アフタヌーンティーはご一緒に その二
柔らかな日差し。
風に揺れるカーテン。
そこで繰り広げられる優雅なお茶会。
・・・ここが簡易テントの中のことだなんて信じられない。
「どうしたの?パステルさん」
ここの持ち主、つまり黒髪の美女が尋ねる。
あ、彼女はレイラフィール。通称、レイラ。
かなり高レベルの魔法使い、つまり魔女だ。
「あ、いえ、・・・随分凝ってるな・・って思って・・・」
しどろもどろになりながら、私は答えた。
だってだって、彼女ってば女の私でも憧れちゃうくらい、きれいなんだもの。
しかも話術が巧みで、私はいろんなコトを話していた。
もっとも、二ヶ月前のことはのぞいて、だけど。
だって、それを話そうとした途端、クレイが泣きそうになったんだから。
・・・多分彼にとっては、いくら吹っ切ってもまだ新しい傷なんだろう。
だもレイラさんはすべておみとおしって顔でクレイを見ていた。
そんなのどかなティータイムはとんでもない地響きとともに幕を閉じた。
「な・・・なんだ!?」
「多分私の一族を滅ぼそうとしている連中よ!!」
レイラさんはきっと、ある一点を見つめていた。
天使の再来 青き力
・・すさまじい力。
魔力を持ってない私でもわかるくらい。
クレイ達はおびえたように私にすがりついていた。
「くっ・・・」
とりあえずこの部屋に結界を張ったレイラさんが歯がみする。
「レイラさん・・・?」
「どうやら質より量で来たようね。
ここの結界もどれだけもつやら・・・」
皮肉っぽく笑う彼女の視線の先にクレイがいた。
「レイラ・・・さん?」
「クレイ・・っていったけ?
貴方『青の至宝』でしょ?
貴方ならあいつらを追い払えるわ」
な・・・!?
なんでクレイのこと・・・!?
「おい!!なんでクレイのこと知ってるんだ!?」
トラップが私の後ろからレイラさんに抗議する。
彼女はゆったり笑うと、クレイの額に手を当てた。
「貴方たちにはわからないかも知れないけど、彼のことは魔法使いや賢者の間で有名なのよ。
クレイ・ジュダが封じた至宝の化身、ってね」
彼女がしようとしていることはすぐ解った。
クレイの力を利用して敵を倒すこと。
でもそれはクレイの意志じゃない!!
「やめて!!クレイは人間として生きるのよ!!」
「至宝としてなんて利用させない!!」
私とギアが彼女を引き剥がそうとしたけど意外にも彼女の力は強かった。
「・・いっとくけど、ここで彼が至宝の力を使わなきゃ全滅よ。
あなた達も私もね」
「みんな・・・死ぬの?」
酷薄とも言うべき魔女の言葉にクレイのか細い声が重なった。
すでに彼の身体を青い燐光が取り巻いている。
「・・・だったら、オレ使うよ。至宝の力を」
「クレイ!?」
何てこというの!?そんなコトしたら貴方は・・
私の考えを見透かすかのようにクレイは本来の年相応の笑みを浮かべた。
「だってこのまま手をこまねいていたら全滅、だろ?
だったらこれしか方法はないよ。
おれ、みんなを・・・パステルを守りたい。
だから・・・こわくない」
「クレイ・・・」
悲しみに満ちた声があたりに響く。
「・・・大丈夫。
たとえ、どんな力を持とうともオレはオレだよ。
そうだよね!?シロ!!」
「はいデシ!!」
そして、光は満ちた。
「・・・!?」
「青き天使の登場ね!?」
そこには元の姿に戻ったクレイがいた。
だけど・・・・その背中には青い光を放つ天使の翼があった・・・・
(クレイ・・・!!)
とうとう行ってしまった・・・
かつてジュディさんが苦しんだ苦難の道を・・
悲しみの天使
クレイは青い翼で飛んでいく・・・
その姿は本当に神話の世界の人間みたいで・・
私たちと違う世界のようで・・・
「クレイ・・・」
クレイの剣が一人をたたき落とす。
彼らしい戦法、誰も殺さずにダメージだけを与えていく。
「・・・これで一部の力なんて信じられないわね」
薄い笑いを浮かべながら、レイラさんはつぶやく・・って。
一部の力!?これで!?
私の戸惑いに気づいたのか彼女は肩をすくめた。
「だってこれで全部解放しますって言ったら貴女やちびちゃんたちに殺されてしまうわよ、わたし。
それにあの連中ならわざわざしなくっても、あのくらいで追っ払えるしね」
・・・なんかこの人よくわかんない。
いかにも貴婦人って思ったら、今度は魔女で、次が賢者だもの。
「おい、あんた一体何者だ?」
トラップが私の後ろから尋ねる。
彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべ、
「さーて、何者でしょう?」
・・・だもんなぁ・・・
これじゃ、トラップ怒るよ。
ちらっと、彼の方を見た、その時
”・・・・!!”
青い光が全ての魔法使い達をたたき落とした。
光の発生地は・・・クレイ。
「・・・これが・・・至宝の力・・・?」
それだけ呟くと翼は霧散し、・・・ゆっくりと落ちてる!!
