「青き戦士の神話・至宝の寵児たち」(1)

チャイルド パニック!! その一

あーあ、いい天気。
こんな日に原稿書いてなきゃなんないなんて・・・・つまんなーい!!
そんな日にまさかとんでもないことが起こるなんて、この時私は知らなかった・・・・

―ジュディさんの一件が終了して、二ヶ月がすぎた。
私はみんなと一緒にシルバーリーブに戻った。
みんなと一緒にいたい、何よりクレイのそばにいたい。
・・・だから、ガイナへは戻らないことに決めた。
ギアやマリーナにも話をしたら、二人とも「それでいいんじゃない」
って言ってくれて・・・・
それがなによりありがたかった。

「うわーーーーーー!!」
「なんだこりゃーーー!?」
「・・・・・!?」
隣の部屋から三人分の絶叫が聞こえてきた。
・・・・隣には確か、トラップがいてさっきクレイとギアが入っていったはず。
にしては、声がやけに高かったような・・・・
なんだかいやな予感がして、私は大急ぎで部屋にとびこんだ。
「・・・・!!!?」
・・・・なにこれ?
そこには4・5才くらいと10才くらいの男の子が計三人。
しかもクレイ・トラップ・ギアの服を着ていて(なぜかサイズは合っていた)、あわててるんだもん!!
「ど・・・どうしたの?これ」
「あ、パステル!!」
クレイそっくりの子がそばによってくる。
・・・間違いない、この子、クレイだ。
じゃあ、やっぱり後の二人はトラップとギア!?
呆然としている私の脇から、いつの間にきたのかキットンがにゅっと顔を出した。
・・・・で、言ったのはすべての元凶ともいうべき言葉だった。
「あ!!三人ともあの薬飲んだンですね!!!」
・・・・・キットン・・・・・一体何の薬作ったのよ・・・・・!?


チャイルド パニック!! その二

・・・・・やっぱり元凶はキットンだった・・・。
なんでも最近、若返りの薬ってのを研究していて、多分彼らが飲んだであろうジュース(と言い切っていた)が開発中のものだったらしい。
キットンは「大丈夫、効果は一週間くらいで切れますよ」
って言ってるんだけど・・・・・
「げーーーー!?一週間もこのまんまかよ!?」
心底いやそうな声で文句を言ったのは、言うまでもなくトラップだ。
でも顔は半泣き状態・・・・
「でも、キットン、元に戻す薬ってできるんだろ?」
トラップの頭をなでながら、5才くらいの外見になったクレイが尋ねる。
キットンは大笑いしながら、
「いやあ、あることはあるんですが材料がここにないんですよ」
・・・・たちまち、クレイとトラップの顔が泣きそうになった。
か・・・・かわいい・・・・!!
「でも、あるんだろ?早く取りに行ってくれよ」
泣きそうな二人をなぐさめながら、10才くらいのギアがうながした。

・・・・かくして、私はルーミィを含めた計4人のお守りを一人でするハメになってしまった。
キットンは例の薬草取りに行ったし、ノルはそれについてくし・・・
「わーい、くりぇーやとりゃー、ちっちゃくなっちゃったんだおう!!」
・・・ってルーミィは大喜びだし・・・・
もー!!なんでこうなるのよーーーー!!


チャイルド パニック!!その三

心は体に引きずられる。

「やーーーー!!」
「まだまだ!!」
「いけーーーー!!」
・・・無邪気にはしゃいでる、三人を見て、私はそんなことを考えた。
あれから2日。
クレイ達はすっかり子供に戻っていた。
あーあ、みんな泥だらけ。
洗濯大変なのに・・・・。
ぶちぶち言ってる私のそばに、元気な声が近寄ってきた。
「パステル!!おやつはー?」
こ・・・・この声は・・・・・
下を向くと、トラップが満面の笑みで私を見つめていた。
「トラップ、手は洗ったの?じゃないとおやつあげないよ」
こう返されると、トラップはぐっとつまった。
そんな私にクレイがにっこり笑う。
「心配ないよ、オレとギアでちゃーんと洗わせたから」
うんうん、クレイはやっぱりいい子だ。
ギアだって外見が二人より上だから、すっかりお兄ちゃんしてるし。
「じゃあ、いいよ。あっちの部屋にあるから」
『わーーーーーい!!』
大喜びで走り去っていく三人。
「はあ・・・・・」
なんかお母さんになった気分・・・・


