもの…。 まぁ…それで入ったんだけど。 これがまた豪華なんだよなぁ…。 で、何よりも驚いた事は…。 「オーシ様の紹介によられる方々ですね?」 「クレイ様、パステル様、トラップ様、キットン様、ノル様、ルーミィ様、そ れにシロ様でございますね」 「オウナー様がお待ちでございます。こちらへどうぞ」 …メイドさん達の大合唱。 様、様、様…って、何なんだぁ〜? 私達はパーティーに招待されたお偉いさんかぁーっ! まぁ、そのオウナーって人がいる所までがまた、すごいのなんの。 前を通る度に頭下げられて、 「ようこそいらっしゃいました」 …だよ? それでえんえんと続く長い廊下を歩いて数分…いや、数十分。 やっとオウナーって人の部屋に着いた。 こっから玄関までは、もう一人じゃ戻れないよぉ…。 コンコン…。 メイドさんがノックすると、中から声が聞こえた。 「入ってくれ」 この人がオウナーさんみたいだけど…。 なんか身もふたもないなぁ。 ドアを開けると、すんごく広い部屋。 この部屋の中にみすず旅館なら1つぐらい収まるんじゃないかしら。 あぁあ…豪華…。 その奥の方に座ってるのがたぶん、オウナーさんだろう。 きれいに手入れをした白髪をうしろになでつけていて、なんか威厳がある。 「どうも。私がオウナー・D・ゼシカです」 あ、やっぱり。 「早速、依頼の話をしたいのですが…」 「あ、ちょっと待って下さい」 話を始めようとしたオウナーさんに、キットンが待ったをかける。 「何でしょう?」 「何故、私たちをこんなにもてなして下さるんですか? 聞けば依頼の内容は たんなる山登りだとか。私達でなくても、受ける方はたくさんいるのでは?」 「ああ、そのことですか、実は…」 実は…? 何だろう? 依頼料もすごい高い(ほんとにすんごく高いの!)のに、なんで…。
〜実は怪しくない仕事…?〜 「実は…」 「実は…?」 「実は、怪しいと言われ、やって来る冒険者はすずめの涙ほどしか…」 どてどてどてっ…。 ………。 いい音したなぁ〜…こけたくらいで…。 まぁ、確かに、私達も金欠病じゃなけりゃ、こんな怪しい仕事受けないし…。 「…じゃあ、何でこんな怪しまれるような依頼、するんですか? 依頼料も法 外の…」 「いやぁ、仕事を頼むのなら、お礼はちゃんとしろと親に言われてまして」 …ちゃんとの範囲越えてるわよ…。 最初の威厳もどこへやら。 「そ、それで…山登りをしてくれ、というのは……?」 「あぁ、それですか。ここから北東に行った所にイグス山という山があるので すが…」 「あ、あのリジティーラがよくとれるという所ですね?」 「そうそう。そうです」 リ、リジ……? 「おい、キットン。なんだよ、そのリジ…何とかってのは」 「リジティーラですか? これは傷薬などによく使われる薬草で…。まぁ、動 物の治癒能力を促進するものですね」 「きっとぉん。それ、おいしいんかぁ?」 「…食べるものではありませんよ、ルーミィ」 少し沈黙してから、ルーミィは私の靴下をひっぱる。 「はいはい…」 ポケットからチョコレートを出して、口に放り込んであげた。 「ムグムグ……。ありがとぉ、ぱぁーるぅ」 ほんっとに場所を気にしないなぁ……。 ま、この子には、今どういう所にいるか、わからないんだろうけどね。 「それで、おれ達、イグス山、登るか?」 そうだった。 だんだん話が横道にずれてた…。 「そうです、そうです。私も自分で登ればいいのですが、最近モンスターが出 現するようになったと聞きまして…」 『モンスター!?』 「ちょっと待って下さい! 冒険者なら弱くてもいいって…!」 