プロローグ
そんな・・・
思っても見なかった。
トラップがいなくなるなんて。
だって彼はずっとそばにいてくれた。
なのに、なのに・・・・
「・・・そんなにトラップが好きなのか?」
・・・え?今のクレイの声?
なんか怒ったような低い声・・・
戸惑うわたしの肩をつかんでクレイはやるせない顔をした。
「トラップじゃなきゃだめか?・・・おれじゃだめなのか!?」
「ちょ・・・、クレイ・・・」
パニくっているわたしをよそにクレイは身体を抱きしめた。
・・・うそでしょ!?
どうしたっていうのよ!!クレイ!!
混乱しまくってる・・・
いったいどうしたのよ!!クレイ!!
戸惑う私をよそに、クレイは一言ささやいた。
「おまえが・・・・好きだ」
・・・・・
・・・・・え!?
「クレイ・・・」
「ずっと妹みたいだって思ってた。
でも、お前が、トラップばかり気にしてるのを見てたら・・なんだかいらいらしてきて・・・やっと気づいた」
そういうと、やっとクレイはわたしを解放した。
「クレ・・」
「わかってる。まだ仲間以上かは、わかんないって言うんだろ?
・・・それでもいいよ、ただ・・・」
鳶色の瞳が甘い光をふくんで、それがわたしをみていて・・・
・・・ああっ!!何がどうなってるの!?
・・・知らなかった。
クレイがそんな風に思っていたなんて・・・
私にとってクレイって・・・頼りになって優しくて
・・・まるでお父さんかお兄さんみたいな・・・そんな感じなのに・・
「・・・パステル」
鳶色の瞳にのぞき込まれ、いっそう意識が混乱してきた。
「クレイ、あのね・・・」
とりあえず腕の中から解放はしてくれてたけど、彼の手は私の腕をつかんだままだった。
その手が微妙にふるえている・・・。
そう思うと、なんだか言葉に出すのがつらくて、つい口ごもってしまった。
「・・・・・」
しばらくクレイは私を見ていたけど、急に強い力で再び抱きしめてきた。
「ちょ・・・」
「ごめん、もうちょっとこのままで・・・」
そう言った時、通路の反対側で誰かが息をのむ気配がした。
「パステル・・・、それにクレイ・・?」
その声は間違いなく、ギアのものだった・・・。
あーーー、何だってこんなとこギアにみられちゃうのよ!?
「・・・その手を離せ、クレイ」
怒りを押さえたような低い声・・・
多分普段のクレイなら、彼の言葉に従うだろう。
でも今日はそうはならなかった。
「・・・いやだ」
ギアに負けないくらい、何かを押さえ込んだ低い声がはっきりと拒絶の言葉をつむぎだす。
「パステルは誰にも渡さない。ギア、あんたにもだ」
「な・・・!?」
「みんなオレが鈍感だと思ってたから、気がついてない、とでも思ったんですか?
オレだってパステルと二年間一緒にいるんだ、気がつきますよ
ギア、あんたに何か言われたくらい。
・・・それがようやくわかった
パステルは渡さない!!トラップにも・・あんたにもだ!!」
それだけ言うとクレイは私を放し、剣を抜いた。
「パステル、さがってて」
いつもは優しい瞳が厳しい光を放ってる。
それに挑発されるように、ギアも剣を抜いた。
「君と剣を交えるのもはじめてだな・・・」
「いくらレベルが違ってても油断は禁物ですよ」
私・・?私のために二人が戦うの!?
やめて!!やめてよ!!クレイ!ギア!
二人の剣が交錯する。
やっぱりレベルの差を反映してるのかクレイが押されている。
「いいかげん、あきらめたらどうだ?」
冷静なギアの声にクレイがかっとした。
「力じゃ及ばないからかっ!!?」
「・・・それもある」
クレイの剣をはねとばし、冷静に言ってのけるギア。
「やめて!!ふたりともやめてよーーー!!」
私はおもわず声を張り上げた。
「冗談じゃないわ!!二人が争うなんて!!
