(I)〜淋しい夜の下で・・・〜<上> パステルとクレイはあの綺麗な星空の夜、帰りが遅かった。 たぶん、告白したんだろうね。 (しやあせになってえぱぁーるぅ) あれから2年たった。 あいかわらず、わたしはパステルのことをぱぁーるぅって呼んでいる。 これでわかるとおり、わたしはルーミィ。あの時よりずっと大きくなって、ちゃんと した言葉だって話せる。 それでもぱぁーるぅって呼ぶのは癖になってるのかな・・・? 「ルーミィ、商店街にクレイといくんだけど来る?」 ぱぁーるぅがひょこっと顔を出した。 「行かない、二人で行きたいんじゃないの?」 なんか、そうゆーこと言われたらすぐにこう言っちゃう。 「え、ほんとに行かないの?クレイ待ってるよ?」 ぱぁーるぅの無神経・・・。 わたしはだんだんぱぁーるぅがむかついてきた。 だから、つい言ってしまった。 「クレイはぱぁーるぅと行きたいんだよ。ルーミィはお邪魔虫だもん。 ぱぁーるぅのばかぁ!」 「る、ルーミィ?どうしたの?」 ぱぁーるぅは、そう言ってわたしのそばに来た。 「どうもしないもん。クレイ待ってるよぱぁーるぅ?」 「そ、そうだけど・・・」 急に口ごもるぱぁーるぅ。でもすぐ部屋を出てった。 なんであんなこと言ったんだろう・・・わたしは悲しくなってベッドにつっぷした。 (パステル、von) シルバーリーブ商店街を歩きながらわたしは思った。 「ルーミィどうかしたのかなぁ・・・」 わたしが呟くと横にいるクレイが言った。 「何かあったのか?」 「うん。クレイ、もしかしたら反抗期なのかな・・・」 「反抗期!?ルーミィがか?」 「だって、最近すごく大きくなってきたし、美人じゃない?」 お世辞じゃなくわたしの本心だ。わたしは今日あったことをクレイに話した。 「うーん、それってパステル・・・」 「なあに?クレイ」 「もしかして、嫉妬じゃないかな・・・。ある意味でパステルはルーミィに嫉妬してるし ルーミィもパステルに嫉妬してるんじゃないかな・・・」 「ええっ!?嫉妬ぉー?」 このとき驚いたのはルーミィがわたしに、わたしがルーミィに嫉妬っていうのじゃなくて クレイの口からそういう言葉が出てきたのに驚いた。 嫉妬にも驚きはしたんだけどね・・・。 「おれのせいかな・・・ルーミィはさ、パステルのことおれに取られたと思ってるんだよ。 とりあえず、ルーミィにはおれから訊いてみる」 クレイったらやたらかっこいい。 昔っからクレイはルーミィの保父さんだし・・・。わたしは、すべてクレイに任せること にした。 *つづく*
(II)〜淋しい夜の下で〜<下> (クレイvon) パステルにはああ言ったがどうやってルーミィに聞き出そうか......。後先考えない おれはだめな男だ......。 とりあえず、ルーミィを呼び出してみるか。 おれは、すぐにルーミィの部屋に行った。 コンコン 「あ、おれクレイだけど入っていいか?」 「入っていいデシよ」 シロが了解してくれた。 「あれ?ルーミィはどうしたんだ?」 「ルーミィしゃんならそこのベッドで寝てるデシ。パステルおねーしゃんは知らないデシ。 クレイしゃん、ルーミィしゃんに用があるんデシか?」 「ああ、ちょっとな......」 「そうデシか。それじゃあボクはちょっと出かけて来るデシ」 「気をつけろよ」 「はいデシ!」 シロはそう言って部屋を出ていった。 たぶんパステルはおれに気をきかせたのだろう。 もう夜だ......。 「ルーミィ?」 おれはルーミィに呼びかけた。しかし彼女は泣いてるみたいだった。 どうきりだそうか......。 (ルーミィvon) クレイはずっとわたしのそばにいてくれた。でも、この泣き顔は見せられない。 「ルーミィ、そのまま聴いてくれないか?」 「.....う..ん.....」 わたしは頷いた。 「パステルのことなんだ......」 涙を拭いながらわたしはクレイの話を聴いていた。 「今日、あいつルーミィのこと心配してたんだ」 「......ぱぁーるぅが...?」 「ああ。パステルはルーミィのこと嫉妬してたよ」 「え?」 ぱぁーるぅがわたしに? 「ちがうよクレイ。ルーミィが悪かったの」 「はっ!?」 今度はクレイが驚いた。 「わたし、ぱぁーるぅに馬鹿って言った。嫉妬してたのはわたし。ぱぁーるぅ幸せ だったから。ルーミィ、ぱぁーるう憧れて...それで......」 また涙が出てきた。 クレイは黙ってわたしをギュってした。 「ごめんな。おれがパステルとったから」 「違う、クレイは悪くないもん。わたしが悪いんだもん」 「そんなことないよルーミィ」 クレイじゃない声......ぱぁーるぅ! 「パステル!」 クレイが驚きながら言った。 「クレイに任せたけどやっぱり気になってね。おいでルーミィ」 ぱぁーるぅはそう言ってわたしを抱きしめた。 「2年前とは大違いだね。今度はわたしがルーミィを応援するからね」 ぱぁーるぅは優しく言ってくれた。 「わたしたちずっと友達でしょ?」 ともだち...そっか、だからわたしはパステルじゃなくて...... 「うん!」 (るーみぃ、ぱぁーるぅのおともらちだかあね。ずっといっしょにいるかあね) 「きれいな星空!」 「2年前もこんなんだったよな」 「ぱぁーるぅ、ルーミィずっとぱぁーるぅって呼ぶからね」 もう淋しくなんかないよ。 あの星空の下でずうーっとぱぁーるぅと一緒だもん。 〜淋しい夜の下で〜<FIN> *つづく*
