道しるべ〜伝説の始まり
二人は支え合うようにクレイの実家の前までもどってきた。
「パステル・・・ごめんな」
「や・・やだ、何謝ってるの?」
妙に真摯な瞳に照れながら、パステルが笑った。・・・その時
「・・・!!」
・・・パステルの唇はクレイのそれによって塞がれてた。
と、思ったらすぐ離れる。まるで唇の形をなぞるように優しく。
「・・・クレイ」
「さ、中に入ろう」
クレイはパステルに背を向けてしまい、お互いどんな顔をしていたか見ることはできなかった。
・・・実は二人とも耳まで真っ赤に染めていたのだ。
「クレイ!」
「パステル!!」
家には、みんながそれぞれ何とも言い難い顔をして待っていた。
「みんな・・・」
「てめぇどこにいってたんだよ!!」
怒ったようにトラップが怒鳴る。
その目は少し心配そうに彼を見つめていた。
「・・・悪かったな、心配かけて」
しっかりした笑みで答えるクレイ。
その表情にその場にいた全員が、クレイの葛藤の結果を知った。
「こんにゃろう!!心配かけやがって!!」
トラップが首根っこをつかんで、ヘッドロックをしかける。
「や・・やめろよ!!トラップ」
「いーえ、クレイ、あなたはそれを受けて当然です!!」
キットンにまでしかられ、クレイはギアやノルに助けを求めた。
「ギア!!ノル!!とめてくれ!!」
「・・・しばらく受けていろ」
「トラップ、心配していた。それくらい受けてやれ」
そう言いながらも二人の目は笑っている。
すべてを納得した笑みだ。
そのやりとりにパステルは、なんとなく羨ましさを感じていた。
・・・翌日、一行はドーマをでた。
行き先はエレッセ。
クレイの両親がジュディを預けた寺院があるところだ。
そこで彼女に何があったのか。
全てはそこから始まる。
青と赤の堕天使 その一
・・・エレッセへの道のりは大体10日くらい。
途中乗合馬車があったけど寺院までは、歩きとなった。
旅はいつもより随分重苦しい雰囲気だった。
クレイはもとよりあのキットンでさえ、何もしゃべらなかったんだもん。
・・・多分、クレイの運命が、みんなを黙らせてしまったんだろう。
それが辛く、なによりクレイがかわいそうだった。
薪がはぜる音がする。
私は志願して見張りに立っていた。
いつもならノルかクレイがやるって言ってくれるんだけど、今回ばかりは話が別。
だって、男性陣全員がひどく消耗してるんだもの。
そんなことさせられない。
え?私はどうなんだって?
決まってるじゃない。
何があろうともクレイのそばにいるって。
だからさして消耗してなかった。
別に悩む必要ないしね。
ふと、全員の寝顔をみるとルーミィとシロちゃん以外、全員苦しそうだった。
(みんな・・・辛いんだね)
なんだかつらくって、空を見上げたとき、
「・・・ひどい連中、女の子一人に見張りさせるなんて」
ため息まじりの声が後ろでした。
・・・そこには銀色に輝く毛皮を持った狼をしたがえた、赤い髪と紫の瞳をもつクレイそっくりの容貌をした長身の女性―ジュディ・セレス・アンダーソン―が立っていた。
青と赤の堕天使 その二
な・・・なんでこの人がこんなとこに・・・?
戸惑う私に彼女は肩をすくめた。
「そんな警戒しなくって・・・って言っても無駄か。
その顔じゃクレイと私の関係、知ってるみたいね」
クレイによく似た声と笑顔に私はついうなずいていた。
「心配しなくても、人の寝込みを襲って殺そうなんてせこいこと考えてないから。
・・・あいつとは一騎打ちでカタをつけたいし・・・
なにより、守護石抜きの至宝じゃ私に勝てっこないもの」
「守護・・・石・・?」
いぶかしげに言った私に、ジュディは少し目を見開いて・・・そして、笑った。
「・・・・なーんだ、そういうことだったの」
しばし、笑い続けた後、急に鋭い目つきに変化する。
な・・・?
「セレーネ、どう思う?」
そばにいた氷狼、セレーネに問いかけるジュディ。
セレーネは私の匂いをかいで、トラップ、ギア、ノル、キットン、そしてルーミィやシロちゃんのとこをまわって・・・
”キューン”
うなずくように細く啼いた。
満足げに彼女はうなずき、闇の方へゆっくりと歩き出した。
「ちょ・・・・!?」
止めようとする私にむかって、彼女は鋭い言葉をたたきつける。
「私の片割れに言ってちょうだい。
『守護石を見つけたからには、遠慮はしない。
はやくエレッセにいらっしゃい』ってね」
言葉と裏腹な、寂しい笑顔で・・・・彼女は闇にとけていった。
私はぼんやりと立ちつくすしかなかった。
・・・シュゴセキヲ・・・テニイレタ・・・?