第一、こんなコトしてる場合じゃないでしょ!?」
そうよ、今私たちって王家の塔にいるんじゃない!
だとしたら、好きとかそんなことで張り合ってる場合じゃないじゃないの!!
「パステル・・・」
二人とも拍子抜けたように顔を見合わせて、大きな声で笑い出した。
「ははは・・・!!すっかり状況を忘れてたよ」
「オレもですよ、つい熱くなっちゃって」
しばらく笑っていた二人だったけど、ふと真面目な顔でギアが
「クレイ、さっきパステルにいったこと、あれ本気か?」
・・・・そういえばコトの発端ってクレイが私のこと好きだっていったことから始まったんだっけ・・・
クレイの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「そっ・・それは・・・」
さっきの勢いもどこへやら。
急にしどろもどろになってしまう。
でも、
「・・・・・・・・本気でなきゃ、言いませんよ、あんなこと」
って言われたときには、ドキッとしたわ、ホント。
ギアはしばらくクレイの顔をみてふっと笑った。
「・・ライバルの登場か。これは油断できないな」
・・・・う・・・気まずい・・・
クレイとギア、さっきまで私のことで喧嘩してた二人が、異様なまでに静かなんだもん。
クレイはどこか思い詰めた顔してるし、ギアだってなんか考え事してるみたいだし
・・・・いったいどうすりゃいいのよー!
はやくキットン達のとこいって、この状態、なんとかしなきゃ
「・・・なあ、クレイ」
急にギアが口を開いた。
クレイが戸惑ったように顔を上げる。
「どうしたんですか・・・?」
「・・・いや・・・、トラップはパステルのことどう思ってるか、知ってるか?」
どきんっ!!
私は体中が変に熱くなるのを感じた。
・・・なにいってるのよ!!
クレイも顔をしかめてギアを見ていたけど
「・・・知りませんよ、そんなこと」
吐き捨てるような口調。
・・でも何か知ってる・・・
それをきこうとクレイを見た、そのとき、
「パステルーーーーー!!クレーーーイ!!どこですかーーーー!?」
・・・キットン・・・声響いてるよ・・・
「どうしたの!?キットン」
私はあわててキットンの方に駆け寄った。
クレイ達もすぐこっちに来る。
キットンはしばし息を切らしていたが
「もう、3人ともこんなとこにいたんですか!?大体パステル、あなたがいなくなって、ルーミィがわんわん泣いてるんですよ!
ちょっとは考えてくださいよ!!」
・・・・・・ちょっと・・・そのことで大声出していたワケ・・・?
クレイやギアも明らかにむっとしてるし。
「・・・用事はそれだけか?」
クレイの並々ならぬ声にかなりびびったんだろう。
「外!外見てください!!」
あわてまくった声で、促してくる。
で、外の方を見た瞬間
「トラップ!!マリーナ!!アンドラス!!!」
そう、騎士たちに捕まって身動きとれないでいるトラップとマリーナ、それにアンドラスの姿があった。
その横には横柄そうな中年の男と、気弱そうな私たちと同じ年の男の子が一人。
たぶんあれがゾラとナレオなんだろうけど・・・・
・・・ナレオってなんかトラップににてない?
いや外見そっくりってわけじゃないけど、髪の長さとか背格好とか・・・
結構にてる。
戸惑っている私たちをよそにミモザ王女が声を張り上げた。
「貴様ら!!どういうつもりだ!!」
「どういうつもりも王女、我々は”王位のあかし”をとりにきたのですよ」
うう・・・嫌みな感じ!!
憤慨して声も出せなくなった王女に今度はナレオが声をかけた。
「・・・・王女」
!?!?
・・・何これ!?
顔はトラップに似てるのに、声はクレイそのものじゃない!??
いったいどうなってるの!?