(III)〜シロちゃんと夜の下で・・・〜(上) 「シロちゃん、遊ぼ!」 あれから、また少したったよ。相変わらずわたしはぱぁーるぅと呼ぶ。 でもシロちゃんはちゃんとシロちゃんって呼ぶんだよ。 「ルーミィしゃん、ちょっと、一人にして欲しいデシ......」 シロちゃんはそう言って部屋を出ていってしまった。 「ぱぁーるぅ、ぱぁーるぅ!」 わたしはすぐぱぁーるぅのところに行った。 たしか、クレイとトラップの部屋にいるはず。 「ぱぁーるぅ!」 ノックなしにドアを開けた。 「わわ!る、ルーミィ!」 ぱぁーるぅとクレイが驚いてこっちを見た。 見てしまった......。人のキスシーンを...。 「ごめんなさい、邪魔して。どうぞごゆっくり〜」 意味不明な言葉でなんとか誤魔化して、部屋を後にしようとした。 「ご、ごゆっくり〜じゃなくて、何か用があったんじゃないか?言ってごらん、ルーミィ」 おもいっきりフェミニストなクレイが頬を真っ赤にしながら言った。 「で、でも〜」 「ねぇ、もしかしてシロちゃんのこと?」 ぱぁーるぅ鋭い! わたしはウンウンと頷いた。 「そういや、最近シロのヤツ元気ねぇな。さっきもヒョロヒョロってでてったぜ」 「と、トラップ!お前いつからいたんだ?」 ありゃ?ほんとだ。 クレイの顔がますます真っ赤になった。 「べーつに、こんなところでするほうがわりいんだぜ」 「見〜た〜な〜!」 ぱぁーるぅも真っ赤になって怒ってる。 「熱いね〜おふたりさん」 トラップはからかうだけからかってる。むほうびといえばむほうびだけど。 「話がずれてるよ。シロちゃんどうしたの?」 わたしが言うとみんなシーンとしてわたしを見た。 「そうだった。ごめんルーミィ。シロちゃんきっと大丈夫だと思うけど、何か聞き出した 方がいいんじゃないかな?」 ぱぁーるぅがクレイを見ながら言った。 「え?お、おれ?」 クレイはずいぶん焦ってる。そんなとき、 「俺がきいてやるよ、おい、ちびたぬき...じゃねぇ、ルーミィおめえも来いよ」 珍しくトラップが言った。 「う...うん」 そして、わたしの耳にトラップはそっと囁いた。 (ふたりっきりにしてやろうぜ) いつになく優しいトラップだろう?疑問に思いつつわたしとトラップは部屋を出た。 シロちゃんどうしたの?一体何が起こったの? *つづく*
(IV)〜シロちゃんと夜の下で・・・〜<下> (トラップvon) 「ちぇっ!パステルのヤツ幸せそうな顔しやがって......」 おれは悪態をつきながら言った。 「トラップ妬いてるの?」 すかさずちびたぬ...ルーミィがつっこんだ。こいつもエルフらしくなってきたよな。 「誰が妬くかよ!それよりシロをさがそうぜ」 「うん!」 シロもいったいどこ行きやがったんだ? 俺とルーミィはその辺にいるやつらから訊いてまわった。 「あ、ノル。シロをみなかったか?」 洗濯をしてる...暇なやつだよな。 「いや、見なかった、シロ、何かあったのか?」 「うんにゃ、そういうわけじゃねぇんだけど見かけたら知らせてくれや」 「わかった、おれも、探してみる」 ノルはポツリと言って探しに行ってくれた。 「わたし、キットンに訊いてみるね」 ルーミィもそう言って出かけていった。 さて、俺はちょっくら昼寝でも...... 「トラップ〜シロちゃん見つかった?」 パステルとクレイが旅館からでてきた。 「まだだぜ」 「それじゃ、わたしたちも探すから、トラップはクレイと一緒に探してよ。わたしは ルーミィと探すわ」 げ、せっかく昼寝できると思ったのにな...。 「お前のことだからどうせサボろうとしたんだろ?」 「なんだ、わかってるじゃんクレイちゃん!お見事〜、それで進展はしたんかい?」 俺はクレイをからかったんだがパステルに怒られた。 「それは関係ないでしょ!そんでルーミィはどっちに行ったのよ?」 「あっち→」 パステルはプンプンしながらルーミィのあとを追っていった。 からかいがいがある奴らだよな......。 (パステルvon) まったく、トラップのヤツぅ。いやでも、ルーミィに見られたとは......。 わたしは真っ赤になりながらルーミィを探した。本当はシロちゃんもなんだけど。 幸いルーミィはキットンといたからすぐに見つかった。 「シロちゃんですか?あー、それなら旅館の裏のところじゃないですか?最近あそこに 居座ってますよ。ドラゴンにも青春があるんですねぇ。ぐふふふ」 不吉な笑いを浮かべてキットンが言った。 「また、旅館まで逆戻りだね。シロちゃんいるかな?ねぇ、ルーミィ」 「......」 ルーミィは答えてくれなかった。なんだか足取りも重いし。 「ぱぁーるぅ、シロちゃんわたしのこと嫌いなのかな?」 ルーミィが今度はわたしに訊いた。 「そんなことないよ。絶対!友達だもん」 「でも、シロちゃんわたしのこと避けてるの。ねぇ、ぱぁーるぅ、わたしどうすればいい?」 わたしは、ルーミィの話を訊くだけしかできなかった。 (ルーミィvon) 「ルーミィ、わたしもクレイとのことで悩んだよ。でも、それは教えてくれるんじゃなくて 自分で見つけるの。大丈夫、勇気だしてごらん」 ぱぁーるぅはわたしにアドバイスしてくれた。 >教えてくれるんじゃなくて自分で見つけるの わかんない、わかんないよ。ぱぁーるぅ。