私たちのことをセレーネに調べさせて、彼女はそう言った。
まさか・・・私たちが・・・?
青と赤の堕天使 その三
・・・私が私でなくなる・・・?
薪のはぜる中、黒い疑問が私の中によぎった。
彼女は、ジュディは、クレイが守護石を手に入れたって言った。
あの狼に何かを確かめさせて。
(・・・クレイってこんな不安をかかえてるの・・?)
この痛みがつらくって、私はしゃがみこんでうつむいた。
「・・・おめぇ、何やってんだ?」
寝ぼけと呆れを含んだトラップの声に、私はあわてた。
「ト・・・トラップ・・?起きてたの・・?」
「ああ、あいつとの会話全部きかせてもらったよ」
一気に全身から血の気がひく。
まさか、トラップ何か気づいたんじゃ・・?
じっと見つめるうちに、トラップの顔からいつもの表情が消えていた。
すごい無表情になっている。
「・・・宿命・・・か、皮肉なもんだぜ」
ややあってつぶやいた言葉。
「・・・生まれた頃からの幼なじみが究極のお宝で、オレや仲間・・・惚れた女までとんでもねぇ運命背負って・・・皮肉としかいいようがねえじゃねぇか?
おまけにそいつに実は妹がいました、なんてお笑いもいいとこだぜ!!」
・・・トラップが怒ってる・・・。
自分のためじゃなく、クレイやみんなのために・・・
そして、この事態にいらだってる・・
でも、私は・・・
「トラップ・・・、あのね、私はいくら選ばれても結局は自分が決めていくと思うの。
・・・私はクレイのそばにいて守るんだって決めたから、
・・・・・・・怖くないよ」
思いを言葉にすると、さっきの不安が消えた。
しっかりとした目でトラップを見る。
「パステル・・・」
驚いた目で私を見るトラップ。
そして苦々しくつぶやいた。
「・・・・・・クレイがお前を変えたってのかよ・・・」
その声はひどく切なそうだった。
至宝の葛藤〜ジュディ
彼女は夢を見る。
悲しい思い出と至宝故の憎しみと・・・人としての悲しみを。
いつも始まりは墓の前にいる。
泣いている自分と寄り添うセレーネ。
そして、助けてくれた賢者、ディレンシェ様。
「ジュディ・・・もう泣いてはいけない」
ディレンシェ様が慰めてくれるけど、涙は止まらなかった。
シスター・マム、・・・私のお母さん。
その死に泣いてはいけない法はないはず。
賢者様は厳しい口調で私をたしなめる。
「シスター・マムの気持ちを無にしてはいけません。
・・・これから、貴方は宿命と戦わなくてはいけないのですから」
・・・宿命・・・・?
それは至宝としての戦いのことだった・・。
賢者様は私に全てを教えてくれた。
私が闇に堕ちた至宝であること。セレーネが守護石であること。
それがゆえに両親に捨てられたこと。
そして、・・・至宝の片割れ、青の至宝が私の双子の兄であること。
聞いたときは全てを憎んだ。
戦士になって力をつけたのも、全て復讐するため。
そう、親もあいつも憎んでる!!
最近、あいつに会った。
・・・私によく似ている。
でも性格は正反対。
しかも至宝って自覚がてんでない。
あんなに守護石に囲まれてるのに、わかってないし。
・・・こんなヤツ倒しても嬉しくない。
条件が同じじゃなきゃ、勝った気がしない。
だから、待つことにした。
・・・・・本当は誰も憎みたくない。
人間としての私が悲鳴を上げる。
・・・でも、もう遅い。
全ては始まった。
至宝が戦えばどちらかが砕けなければならない。
・・私は生きる。だから、憎み続ける。
じゃないと、あいつを「兄さん」って呼んでしまいそうだから。
青と赤の堕天使 その四
・・・翌日、私は夕べのことを大体話した。
あ、トラップとの話はのぞいてだよ。
そしたら全員考え込んじゃって
・・・・やっぱり言わなきゃよかった!!
「・・・何で、こうなるんだよ」
クレイの苦々しい声が静寂を破る。
「クレイ・・・?」
「オレ、みんなを巻き込みたくなかったのに・・・
何でみんなまで!!
こんな運命オレ一人でたくさんなのに!!」
仲間を守護石かも知れないって可能性だけで、巻き込みたくない。
そう叫んでいるようで、クレイの姿はひどく痛々しかった。
「・・・クレイ」
ギアが呼びかける。
クレイが素直に振り向いたとたん、
”バキッ!!”