「ああ、モンスターと言っても、そんな強力なものではなくて、主にグリーン スライムなどがでてくるだけですから…」 な〜んだ。 いくら私達でもグリーンスライムくらいは倒せる。 まぁ、倒せなかったら冒険者なんてやってけないだろうけど。 「あの〜、それで最初に戻りますけど、何故山登りを…?」 「いえ、正確に言えばやってほしいことは山登りでなく、山頂の花をつんで来 てほしいのです」 「花を……?」 「ええ。実は私は画家でして。イグス山の山頂には、とてもきれいな花が咲い ていると聞き、ぜひその花を描いてみたくなったのです」 へぇ〜、オウナーさんって画家だったんだぁ。 これだけの大金持ちということは、結構売れてるんだろうな。 「あと、イグス山には、めずらしい生物がいるとのことも…。できたら、その 生物も描いてみたいのですが」 …………。 なぁんか、イグス山ってめずらしいものだらけみたいじゃない? 確かにふもと以外はまだ未開発だっていうのは聞いた事あるけど…。 「めずらしい生物というのは……?」 「さぁ…よくわからないのですが。人に似ているけれど、羽が生えていたり、 しっぽがあったりとちょっとずつちがうという話です」 へぇ〜…。 想像してみると、結構かわいいかも。 なんか、だんぜん会いたくなってきた。 「ねぇ、この仕事、受けてもいいんじゃない?」 「ああ、そうだな。別に本当に怪しい仕事じゃなかったし」 「そうですか! よかった、よかった。それでは、今日はこちらにお泊り下さ い」 「あ、それじゃあお言葉にあまえて…」 ふふっ、明日出発かぁ。 山登りっていったら、やっぱしんどいんだろうけど、楽しみだな…。 めずらしい動物って何だろう? この時には、明日誰と出会うかなんて、考えもしなかったんだ。
〜豪華なお部屋〜 「中のものはご自由にお使い下さいませ」 そう言って、メイドさんは去って行った。 今、私達は案内された自分達の部屋の前なんだけど。 なんと、1人1部屋あるんだよー! そして、その部屋がまた豪華で。 お風呂、トイレに食器棚。 なぜか冷蔵庫(飲み物、お菓子入り)まで1部屋に1個ついてるの。 ふかふかのベッドにシャンデリア…。 一流ホテルのスイートルーム並。(そこまでいかないか…) ルーミィはちっちゃいから私と一緒の部屋なんだけど、2人で使うにしても 広い部屋なの。 あぁ〜、もう、つかれなんてふっとんじゃった! 「ルーミィ、しおちゃんのとこ、行ってくうよ!」 「あ、うん、わかった」 ちなみにシロちゃんはクレイの部屋らしい。 あ、ルーミィ、ノブに手、届いてない…。 ドアを開けてあげると、ルーミィは喜んで走り出して行った。 「さ、まずはお風呂入ってゆっくりしよっ!」 私はそう言って、お風呂場へと向かう。 じゃぐちをひねると、勢いよくお湯が流れ出す。 「入れるようになるまで、ちょっとかかりそうかな…」 う〜ん、じゃ、入るまでジュースでも飲んでよっと。 中の物は自由に使っていいって言ってたもんね。 食器棚の中からグラスを出し手、ジュースを入れる。 うわぁっ、おいしそ♪ カジャっていう果物―パインみたいなやつかな―をしぼったジュース。 くいっと一口で飲むと、甘酸っぱい香りが口の中に広がる。 う〜ん、デリシャス(笑)! あぁあ、こんな高級なジュースを惜しげもなく飲めるなんて…お嬢様にでも なった気分。 ジュースを冷蔵庫にもどし、グラスをさっと洗う。 お風呂、もうすぐ入れるかな…? 私は再びお風呂場に行って…あ、ちょうどいい。 その時。 「おーい、パステル、いるか…?」 トラップの声だ。 急いでお湯をとめ、部屋の入り口まで行った。 「はぁーい!」 