第八十一話「舟」 俺達は部屋の中に入り、ようやく、あの扉から先に進む事が出来た。扉は完全に 開いた状態で、もう罠がある様には見えなかった。その扉を通り抜けると、そこは 通路だった。 その通路は、入って正面は壁で、左側も壁。右側へと通路が伸びている。そこを 通って行くと、右側の壁に扉が見えて来た。 「まずは、俺が罠がないかを調べっか」 呟き、そして、扉に近付くと、扉に罠がないかを調べた。だが、罠らしき物はな かった。 「どうやら、大丈夫らしいぜ」 そうディト爺に言うと、俺は扉を開ける。扉を開け、通路を抜けると、そこは一 つの部屋だった。しかも、ただの部屋じゃねぇ。よく見ると、部屋というより、水 路見たいだな。 床を見ると、四方に一メートルぐらいしか床が無く、後は、水があるだけだった。 しかも、水上には三人乗りの舟がポツンと浮いていた。 「これは、こいつに乗って先へ進めって事か?」 俺は、ディト爺を見る。すると、ディト爺は、水を指で触れようとした。 「痛っ!」 ディト爺は、さっと退いた。 「どうしたんだ!?」 俺は、ディト爺に駆け寄ると、ディト爺は顔を歪めた。 「ふふ、儂を心配してくれるなんて……。爺チャン、嬉しい!」 「死んどけ〜!」 俺はディト爺を水の中へと沈めるべく、ディト爺を引っ張る。 「や、止めんか! あの水は、電気が通っているのじゃぞ!」 「何だって!?」 俺は大きな声を上げると、ディト爺を解放してやった。 「ふむ、解放より、介抱の方がよかったの〜」 「何処の誰が病気をしているだと!? 解剖して欲しいのは誰かな〜!」 俺は、思いっきりディト爺を殴ると、部屋一杯に広がった水を見た。水の深さは 大体、三メートル程だろうか? 暗くて正確にはわかんねぇが、水が何とか済みきっ ている為か、何とかわかるな。この深さだと、舟が途中で突っ掛かるって心配はねぇ な。 「つまり、ここは絶対に舟を利用しろって事だな」 俺がそう言うと、ディト爺はうなずいた。 「じゃが、もし、舟から落ちる様な事があれば、儂等はこれまでじゃな」 不吉な事を言うと、ディト爺は早速舟に乗ろうとしていた。俺は、そんなディト 爺を止めると、壁に掛けてあった四本の櫂を手に取り、ディト爺に櫂を二本渡した。 俺は舟に先に乗り込み、前の方へと座った。その後、ディト爺が続いて舟に乗り 込み、後ろへと座った。 「櫂は、持ったか?」 俺がそう言うと、ディト爺は二本の櫂を俺に見せた。櫂は軽く、二本持っていよ うとも、別に重たくはなかった。 「さてと、さっさと行くか!」 俺は声を張り上げると、ゆっくりと櫂で漕ぎ始めた。
第八十二話「迫り来る・・・」 水路を、二人の人を乗せた舟がゆっくりと進む。正面は水路が長く伸びている。 右側と左側は壁があるだけ。一本道の水路は、何事も無く、舟は平和そんに流れて 行く様だった。 「ディト爺、何だか、怪しげな雰囲気だ。後方に気を付けろ」 俺は、後方を見ながらそう言った。何故なら、後方の水面からは、随時、波紋が 広がっているからだ。これは、何かが迫って来ているって事に違いはないからだ。 前方に向き直って、櫂を漕ぎ出す。ディト爺も櫂を漕ぐ。だが、後方の何かは、 決して諦める事は無かった。波紋は、今もあるからだ。 「ディト爺! 一気に行くぜ!」 俺とディト爺は、櫂を力一杯に漕ぎ出すと、舟はグングンと進み始めた。一気に 進んだ舟は、調子良く何処までも進む。 もう大丈夫だろう、と思いながら後方を見た俺は、驚いた。何故なら、後方から 迫って来ていたのは、四匹の猫だったからだ。しかも、よく見ると、犬掻きをしな がら迫って来ていやがるじゃねぇか! 「ディト爺! もっとスピードを上げるぜ!」 俺は一呼吸置いてから、櫂を持つと、力の限り櫂を漕ぐ。ディト爺も、必死にな りながら櫂を漕いでいる。 