〜あの時あの人は〜 「っつ─」 ダンジョンの中、上から出っ張っている岩に頭をぶつけた。 しかしそれは夢、頭痛も収まる・・・・・・かと思えた。 夢の続きの頭痛。 しかし、こちらは現実だ。 「あったまいってぇー」 時々この状況を魔法で直したいと思ったりする。 一応魔力は備わっているが、魔法を習おうと思ったことはない。 本人の性格、めんどくさがり。 そしてもう一つ。その出費がかさむこと。 魔法は万能とは言っても、こんな気の利いた魔法なんかあるいのだろうか? 二日酔いを直してくれる魔法など。 「お〜い、さ〜どぉ〜」 下の方、自分がハンモックの上で寝ているため、下の方になるのだが。 そこにいるのは、自分の唯一無二の仲間、ゼフ・ラグランジュ。 お互いに傭兵、ペアでいろんな仕事に精を出している。 殺し以外は何でも。 「たっ、頼む。水を汲んできてくれ。お代ははずむからよ」 「おれらの間で金銭交渉したって無意味なんだけどよぉ〜」 などといいつつも、バケツを片手に川を目指す。 俺自身も、水が欲しいのだ。 季節は夏。空は快晴。しかし、太陽は容赦なくガンガンする頭を指してくる。 「太陽とめて・・・・・・」 なのに空には雲一つなかった。 「ほい、水」 ご機嫌90度という最悪の気分の中汲んできた水は、もう冷たくはなかった。 歩いて30分、しかも帰りの道は上りだから、時間がかかる。 朝だから低血圧、体中がだるく、足も思い。 そんな中、歩いていったんだ。 更に時間がかかってしまう。 「勘弁してくれよぉ〜」 「我慢しろ。文句あるなら自分で行け」 かくいう自分は、もうすでに川の水をかぶり、飲み、そしてすっきりしている。 ご機嫌水平、最高の気分だ。 二日酔いの後、これをやるとすっきりするから行った。 それが一番の理由だった。 「やっぱ調子に乗りすぎたな。あいつら、調子のっから」 「あいつら」とは、傭兵の中でも馴染みのヤツら。 名前とか顔とか関係ない。気が合えばそれでいい。 それが俺たちの法則だった。 「しょーがないじゃん。あいつら以上におまえの方が凄いんだから・・・・・・」 「どーゆー意味だよ」 「そんまんま」 ゼフほど酒癖の悪いやつを俺は知らない。 暴れ出す、奇声を出す、いきなり剣を抜く、そして器物破損、で、寝る。 酔って、眠い体を引きずりつつ、こいつを運んで。 それでも律儀にハンモックの上に寝る俺はさすがというべきか。 「おい、サード」 「ん、なんだ?」 不機嫌な声。 しかし、それも二時間後には収まる。 「今から傭兵ギルドに行くぞ」 「おう」 これがその理由だ。
〜あの時あの人は〜 「おぉ、ゼフ。まだ死んでなかったのか」 ごついバトルアクスを腰に下げたファイター。 その図太い腕と得物は、ウォーマンモスの足も一刀両断するだろう。 「おぉ、まだそれをつかってんのか。いい加減、上等のにかえろよ」 よく見てみると、いや、一目見て刃こぼれ、曇り、いろいろな欠点が見つかる。 これは相当使い込んでるな。 「けっ、よく働くワリには金がたまんねぇーんだ」 「そりゃあ、酒に変わってるんだろう?」 こうしてみると、ゼフは凄いヤツだと実感していた。 一回でも同じ仕事をしたやつの名前、顔、性格。 すべてを覚えているのだ。 の、わりには、この癖だけは直していない。 正式なパーティーの仲間なのに・・・・・・。 俺が仲間に求む、唯一無二の直して欲しい点。 「おい、フェズ。どれか良さそうな仕事、探せよ」 名前が一回一回変わっている。 そう、朝はサード、昼はフェズ、酔ったときは、オールマイティー。 最初はフェズ一本だった。 しかし、最近はこれが主となってきていた。 「なぁ、ゼフ。いい加減名前を固定してくれ。こっちもやりにくいから」 「さーちゃんだったら、固定してやるぞ」 「却下だ」 即、言い返しす。 だが、目だけはこの大きな掲示板を追っていた。 ここは、ふもとの町の傭兵ギルド。 俺らの馴染みのギルドで、よく、顔見知りを見かけたりする。 傭兵ギルド。まだ冒険者支援グループすら出来ていなかったこの時代。 