返事しながら、ドアを開ける。 「何? トラップ」 「いやぁ〜、別に何もねーんだけどさ。ひまだからどっかいかねー?」 「え、でもルーミィいつ戻ってくるかわからないしなぁ…」 「あぁ、そっか。んじゃ、おれは寝る事にすっかな」 「あれ? クレイとかさそったりはしないの? もしかしてもう、断わられた?」 自分の部屋に戻りかけてたトラップは顔だけふりむいて、 「そのルーミィ達はクレイの部屋にいるんだぜ?」 あ、そういえば。 「それじゃ、キットンやノルは…」 「あいつら連れて、どこ行って何するんだよ」 「…………」 う〜ん…? と、いきなり。 出て行こうとしてたトラップがまた戻ってきた。 「何…? どうしたの?」 すると、私のベッドに寝ころんで、 「自分の部屋に戻んの、めんどくせー」 ―……。 「ちょっ、ちょっと待ってよ! 起きて! 起きなさいーっっ!!」 しばらくの間、私の部屋にて。 私のむなしいさけび声とトラップのいびきだけが響き渡った。 …しくしくしく…
〜翌朝の寝不足〜 ふわぁ〜あ……。 ね、寝不足だぁぁー……。 タイトルのとおり、翌朝、私はすんごい寝不足だった。 私を寝不足にした、当のあいつはぴんぴんしてるってのに……。 「おい、ぼけーっとしてんなよ。行くぞ!」 「誰のせいだと……ふわぁーあ」 く、くそぉーっ! 「ぱぁーるぅ。おっきなお山だお!」 「あ、ほんとだ。結構近いのね」 そう。今は、イグス山に向かっている途中。 さっきでたばっかりのような気はするけど。 目の前にはもう、イグス山がある。 あと10分くらいあれば、着くんじゃないかしら? 「これでリジティールがたくさんとれますよ! ああ、楽しみです!」 キットンなんて、依頼の事はそっちのけで、喜んでる。 「おい、もうすぐだぜ!」 先に行ってたトラップが報告してくれる。 ああ、こいつの顔みるたびに、眠気と怒りが込み上げてくるわ! 「さすがにここまでくると、家の数が減ってくるなぁ」 クレイはほのぼのと町の見学してるし。 「まだ、オウナーさんの、家、見える」 ノルが後ろを振り向いて言ったとおり、少ししか歩いてないとはいえ、後ろ を見ればまだオウナーさんの家が見える。 やっぱり大きい家なのねー。 あーぁ、小さくてもいいから、いつかは家が欲しいなぁ。 私達がいろいろ言葉をかわしているうちに、向こうにイグス山のふもとが見 えてきた。 って、あれ? 「ね、あそこ、誰かいない?」 そう。よく見てみると、ふもとには誰かが座り込んでいた。 「本当だ、碧の髪……女の子?」 ノルが目を細めて見る。 その間にもだんだんその子との距離が短くなって、ノルの言うとおり、碧の 髪をした、女の子だということがわかった。 「あーーっ! あいつ!?」 びくっ! 「な、何、トラップ。何か、知ってるの?」 「え!? え、っとー」 怪しい。 ぜぇーったい怪しいぞ。 私が何なのか問い出そうとした時、その女の子が顔を上げた。 ――涙にぬれた、青緑の瞳が、日光を受けて輝く。 「あ、昨日のお兄ちゃん」 ふーん。 ここは見てた方がよくわかりそうね。 「おい、おめぇ、親に逢うために、って言ってたんじゃなかったのか!?」 「あ、うん。だから、母さんたちはこの山にいるのよ」 へっ!? 母親が山の中にいるって、この子、何者なんだぁ〜? 「この山って、おめぇの両親はきこりか?」 う〜ん、そうよねぇ。 山の中で仕事して暮らして行くなんて、きこり以外に何かあるかしら? でも、その少女は首をこくんっ、と傾げて、言った。 「さぁ? 母さん達、そんな仕事、してないんじゃない?」 それじゃ、何やって生活してるのよー!?