・・ギアの一撃はクレイを吹っ飛ばしていた。
「ギア・・」
「クレイ、いいかげんにしろ。
オレ達はみんな、自分で考えてそれでお前のそばにいるって決めたんだ。
お前は言ってみれば、中心なんだ。
それをほいほい心を揺らされては、オレ達が安心できないだろ?
・・・念のため言っておくが、一人でこっそり行こうなんて考えるなよ。
その時にはお前をそこらの木に縛り付けてやるからな」
最後の言葉は茶目っ気たっぷりに、言葉をしめた。
・・・そうね、ギアの言うとおりよ!!
私は自分で選んだ。
だから、迷わないもの!!
「ギア・・・」
「クレイ、一人でいきたきゃ、私を殴ってからにしてよ」
「・・・パステルまで・・・」
疲れたように笑うクレイ。
その中にはあきらめがあった。
だって、みんな言葉には出さないけど、ギアの言うとおりだって顔が言ってるもの!!
「・・・すまない・・」
ついにクレイは降伏した。
ルーミィとシロちゃんがはしゃぎ出す。
と、同時にキットンが素朴な疑問を口にした。
「・・・それにしても、守護石って何なんでしょうか?」
・・・へ?
・・・・・・そういえば、守護石ってどうして至宝と関係あるか、私たち知らなかったっけ・・・。
ふたたび考え込んでしまった私たちの前で、シロちゃんがとんでもないことを口にした。
「ボク、守護石のこと聞いたことあるデシよ」
えーーーーーーーーー!?
シロちゃんのお話 守護石について
「これはホワイトドラゴン族に伝わるお話なんデシ」
・・・昔、神様の宝物が二つに割れる事件がありました。
片方は何とか回収したのですが、もう片方とかけらは地上に落ちてしまいました。
堕ちた片方は闇の世界にいってしまいましたが、かけらは地上に残りました。
そして、大気や大地、そして、すべての生けとし生けるものに宿りました。
・・二つの宝を待つために。
「・・・で、ボクらホワイトドラゴン族は至宝の大きいかけらをずーーーーーーーっと持ってたんデシ」
「じゃ・・・シロちゃんも・・?」
私の言葉にシロちゃんが大きくうなずく。
「ボクのなまえは『至宝を待つもの』って意味なんデシ」
へえ・・・そんな由来があったんだ・・・
感心している私たちをよそに、クレイはますます考え込んでしまっている。
・・・この話、クレイ抜きですればよかったかな・・・?
「でも、持ってるからどうだっていうことはないんデシよ」
沈みそうになるクレイがこの一言で顔を上げた。
シロちゃんがにっこり笑いながら、クレイのそばにちかづく。
「クレイしゃんが至宝だとしても、力を発動させるには”想い”が必要なんデシ」
「想い・・・」
「そうデシ。誰かを守ったり何かしたいって想い、それがなきゃ至宝はただの石デシ。
これは守護石も同じデシよ」
「・・・・守りたい・・・・想い」
クレイはその言葉をかみしめるように、ゆっくりとつぶやいた。
すっと、立ち上がる。
”トクンっ・・・・”
その顔にはさっきまでに迷いはなかった。
それに、いつもと違う・・・なんだかすごく、素敵・・・・!!
彼を見ているのが恥ずかしくって、私は目をそらした。
クレイは一人一人ゆっくりと見つめ、こう宣言した。
「・・オレは、クレイ・シーモア・アンダーソンだ。
青の至宝でも神の宝でもなんでもない。
オレは人間なんだ」って。
その姿は、さながらサーガにでる英雄のようだった。
恋の行方 クレイの宣戦布告
・・・そこまでは物語みたいって、ひたる余裕があったのよね。
クレイがあんなこといわなけりゃ。
誓った後、クレイはまっすぐギアとトラップの前にやってきた。
「クレイ・・・?」
「ギア、トラップ、多分お前らにも迷惑かけるとおもう。
だけど、パステルのことは譲らないからな」
まっすぐな瞳でそういってのけた。
ちょ・・・クレイ!!何言うのよ!!
ギアとトラップはしばらくぽかんとしていたけど、反応は見事に違っていた。
ギアはクレイの胸あたりに軽く拳をいれて
「それはこっちのせりふだ」
って言って返すし、トラップは全身赤くして
「な・・・な・・・なにいってんだよ!?オレはこいつのコトなんて・・・」
ってあわててるし。
そしたら、今度はキットンまでルーミィたちと一緒になって
「ほー、クレイがパステルを好きだとは!!」
「ねー、くりぇい、ぱぁーるのことしゅきなんかぁ?
るーみぃもしゅきだおう!!」
・・・なーんて騒ぎ出すし・・・・
もう!!私はどうすりゃいいのよーーーーーーー!!