パニックになってるのは私だけじゃなかった。
横にいるクレイやギアまでも呆然とした顔で下を見ていた。
「私は王になる。なって貴女を后にする」
ナレオはクレイそっくりの声でそう、ミモザ王女に言った。
「ナレオ!?」
「貴様何を言ってる!!」
王女の戸惑った声とゾラの怒り狂った声。
その隙をついて、トラップが騎士達の手から逃げ出した。
「トラップ!!」
「受け取れ!!」
言葉と同時に投げられたお守り・・・、あれって王女が言ってたやつじゃない!?
お守りはすいこまれるように私の手に収まった。
多分、王女と間違ったんだろうな。
あちゃーって顔で私を見ている。
「トラップ・・・」
「早く行け!!」
再び押さえ込まれそうになるのを得意の逃げ足でかわしながら、トラップが叫ぶ。
「行くぞ!!」
王女の毅然とした声にはっと我に返って、私たちは合流した。
・・・・けど、
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
マリーナの悲鳴があたりにこだまする。
「トラップ!!!」
真っ先に窓の外を見たクレイの顔が青ざめる。
その表情に私はいやな予感がした。
「クレイ、どうしたの・・・?!」
「見るな!!」
真っ青な顔で私を止めるクレイ。
でもそれは意味をなさなかった。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
キットンの声でひるんだすきに窓の外をみる・・・・
「!!」
そこには血まみれになって倒れているトラップと彼を支えるマリーナの姿があった・・・・
守るために
・・・・うそでしょ!?
あのトラップが血塗れになってるなんて。
立ちすくむ私の腕を誰かが急につかんだ。
「早く行こう!!」
せっぱ詰まった声はクレイのものだった。
「で・・でも・・・」
あのままじゃ、トラップは・・・・
私の顔が不安でゆがんだ。
しばらくクレイは私をじっとみつめていたが、すぐ腕を放し、ギアの方に向けた。
「クレイ・・・?」
「オレはトラップ達を助けに行く。ギア、みんなを連れて上へ行ってくれ」
「ちょ・・・・!!クレイ!!」
戸惑う私をよそにギアはクレイの顔をみて、
「わかった、死ぬなよ」
それだけ言って、私の腕をとった。
「パステル?」
「放して!!クレイだけに行かせられない!!」
「ばかっ!!彼の気持ちが分からないのか!?」
思いがけないギアの言葉に、私は去っていくクレイの背中とギアを
交互に見つめた。
そんな私にギアは静かに語りかける。
「彼は君に・・・愛しい人に安全な場所にいてほしいから、
あえて自分が仲間を助けに行ったんだ。
だから君が行けば間違いなく彼は怒る。
・・・だから行くんじゃない」
・・・クレイの背中が涙で曇っていく・・・
私・・・どうすればいいの?
愛しい人のために〜クレイの視点で
・・・ったく、オレ何やってんだか!!
あの今にも降りていきそうなパステルの顔、見たらとっさにからだが動いてた。
・・・わかってる。
パステルが誰を好きなのかくらい。
・・だてにパーティ組んでるワケじゃないからな。
オレはトラップ達をかばって、騎士の剣を自分の剣で受けた。
「クレイ!!」
「・・・ばかやろう・・・なんで降りてきやがった・・・?」
マリーナの声にかぶさるように、トラップが文句を言ってきた。
まったく、口が減らないヤツだな!!
「お前が死んで悲しむヤツがいるからだよ!!」
・・・そう、パーティのリーダーとして、幼なじみとして、なによりパステルのためにこいつを守らなきゃならない。
多分パステルは・・・こいつが好きだから。
オレは剣を振るって、騎士達をなんとか追い払った。
マリーナに言わせると「あの時のクレイ、すごく怖かった」らしい。
騎士達がいなくなると、ゾラとナレオの二人が残った。
オレは勝機を見いだし、静かにいった。
「ゾラ宰相、ナレオ、おとなしくミモザ王女に王位を渡すんだ」
しばらくゾラは忌々しげにオレを見ていたが急ににやりとわらう。
(何だ・・・?)