〜お金の行方は、実はここ!?〜 「あなたは誰? 何で、トラップと知り合いなの?」 その少女は目をぱっちりと開いて(かわいい!)、答えた。 「私、フェイク・ティス・クレイドっていうの。フェシーって呼んで。こう見 えても、12歳、のはずよ」 のはずってのが気になるけど、ずいぶんしっかりした子だなぁ。 でも、まだあどけない、そのかわいい顔立ちから、やっぱり12歳だな、と いう感じがある。 「昨日のことだけど、母さん達に会うためのお金がなくて泣いていたら、ここ のお兄ちゃんがお金、貸してくれたの」 「へぇー、よくそんなお金もって……」 言いかけて、とまった。 クレイも、キットンも、ノルも、もしかしてって顔してる。 「もしかして、あのギャンブルですったって言ってたやつ!」 「あれ、この子に貸したからだったんですか!?」 そうよ、あれよあれ。 「ちっ、バレちまったか」 やっぱり。 「で、でも、貸したんならそう言ってくれれば!」 あんなに怒ったりしなかったのに。 「んなかっこわりぃこと、言えるかよ」 いや、ギャンブルですった方がよっぽどかっこわるいと思うぞ。 まぁ、トラップの考え方で言えばそうなるんでしょうね。 それにしても。 「トラップが人に金貸すなんて、明日は嵐ですかね?」 うんうん! いっつも人に甘いの連発してたトラップが、私達に内緒でお金貸すなんて! しかも、自分が罪かぶって、だよ? 「うるせぇな! そいつ見てると、何故か信用できるやつだなって思ったんだ よ!」 へぇー、ふっふっふっ。 真っ赤になってるトラップ、かわいー・ 「ふーん」 フェシーがにやっと笑って言った。 「そんなに私とそこのお姉さん、似てる?」 え? 私が? そう言われてみれば、性格とか全然違うのに、何か雰囲気的に共感がある。 表情とか、似てるのかな? でも、それが何か、関係あるのかしら? 「うっ、うるせーよっっ!!」 何故かもっと真っ赤になって怒鳴り返すトラップ。 ??? な、何よ? 何なのよぉーっ!? 「フェシー、どぉいう意味??」 おそらく彼女には、私の顔に、たくさんのクエッションマークが浮かんでい たのが見えたことだろう。 その表情を見て、いじわるそうに笑った。 「ま、お姉ちゃんが知るのは、お兄ちゃんが言う気になった時でいいんじゃな い?」 何で、何で性格はここまで違うかなぁ。 気になるぅっ。誰か、教えてよぉーっ!
〜捨てられた少女〜 「私、パステル・G・キング。パステルでいいわ。よろしくね、フェシー」 「ええ、パステル」 あれから、とりあえず自己紹介をしようってことになって、最後は私、とい うことで、今、その紹介を終えた所。 それにしても、やっぱフェシーって大人びてるなぁ。 12歳ということだったけど、私達と同じくらいの精神年齢じゃないかしら? 「あのー」 キットンが何やらフェシーに問い掛ける。 「さきほどからの言い方からしますと、あなたは何か、普通と違う育ち方をし ているように思うのですが?」 そうそう。 『山の中にいる両親はきこりみたいな仕事をしていないと思う』ってことと か、『12歳、のはず』とか、何かいわくありげな言い方をしてたじゃない? あれって、どういうことなのかなー?って思うのよね。 「ああ、それは、私が捨て子だから、自分の事や親の事、よくわからないから」 ――一一。 『え、ええーーっっ!』 みんなの声が一一もとい、ルーミィとシロちゃんを除くみんなの声が、きれ いにハモった。 「ええぇーーっ!!」 ワンテンポ遅れて、ルーミィの声。 本当に驚いているわけじゃないのは重々承知の上。 「す、捨て子ってつまり、親に捨てられたってことか!?」 クレイがパニクって当たり前のことを聞く。 「そうよ、私は赤ん坊の時に、ここの岩の上に捨てられたの」 そう言って彼女は、最初に座り込んでいた岩をさす。 「赤ん坊で、意識なかったはずなんだけど、何故かその時のこと、覚えてるの」 そしてフェシーはその時の事を話し始めた。 それは、まとめるとだいたいこんなことだった。 フェシーには双児の姉がいるらしい。 名前を、ルシア・ビジャー・クレイドという。 自分にすごく似ていて、違いといえば、碧色の髪、青緑の瞳が、ルシアは黒 色なだけ。 母親は黒く長い髪のきれいな人で、父親は碧【エメラルド】の髪で頼もしく て、やさしい(もちろん、お母さんもやさしいけど)人。 つまり、ルシアは母親似で、フェシーは父親似なわけね。 すっごい素敵な家族だったらしい。 でも、何か事情があって、ルシアとフェシーは、一緒に暮らしてはいけなか ったんだって。 実の、姉妹なのに。 そして一一フェシーのお母さんがフェシーを捨てた、ということらしい。 「母さんが、最後に、『がんばって生きて。そして……いつか、会いに来て欲 しい』ってなきながら言ってくれたのは、今でもはっきりと覚えているの。 その時に、これをくれたんだ」 そう言ってフェシーは自分の耳を指差す。 そこには、やさしく微笑んだ、天使のピアスがあった。 「母さんに、会いたくてここまで来たんだけど。もちろん、父さんにも、姉さ んにも、ね」 そっかぁ……そういう事情だったのね。 フェシーが必要以上にしっかりしてるのは、そういうことがあったからかも しれないな。 「それで、さ。私1人で山登ったりしたら、何があるかわからないじゃない? 実を言うと、今まで山登った事、なかったから。全然何も知らないのよね。 だから、一緒に登らせてくれないかなあ?」 「それはもちろん……」 いいに決まってる。 あんなこと聞かされたら、断われないわよ。 「いいの!?」 私達がにっこり笑って頷くと、彼女は満面の笑顔を浮かべて、こう言った。 「ありがとう! 感謝するわ! あ、そうだ、トラップ。お邪魔になるかもし れないけど、よろしくね!」 「うっるせええぇぇーーっっっ!!」 あんたの方がうるさぁいっ! あぁー、もう、本当に何なんだろ?