子守歌を聞きながら その一

”ZZZ・・・・・”
四人分の寝息が聞こえてくる。
「はあ・・・・」
私は何度目か解らないため息をついた。
・・・・・ほんっと、この2・3日でいっぺんに子育てが上手くなった気がする・・・・
満月を見ながらぼんやりとそんなことを考えた。
だってだって、ちっちゃくなった三人に加えてルーミィまでいたずらするようになって、それを怒って・・・・
もうもうもう!!
「・・・早く元に戻ってよ・・・」
原稿用紙を前につぶやいた・・・・と同時に
「・・・・パステルぅ・・・」
クレイの寝ぼけた声が後ろから聞こえてきた。
慌てて後ろを振り返ると、寝ぼけ眼をこすりながら立っているクレイがいた。
「・・・どうしたの?クレイ」
つい、目線を合わせて尋ねると、クレイは私にすりよってきた。
「クレイ・・・?」
「・・・さっきね、変な夢みたの」
あらら、すっかり子供に帰ってる。
私は優しく背中をさすりながら、続きをうながした。
「変な夢って、なーに?」
「・・・・・あのね、パステルが誰かのお嫁さんになる夢」
・・・・!?
よりにもよって、なんて夢を・・・・!?
半ば呆れながら、私は声をかけた。
「別に変な夢じゃないでしょ?
私だっていつか・・・・」
「ぼくじゃなきゃいやだ」
は・・・?
「パステルはぼくのお嫁さんになるの」
!!??
・・・・多分、クレイってば子供に返ってるもんだから言いたいことを言っちゃうんだね。
なんとなく顔が赤いのを意識しながら、私はクレイを抱き上げた。
「さ、クレイ、早く寝よう、ねっ」
「でね、ギアやトラップもパステルをお嫁さんにしたいんだって。
・・・・パステル、誰が一番好き?」
このあまりにストレートな疑問に、私、顔から火を吹いてしまった・・・。
「そ、そ、それは・・・・・」
「ねー、パステル、誰が・・・・」
私があたふたしている間にクレイは眠ってしまった。
「はあ・・・」
全く、クレイってば・・・
元に戻ったとき、この時のこと覚えてるかな・・・?
そんなことを考えながら、私も眠りについた・・・。

・・・・遠くで子守歌が聞こえたような気がした・・・
不吉な予感を感じさせる、そんな感じの・・・・


子守歌を聴きながら その二

「あーーーーーーーーー!!」
みすず旅館にトラップの大声が響く。
「ど・・・・どうしたんだよ?そんな大声出して」
寝ぼけ眼をこすりながら、ギアが尋ねる。
トラップは泣きそうな顔をしながら、一通の手紙を差し出した。
ギアとクレイが手紙を見る。・・・段々目が潤みだしていく。
手紙の内容は以下のものだった。

  ”クレイ、トラップ、そしてギア
    ちょっとルーミィとシロちゃんを連れて
    キットン達を探しに行ってきます。
    三人ともいい子で待っててね。
    ・・・・大丈夫、ズールの森の中にいるから
    心配しないでね
                パステル”

「・・・・・置いてかなくったっていいじゃないかぁ・・」
泣くのを懸命にこらえながら、トラップが文句を言う。
クレイなどもうぼろぼろ涙を流している。
一人冷静さを装っているギアも、目が潤んでいた。
「・・・・追いかけよう」
茫然自失になっている中、ギアが言った。
クレイとトラップが涙を止めて、ギアを見る。
ギアは得意そうに二人に話し出す。
「パステルがおれ達を置いて行ったって、オレ達が追いかければ、置いてかれたことにならないだろ?
だから、ズールの森に行ってパステルを探すんだ」
トラップはすっかり喜んでいそいそと荷造りを始めている。
対してクレイはすっかりオロオロしてギアの顔色をうかがっている。
「ギア・・・それって約束破るって言わないか・・・?」
クレイの言葉にギアはうっとつまった。
約束破り、それだけでなく、ここ二三日でパステルに怒られることがどれだけ怖いか思い知ってるからだ。
だが、この心配もトラップが解消した。
「大丈夫だって。パステルの奴、今頃森ン中迷って
『えーん、みんなを連れてくればよかったー』なーんて
言ってるぜ。
オレ達が行きゃあ大喜びするって」
それでクレイも涙を拭って、おおきくうなずいた。