どうすればいいかわかんないよ。 シロちゃんはシロちゃんで、わたしはわたし。昔と何が違うの?教えてよ、この苦しみ、 和らげてよ。シロちゃんとあの時にもどりたいよ......。 「ルーミィしゃん、ボクのこと嫌いにならないで欲しいデシ。ボク、ルーミィしゃん大好き デシ。だから嫌いにならないで下さいデシ」 聞き慣れたシロちゃんの声...え?シロちゃん? 「シロちゃん!嫌いじゃないよう、ルーミィずーっとシロちゃんが大好きだよ」 「良かったデシ、あの時ちょっと恥ずかしかったんデシ」 「恥ずかしかった?って...」 「ちょっと来て欲しいところがあるデシ、ついてきて下さいデシ」 シロちゃんがつれていってくれたのは綺麗な花畑だった。夜に花が咲くらしい。 そういえば、よくここで遊んでるところだ。 「これ見せたかったんデシ」 あっ!わたしは涙がでてきた。花が咲いて字がうかんできた。 「ありがとうシロちゃん」 シロちゃんと夜の下で、わたしはずっとその文字を見ていた。 <I have been thinking about you since then. Rumiy is my best friend!> 〜シロちゃんと夜の下で・・・〜*FIN* *つづく*
(V) 今回はサブタイトルがありません。それは、読んでくれた人が発見してもらいたいの。 これは、まだわたしが小さいときの話、ぱぁーるぅとシロちゃんとわたし(ルーミィ) だけのクエストだった。そして謎の少女が現れ、ある事件に巻き込まれたの。 <蒼い天使>(パステルvon) シルバーブロンドの髪に、蒼色のローブ......誰?すごく神秘的な人...じゃない。 人じゃなくてもしかして......天使? 「ぱぁーるぅ、気が付いた?」 「パステルおねえしゃん大丈夫デシか?」 あ、あれ? わたしは急に懐かしい声とともに起きあがった。目の前にはルーミィとシロちゃんだけ。 「クレイ達はどうしたの?」 「ぱぁーるぅがまよったんらお。そしたらおっきなあなにおっこちたんら。るーみぃも しおちゃんも。くりぇいたちはしらないおう」 大きな穴......? 「あーあーあー!!!!」 わたしは思わず叫んだ。そうだそうだ、森に入っていつものとおり迷って、キャンプ したんだっけ? そうそう、わたしとルーミィとシロちゃんでトイレに行って、歩いてたら穴に気づかず 落っこちて...落っこちたー? 「こんなことしてる場合じゃない、ルーミィ、シロちゃん行くよ」 「行くってどこにデシか?」 わたしはハタッと止まった。そっか、戻ろうにも無理だったんだ。 「ぱぁーるぅ!あれ、みちぇー、あれ、だあれ?」 ルーミィがわたしの服をひっぱって言った。 見ると夢で見た天使の子と同じだった。シルバーブロンドの髪に蒼色のローブ。 女の子かな......? 「大丈夫、安心して。この森から出たいならついてきて......」 「貴女は...?」 「...名前は忘れたの、好きに呼んで......」 名前を忘れたって、まるでシロちゃんやキットンみたい。 わたしは彼女を仮にシルクと名付けた。シルクも気に入ったようで。 「こっちよ......」 シルクはわたしたちを大きな湖のあるところに連れていってくれた。 「きえいなみずうみだおう」 ルーミィが感想を言った。 「そうでもないわ...ここは汚れているの...人間のせいでね......」 人間というところをやけに強調していた。 「こんなに綺麗なのに...」 「......貴女にはわからない...でもこの森は貴女を認めているわ...」 「どうゆうこと?」 「...それは言えません。さあ、こっちよ...」 シルクはさっと湖の中に飛び込んだ。 ちょ、ちょっと、まさか湖の中に行くの? パステルの予感は的中する。 「......ためらってないで、早く、こっちよ......」 もうやけだ。戻れるなら戻りたい、わたしは冷たい湖の中に飛び込んだ。 そのあとをルーミィとシロちゃんが続く。 二人と一匹は湖の中に何が待ち受けているかこの時は知る由もなかった。 蒼の天使シルクは何を考えているのか、それは、これからの話。 *つづく*
(VI) 「...大丈夫?......もう着いたわよ...」 シルクの声でわたしは目覚めた。見るとルーミィのシロちゃんもベッドの上でグッタリ。 ...って、ベッド? 「シルクここは何処?」 確か、湖の中に入ったはずだよね?なんで?息してるし......。 「静かに...誰か来るわ......奥の部屋に隠れていて...」 え?え?、わたしはルーミィとシロちゃんを連れて奥の部屋に飛び込んだ。 そして聞き耳をたてた。 「ぱぁーるぅ?」 「ちょっと静かにしててねルーミィ」 「誰か来ているのか?人間じゃないだろうな」 男の声がした。 「いいえ、誰も来てません。シュラ様、貴男だけですわ」 シルクの声...男の人はシュラっていうんだ。 「そうか。では、正宮に来い」 「今すぐ...ですか?」 「...着替える時間ぐらいは取ってやろう」 シュラはそう言って部屋を出ていったみたい。 何なの?一体。正宮ってここ王宮なの? 「ごめんなさい...ちょっと行かなきゃならないところがあって。 鍵は掛けるけど、一応この部屋に隠れていて下さい......すぐ戻ります...」 シルクはそう言って出ていこうとしたけどわたしは彼女の腕を掴んだ。 「シルク、何か隠してない?