ギルド=傭兵ギルドの時代だった。 一応、騎士団も確立されていた時代。 傭兵は、国から嫌われた、戦う男たちのたまり場だった。 この掲示板は、いわば仕事の依頼を書き留めた物。 貴族、町や市、富豪や、はたまた国。いわゆる上流階級の人間たち。 本人の誠意と、実力だけが報酬を左右する。 報酬は、だいたいが後払い。 もちろん、ケチる依頼人は、すぐに傭兵中から嫌われるので、結局自分が損をする。 逆の場合だってあるんだ。 よく仕事をしない傭兵も、上流階級の人間の間の情報交換によって、 すぐに雇い主が無くなる。 持ちつ持たれつのこの世界。 雇われなくなった傭兵は、路頭にくれ、挙げ句の果ては強盗。 それを退治するのは、元の同士たちだとか。 少々話がそれたが、結論。 コネや運で上に昇っていくことは不可能な世界。 それが傭兵界だ。 「ここが、ロンザ国王城、か」 目の前にそびえ立つ巨大な建造物を目の前にして。 俺は複雑な思いのまま、立ちつくしていた。 そして、何故ここに来るようになったか。 それは、上の思い出の続きにあったことだ。
〜ロンザ国の腐敗者(1)は〜 しばらくして。 入ってきた男が1人。 初老の男、いかにも傲慢な態度と、豪華な服。 一般人には理解できない、いわゆる成金趣味、といわれる服装。 人それぞれだが、これはまだ軽傷の方だろうか。 中肉中背で、頭に、自然はない。 後ろからは、いかにもボディーガード風の男が入ってきた。 「ふん、ずいぶんときたならしい所だな」 ピクリと、何人かが反応した。 たしかに、きたならしいギルドではあるが、ここは自分の常連でもあるのだ。 ただ、掲示板を見入っている2人は、知らぬ振りをしている。 「それになんとも貧弱そうな男たちだ・・・・・・。これじゃあ、傭兵の存在意義など無い、 騎士だけで十分だろうなぁ」 ハッハッハっと高笑いが響く。 おそらく、日頃上司から受けているストレスをここで発散させようとしているのだろう。 後ろの2人を見れば、だれだって口を挟むことはない。 ただ、この場にいた、2人は別だった。 「成金趣味のブタがうるせぇなあ」 「毎日酒と肉ばかり。これじゃあ、豚小屋がお似合いだ」 後ろの2人が動き出した。 それぞれ、剣とハンドアクスを持っている。 「頭も使えぬ野蛮人が、ほざくな!!!」 「じゃあ聞くけどよ、1×1は?」 なーにいってんだ、と、相棒を見るサード。 しかし、これが見事にかかった。 「2!!」 自信満々に答え、しまったと頭を抑える貴族らしい男。 すると、1人の傭兵がバカにした声でいった。 「中身は、髪とどっかにいったらしいな。ご苦労なこった」 途端、ギルドの中に笑いが起こる。 ボディーガードの男の1人が(ハンドアクスの方)手近にあったテーブルをぶち割った。 それが合図となり、全員が手に手に武器を取った、が。 ゼフ・ラグランジュが一喝した。 「まて!!野郎ども!!!!!!」 ピタッっと静まり返る室内。 「一回いってみたかったんだ、ただそれだけ」 ガタガタガタガタ・・・・・・・・・・。 こっ、この男は・・・・・・。 「冗談はさておき。おめぇら、しばらく黙っておけ。俺とこいつがかたずけるからよ」 こいつ、とは、もちろんサードのこと。 本人は、かなり驚いた様子で自分を指さしている。 「なぁーに、だーいじょーぶだ。おまえは、あのロングソードの方をやれ」 といって、指さした方もなかなか強そうだ。 「あの十人斬りみたくよ、バッサリやってくれや」 十人、斬り!? なんだそれ!!? などと思いながら。 自分が、まだ、剣を習い初めて1ヶ月だということを思い出しながら。