・・・かくして、精神年齢と外見年齢が大きく隔たった三人組はズールの森へ旅だった・・・・。
・・・大丈夫か?こいつら


子守歌を聞きながら その三

てくてくてく・・・
ちっちゃい足が三組、ズールの森の中を歩いている。
「・・・なあ、本当にこっちでいいの?」
ギアが不安そうに前を行く二人に尋ねる。
「だーいじょうぶ!!オレ達を信用しろって!!」
トラップの元気な声が森中に響く。
あわててクレイが口をふさいだ。
「モガッ・・!!何すんだ・・・」
「バカ、モンスターが来たらどうすんだ!?」
・・・今の三人は小学生並の体格。
つまり、いつものように戦えないどころが、下手をすれば自分たちがモンスターのえさになりかねない。
ようやく気づいた事態にうろたえるクレイ、トラップそしてギア。
「ど・・・どうしよう」
泣きそうになるクレイにトラップが元気に答える。
「な・・・なんとかなるって!!」
・・・・だがその声は木々の間を飛ぶ鳥の声に遮られた。
思わず首をちぢめる三人。
「・・・・あれ?」
おそるおそる首を元に戻したクレイの目の前に妙なものが写った。
「館・・・・?」
「あ!!あれみろよ!!」
トラップが指さす方角に見覚えのあるショートソードがある。
「パステルのだ!!」
慌ててギアが剣を拾う。
・・・ギアの今の体格にショートソードはうまくつりあっていた。
「これって、ここに落ちてたよね・・・?」
剣と館の扉を交互に見ながら、クレイが言う。
しばらく三人はちっちゃい頭をよせて考え込んでいた。
なんでパステルのショートソードがこの館の前にあるのか?
答えはすぐ出た。
「パステルはここに迷ったんだ!!」
「迷った勢いで剣も落としたに違いない!!」
「多分パステルはこの中にいるんだ!!」
・・・・・段々幼児レベルに思考が落ちてきている三人組であった・・・。


悪夢の館 その一

「ごめんくださーい」
小さい声でおそるおそる声を出す三人。
しかし、返ってきたのは静寂のみ。
「・・・誰もいないんじゃないか?」
トラップが小さな声で二人にささやく。
「でもパステルのショートソードはここの前にあったんだよ?」
「少なくてもパステルはこの中にいるってことだ」
ギアはそう言うと、パステルのショートソードをクレイに手渡した。
「ギア・・?」
「クレイのショートソードは多分オレの方が使えると思う。
今の外見じゃクレイには重すぎるよ、それ」
「で、パステルのはオレがちょうどいいと・・?」
クレイは自分の身体を見て、仕方なくうなずいた。
「準備はいいな?」
そう言った瞬間、
”ばたーーーん!!”
後ろの扉が大きな音を立てて閉まった。
「え!?」
・・・扉の取っ手は今の三人では到底届かない。
つまり少年達の退路は閉ざされてしまった。
「・・・どうしよう・・・」
不安そうにクレイが呟いたその時、なま暖かいものが彼の首筋をなでた。
「ひぃ・・・!!」
そこにはおぼろげな影―ゴースト―が不思議そうに彼らを見つめていた。


悪夢の館 その二

「ひえっ・・・!!」
「だ・・誰だ!!」
おびえるトラップの前でギアが剣を構えるが・・・足は思いっきり震えていた。
ゴーストは小首を傾げて三人を見ていたが急に深々とお辞儀をした。
「あーら、お客様でしたのね?
外見と中身が全然違うんでつい戸惑ってしまいましたが・・これでは執事失格ですわね」
「は・・・?」
予想外のリアクションに呆気にとられているクレイ。
こうなると途端に強気になるのがトラップで案の定、ゴーストにかみついた。
「やいやい!!パステルはどこだ!!」
ゴーストは困ったようにトラップを見つめ・・
ぽんと手を打った(ゴーストが手を打つってのも変な話だが正確にはそんな仕草をしたということだ)。
「パステル・・・、ああ、先ほどいらしたお嬢様ですね?エルフのお子さまと可愛らしいワンちゃんを連れてらした・・・」
「そ・・そう!!そのひと、ここにいるの!?」
せき込んだように言う、ギアの言葉にゴーストは大きくうなずいた。
「なんでも、森の中で迷われたとかでご主人様がいたく気に入られて、今頃お茶してますわ」
(・・・やっぱり)
・・・見事に予感が的中した三人であった。