「クレーーーーーイ!!」
『ヨイタ・・キイデン・・トゲヒロヲ、サバ、ツニラゾ・・
オオノア!!』
私の悲鳴とルーミィの呪文が重なる。
”・・・ふわっ・・・・!”
クレイの身体は落下速度をゆるめて、羽のように落ちてきた。
「クレイ!!大丈夫か!!」
ギアが必死に声をかけてるのに答えがない。
「・・・力を使いすぎたのね」
すごく優しい目でレイラさんはつぶやいた。
「まったく、人間ってのは・・・」
クレイは三日間目を覚まさなかった。
夢で逢えたら 〜クレイの夢
青い・・・
全てが青い世界を漂っている・・
なんか不思議だ・・・
あれほど人間でいるって言ったのに、至宝の力に酔いそうだ・・・
多分レイラさんが解放したのはごく一部だろう。
仮にもオレのことだから、それくらいはわかる。
なのに・・・この力全てを解放してしまった、自分の手で。
おかげで魔法使い達を一掃できたけど・・・
ああ・・・・今までの悩みや苦しみがなくなっていく・・・
力が浄化してくれてるんだな、きっと。
いっそこのまま・・・
(バカ兄貴!!)
突然オレによく似た、でも違う声が怒鳴りつけてきた。
(何だよ・・せっかく人がいい気で・・・?)
(何がいい気よ、そのままじゃ本当に至宝になっちゃうわよ)
・・・そう言ったのはオレの片割れ・・・
もう二度と会えないって思ってたのに・・!!
(ジュディ!!)
(・・・全く、前言撤回するなんて男らしくないよ)
ジュディの言葉にぐっとつまる。
・・そうだ、オレはなんて言った?
「人間として生きる」そう言ったじゃないか!!
なのに、力に酔って、忘れかけるなんて・・・
ジュディは大きくため息をつくと、よりにもよってオレの頭をはたいた。
(な・・・!?)
(兄さん、至宝である以上、たしかに厄介ごとに巻き込まれるけどね、貴方には仲間がいるじゃないの。
人間として大切にしたい人がいるじゃないの!!
至宝になってしまったら、そんなこと許されないのよ!!
わかってる!?)
パステル・・・大切にしたい女性・・・そしてトラップ、ノル、キットン、ルーミィ、シロ、ギア・・・・かけがえのない仲間たち。
そうだ、人間としてのオレはこんなに沢山の宝物を持っている!!
力のためにそれを失ったらいけないんだ!!
(ありがとう、ジュディ)
オレが笑うとジュディも微笑んだ。
(もう、こんなのナシだからね)
(わかってる、・・・それにお前にまた会えて嬉しかったよ)
・・夢だったかも知れない。
でもオレは信じている。
ジュディがオレを導いてくれたこと。
・・・もう間違えないから。
騒動はつづく
「ん・・・・」
小さなうなり声をあげ、クレイは目を覚ました。
「クレイ!!」
「おめぇ、目は・・・?!」
・・・まだ眠そうな彼の瞳の色は・・・鳶色。
いつものクレイの目だ!!
「クレイ!!よかった!!」
うれしさのあまり、私はついクレイを抱きしめていた。
「パ・・・パステル?」
「ばか・・・心配したんだから・・・」
泣きじゃくりながら言う私の背を、クレイはなだめるようにぽんぽんとたたいてくれた。
「大丈夫、もう間違わないよ」
優しく言って、彼はそばにいるトラップやギアにもしっかりうなずいていた。
次の日、クレイの身体はまた子供に戻っていた。
たまたまいてくれたレイラさん曰く、
「至宝の力が安定してないからよ、
やっぱり薬草で治すしかないようね」だそうだ。
それでこの時帰ってきていたキットン達は戸惑いつつも調合を急いでいた。
「さあ、できましたよ」
そう言ってキットンが取り出したのは・・・・お世辞にもおいしそうとは言い難い緑色の液体だった・・・。
「・・・キットン、これ、大丈夫なんだろうな・・・?」
心底疑わしげにギアが尋ねる。
キットンったらやけに自信ありげに胸をたたいた。
「大丈夫です!!これで元に戻れますって!!」
その言葉に押されるように、おそるおそる三人は
液体Xの入っているコップに口をつけて・・・
一気に飲み干した。
「さあ・・・これで・・・・?!」
怪しい煙が三人をそれぞれ包み、それが晴れた瞬間そこにいたのは・・・・三匹のネコ。
「え・・・・?」
あまりのことに声も出ない。
しばらくまじまじと三人・・・もとい三匹を見ていると、急にレイラさんが笑い出した。
「やだー!!それ解毒剤じゃなくって変化の薬じゃないー!!」
えーーーーーー!?
キットンは慌てて薬草図鑑と肝心の薬草を見比べて・・・・これまた大笑いしだしちゃった。
「わーっはっはっはっはっは!!いやー、私ったら思いっきり間違えてしまいましたよー!!」
三匹は怒りも露わにキットンににじりよると一斉に攻撃しだした!!
「わーーーーーっ!やめ・・やめてください!!」
「やれやれ!!やっちゃえ!!」
必死に逃げようとするキットンをレイラさんはクレイ達と追いかけ、私は声援を送っていた。
まったく!!誰のせいだと思ってんのよ!!