後方を見ると、猫達のスピードは確実にこの舟のスピードよりも速い! このま までは追いつかれるのは時間の問題だ。 「ん? なんであいつらは電流が流れている水の中を泳いで平気なんだ?」 ふと素朴な疑問を持っていると、ディト爺が呟くように言った。 「あいつらは、機械で出来ているのじゃ。多分、その表面には、ゴム製の物で覆わ れているのじゃろう」 そういや、ゴムって電気を通さない性質を持っていたよな。じゃあ、あいつらは 絶対に感電死ってのはないのか。どうも不公平だな。 舟は、かなりのスピードで水面を走っている。だが、それ以上の速さで猫達は追 いかけてくる。 何か武器でもあれば……。ん? 武器? 俺は咄嗟にポケットを探った。すると、ポケットの中から、ディト爺の銃が出て 来た。あの時、銃を咄嗟にポケットにしまっていたんだよな。それで、銃は俺と共 に流されて行ったって事だ。 櫂を舟の底に置くと、俺は銃を持って構えた。照準を猫の一匹に合わす。そして、 あの威力を調節するネジを左に回し、威力を弱める。最後に、銃の上に付いている ボタンを押した。 「吹っ飛びやがれ!」 俺が銃の引き金を引いた刹那、物凄い力が、銃の中から飛び出てきた。しかも、 威力を調節していたにも関わらず、その威力は凄まじいものであり、俺はその衝撃 で体勢を崩しそうになる程だった。 「ふにゃ〜」 哀れな猫が、鼻血を流しながら吹っ飛んで行きやがる。 「どうやら、簡単に行けそうだな」 俺は余裕ある口調で行ったが、すぐに顔を引き攣らせた。 「いや、どうやら、そうはいかないらしいな」 後方からは、猫の大群が犬掻きをしながら迫って来ていやがった。どうやら、俺 達は猫に追いかけられる運命にある様だな。 「ディト爺! 思いっきり漕ぐぜ!」 俺とディト爺は、迫り来る猫達から逃れるべく、櫂を必死に漕いだ。
第八十三話「哀れな猫」 水面を舟と猫の大群が走り抜けて行く。 バジャバシャバシャ、と音を立てながら、猫達はそろって犬掻きをしている。 「え〜い! 何とかなんねぇのか!?」 櫂を漕いでいた俺は、いい加減、逃げる事に疲れたきた。銃を持っているとはいっ ても一体のみに有効だ。当たれば確実に倒す事は可能だ。だが、その後からぞくぞ くと猫はやって来る。倒している暇があったら、櫂を漕ぐのが一番という事だ。だ が、逃げるってのはどうもイライラすんだよな。どうにかして、あの猫の大群を一 掃出来ないものか? ディト爺は、ただ黙々と櫂を漕いでいる。仕方なく、俺は櫂を漕ぐ。 前方を見ると、行き止まりになっていた。左を見ると、曲がる事が可能だった。 どうやら、ここは左方向へ向かえって事だな。 「ディト爺! 方向転換だ! 左に曲がるぜ!」 舟を方向転換しようとした刹那、数匹の猫が俺達に襲い掛かって来た。いや、正 確に言えば、俺だけに襲い掛かって来た。 猫は、鋭い爪で俺を切り裂こうとした。素早く体をそらし、攻撃を避ける。 「だ〜! なんで俺だけ狙うんだよ!」 それは何故かわかっていた。前の階で、ディト爺が猫に対して恐ろしい行為をし たからだ。その為、猫達は、ディト爺を恐れ、近付こうともしない。今も、猫達は 俺だけを襲っている。 「ディト爺! この猫をどうにかしてくれ!」 俺は思いっきり叫ぶと、ディト爺はにやりと笑って、丁度目の前に居た一匹の不 幸な猫を捕らえた。 哀れな……。 俺がそう思っていると、ディト爺は、例の、スリスリキスキス抱きしめディト爺 スペシャルアタックに出た。 「ほ〜れほれ! 可愛いの〜。名前はなんと言うのかの〜?」 あまりにも激しく、恐ろしい為、これ以上この光景を見る事は危険だ。 俺は素早く前に向き直ると、耳を塞いだ。 さらばだ、哀れな猫よ……。 