わたしたちを森からだしてくれるんじゃなかったの? 貴女は一体誰なの?」 「......時が来たら必ずでも今はだめ...ごめんなさい...」 シルク......。わたしたちはそのままシルクの言うとおりにした。 森から出れて、クレイ達と合流して......。 (ルーミィvon) それから彼女シルクとは会ってない。時が来たら...まだわたしたちにはその時じゃないんだね。 でも、ずっと気になっていた。 「ぱぁーるぅ」 わたしはぱぁーるぅにも話した。ぱぁーるぅも思い出した。 「そういえば、シルク元気かなぁ?」 「パステル、お客さんだよ」 クレイがそう言って通したのはあのシルクにそっくりな天使だった。 「シルク!?」 ぱぁーるぅも思ったみたいで彼女を呼んだ。 「......突然来てごめんなさい...実は助けて欲しいの...」 えー?何何......。この人、やっぱりシルクなの? *つづく*
(VII) 「シルク...シルクなの?」 ぱぁーるぅが叫ぶと彼女は頷いた。 あのときと全然変わらない姿......謎の天使シルク本人だった。 「貴女がルーミィちゃんね。随分大きくなったのね...」 「シルクさん、それで何かあったの?」 わたしが聞くと彼女はコックリと頷き話してくれた。 「森が荒れてるの、あの時、シュラ様が来たでしょう?そのシュラ様がいなくなった から。それで、どうしてもあなたたちに来て欲しいところがあるの。正宮に...お願い。 わたしと一緒に来て下さい、頼れる人がいないの」 シルク...そういえばシュラって人を声だけ聞いたことがあったような...。 なにしろ小さかったからあんまり覚えてない。 「それって、パステルとルーミィとシロだけってことか?」 クレイが言った。まだいたのか......。 「いいえ、もちろんあなた方パーティを組んでいらっしゃるならパーティで来てもらって 結構です。ただ、森が認めればの話ですが......」 「森が認める?」 「そうです、森が認めてくれれば湖へ行けます。認めなければ迷います...あまり詳しい ことは言えませんがわかっていただけますか?」 「....パステルは認められてるんだな?...それなら行って来いよ、ルーミィとシロでさ」 クレイはちょっと考え込んでから言った。 「ええ?でも...何かあったらどうするの?わたしは絶対イヤ!」 ぱぁーるぅの発言にシルクはちょっと不快な顔をした。 「でも...そうだな、心配だけどシルクさんだっているし、正宮に行くだけだから大丈夫 なんじゃないか?」 「......クレイそんなにわたしのこと嫌い?」 「好きだけど...今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?」 おいおい、こんな時に好きだの何だの言ってていいの?それに何かやばい雰囲気。 「じゃ、ついてきてくれてもいいんじゃないの?」 「森に認められてるかどうか。それにあの時おれは湖なんか見たことないからな」 「あのう、TPOを考えて下さい......」 口出しをしたのはシルクだった。(TPO=時と場合のこと) 「あ、ごめんなさい。もういいよ、行こうルーミィ、シロちゃん。シルクもこっちきて。 クレイは来なくていいからね」 ぱぁーるぅ怒ってる......。クレイも怒ってる......。 「ぱぁーるぅ?クレイ?」 わたしは二人に声をかけたけど無視されてしまった。 「喧嘩デシか?」 シロちゃんがそっとわたしに囁いた。わたしは頷き返した。 「それでは、ここから湖へ移動します」 「移動?」 「魔法で移動したほうが早いと思いますが、何か?」 「ううん、いいのいいの。シルクって魔法が使えるのね」 移動の魔法なんて聞いたことないんだけど。 シルクはブツブツと呪文を唱えると宙に円を描きそれはわたしたちを包み込んだ。 まぶしい......。 目を開けるとそこはあの湖だった。 *つづく*
(VIII) 「この湖......こんなに汚れてたっけ?」 ぱぁーるぅが感嘆な声をあげた。 「前よりずっとひどくなってるデシ」 シロちゃんもしゅんとした顔で言った。 「どんどんひどくなってるの。シュラ様もこの湖をとても気に入っていらしたのです。 でも今では......」 「シルク...そのシュラ様ってどんな人なの?」 ぱぁーるぅが訊いた。実はわたしもずっときになってたんだ。 「シュラ様は理知的でとてもわたしのことを心配してくれるいい天使様です」 「天使!?」 「そうですわ。何か?」 「え、あ、何でもないの。もしかしてそのシュラ様が好きなのシルクは?」 ぱぁーるぅがからかうとシルクはポッと頬を赤らめた。脈ありなのね......。 「や、やだパステルさん。わたしは...シュラ様と位も違いますし」 わたしにはよくわからない...。 「それより正宮へ行かなくていいんデシか?」 「あ、ごめんなさい。今案内します」 「もしかしてまたこの湖に潜るの?」 「まさか...そんなことしませんわ。行きましょう、ついてきて下さい」 シルクはそう言って湖の上を歩いた。 歩けるの?どおして沈まないんだろう? 「大丈夫、さぁついてきて...」 あの時もこんなふうに言われたんだよね。やっぱりわたしたちはおとなしく従った。 「浮いてるみたいデシ」 「すごいすごい」 わたしとシロちゃんは喜んだ。飛んだり跳ねたりしても沈まないんだもん。 