〜ロンザ国の腐敗者は(2)〜 ダンッ 相手が踏み出してきた。 正式に取得し、さらに鮮麗された剣術。 どうやら、フェンシングに属する剣術だ。 ─速い!!!─ 突き、そして横薙ぎ、体勢を崩すようにフェイント、そして突き。 これの繰り返しだが、素人同然の剣を振るうサードには十分だった。 防戦一方、唯一の助けは、自分が防御の修行に専念していたことだった。 ゼフより遅い、しかし速さの変化が段違いだ。 鋭い突き、緩やかな横薙ぎ、そして踏み込みによるフェイント。 しかも、それをいろいろなスピードに変化できる。 そして、さまざまな角度からの攻撃。 相手は一流だ。 「ハッ!!」 相手の集中は、一向に途切れない。 攻撃に移れない、というより、剣での攻撃をやったことはない。 ─ただ、剣での、だが─ 一瞬、相手は何が起こったのかわからない、という顔をしていた。 いきなりの横からの衝撃。 外野からの攻撃か?いいや、違う。 自分が相手をしているやつの、蹴り。 気がついたときには、もう遅かった。 右足が、横顔に決まり、左足の後ろ回し蹴り、さらに、回転、遠心力たっぷりの右足が、頭に決まる。 「うっし」 ものすごい音の後、相手は、500ゴールド安酒コーナーにつっこみ、気絶した。 「やっと終わったか、バカ野郎」 見ると、ゼフはもう、机に座っている。 ハンドアクスの戦士は、見る影もなくトイレのドアに頭から突っ込んでいた。 刀を使わずにやったな・・・・・・。 それだけ、ゼフは強かった。 「ばっ、ばかな。一流の騎士が、そんな・・・・・・」 さきほどの威勢はどこに飛んでいったか。 すっかりおびえ、入り口に駆け寄るが、他の傭兵たちに阻まれる。 うめき声を出しながら、その場に腰を抜かした。 「おっ、おまえら。儂をロメナス男爵と知っての振る舞いか。こんなギルドなど、潰してやるぞ」 「潰すのか。だったらこの場で殺さなきゃな」 盗賊風の男が、ご自慢のダガーを抜く。 それを合図に、それぞれの得物を構える傭兵たち。 「まぁ、まてや、おめぇら。こんなクズを殺しても、どうしようもない。かえってお国を怒らせるだけだ」 ゼフが並み居る猛者を前に、手を広げる。 「ここは見逃そうぜ。傭兵ごときに命乞いをしたクズ男爵のレッテル付きでだ」 「そりゃあいいや」「いいぞー、ゼフー」などの声が上がる。 その間に、男は立ち上がり、そしてドアのから外に出ようとしていた。 「くそっ、おぼえていろよ。儂の名前は、ロメナス。ロンザ国の男爵だからな」 「おお、覚えといてやる。俺の名はゼフ。ゼフ・ラグランジュだ」 互いの名前を知り、この後もふっかーーーーい因縁は続く。 もちろん、2人はそのようなことを、知る由もなかった。 パチパチパチ いきなり、拍手が響く。 その音源を見たところ、1人の行商人が座っていた。 「いやぁ、あなたがたの腕前はなかなかですね」 目深にかぶったフードから、表情は見極められないが、たぶん、男。 「だれだ?おめぇは」 「行商人ですよ、ただの、ね」 ぜってーただものじゃねぇ。 サードは決めつけた。 「んで、そのただの、行商人が、何のようだ?」 「あなたがた2人を雇いたい」 いきなりの依頼。 しかし、なかなかおいしそうな話ではありそうだ。 疑惑の目を向けるゼフ。 行商人は、手を振りながら続けた。 「いやいや、こんなところで話すのもなんですから。場所を移しましょう」 といって立ち上がり、外に出ていく。 それに続く、サードとゼフ、だが。 いきなり、サードの肩をつかまれた。 振り向くサード。怯えたように立っている、ギルドのオーナー。 そして、震えた声でサードとゼフに告げる。 「あのぉー、トイレのドア代と、お酒の代金、払っていただけます?」 この2人に、金は、ない。
〜依頼対象はロンザ国!!?〜 「しっかし、うさんくさいやろうだったな・・・・・・」 「でも、俺にとっては初めての大仕事だな。なんせ対象は・・・・・・」 にんまり笑う、サード。 それにつられて、ゼフの方も笑う。 苦笑いではあったが。 「ロンザ国、それそのものだからな」 その表情の裏には、自分の過去を振り返っていた。 「はぁ?あんた正気か?」 ゼフがビールを吹き出す。 むせながら、それでもサードから受け取ったハンカチで律儀にテーブルを拭く。 サードは思う。 ─こいつがこういうことをするってことは、酔う前兆だ─ 苦々しく思いながらも、ビールをあおる。 