っと思ったときはすでに遅く。
オレは誰かの剣に腹を貫かれていた。
「・・・・!!」
「クレーーーーイ!!」
薄れ行く意識の中で、パステルの声を聞いたような気がしていた。
思いは朝日のように
「クレイ!!」
彼を追って塔を降りた私たちが見たものは、腹を貫かれ瀕死の重傷を負ったクレイと血塗れになりながらも彼を守るトラップの姿だった。
「・・・!おめえら!!行けって言っただろうが!!」
声を大にして怒鳴るトラップをよそにギアとキットンがクレイのそばに行った。
「ギア・・・」
「動くな」
彼はクレイの傷口に手を当て、ヒールの呪文を唱え始めた。
ゆっくりと、だけど傷は確実にふさがっていく。
(よかった・・・)
その光景を見ながら、私はあることを思った。
このひとたちとずっと一緒にいたい、って。
足手まといかも知れない、役立たずかもしれない。
でも、彼らと離れて、私に何が残るんだろう。
思い出?後悔?
そんなのいやだ。後悔なんてしたくない。
少しでも彼らの役に立ちたい。
闇を照らす朝日のように思いついたコトをかみしめ、私はもう一つの戦い―ミモザ王女とナレオの対決―をみた。
「ナレオ・・・なぜわかってくれない!!」
悲鳴のような声を上げるミモザ王女に、ナレオは静かにいった。
「王女、貴女に私の気持ちがわかりますか?
宰相の息子として貴女の遊び相手になった、そして惹かれていったのに身分が想いを止めた。
貴女と対等になりたい、だからこそ父のたくらみにのったのです」
「ナ・・・ナレオ!!貴様なんてことを!!」
ゾラの声に動じることなく、ナレオは思いがけない提案をした。
「私をあなた達と一緒に塔へ連れていってください。
そこで『王位の証』が貴女を選んだとき、私は身を引きましょう」
・・・って。
ナレオを加えて塔へ再挑戦。
私たちは異様な緊張感にあふれていた。
え?ゾラはどうしたって?
マリーナとアンドラスに縛られて、見張られてる。
ナレオもそうしろって。
・・・なんか、トラップの外見にクレイの声でしょ?
親近感がわいてくる。
しかも彼、そこそこ剣が使えるようでしっかり戦力に数えられていた。
だから、さっきよりずっとスムーズに進んでいた。
そして・・・最上階へ足を踏み入れたとき、
ミモザ王女の持っているお守りが輝きだした。
全てを従える王のような輝き。
そのまぶしさに目をそらす。
多分・・・そらさなかったのは王女とナレオだけ。
次に目を開けたとき、二人の姿は目の前から消えていたから。
「・・・・」
「・・・待つか?」
拍子抜けしたクレイの声に私たちは虚ろにうなずいた。
泣きたくないのに・・・
ミモザ王女とナレオが消えてから、状態が一変した。
クレイが倒れてしまったからだ。
多分、ギアのヒールじゃふさぎきれなかったんだろう。
腹部から血が吹き出てくる。
「ク・・・クレイ!!」
「大丈夫・・・・大丈夫だから・・・」
笑顔で答えようとしてくれてるんだけど・・・
血が床に大きな池をつくっている。
並の出血じゃない!!下手したら・・・・!!
「何言ってンだ!!その状態でなにが大丈夫だ!!
ちったあ状況把握しろ!!」
悲鳴に近い声で怒鳴るトラップをギアとキットンが押しとどめた。
「トラップ!!けが人の前ですよ、静かにしてください」
「その通りだ、それにクレイがああ言ったのは・・・・」
そしてギアは意味ありげに私を見た。
「好きな女に心配かけたくないからだ」
ギ・・ギア!?