「ルーミィ、シロちゃん、遊びに来たんじゃないんだから。ほら、静かに」 ぱぁーるぅが注意したのと同時にシルクがまた何か呪文を唱えていた。さっきと同じ 移動魔法らしい。 「さぁ、こちらへ」 やっぱりさっきと同じでまぶしい... 目を開けるとどうやらここが正宮らしい。 「ここが正宮です。広いので迷わないようにして下さい。それから所々に罠が仕掛けて あるので注意して下さい」 罠?罠なんてあるの?どこか狙われてるのかな。 「行きましょう」 まるで金魚のフンのようにゾロゾロと歩いた。 「この先にシュラ様の部屋があるんです」 「ふ〜ん、......!!!きゃっ!」 きゃああああ! 落ちるぅぅぅぅーー。急に床が抜けたのだ。 「パステルさん、ルーミィちゃん、シロちゃん!そんな...こんなところに罠なんてない はず...っ!!!シュ、シュラ様!?」 ええ?シュラって行方不明の? 「どうして......?」 「驚く必要はないだろう?お前は約束通りに聖なる人間をおびき寄せたのだからな」 あの時訊いた声...この天使がシュラ。 でも、待ってよ。それじゃ、シルクは......。それに聖なる人間って? 「シルク...?嘘ついたの?」 ぱぁーるぅの声が震えている。 「悪く思わないでよ。実際に湖を汚し森を破壊したのはあなたたち人間じゃない。 人間なんて大嫌いなんだから!」 シルク...本当なの?だって泣いてるよ?一体貴女は誰なの? *つづく*
(IX) (パステルvon) どうして?シルクはわたしたちを騙したの?貴女が助けてっていったから来たのに。 そんなのひどいよ。 わたしたちはそのまま床に落ち、地下の部屋についたらしい。 「ぱぁーるぅ、どうするの?」 「そう言われても...」 「誰か来るデシ!」 本当、話し声がする。 「どういうことですか?わたしが直接つれてくる約束ではなかったのですか?」 シルク......? 「事情が変わったのだ」 「そんな...シュラ様。貴男がその気ならわたしは封印を解きますわ」 もう一人はシュラ。 「解ければな......だが、聖なる人間を始末しない限り無駄なことだ。お前は人間を 憎んでいるのだろう?」 「そんなこと...!」 バチッッッ!!!!!! 何何何?なんか電撃みたいなのが見えたんだけど気のせいじゃないよね。 「無駄だ。お前は俺の命令に逆らえないことを忘れたのか?...ハピネス...?」 ハピネス?それってシルクの名前なのかしら......。 「わかるまでここにいろ!」 カチャン! 鍵を閉められたらしい。 「シルクしゃん大丈夫デシか?」 「......平気、ごめんなさい。わたしのせいで......」 シルクはすぐに気が付いて言った。 「そんなことないわ。悪いのはシュラでしょ?」 わたしが言うとシルクはかぶりふる。 「シルクさんの言うシュラと全然違うと思う。本当のシュラって何者なの?」 ルーミィが訊くとシルクはしゅんと下を向いてしまった。 「わかりました。全て話すことはできませんが...いえ、やはり全て話しましょう」 シルクはそう言って白い翼を出した。これが天使の翼...? *つづく*
(X) (シルクvon) 誰よりも孤独が嫌いだったはずなのに・・・。 いつも一人の私にあの人は信じることを教えてくれた。 人間たちへの復讐に、自然達の平和に、私に幸せを運んでくれた。 この聖なる森も泉も人間によって失われていく。 もう、一人になるのは孤独になるのは嫌だから・・・。 あの人は変わってしまった。 私ずっと仕えていたのに、あの人の心の傷に気づけなかった。 そんな自分が悔しい。 変わってしまったあの人は、森も泉も破壊してしまうようになってまるで別人。 聖なる森を癒せるのは聖なる人間のみ。 私はただ全てを見守るしかできない小さな天使・・・。 どこが天使なの? 背中の翼があるから? そんなの普通の人間と変わらない。 どうせなら、人間に生まれてくれば良かった。 人間に・・・ (ルーミィvon) シルクさんの話は何だか可哀想な話だった。 人間に一族を滅ぼされ、孤独を生きてシュラに助けられても今は変わってしまった。 人間を憎むわけもわかったけど、わたしはまだ納得が行かなかった。 シュラって人のこと。 シルクはいい人と言っていたけど、わたしにはそうは思えない。 そうそ、ひとつ言い忘れてた、シルクの本名ハピネスだけどわたしたちはシルクと 呼ぶことにしてるからね。 「シルクしゃん、ここから出られないんデシか?」 「転送(テレポート)の魔法は封じられてるの。そうね、ルーミィちゃんが転送魔法を 修得するか、牢の鍵を手に入れるかどちらかだけど・・・」 「それじゃ、ルーミィちょっとやってみない?」 ぱぁーるぅが目を輝かせて言った。 「でもぉ、呪文しらないよ。それにレベル低いから無理だよぱぁーるぅ」 わたしが言い訳すると、ぱぁーるぅはしゅんとしてしまった。 「呪文なら私が教えます。ルーミィちゃんレベルはいくつ?」 「えっとぉ、5だけど・・・」 「5?5ねぇ・・・、3日ぐらい特訓すれば何とかなるかもしれないわ」 わたしはちょっと自分の未熟さに腹が立ったり恥ずかしかったりした。 2年前から2しかレベルが上がってない。 魔法使いって経験値をためるのが難しいんだもん。 「それじゃ、早速特訓よ。まず、転送の感じを思い出してイメージトレーニング」 こうしてわたしは過酷なシルク先生による魔法を修得することになった。 もっとも、3日ならず時間はかかってしまったのだけど・・・。 *つづく*