「えぇ、決して口外にしないように約束していただきたいのですが」 「そりゃあ、傭兵は信頼一番だから、誰にも喋りませんけど」 サードの返事に、気をよくした行商人。 「んでだ、ロンザ国を調べるたって、いろいろあるぞ。大臣の賄賂か、不平を言ってるヤツらとか、 国内にいるスパイを探るとか。それとも、大臣の愛人か?」 「いいえ、けっして無理なことはさせません。ただ、ロンザ国が今後、どう動くかを知っていただければ」 その言葉の本当の意味を知るのに、10秒もいらなかった。 「それって、俺らにスパイやれって、ことか?」 慌てて手を振る行商人。 「そんな大それた事じゃありませんよ」 「十分大それた事だよ」 ポツリと、少し物静かになってきた。 ─酔う前兆、第二段階、か─ 少しサードの顔が険しくなった。 それを、何かに誤解したか。 「そうですね、お気に召されなかったですか・・・・・・」 「ちょっとまった」 サードが立ち上がる。 「一つ、条件付きでだ、いいか?」 「条件次第では」 「ちーっとまっとけ。まず報酬だ」 「大丈夫。まず前払いは・・・・・・もうしましたね」 グッと詰まる2人。 さきほどの器物破損の弁償代は、すべてこの男が払ったのだ。 しかも、高価な宝石一個。 これでは、文句の一つも言いようがない。 「あぁ、でもご心配なく。成功報酬はそれ相応の払いをしますよ」 ま、宝石を持ち歩いている行商人だ。 期待はできそうだ。 「で、先程の条件でしたっけ?」 「そうだ。まず1つ。期間は一年でいいか?」 「かまいませんよ、急ぐわけでもありませんし」 「それじゃあ、2つめだ。ロンザ国国家図書館、そこに入れるように手配してくれないか?」 目深にかぶったフードのおかげで、表情はわからないが、あきらかに困惑している。 しかし、頷いた。 「いいでしょう。まあ、根本的には王城に潜入するわけですから」 といった後、懐から何かを取り出した。 それは、白い封筒。 「これに、詳しい手順は書いてあります。後ほど見ておくように」 といって、行商人は去っていった。 「きたぜ、ついに」 「あぁ」 2人とも、うなずき合う。 「ロンザ国、王城だ」
〜ロンザ国の大掃除役〜 「いつになったらくるんだろうなぁ」 「さぁ、それがわかれば苦労はない」 と言って、入れ立てのコーンポタージュをすするゼフ。 対するサードは猫舌のため、しばらく間をおいて飲むことに。 季節は秋、夜は少しだけ、冬の寒さを予感させる。 そんななか、焚き火の炎が、2人を暖める。 「でもよぉ、いくらなんでもあの『合い言葉』はないだろう」 「いったい、どんな意味があるんだろうかねぇ」 互いに苦笑いをかわす。 ここは、ロンザ国王城から少々離れた森の中。 しかも、兵士の見回りコースの一つのところに野営している。 理由、紙には、そうして、そして、ある『合い言葉』をその見回りの兵士に言えば、中に入れる。 だ、そうだ。 そして、その合い言葉とは・・・・・・。 「そろそろ来るだろう」 「いや、来てる」 サードの優れた聴覚は、足音を聞き取っていた。 こちらに近づいてくる、約3人の足音。 「おまえが言うんだったらたしかだろうな」 「違うって場合もあるから、武器準備」 たがいに得物を寄せる。 自然な座り方だが、その気になれば1秒もせずに起きあがり、斬りかかれるのだ。 「おい、そこにいるのは誰だ!!?」 カンテラで照らされるが、焚き火の炎が、すでに2人の顔を露わにしていた。 あきらかに警戒している声。 実際、剣を抜く音が聞こえた。 相手は、2人。 ちゃんと、ロンザ国騎士団の正装だが、おそらく下っ端であろう。 「言うしかないよなぁ」 「あぁ」 立ち上がる、が、武器は持っていない。 そして、『合い言葉』を口にすることに。 『俺たち、ロンザ国の大掃除役です』 あまりにも情けない言葉であった。 「いやあ、実際隊長から聞いたときは半信半疑でしよ。副隊長も笑ってたし。 しかしねぇ、本当にいるとは」 兵士の1人が声を上げる。 もう1人は、茂みの方にカンテラを向けた。 「俺たちだってヤですよ。