一瞬で顔が赤くなるのがわかった。
トラップもびっくりした顔でクレイと私を見る。
重苦しい沈黙の中、ルーミィとシロちゃんの泣き声が響く。
「・・・・クレイ」
トラップの深い声に誘われるように、私の瞳から涙がこぼれた。
徐々にクレイの顔から生気がぬけていく。
「・・・・・・・助けて」
自分の声だってわからなかった。
でも、気づいたとき、私は泣きながらギアとキットンにすがっていた。
「お願い!!ギア!キットン!!クレイを助けて!!」
「パステル・・・・」
「私何も言ってない!!ありがとうとか好きだって言われた答えとか・・
なのに・・・なのに・・・」
泣き崩れた私にギアの声が優しく響く。
「大丈夫、オレ達に任せて」
私は大きくうなずくと、ノルやトラップ達と一緒に少し離れたとこに座った。
・・・・お願い!!クレイ!!死なないで!!
過去・現在そして・・・
・・・・冒険終わった後でも忘れない。
あの時の時間がとてつもなく長かったことを。
私はひたすらクレイの無事を祈ってた。
・・・多分、ノルやルーミィ、シロちゃん・・・そしてトラップも。
(クレイ・・・・)
初めて会ったのは、・・・そうだ、スライムに襲われてた時だった。
あの時、同じ年ぐらいの男の子でこんなかっこいい子見たことないって思ってたんだよね。
・・・なのに、そばにいるのが当たり前って思っちゃって・・・
(ごめんね・・・そんな風に想ってくれてたなんて、私知らなかった・・・)
色んなコトを話したい、だから・・・・
祈るような気持ちで手当をしているギアとキットンを見つめていると
「・・・馬鹿野郎・・・変なこと考えやがって・・・」
吐き捨てるように言ったトラップの言葉がなんだか妙で私は彼の方を見た。
「トラップ・・・?今のどういうこと・・・?」
この問いにあからさまにしまったって、顔をしてたけどもう遅いもんね!!
「いっとくけど、私には聞く権利があるんだからね!!」
こう言ってやったら、ついにトラップは観念したのか、一言。
「お前をオレに譲る、って考えやがったんだよ!!あのやろう!!」
「・・・☆*#@★!!」
私は声にならない声をあげて、耳まで真っ赤になっているトラップを見つめた。
すべての結末その一
・・・クレイが、トラップに、私を、譲る、って、言った・・・?
半ば呆然としながら、私はトラップを見た。
「・・・あのやろう、鈍感なふりして何もかも気づいていやがったんだ。
はっきりいわれたよ。
『今のお前にはパステルは渡せない。好きな女を泣かすようなヤツにはな』ってよ。・・・・まいったぜ」
ため息をつくトラップはなぜか幼く見えて・・、私はつい頭をなでた。
「・・・それって、ひょっとして・・・」
「ああ!おめぇがわがままこいて、クレイに外、引っぱり出された日だよ!!」
・・・ああ、あの時・・・。
あの時、もう王女役やるのいやだっていって、トラップが怒って・・・
それでクレイも怒りそうになったときだ(新FQ三巻参照)
(あの時がうそみたいだね・・・)
こんなふうにトラップが話してくれるなんて・・・
ふっと、トラップの顔を見つめた・・・その時。
”・・・ギギィ・・・”
重い音とともに、正面の扉が開いて、そこからミモザ王女とナレオが出てきた。ううん、二人だけじゃない。
神官風の衣装を着た女性が彼らと一緒だったんだから!!
全ての結末その二
ミモザ王女とナレオ、そして謎の女性に私たちの視線があつまった。
全員が注目する中、女性が口を開いた。
「・・・王位の証はミモザ・ローレンティーナ・キスキンが手にしました」
「!!」
王女が、王位のあかしを・・・手に入れた・・・?