「今、ご主人様に取り次ぎますので
うちの子たちと遊んでいてくださいね?」
ゴーストはそう言うと、大広間の正面にある扉を開いた。
・・・そこには小さいゴーストが3人、おもちゃを囲むようにふらふらと飛んでいた。


悪夢の館 その三

「あんときのことは思い出したくもねぇ・・・
悪夢だぜ、まさに」
・・・元に戻ってから、そうトラップは述懐している。

「ふーん、じゃあその状態が亡くなった年なんだ」
「そう、ある意味不老不死、なんだけどね。
退屈で・・・」
クレイとギアは年長らしい二人のゴースト―リュウとジェスと名のった―とそんな話をしていた。
リュウは10才ぐらい、ジェスは7才ぐらいの外見だ。
「・・・で、あの子もそうなのか?」
そう、クレイがいった先には熊のぬいぐるみに調教されるトラップの姿があった・・・。
熊のぬいぐるみは遊ぶための便宜上の依代で実際は三歳ぐらいのゴースト、ミーナなのだ。
リュウとジェス曰く、ミーナは外に出ることがなく、寂しい境遇だったらしい。
で、その無念が彼女を作ってると。
「・・・しかし、どっからあんなこと覚えてきたんだ?」
ギアが呆れるのも無理はなく、ミーナが
やってるのは完全に女王様だった・・・。
ジェスが恥ずかしそうに身体を小さくする。
「あれ・・・どうも母さんが見ていた変な雑誌の影響らしいんだ・・・」
「・・・・」
あまりに刺激の強い話題に言葉を失うクレイとギアの二少年であった・・・。

そんなわけでかれこれ20分ほどトラップがいじめられてると、おもむろに扉が開いた。
「母さん!!」
「まあ、みんないい子にしてた?」
・・・例のゴーストが現れた。
彼女はクレイ達に目をむけると(クレイとギアはおびえていたが)、丁寧にお辞儀をした。
「さ、ご主人様がお待ちかねですわ」
「・・・助かった・・・」
半泣きになりながら、そちらによって行くトラップ。
・・・しかし、そうは甘くなかった。
「や!!トラップ、行っちゃやだ!!」
またもや熊に・・もとい、ミーナになつかれ泣きそうになるトラップくんであった・・。

悪夢はまだ続く・・・?


アフタヌーンティーはご一緒に その一

ゴーストに連れられて、三人は奥の部屋にむかった。
ミーナも一緒だ。
彼女曰く「もっとトラップに芸をしこむのー」
だそうだ。
当のトラップは逃げ回っていたが、クレイとギアは薄情にもケイレンするお腹を押さえ、黙っていた。

「ご主人様、お嬢さんのご友人の方をお連れしました」
「入りなさい」
澄んだ水のような声が返ってきた。
  ギギィ・・
扉が開き、その先にはいすに座ったパステルとルーミィ、シロ、そして黒髪の美女が優雅にお茶を飲んでいた。
「パステルーーーー!!」
「クレイ!トラップ!!それに・・ギアまで!?」
目を白黒させるパステルにクレイとギアはしっかり抱きついた。
トラップは顔を赤くしつつ、ふくれっ面でパステルをにらんでいる。
と、言っても目はうるうるしていたが。
「三人ともどうしてここが・・・?」
「パステルを探しに来たんだよ」
首にしがみついていたギアが得意げに答える。
「本当は待ってようって言ったんだよ。
でも、『パステルは絶対寂しがってるから行こう』ってギアとトラップが言って、ここまで来たんだ」
ちゃっかりパステルの膝の上で甘えていたクレイがギアの話の続きをする。
それを聴いて、黒髪の美女はころころと笑った。
「あら、じゃあ、その話も聞かなきゃね」
―不思議なお茶会の始まりだった。


 1998年5月19日(火)22時16分07秒〜6月17日(水)21時20分09秒投稿の、冬木来奈さんの小説です。元々シリーズ題名はなかったのですが、冬木さんよりこの題名が提案されました。

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