三十話突破記念特別番外編

  晴れた日差しの下、一件の古い家があった。その家の前に立て札が立っており、
『ご自由に御使い下さい』と書かれていたが、その立て札に一枚の紙が貼り付けら
れていて、『ディト爺の家』と書かれていた。
  ディト爺こと、ディトルム・エルタジェム。
  彼は、自称ヘッポコ発明家と言っているが、彼の発明品はそうではなかった。確
かにヘッポコに値する物もあるが、それ以上の物もたくさんある。
  その為に、ある事件に巻き込まれる事となったのだった。
  朝の太陽の眩しい光を受けて彼は目覚めた。
  布団から出ると、ゆっくりとした歩調で部屋を出て台所に向かった。
「今日は、ベジタブルにいこうかの」
  そう言って、保存していた野菜を取り出して料理を始めた。
  彼は一人暮らしの身であった為に、自分で食事や身の回りの事は全て自分でする
のであった。
  野菜は近くで畑を自分で作り、そこで栽培している。肉類は家の近くにはよく小
動物などが出て来る為、簡単にとはいかないが入手出来るのであった。
  彼は殆ど町や村などには行こうともしなかった。偶には生活が苦しくなる時があ
るが我慢する。本当に辛い時まで我慢し、限界が来た時は発明品を持って町や村な
どに行き、その発明品を使って芸や商売をして金を稼いで食料を買っていた。
  彼が、何故外との接触を拒もうとしていたのか。その答えは彼の発明品にあった
のだ。彼の発明品の中には人を殺す事も出来る物もあったのだ。その為に、彼は外
との接触をなるべく少なくし、自分の発明品に目を付ける者を無くそうとしていた
のだ。
  ならば何故彼は発明を止めなかったと言うと、「発明家としての血が騒ぐのじゃ
よ」との事で結局発明は止める事は出来なかった。
  だがある日、生活が苦しくて町に出る事にした彼はある人と出会う事となった。
それは、キスキン国のゾラ大臣であった。
  最近、キスキン国ではミモザ姫が居なくなったとの事で知ってはいたが、彼の耳
にはゾラ大臣という名までは届かなかったらしい。
  その為、彼はいつもの様に発明品を買ってくれるただの町の人だと思って気軽に
話し掛けて、発明品を色々見せてやったのだった。
  その発明品に目を付けたゾラ大臣は、もっと発明品を見たいと言ってきたのだ。
だが、彼は絶対に見せられんと言った。それでもゾラ大臣は発明品を見せてくれと
言い続けた。
  何度もしつこく頼むゾラ大臣を見て、偶には見せてもいいかと思い、家まで案内
する事にした。
  彼がゾラ大臣を家に連れて来る事に決断したのは、まず人の良さそうな者であっ
たからであった。そして、武器を持っていなかったからだ。もし、武器を持ってい
たら脅してくる可能性があるからだ。
  家に着いて、ゾラ大臣を家の中に入れると、早速発明品を見せてやる事にした。
  彼の家には変な物もあれば恐ろしい物もあった。
  そして、ゾラ大臣はその発明品の山の中から一つの物を取り出した。
  それは、一本の剣であった。
  ゾラ大臣はその剣について彼に説明を聞く事にした。
「その剣は、儂が独自に改造して作った剣じゃよ。最近はエレキテル・ピジョンや
エレキテル・ヒポポタマスなどといった、電気を使った物があるじゃろ?  それで
儂も電気を使った発明品を作ろうと思ったのじゃ。そして、出来たのがそのエレキ
テル・ソードじゃ。一振りすれば電撃が剣より出てきて飛び道具ともなる。更に特
殊加工をしている為、斬っても斬っても刃が欠けない。威力は恐ろしいものじゃっ
たわい。じゃが、それは単なる人殺しの道具じゃ。お主に売る事は出来ぬよ」
  そう説明されたゾラ大臣は、その剣が更に欲しくなった。
  何度も交渉してみたが彼は決して売ろうとはしなかった。
  それに憤慨したゾラ大臣は彼の家を出ると、次の日、兵士達を彼の家へと向かわ
せ、彼を捕らえて剣を持って来させる様に兵に言いつけた。
  だが、結果は見事に惨敗であった。全ての兵士達は逃げ出して城へと帰って来た
のだった。
  更に何日かして、また兵士達を向かわせたが結局は逃げ帰ってきたのだった。
  そんな日が何日か過ぎていった日の朝だった。
  彼は食事を作り終えていつもの様に食べ始めていた。
  最近はあの兵士達が来ないようになっていたので、ほんの少しだけ安心していら
れるようになっていた。
  だが、決して警戒を解いたわけではなかった。
  武器の杖をいつも肌身放さず持っていて、いつ攻めてられてもいいようにしてい
たのだ。
  食事が終わると、食器を洗って部屋に戻ろうとしていた。
  いつもなら、すぐに部屋に戻っているのだが、今日は何故か戻る気にはなれな
かった。
  何か変だと思いつつ、また台所に戻った刹那、後ろの方の窓ガラスが、ガシャー
ン!  と音を立てて割れたのだ。
  身構えて振り向くと、兵士が部屋の中に侵入していた。