でも彼女何も持ってない・・・・
困惑する私たちにナレオが苦笑混じりで説明してくれた。
なんでも、王位の証とはその人物が王にふさわしいか見る試練だったそうで、
「自分のことしか考えられなかった私に、資格はなかった」
そう彼は自嘲気味に話した。
女神官―彼女はリリアと名乗った―は静かな笑みを浮かべ、こういった。
「王とは権力の証ではなく、人々を守る象徴でなければならない。
それはえてしてゆがんでしまうけど、誰かを想うこと、みんなの幸せを祈りそのために力を尽くすこと、その想いがあることをしめすことこそが、
・・・・王位の証なのです」
人を想うこと、幸せを祈り、力を尽くすこと・・・
「じゃゾラのおっさんじゃ到底なれっこないじゃんか!!」
そういってトラップは大笑いした。
そういやそうよ。前ならともかく今の彼じゃリリアさんに追い返されるだけだもん。
何となく苦笑に満ちた雰囲気の中、リリアさんは倒れているクレイの横にかがんだ。
・・・そうだ、クレイ死にかけてたんだ!!
「リリアさん・・・あの・・・」
「・・・・この方、素晴らしい力を持ってますわ」
私の呼びかけを遮るように、彼女は目を細めた。
「青き宝玉・・・・優しき力・・・・、この方を死なすわけにはいきません」
やけにきっぱりとした口調でいうと、静かに手をかざした。
青い光が彼を包み・・・・、みるみる傷がふさがっていく!!
私はいつの間にか涙ぐんでいた。
「クレイ・・・」
よかった・・・・本当によかった・・・・
謎は血脈の中に
「・・・そうか・・・無事に済んだんだ・・」
ベッドから体を起こし、クレイはにっこり笑った。
―私たちはあのあと、リリアさんの力でフロリサン亭の近くまで送ってもらった。
クレイもいくら助かったとはいえ、簡単に動かせる状態じゃなかったしね。
「彼が目覚めたら、こう言ってください。
『血脈は宿命を呼ぶ』と」
リリアさんはそう言って寂しげに笑っていた。
・・・彼女、クレイのことで何か知ってたんだろうか。
確か、「青き宝玉」って言ってたっけ、クレイのこと。
彼の中の血・・・一体どんな謎が・・・?
「・・・どっちにしても今はいま、だろ?」
・・・・この脳天気さ!!
・・・ま、いいけどね。
あ、そうそう、ミモザ王女達の方だけど、こっちは無事王女が王位について一件落着!
ナレオは彼女の補佐として彼女にふさわしい男になるよう修行するんだって!!
あの二人どうなるのかな?
私とトラップに似てる分なんか複雑・・・
一方、ゾラの方は、謀反がばれて生涯息子の監視下におかれるようになった。
ゾラについた貴族達も粛正され、新しいキスキン国は一歩を踏み出した。
「・・・ところでさ」
彼女らの幸せを祈っていると、改まったような感じのクレイの声が・・・
「クレイ・・・?」
「・・あの時の返事、聞かせてくれるかな?」
・・・・!!
そうだ、私ったらクレイの告白されてたんだ・・・!!
上目遣いに彼を見ると、鳶色の瞳が情熱的に輝いている。
うわー、なんていったらいいんだろう・・・
戸惑ってる私をクレイはじっと見ていたけど、急にふっと表情をゆるめた。
「・・・そんな顔すんなって」
そう言うと彼は優しく私の手を取った。
「・・・お前が誰を好きでもかまわない。だけど、俺の気持ちは変わらないから
・・・・トラップやギアに振られたら、いつでも言ってくれよ」
「やだ・・・クレイったら・・・」
・・・ごめんね、クレイ・・・まだ私自分の気持ちが分からないの・・・。
でも、ガイナに戻って気持ちが落ち着いたら・・・きっと・・・。
・・・しかし、ガイナに帰ることなく、この想いにすぐ答えが出ることと、クレイにとって私がどういう存在になるか、この時考えもしなかった・・・。