こんな恥ずかしいヤツは」 サードが苦笑いを浮かべる。 ゼフは、仏頂面を浮かべたまま、言葉を発することはない。 「でも、その依頼人も変な人ですね。そんな合い言葉を考え出すなんて。 あっ、でも。依頼内容を考えれば、それもいいですね」 「まぁ、ね」 曖昧な言葉で話を切る。 さきほどの言葉を聞く限りでは、どうやら別の依頼内容が他にもあるのだろう。 本物の依頼内容、ロンザ国の動向を調べる。 それ以外の、なにか。 「しかし、大変ですよ。我々下っ端の人間なんかじゃ、とうていかなわないですからね」 「うーん、俺らで大丈夫かな?」 「あくまで騎士隊本隊の増強部員としての参加ですから。サボったってばれませんよ」 ちらっと、戦争、という言葉が頭をかすめた。 しかし、それらしい動きはここ最近、ないはずだ。 もしかしたら、それを調べろと・・・・・・。 「あっ、付きましたよ、ここが宿舎です」 立て直したばかりの、小屋があった。 中から明かりと共に、窓には、赤い何か。 「隊長!!!!副隊長!!!!!!」 2人の兵士が小屋に走っていく。 少し木臭いが、それとともに鼻を突いてくる・・・・・・血の匂い。 後ろから続く傭兵2人。 つい先程までは休息の間だったろう小屋の中は、地獄絵図へと化していた。 「んだよ、これは・・・・・・」 口を押さえながら、ゼフが呟く。 饒舌だった方の男は、外に出て、林の中に駆け込んだ。 もう1人のカンテラを持っていた方の男は、こう呟く。 「黒の死神の仕業か・・・・・・」 「なんだよ、そいつは・・・・・・」 「あまり詳しく聞いてないようですね。その男、いや、女かもしれませんが・・・・・・」 男は、こちらを振り返り、 「あなたがたが、討つべき相手の名前です」
〜黒の死神〜 「おまえたちが、その2人か」 いかにも偉そうなオヤジが1人。 白銀の鎧に身を包み、白髪混じりの赤髪を後ろで縛っている。 どうやら、今回の事件の総大将らしい。 「はい、私がゼフ・ラグランジュ。こちらがサード・フェズクラインです」 「ふ〜む」 ガチャガチャと音を立てながら、2人の顔、服装、あらゆる面を見ている。 「まあいい。とにかく、君たちはしばらくは自由行動をやっていいことになっている。 もし、ヤツの本拠地がわかれば、我々の管轄に入ってもらうが、よろしいかね?」 「はい、それは結構です」 こういう交渉事は全てゼフの担当だ。 「あと、依頼主の言っていたとおり、ロンザ国国家図書館は開放する。 これを持っていけば、素通りできるぞ」 といって、どうやら通行証のようなものを取り出した。 「それと、もう少し詳しく状況を教えてくれませんか?」 ゼフの問いに、総大将は頷く。 「うむ、まず最初にヤツが現れたのは50年前だ」 「50年前?それってけっこう歳じゃないか?」 「あぁ、その時の活動は、無差別の暗殺だった。有力な政治家や、当時の騎士団長。 英雄と言われ、数々の冒険談を生み出している冒険者などだ。 しばらくして、プッツリとその暗殺活動が終わったんだが・・・・・・。 だが、1年前から再び活動を始めたんだ。今度狙われているのは、ロンザ国の重役ばかり。 そして、以前とは違う一つの共通点があったんだ」 「なに?全部男だったとか、それとも同じ年齢だったとか?」 サードが口を開くが、男は否定する。 「違うんだ。実は、全員にいろいろな容疑がかかっていて、どれも逮捕する直前だったんだ」 「逮捕する直前に?」 「そうだ。それ以外も、死後、探ってみれば、いろいろ罪を犯しているヤツばかりだったんだ」 「やっぱり狙ってたんですかね?」 「それはわからん。偶然が重なり続けているだけかもしれん」 「それじゃあ、昨日暗殺された2人も?」 「そう、隊長の方は、以前の戦争で大量に虐殺を、副隊長は贈賄の容疑が見つかった」 全員の頭上に同じ考えが浮かぶ。 だとしたら、犯人は・・・・・・。 「そういえば、名前の由来ってなんなんですか?」 総隊長は、それを言った。 「その姿を偶然見たものがいるんだ。