(XI)
(パステルvon)
脱出するのにはワープの魔法が必要だった。でもシルクの魔法は封じられているし、使えるっていうのは、ルーミィだけだった。
シルクの特訓をうけて何とかクレイたちのいるところまで脱出できたけど、わたしは気まずい。
出かけ前にクレイと口論しちゃったから。
「あれ?パステルもう帰ってきたのか?」
早速出迎えたのはトラップ、クレイじゃなくてホッとしてるけど何か違う感じがする。
「逃げてきたって言う方が当たってるんだけど・・・」
「はぁ?まぁいいや。クレイならいないぜ」
「へっ?何で?」
驚いたのはわたしの方だ。
だって、だってクレイがいなくなるなんてこと考えてもみなかったもん。
「そんなに心配?」
「当たり前じゃないっ!クレイがいなくなったらわたし・・・」
あれ?何言ってるんだろう・・・、だって嫌いって言ったはずなのに・・・。
でも、本当にそうなったら嫌だ・・・嫌だよ。
「あ、ぱぁーるぅ。クレイだよ」
「え!?」
ルーミィに言われて振り返る・・・いつものクレイが目の前に立っていた。
「話はシルクさんから聞いたよ、行かなきゃいけないんだろ?シュラを倒しに・・・」
コクン。
わたしは頷いた。
まだ、気まずい雰囲気あるのかもしれないけどいつもの優しいクレイだ。
「シルク・・・は、大丈夫?シュラを倒しても本当にいいの?」
「・・・・・・。不安です、でも、仕方ありません。もう昔のシュラ様じゃないんです。私も変わらなければいけません。覚悟はできています・・・っ!!」
「大丈夫?」
シルクは胸を押さえて倒れそうになるのを慌ててクレイが支えた。
「ごめんなさい、シュラ様・・・シュラを倒さない限りこの世界もやがて毒となり破滅するでしょう。そうなる前に手を打っておかなければなりません。
私は、あなたがた共に闘います、どうか森を湖を自然を救って・・・」
そのままシルクは気を失った、キットンが看たところ過労と栄養失調、それにかなりの傷を負っていた。
夜になると起きあがれるぐらいに快復していたけど、少し辛そうに外の様子を眺めていた。
シルク・・・わたしたちが何とかするからね、絶対に!
(ルーミィvon)
起きあがれるシルクを交えてわたしたちは作戦会議を始めた。
わたしたちが脱出したことがバレるのは当然だから速急に何とかしなければならない。
「シルク、聖なる人間しか入れないところはクリアできるのか?」
「できます。結界を外す方法がひとつだけ。ただそれが聖なるものの力が必要なんです」
となるとぱぁーるぅだよね・・・。
「どうすればいいの?」
「何かの呪文が必要なんですが、それはその人しかわからないんです。何か思い当たりませんか?」
「うーん・・・ごめん!思い当たらないわ。別の方法はないのよね・・・」
「ボク知ってるデシ・・・それかどうかわからないデシけど」
シロちゃんの言った言葉にみんな注目した。
「そうか!これもサラディーの時と同じで聖なるものだからシロかもしんねぇ」
「でも人間じゃなくていいのでしょうか・・・」
「それは心配ありません、聖なるものなら」
それじゃ、最初からこういうことやっとけば早かったような・・・。
「宮殿内の見取り図があればいいんだけどなぁ・・・」
「シルク、覚えてない?」
「ええ、紙と書くもの下さい」
こんな形で作戦会議は進んだ。
まずは、聖なる森までわたしがワープを使い、シロちゃんが呪文を唱えて結界を外す。
そこからまたワープを使ってシュラのいるところへシルクが囮になって行く。
最終的にわたしたちが乗り込んでシュラを倒すわけだけど、シュラの強さがどれだけなのかはわからない。
不安だけどチームワークを生かしてやるだけ。
「シュラを倒したらシルクはどうするの?」
「・・・わかりません、でも自然を見守りつづけるつもりです。わたしは見守りの女神様に・・・」
女神様かぁ・・・シルクならなれるかもしれないね。
出発は明後日、ゆっくり休んでから行くようにクレイが言った。
*つづく*
(XII)
シュラ・・・、直接会ったことはないけれど、いざ会うとすごく怖い。
なんていうか冷血漢で何考えてるのかわからない。ちょっとギアに似てるかな?
「どうする・・?」
クレイが小声で訊く。
つまり、わたしたちあっさり見つかっちゃったわけ。
ぱーるぅが道を間違えちゃってね。
「ごめん・・わたしのせいだよね?ごめんねシルク」
必死に謝るぱーるぅ・・・、こういうとこ2年前と全然違うんだから。
「気にしないで下さい。仕方ありませんね、直接闘うしかないでしょう」
「そうは言ってもこいつらどうすんだ?」
トラップの言うこいつらっていうのはシュラの手下二人・・・。どうにもこうにも、強そうというしかない。
「大丈夫、彼らは私の仲間です、シュラ・・さまはそうと知らずに側にはべらせています」
とんだお間抜けってところなのね。
「ふーん、そんじゃ彼奴一人を攻撃すりゃいいわけだな」
「いえ、正確には持っている杖の珠を狙って下さい」
「珠!?」
「はい、あの珠を手に入れてからおかしくなったのです。だから、もしかしたら」
ギャミラ像のような感じかな?でも、あれはその人の欲望なんだよね。
もし欲望だったら・・・シュラは何を求めているのだろう?