至宝の戦い その一
・・・・それからはとくにトラブルはなくエレッセに着いた。
・・・まったくクレイったら!!
おかげで、しばらく男性陣の顔まともに見られなかったんだから!!
特にクレイは。
・・・なんだか、自分の気持ちがクレイに傾きそうな気がして。
そっと横にいるクレイを見ると、今までになかった強さが彼を彩っていた。
(クレイ・・・)
また、少し気持ちが彼の方へかたむいた、そんな気がした。
「・・・なんだこりゃ」
エレッセの寺院を見て、トラップが変な声をあげた。
・・・寺院は廃墟と化していた。
「・・・だいぶ前に壊れたようだな」
がれきをとって、つぶやいたギアの言葉に同じくがれきをあさっていたキットンが同意する。
「そのようですね。この壊れ方からすると、大体10年くらいたってますね。
しかもこれは・・・」
急にぶつぶつ言いだしたキットンはほっといて、私たちは顔を見合わせた。
「・・・ジュディはここで育ったと聞いていたのに・・・」
クレイの瞳に哀しい光が見えた。
「一体どうして・・・?」
「ここは10年前、どっかの魔法使いの修行のとばっちりを食ったのよ」
後ろから、澄んだ声が聞こえてきた。
全員が後ろを振り返る。
そこにはクレイそっくりな女戦士と銀色の狼―ジュディとセレーネが剣を携えて立っていた。
「ジュディ!!」
「ようやく守護石を見つけたようね。クレイ」
宿命の双子は再び邂逅した。
至宝の戦い その二
クレイはジュデイに向き合うように、一歩前に進んだ。
「・・・どういうことだ?」
かすれた声での問いを笑うようにジュディは唇をもちあげた。
「額面通り。10年前、この近くで修行していた魔法使いの攻撃魔法でつぶされたってこと。
幸い、私は助かって真実を知った、ってワケ」
他に何か?とも言いたげな彼女に、クレイは再び話しかけた。
「・・・オレは至宝とか宿命とかどうでもいいって思ってる。
仲間がいて、大切にしたい人がいて・・・それで十分だって思う。
・・・・・ジュディ、帰ろうよ。父さん達のところに」
「・・・・あのお人好しが・・・!!」
トラップが小さく舌打ちした。
・・・彼が言いたいのは大体解る。
憎しみに包まれた彼女に、そんなことが通じるものか。
人間として生きようとする兄と、至宝として生きる妹にもはや共存はないんだ、と。
・・・でも・・・クレイはそうしたかったんだと思う。
妹の存在を知ってから、彼が彼女に対して負い目を感じていたのは私が知っている。
両親から引き離された、彼女にすまないって、いってたもの・・・。
だから、クレイは言ったんだと思う。
・・・でも、ジュディはそれをはねのけた。
「・・・何言ってるの?私もあんたも至宝の片割れ。
いくら人間として生きようとも、力を欲する者にそんな理屈は通用しない。
それに、私は至宝としての生き方を貫く。
至宝がぶつかる先は・・・どちらかが死ぬことになる。
共存などありえない!!」
たたきつけるように言うと、ジュディは剣を構えた。
・・気のせい・・・?
その瞳には深い悲しみがある。
戸惑う私の前にクレイが立っていた。
「交渉決裂・・・か」
苦笑混じりの言葉を、周りは容赦なく非難した。
「あたりまえだろうが!!向こうとこっちじゃ考えはまるで違う。
なのにんなこと言うなっての!!」
「・・・トラップに同感、だな」
うう・・・みんなそこまで言わなくッテも・・・
クレイは困った顔をしていたけど、すぐ真剣な顔になって話し出す。
「これからあいつと一騎打ちだ。
みんなは手を出さないでくれ。
それと・・・・あの狼牽制よろしくな」
「クレイ・・・」
このときすごく泣きそうな顔をしていたんだと思う。
クレイは優しく微笑むと、私の肩を抱きしめた。
「大丈夫、・・・オレは必ず勝つよ」
そして額に暖かいものがふれた。
・・・キスしたの?
彼は照れくさそうに笑って、もう一人の自分―ジュディ―の方へ歩んでいった。
「クレイ・・・」
「大丈夫。あいつは勝つさ。・・・守護石がついてるんだからね」
ギアがそう言ってくれてるけど・・・・
私はもう一つのことを心配していた。
彼の心。
二つの至宝がぶつかったら、どちらかが砕ける。
つまり、二人は兄殺し、妹殺しをおこなうってこと。
・・・そんなことに、その重荷にクレイは・・・
心を壊してしまうんじゃ・・・・!?
私は懸命に祈った。
・・・どうか、クレイが心を壊してしまわないように・・・と
どうか・・・神様!!