〜悪夢、再び蘇る〜 「それじゃ、行くのは早い方がいいよね。今から登りましょうよ」 「ああ。そうだな」 そして私達は山の方を見て……次の瞬間。 誰もが目を疑った。 今、もし他の人の顔を見る余裕があれば、みんな顔色が蒼白になっているの がわかっただろう。 いつの間にか、シロちゃんの瞳があざやかな緑色に輝いている。 恐怖で、声も出ない。 手足ががたがたと震えて、涙が出てきそうになる。 がさがさと木々を揺らして紫色の動くものが近づいてくる。 緑色に光っている目。 一一悪夢が、蘇る。 「つっ!! いや……いやああぁぁぁーーっ!!」 一一……グスフング……一一 私の壮絶な(?)叫び声に、一瞬だけひるんだけど、すぐにまた襲い掛かっ てくる。 狙いは一一フェシー! 「危ないっ!」 反射的に体が動く。 指先がフェシーに触れ、突き飛ばす。 そのままの勢いで向こう側に倒れ込む。 が。 私の体が地面に落ちる直前。 背中に激痛が走った。 頬に冷たい物が当たる。 色は、紅かった。 「パステル!」 みんなの声が、聞こえる。 意識はあるけど……動けない。 もう、痛すぎて痛みが感じられないほど。 でも、私なんかに気をとられていたら……。 「みん……な、あぶな……逃げて!」 渾身の力をふりしぼって、叫んだけど、みんなかまわずこっちに向かってくる。 その時。 グスフングが、私にとどめをさそうと、片手を振り上げた。 もう、ダメ! そう思った時には、血の冷たい感覚を、感じていた。 ああ、終ったんだわ。 このまま、私は死んで行くのね。 痛みも全然感じないほどひどい…… 「ぐがぁぁああーっ!!」 うわぁっ! ん? この血、もしかして。 はっと見上げるとナイフが突き刺さり、もがいているグスフングがいた。 驚いているうちに、白銀の光がグスフングを切り裂いた。 そして一一血まみれになったグスフングは、紅く染まった地に倒れこんだ。 「だ……れ?」 気力をしぼって、剣をふるった人を見上げる。 最初に風に靡く短い紫色の髪が見えた。 「大丈夫?」 私と同じくらいの年の、男の子だった。 〜奇跡の再会〜 投稿者:蒼零 来夢 投稿日:07月16日(木)14時36分48秒 顔をあげていた私と、目が合う。 深いワインレッドの瞳。 整いすぎた顔立のその人は、私を心配そうに見つめていた。 一一すんっごく、かっこいい。 私は怪我の事も忘れて見とれてしまった。 「う……ひどいな」 そんな私にかまわず、その男の子は私の傷を看始めた。 「おい、リシェル、またあれやる気かよ!」 向こうでこの人の仲間らしき人が叫んでる。 「ぼくは大丈夫! 死にやしないんだから」 そう言って私の傷の上に手をかざす。 その手から、淡い光が溢れ出した。 これって、ヒールの魔法だよね。 さっきは剣であっさりとグスフングを倒してたけど、ギアみたいにどっちと も使えるのかな? でも、それにしたらすごい威力。 見る見るうちに酷かった傷が塞がって、あっという間に元通りになってしま った。 一一と、その時。 ふいに、その人が倒れ込んだ。 「……えっ……?」 見れば、顔中に汗の粒が浮かんでて、息遣いも荒い。 意識はすでに無いし。 うそぉ、どうしちゃったんだろ!? 「あーぁ、やっぱりな」 さっき叫んでた、この人の仲間の人が、こっちへ来て言った。 「あ、あのぉ、この人は……」 「ああ、心配しなくてもいいって。こいつ、ヒール使った後にはいっつもこう なんだ」 う〜ん、ほんとに大丈夫なの? だってほら、すっごくしんどそうなんだもん。 