  それを確認すると、素早く杖を強く握った。
「斗菟剣技・風陣!」
  神速とも言える速さで杖を二つに分けて、隠し刃で何かを斬った。
  すると兵士の目の前で突風が起き、兵士は窓から家の外へと吹き飛ばされていっ
た。
  更に後ろにはいつの間にか兵士が家の中に侵入していて、彼を剣で斬ろうとして
いた。
  とうとう儂の生死も関わらず、あの剣だけを手に入れようとしだしたか。
  彼はそう思いながら杖の隠し刃で兵士の剣を斬り、兵士の剣の刃を完全に破壊し
て、懐から発明品の一つを取り出した。
「くらえ!」
  彼はその兵士に銃の様な形をした物の引き金を引き、何かを兵士に当てた。
  その兵士は一気に吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられた。
「儂の家に代々伝わる発明品じゃよ」
  気絶した兵士にそう言うと、その部屋の扉から兵士が三人入って来た。
  こうなったら、剣技は使えぬわい。何とかしてこ奴等を追い払わなければならぬ
な。
  彼は決して兵士達を殺そうとはしなかった。戦う事になっても人は殺さないと心
に決めていたのだった。
  彼は兵士を銃を撃って、気絶させるだけであった。
  三人とも気絶した所で、部屋の扉の方から十人もやって来た。
  それを見た彼は、急いで窓から逃げる事にした。
  何しろここでそんな人数を相手にしたら、まず勝ち目はないからだ。
  素早く窓から出た彼はその場で立ち尽くした。
「さて、そこまでだ」
  彼の目の前には、三十人近くの兵士達とメレンゲがいたのだった。
  それを見た彼は素直に降参して杖を地面に捨てた。
「ふむ、流石にこの人数では相手をしてやれんわい。降参するわい」
  彼はそう言って両手を挙げた。
「ふ、そうか。私にかかればこんなクソ爺など簡単なものだ」
  メレンゲはそう言って、後ろの方を向いた。
  今がチャンスじゃ!
  そう悟った彼は懐にしまっていた銃を取り出してメレンゲを撃とうとした。
「馬鹿な真似は止めとおくのだな。兵士に殺されたいのなら別だがな」
  彼の首元には、いつの間にか兵士の剣があった。
  少しでも動けば殺される、そう悟った彼は仕方なく銃を捨てた。
「さて、剣を持って私に付いて来てもらおうか。ただし、取りに行く時に下手な真
似をしたらお前の命は無いと思え」
  メレンゲはそう言って、彼と共に兵士を数人連れて家の中へと入って行った。
  家の中に入ると、彼は役に立ちそうな発明品をいくつか袋に入れると、最後にあ
の剣を袋に入れた。
「行くぞ!」
  メレンゲは彼が袋の中に剣を入れるのを確認すると、キスキン国へと向かった。
  キスキン国に着いた彼らは、ゾラ大臣の元へと連れて生かれた。
「ようやく捕まえて来たか。さて、早速だがあの剣を出せ」
  ゾラ大臣は彼にそう言うと、彼は袋の中から剣取り出した。
  それをメレンゲが取ると、ゾラ大臣の手へと渡った。
「おお、これがあの剣か……」
  ゾラ大臣は剣をじっくりと見つめていたが、しばらくしてその剣を床に叩き付け
た。
「なんだこれは?  偽物ではないか!  あの剣は何処にあるのだ!?」
  だが、彼はにやりと笑うだけで答えようともしなかった。
「早く兵をこ奴の家へと行かせるのだ!  そして、剣を探させるのだ!」
「はっ!  かしこまりました!」
  メレンゲは、近くにいた兵士を連れて部屋から出て行った。
「さてと、お前は何を言っても答えはしないだろうが、家を探せば簡単に見付かる
しな。後はお前の処分だな」
  そう言って、部屋の隅にあった猫の像の鼻を押した。
  すると、彼のいた所の床が無くなり、彼は地下へと落ちていった。
「もし、お前がここから出る事が出来たら、その時にはお前をあの剣で地獄に落と
してやろう」
  最後に聞えたのはその言葉であった。
  何処までも続くように思われる穴を落ちていくと、しばらくすると何処かの部屋
へと出た。
  かなりの高さがあったので、床に叩き付けられた時には気絶しそうになったが、
なんとか堪えた。
  彼は上を見上げて今来た所を確認した。
  壁に一つの穴が空いているのを確認すると、部屋の中を見回した。
  一つだけ扉が開いているのを確認すると、その扉の方へと向かい、入っていった。
  そして、彼はある一人の少年と出会う事になる。その者の名は、トラップ……。
  トラップは、この長いダンジョンを脱出する為に共に戦う事になるパートナーと
なるであろう。そして、良き突っ込み役として活躍するであろう……。

 1998年4月29日(水)22時28分14秒投稿の、帝王殿の小説三十話突破記念特別編です。

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