「それじゃ、行こう」
「はい!レン、縄を解いて。それと、バイスはクレイさんとノルさんの援護を」
シュラの手下のレンとバイスにシルクは耳打ちしてシュラをにらみつけた。
「ハピネス・・・、やはり懲りずに来たか。何故我の邪魔をする・・・、お前は人間を憎んでいるのではなかったのか?」
シュラはわたしたちなんか眼中にないという様子でシルクに話しかけた。
ちなみに忘れてると思うから言うけど、シルクはぱーるぅがつけた名前で本当はハピネス。
「シュラさま・・、確かに人は怖い。でも、今貴男がしてることは間違ってます。私は聖なる人と出会いました」
「聖なる?フッ、そんなものただの迷信にすぎない!それでも我の邪魔をするなら容赦はせぬぞ」
「手加減なしで結構です。ブツブツ・・・」
言いながらシルクは呪文を唱え始めた。
「ルーミィ、とりあえずファイアでシュラの手を焼いてくれ、パステルとトラップは援護してくれ。キットン、あの珠について何か調べてくれ。ノルと俺はシュラを」
クレイが一人一人に指示を出してシュラに突っ込んでいった。
わたしは指示通りファイアの呪文を唱える。
(作者の視点)
「青二才めっ!くらえ!!」
シュラが杖を一振りすると雷撃がクレイとノルを襲った。
「プロテクション!」
レンがさっと魔法をかけてなんとか防いだ。
「そうか、貴様らもハピネスに・・・、*****」
意味不明の呪文を唱えるシュラ、きっと古代魔法か召還魔法か。
「ファイアー!!」
可愛い声でルーミィがシュラの手を狙ったが、ダメージはないようだ。
「どうしよう、コールドもやってみてルーミィ!」
クロスボウでシュラを狙いながらパステルが叫ぶ。
ノルの斧もシュラにはきいていない。あの怪力でだ。
「無駄だ、お前らごときに我を倒せるはずがなかろう。己の無力さを思い知るよい」
シュラが呪文を唱え終わって低く呟いた。
杖の先から黒いものが吹き出した。
辺りに広まりパステルたちはひどくせきこんだ。
そして、やがて闇になった。
(ルーミィVON)
闇になる前、シルクとぱーるぅが何か呟いたような気がした。
そしてわたしは、幼い頃の夢を闇の中で見た。
――ママ・・・?ママ・・・?怖い、怖いよ。るーみぃママに会いたい。
**ごめんね、ルーミィ。あなただけは生き残って・・・
――やだ、やだよ。るーみぃ、まだママのこと知らないんだよ?
**約束よ?あなただけは幸せになってね
――ママ?いやだ、おいてかないで。熱いよ・・・すごく熱い、ママ助けて!
◇◆ルーミィ、おいで。
――誰・・・ぱーるぅ!
◇◆いつか絶対に会えるよルーミィのママに。
――でも、ママいないよ?死んじゃったんだよ、ぱーるぅの嘘つき!!!
「・・・嘘つき・・・なんかじゃ・・嘘つきなんかじゃない!」
言ってから気づいた。
辺りは真っ暗で何も見えない・・・。
−夢だった・・・の?・・・でも、・・そっか、ママはいないんだよね。
「気が付きました?ルーミィさん」
明るく光りが舞い落ちる、シルクだ。
何故かいつものシルバーリーブのみすず旅館。
「シルク・・・?ねぇ、ぱーるぅは?」
でも、シルクは答えない。
嘘よね・・・、どこかにワープした?それとも、ぱーるぅは死んだ?
「ルーミィさん。パステルさんたちは裏切り者よ。シュラにねがえったのだから」
そ、そんな。そんなことない!
「そんなことない!ぱーるぅが裏切るわけないっ!!」
精一杯叫ぶとどこかで声が聞こえた。
「フッ、信頼はあるようだな」
この声・・・シュラ!?
「よかろう、ならば本気でするとしよう」
シュラが言うと、みすず旅館が見る見るうちにはがれてシュラと闘っていた部屋になった。
そっか、幻惑魔法、イリュージョンだったんだ。
本物のシルクはまだ何か呪文を詠唱していた。
*つづく*
(XIII)
シュラに氷のような冷たい目で睨まれるとルーミィはビクンと驚いて首をすくめてしまった。
「どうしよう・・・」
パステルが思わず呟きクレイに目を向ける。
「どうしようったって・・・、やるしかないだろう?」
クレイはシュラの攻撃を防ぎながら言った。
シュラは全くダメージがないようで、余裕の笑みをこぼす。
「ハピネス様・・・」
レンが心配そうに訊くとシルク(=ハピネス)は唱え終わった呪文にため息をついてしまった。
「ルーミィちゃん、もう一度魔法を唱えてくれる?それからシロちゃんも」
「ぼくもデシか?熱いの吹くデシ、それともまぶしいのデシか?」
「大きくなって、できる?」
シルクが訊ねるとシロちゃんはちょっと困った顔でパステルをみた。
「何か策でもあんのか?」
ヒョイヒョイと火球を避けながらトラップが言うとシルクがゆっくり頷く。
それを見てパステルがシロちゃんに「いいよ」と合図ずる。
「わかったデシ!」
(ルーミィvon)
シルクの作戦とは、魔力はいっぱい使っちゃうけどとりあえずありったけの攻撃魔法をぶつけるっていうものだった。
もちろん、それだけじゃなくて魔法で注意をそらした先にクレイたちがシュラの珠を攻撃するんだけど。
でもね、わたしは反対。
だって、そんな簡単なことでシュラを倒せるとは思えないもの。
それなのに、みんな仕方ないって感じでその作戦になってしまったわけだけど。
「ルーミィしゃん、大丈夫デシか?」
シロちゃんが心配してくれた。
「うん、大丈夫」
ちなみにシロちゃんの役目はわたしとシルクの魔法の影響を防ぐ為の壁らしい。
確かにそれでここがつぶれたらわたしたちも死んじゃうもの。
「行きましょう、ルーミィちゃん」
シルクに言われてわたしは呪文を唱え始めた。何の呪文かわからないけど、頭に思い浮かんだ呪文・・・。
夢の中で、誰かに教えて貰ったのかもしれない。
「フレアストーム!」
シルクが最初から唱えていた魔法をぶつける。
「ふふ、その程度のものか?ハピネス」
また凍るような目のシュラはコールドの魔法で防ぐ。
この人、一体いくつ魔法を覚えてるの?