黒ずくめの服装をしていたらしくてな」 「それで、黒の死神、か」 「とりあえず、だ。俺は騎士たちにもっと詳しいことを聞いてくる。もしかしたら 現場を目撃したやつらがいるかもしれないからな」 ゼフが、そっちは?という顔をした。 「俺は、とりあえずロンザ国国家図書館でその前の黒の死神のほうを洗ってみる」 満足そうに頷いたゼフ。 「今は、本来の依頼より、こっちを優先にしような」 「あぁ、やりがいがあるな、こっちのほうが」 そして、思い出したように、しかし、ためらいながら言った。 「あのさ、サード」 「なんだ?」 「シー・キングの文献があったら、そっちも調べといてくれ」
〜闇の図書館(1)〜 俺とゼフが逢う前の話 たしか、ゼフの親友の刀匠が、お互い「世界一」になろうと、約束した。 だけど、その後、風の便りでシー・キングの船に襲われたと。 シー・キングの船に襲われた船は、沈められ、生還者以外の消息は絶っている。 死んだというのが通説だが、その真偽は定かではないハズだ。 「ふぅ・・・・・・」 9メートルはあろう、梯子の上で、溜息をつく。 ─広すぎだよ、この図書館は─ 100メートル四方に、上は約10メートル。さらにびっしりと本棚があって・・・・・・。 床は、規則正しく1メートル四方の青いタイルがビッシリと敷き詰めてあった。 ちなみに、自分以外は誰もいない。 「本当に死んだのかな、その刀匠は」 「鍛冶屋」ではなく、「刀匠」というのは、ゼフのこだわりだ。 ゼフが今、装備している刀、それはその人の形見だという。 「捕らえられて生きて帰った奴はいないんだ、それは知ってるだろ?」 下を見る。 そこには、りんごをかじっているゼフがいた。 「ゼフ、おまえは騎士に事情を聞いてたんじゃないのか?」 「もうだいたい終わった。そっちは?」 「あの隊長さんがいったとおりの文献が見つかったよ。それによるとだな・・・・・・」 「実は皮膚も黒かった、だろう?」 思わず落ちそうになる。 「なんで知ってるんだよ?」 「だから言ったろう?俺も調べたんだ」 たしかに、ゼフの諜報能力は並じゃない。 以前、シナリオ屋に行かずに、一つのシナリオを見つけだしたこともあった。 「そっちは、他にあったか?」 「シー・キングの方はあったぞ」 といって、一つの本を投げ落とす。 「シー・キングは、たった5年で全ての海賊が目指し、そして散っていった『海を統べる者』 の称号を得たんだ。なんでも、見たこともない兵器に、達人以上の精鋭隊、 海の上で活動してるとは思えない情報力、そしてその本人の実力だ。 実際、そいつの闘っているところを見た生存者は1人だけだけど。 言葉を忘れるくらいショックだったんだろうな」 文字道理である。 奇跡的に生還した戦士は、言葉を発することはなかった。 別に喉をつぶされた様子もなく、脳に障害があるわけでもない。 言葉を忘れたのだ。 読むことも、書くことも、喋ることも。 それほど、ショックは大きかったのだろう。 「まあ、いくらゼフでもかてっこないな」 チンッ 下の方から、鍔鳴りが聞こえた。 当然、ゼフを見るが。 別に抜刀した様子はない。 「ゼフ、刀抜いたか?」 「いいや、どうした?」 と、いって、外に出ていこうとしたとき、 「俺は世界一の剣士になる男だ。負けるわけない」 といって、外に出ていった。 「なんだ?」 その後ろ姿を、少し顔をしかめながら見るのであった。 それから、約2時間後。 ようやく、ゼフが帰ってきた。 「よぉ、まだ落ちてなかった」 「落ちてなかった?」 その言葉に疑問が浮かぶ。 ─どーゆー意味だ、そりゃあ─ 「そうそう、ようやくこの辺り全部読んだけど、全然見つからなかった」 ふぅ〜、と、溜息をつきながら降りようとすると、 「気をつけろよ、その梯子、切れてるから」 「切れてる〜!!?」 下の方をよ〜く見てみる。 すると、少しだが、切れ目のような黒い線が梯子を横一線しているのが見えた。 あの時、ゼフが、斬ったのだろう。 よくもまあ、倒さずに斬れたもんだ・・・・・・って感心してる場合じゃない。 