心なしか、顔色も青ざめてるような気もするし。 「あの、パステルを助けていただいてありがとうございます」 私があれこれ考えてるうちに来たのか、クレイがお礼を言った。 「いや、俺は何もしてないしな。やったのはリシェルだから、礼を言うなら、 こいつに言ってくれよ」 「……この人、リシェルさんっていうんですか? 男の人なのに、すごく綺麗 な人ですね」 リシェルさんって、かっこいいんだけど、男の人にはもったいないくらい綺 麗なんだよね。 いかにも美少年って感じの顔立で。 でも私が言った後、彼は少し沈黙して、そして何故かいきなり笑い出した! 「な、何で笑うんですかぁっ!? 何か私、変な事言いました?」 「あっはっはっ……はっ……。い、いや、いつも間違われるんだけどな。こい つ、リシェルは「女」なんだ」 ……………………。 「…………は……?」 「い、今なんて…………?」 お、女の人、デスカ? え……っと……? 「さっきその人、『ぼく』って言ってませんでしたか……?」 キットンの問いで我に返る。 そっ、そうよ! さっき確か、『ぼくは』大丈夫って言ってなかった!? ほら、ジュン・ケイだって女の人だったけど、ちゃんと『私』って言ってた じゃない! 「ああ、こいつは昔っから男言葉しか使わないんだよ。格好も性格も、な」 え、え〜っと、とりあえずリシェルさんは女の人なのね? でも性格とかは男っぽい人だ、と。 これでいいのね? 「まあ、とりあえず自己紹介させてもらうぜ。俺はエイオス。エイオス・アル スニーダ。で、こいつがリシェル・エスペクト。それから一一おい!お前ら もこっちに来いよ!」 エイオスさんがまだ向こうの方にいた他の仲間の人らしき人達に呼び掛けた。 小走りにこっちに来たのは、17歳くらいの男の人と、13歳くらいの女の 子。 「こんにちはぁ。私、ミニア・ベルと申しますぅ」 女の子が頭を下げると、ポニーテールにしてた赤い髪が揺れた。 性格ぬきで考えれば、トラップと並んで立つと、兄妹に見えるかも。 「セイム・インステンドです。よろしく」 透き通るような薄い水色の髪に、濃い緑の瞳。 もう1人の、男の人は、爽やかな笑みを浮かべてそう言った。 「あ、ク、クレイ・S・アンダーソンです。よ、よろしくお願いします」 横でクレイが慌てて自己紹介をする。 「ということは、君はあのクレイ・J・アンダーソンの曾孫?」 そういえば、クレイの曾お祖父さんって有名な人なんだっけ。 すっかり忘れてたよ、アハハハ……。 まぁ、こんな風に自己紹介は進んでいき、結局私が最後になった。 「パステル・G・キングです。一応、詩人兼マッパーです」 「え!?」 最初は私、私が詩人だっていうことに驚かれたのかと思ったんだけど。 その後、エイオスさんはこう続けた。 「今、パステル・G・キングって言ったか?」 「えっ、ええ、言いました、けど?」 「それなら、キリシムって村、覚えてないか?」 キリ……シム? ちょっと待って、どっかで聞いたことあるような……。 え〜っと、ちっちゃい頃に確か……。 あっ、そうそう、紫色の髪の女の子と、金髪の男の子と遊一一。 「え、ええーー!! あの時の!?」 思い出した! そうよそうよ、あの時遊んだのが、リシェルさんとエイオスさんだったんだわ!
1998年5月30日(土)20時12分28秒〜7月06日(月)20時19分22秒投稿の、蒼零来夢さんの長編です。シリーズそのものに、タイトルは付いていませんでした。