「ウィンドアロー」
今度はわたし。
思いついた魔法は風の魔法だったみたい。
さすがにこれは防げなかったみたいだけど。
「ルーミィ、あんなの覚えてましたっけ?」
キットンが関心そうに言ってくる。
でも、今はそれどころじゃない、次の魔法も唱える。
相変わらずシュラは余裕のようで、わたしとしてはかなりくやしい。
「二人同時で放ってからあの宝玉を奪って壊して下さい」
シルクが言うとすぐさまシロちゃんが大きくなってクレイたちがシュラの後ろ近くまで歩み寄った。
「いい?同時に放つなんて簡単と思っちゃダメ。その魔法の詠唱時間も兼ねて考えなきゃいけないの。一番強力で成功するのは何?」
「たぶん、ファイア」
「そう、それじゃゆっくり唱えるの。私が合図を出したら放つのよ」
うん・・・わたしは頷いた。
成功するか、どうかなんて全然わからない。
でも、みんなでひとつになるっていいことだね。
シルクはわたしにそれを教えに来たのかもしれない。
巨大な魔法と共に、わたしたちはひとつになった。
煙が蔓延する・・・クレイがシュラの宝玉を奪ってたたき壊す瞬間!
シュラがショートソードを投げてクレイに突き刺さった。
「クレイ!!」
ぱぁーるが叫ぶ。
他のみんなだって目をひんむいた。
ノルがクレイの代わりに宝玉を壊すとシュラもその場に倒れた。
「クレイしゃん!・・・パステルおねーしゃん、クレイしゃんどうなったんデシ?」
すぐにシロちゃんも小さくなって駆け寄った。
その途端にまた建物が崩れ始めた。
「だめだわ、あの宝玉はこの建物も守って・・・。とにかくワープします」
もう、ほとんど魔力がないはずなのに、シルクが魔法を唱えて脱出する。
・・・あの湖のある森に・・・
「クレイ?ねぇ、クレイったら・・・起きてよ・・・」
ぱぁーるがワープした途端に泣いてしまった。
嘘・・だよね?
だって、そんなこと。クレイは死ぬわけないよね?
「どうやら、毒がしこまれていたようです・・」
キットンが頭を抱え込んで呟いた。
「おいっ!待てよ、まだ死んだ訳じゃねーだろ、おいシロ!お前の血で何とかならないのかよ!」
トラップも怒ってる・・・キットンの首根っこを捕まえてはゆさゆさ揺らしてる。
「痛いですってば!やめて下さいよトラップ」
ようやくトラップが離してキットンがはぁはぁと肩で呼吸した。
それだけじゃない、シルクだって悲しそうに苦しそうにうなだれている。
シュラは確実に死んでいた・・・宝玉のせいではなく、自害したあとが残ってるからだ。
「ハピネス様?」
レンたちがシルクを呼んでるけどまるで抜け殻みたいに固まっている。
「クレイはどうなったの?キットン・・・」
「パステル、気持ちはわかりますけどどうしようもありませんよ。ものすごく毒性が強いみたいですし」
まわりくどく言ってるところから見て、クレイは死んじゃったってこと・・・、やだよぉそんなの。
わたしは信じない!
「シルク・・・、ねぇ、クレイは死んじゃったの?」
ぱぁーるは信じられないんだと思う、固まってるシルクに今度は泣きついた。
やっと気が付いたようにシルクが目を伏せた。
「パステルさん、ごめんなさい。こんなことになるとは思わなかったんです」
シルクがポツリと呟く。
辺りは真っ暗・・・やけに眠いと思ったらもう夜になっていた。
「思っていなかったですむかよ!!」
ダンッとトラップが地面を殴った。
「・・・、わかりますその気持ち。少し、離れていて下さい」
シルクが何か呪文を唱え始めた。
古代魔法のような感じ・・・。
「ハピネス様・・・!おやめ下さい、そのような魔法をお使いになったら!」
レンがシルクを止めようとするが近づけない。
「どういう、魔法、なんだ?」
ノルが訊くと、
「蘇生です、しかし、もう魔力なんてないあの体で使ったらハピネス様が死んでしまいます」
そんな・・・!
「シルク!やめて。あなたまで死なないで!」
ぱぁーるがシルクに向かって叫んだがシルクは横に首を振った。
呪文を詠唱し終わって、淡い青い光がクレイをつつんだ。
「ぱぁーるぅ、お腹空いたよ・・・」
わたしは口をとがらせて言ったけど、ぱぁーるはクレイと何か話してる。
今は夜、あれから3ヶ月がすぎたところなんだ。
シルクはクレイを蘇生して亡くなった・・・。
最後には微笑んでいた。
「私はこれで定めが終わる・・・、女神になって見守ってるわ・・・」
そう言って天に昇っていったの。
「ルーミィ、飯は後にしてほら、見てみろよ」
クレイが促すもんだから外に出てみる。
「わぁぁ、きれいな星・・・」
感嘆を思わずあげてしまう。それほど綺麗だったの。
「あの星空のむこうにシルクがいるんだろうな」
「うん」
ロマンティック・・・でも、わたしはすぐに中に入った。
お腹がすいてるわけじゃないよ。それもあるけど、二人の邪魔はしたくないもんね。
「あの星空の下で、わたしも素敵な人と出会えるんだろうなぁ」
「ルーミィ、お前これいらねぇの、おれがもらっとくぜ!」
わたしが優越感にひたってるというのにトラップがヒョイと唐揚げをつまんだもんだからわたしはその手をフォークで刺してやった。
「いってぇ!!」
ふんだ、人の物を盗るのがいけないんだもんね。
わたしの素敵な人はずーっと先になる。
そしていつかぱぁーるとクレイみたいにあの星空の下でゆっくり過ごすの。
*FIN*
1999年7月30日(金)21時58分24秒〜10月31日(日)14時24分投稿の、有希さんの小説「続・あの星空の下で・・・」です。