つまり、梯子の両端は切れているけど、それが丁度絶妙のバランスを取っているわけ。 だから、少しでもバランスを崩すと・・・・・・。 「うぅおぉわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 梯子が、地面を軸に回り始める。 当然、向かい側の本棚にぶつかる、が。 固定しているためだろう、びくともせず、そのまま自分だけが垂直落下する。 「オーライ、オーライ」 ちょうど落下点に、ゼフが待ちかまえる。 受け止めた、と、同時に。 床が抜けたのだ。 「おわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 「うそぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」 で、また地面に2人とも叩き付けられる。 「いってぇぇぇ」 「んだよ、いったい」 痛がりながら、立ち上がる2人。 回りは真っ暗で、よく見えない。 「あれっ、このタイル・・・・・・」 「外れる仕掛けになってるじゃないか!!!!」 そう、ある程度の衝撃を与えれば、すぐに外れる仕掛け。 大人2人分、しかも1人は落ちてきた勢いもあるのだ。 「でも、ここはいったい・・・・・・」 「たいまつ見つけたぞ」 と、聞こえたと思ったらすぐに火がつく。 「なっ・・・」 「これは・・・・・・」 2人とも口を開けたまま絶句する。 そこには、先程の図書館とは比にならないくらいの膨大な本があった。
〜闇の図書館(2)〜 「ここは、いったい・・・・・・」 ゼフが言うのもわかる。 ただでさえあまりにも強大なロンザ国国家図書館。 その地下に、まさかこのように大きな図書館があるとは・・・・・・。 近くの本棚の本に手を触れてみる。 埃すらかぶっていない、真新しい本。 そのわりには、人が出入りしたような後は見つからなかったし、たいまつのすすも古かった。 「これは、魔法コーティングがされてあるな」 魔法コーティング。 約10年前に、ある魔術師が開発した技術。 微弱な特殊魔法を、何らかの物質に憑依させ、それを半永久的に保存させる技術。 だが、あまりにも高レベル、さらに手間のかかる技術のため、実用化のメドはたっていない。 最近では、歴史の貴重な遺産を保存されるのに使用できるのでは?と言われている。 ゼフの推測によれば、本どころか、この強大な図書館全てにそれがされてある、という。 「ちょっと、探索してみるか?」 黙って頷くゼフ。 広い、あまりにも広い。 さっきの図書館の、およそ二倍。 下手なダンジョンよりも、もっと迷路で苦楽、ジメジメしている。 そのうち、ゼフが一冊の本に手を触れる。 テーブルの上に置かれている、黒い背表紙の本。 古代文字らしく、読めることは出来ない。 互いに無言で頷き、ゼフが表紙をめくった。 ─誰だ─ 頭の中に声が響く。 2人が固まっていると、 ─人間だな─ 何故か頷く1人。 ゼフは逆らうことが出来ずに頷き、サードは正確には人間ではないため。 ─人間が、いったい何のようだ?─ 「あなたは、誰ですか?」 サードが口を開いた。 ─私は、『全てを知る者』だ─ 「全てを知る者!!?」 ゼフも口が開いた。 ようやく、といった感じだ。 「じゃあよ、この図書館はなんだ?」 ─ここは、『闇の図書館』全てがおさめられている─ 「全て・・・・・・」 ─そう、全てだ。人間が歩んできた歴史、その偽りのない全て─ 「どういう意味だ!!?」 ─人間は、その全ての歴史あかしているわけではない。自分たちに不都合なモノは 全て、消している。歴史を抹殺しているのだ。私はそのようなことはせず ただ、ここにある本全てに記憶している─ 「ここの本、全てにか!!?」 「歴史を抹殺、だと!!?」 ─そう、それを知る者こそ、『闇を知る者』禁断の記憶を持つ者だ。汝らはそれを求めるのか?─ 「言ってる意味がよくわからねぇな。それに、俺が求めているのは記憶じゃなくて力だ」 ゼフの言葉。 ─汝は何故力を求める─ 「強くなるために、世界一の剣士になるためだ」 ─それは何のためだ?─ 「友人との約束のためだ」 ─それは、その刀の示す通り、ということか─ 「あんた、ええっと『全てを知る者』だったよな。だったら、俺の友人が、死んでいるか どうか、知っているよな」 ─我に知らぬ事はない─ 「だったら、教えてくれないか?」 ─それすなわち、『闇を知る者』になるということか?─ 「『闇を知る者』だとかなんだかしらねぇが、なってやろうじゃねぇか。真実がわかるんならよ」 ─後悔、しないな?禁断の記憶を手に入れたとしても─ 「ああ」 ─もう1人、そこの青年もか?─ 「俺も、いろいろ知りたいことがあるからな」 この時の2人は、『闇を知る者』の重さを知らなかったのである。 禁断の記憶、過去がどれほど辛く、自分たち人間を恨む結果になろうとは。 ─いいだろう、しかし、これを知れば、二度と記憶を消去することはできぬ。よいか?─ 「あぁ」 「OK」 ─ならば、目をつぶれ。自分の意識を無にせよ─ 目をつぶり、ただ、何も考えない。 簡単なようで、難しいこの行動。 ─では、いくぞ─ 何かが、頭の中に入ってくる。 なんだろう、人が浮かんできた。 戦争、人が死んでいっている。 これは、ロンザ国王城!!? だれかが、逃げまとっている。あれは・・・・・・自分。 神獣狩り、それの最中。 大臣たちの会話。 そして、神獣狩りの真実。 これは、森!!? 燃えている。誰かが、火をつけている。 燃えているのは、あの、噂になったシャムクールの屋敷。 人、人、人、人、人ヒトひとヒト人ひとヒト人ヒトひと・・・・・・・・・・。 死んでいく、殺す、殺される、燃やす、埋める、殴る、楽しむ、悲しむ 憎む、恨む、ヒトが、人を、動物も、モンスターも、怯えて、震えて、人が、ナニモカモ。 ミンナ、ナイテイル カナシソウニ タノシソウニ ワラッテイル ヒトコロシテ トウサンイタイヨ ヤ・メ・テ コドモサケンデル ミ・ン・ナ・ヤ・メ・テ・ヨ
〜真実を〜 『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!』 2つの悲鳴が見事に重なる。 そして、部屋に近づく2つの足音。 『どうしたんですか!!?』 見事に重なる2つの声。 彼らの目に入ったのは、汗だくになってベットに半身を起こしている2人の男。 サードとゼフ。どちらも寝汗でベトベトだ。 『いや、なんでもない』 疑わしそうな目で見る2人。 部屋に異常がないのを確かめて、部屋を出た。 『夢、だったのか!?』 また重なる2つの声。 それを聞いて、2人も確信を持つ。 『夢、じゃなかったのか』 溜息、同時にベットを降り、大きくあくび。 同時にドアノブに触れる。 『どこに行ってるんだよ』 そこで、2人とも同じ場所に行こうとしていることに気付く。 「着替えて行くか」 「あぁ」 ここで気付く。 今になって、やっと、2人の言葉が重ならなかったことを。 「結局、真実確かめに来たってわけだ」 「そうだな」 ドアをくぐり、図書館に入る。 そして、昨日2人が落ちた場所に急いだ。 「ここ、だったな」 「あぁ、ここだ」 そして、2人は思いっきり床を踏みつける。 反応は、ない。 「おかしいな」 「昨日は、確かに」 静かさが特徴のハズの図書館に、リズムカルな足音が響く。 が、床が抜けるようなことは、いっこうにない。 そして、扉が開く音さえも、これにあっていた。 「なにやってるんですか!!?」 傭兵2人の奇妙な行動に、眉をしかめる騎士。 同時に足を止める。 「なんですか?」 「隊長がお呼びです、すぐに作戦会議室に急いで下さい」 「あぁ」 そして、騎士は図書館を出る。 「夢、だったのかな!?」 「そうあって欲しいもんだな」 彼らがこれを真実をうけとめるのは。 まだ、先の話である。
1999年8月05日(木)19時39分36秒〜8月27日(金)21時01分57秒投稿の、PIECEさんの「闇を知る者」外伝(1)です。