「ふぎゃ〜……」 あまりの怖さに、猫は泣き叫び、とうとう気絶してしまった。その顔は、まるで 地獄を見て来たかのように死んでいた。 俺はその気絶した猫を、猫の大群の中へと放り投げた。すると、猫の大群は一瞬 凍り付くと、すぐさま逃げた始めた。 溺れる猫もいれば、狂乱して、仲間の猫達を道ずれに、一緒に溺れる猫……。 「す、凄まじい光景だな……」 俺まで凍り付きそうになっていたが、何とか助かった様だ。 「ほれ、さっさと行くかの?」 俺は、少し顔を引きつらせながらうなずくと、舟を方向転換させ、先へと進んで 行った。
第八十四話「壊れた銃」 しばらく櫂を漕いでいると、少し遠くの方にある正面の壁に扉が見えて来た。 「どうやら、ここの部屋の出口はあそこらしいな」 そんな事を呟きながら、俺は櫂を漕いでいた。 「ふ〜む、それにしても、あの猫達はどうして逃げてしまったのかの〜?」 ディト爺は、何とも寂しそうに言っていた。 おいおい、んな事言ってもなー。あんな事されたら誰もが絶対に逃げるって。 俺は、あの光景を思い出してしまい、顔を引きつらせながら櫂を漕いだ。 突然、ガクンッ、と舟が揺れたかと思うと、舟が左方向へと傾いた。舟は、左方 向へと向かって行く。舟は、ぐんぐん左方向へと進んで行く。 「お、おい! どうなってんだ!」 前方には扉が見えているってのに、このまま左方向へと向かっていられっかよ! 「ディト爺! 全力で櫂を漕ぐぜ!」 俺とディト爺が必死になって櫂を漕ぐが、それでも舟は左方向へと向かって行く。 「左の壁を見るのじゃ!」 その声に導かれる様に左側の壁を見ると、壁には何か変な物が取り付けられてい た。それは、小さな四角い形の物で、その変な物からは、ウン……、と変な音が聞 こえて来る。多分、あれが舟を引き付けようとしているのだろーな。早めに破壊し ておくか。 「ディト爺、何とか舟のバランスをとっていてくれよ」 櫂を舟の底に置くと、銃をポケットから取り出した。そのままの状態であの四角 い物に狙いを定めた。 「さーて、吹っ飛びな……、だー!」 突然、舟が揺れ出した。その為、銃の照準が上手く合わなかった。 「何してんだよ! 上手く狙えねぇじゃねぇかよ!」 ディト爺を見るが、ディト爺は、何もしてないと言わんばかりに俺を見た。 どうやら、舟があれに吸い寄せられている様だな。早く破壊しねぇと、完全にくっ 付いてしまうな。 俺は、再び銃を持って構えると、照準を壁に付いた四角い物に合わせた。 「吹っ飛びやがれ!」 カチ……。 「あり?」 銃の引き金を引いたが、何も起こらなかった。ボタンを押していなかったのか? と思いながら、銃の上方に付いているボタンを押すと、また引き金を引いた。 カチ……。 「変だな?」 何度も引き金を引くが、どうも、銃が動かない。 「う〜む、どうやら、壊れてしまった様じゃな」 ディト爺は、冷静にそう言った。 「何とか直んねぇのか!?」 すると、ディト爺はその銃を俺の手から受け取ると、銃をじっと見た。だが、す ぐに顔をしかめた。 「う〜む、駄目じゃ。何処かが壊れた様じゃな」 どうやら、銃は使えねぇ様だな。仕方ねぇ、こうなったら自力でこの状況を切り 抜けるしかねぇな。 「ディト爺! 銃はもういいから、櫂を力一杯漕ぐぜ!」 そう言うと、俺は力一杯に櫂を漕ぎ始めた。ディト爺も続いて櫂を漕ぎ始める。 だが、その吸い寄せられる力は半端な物ではなく、恐ろしく強力な物だった。 「ん? ちょっと待てよ? あの壁から出ている水は何だ?」 よく見ると、壁からは水が出ている。大量とは言えないな。もし、このまま壁に 近付いて行くと、その水がこの舟の中に入り込んでしまうと、この舟は確実に沈ん でしまうだろうな。 「ディト爺! こうなったら、死ぬ気で頑張れよ!」 俺はそう言うと、自分の持つ全ての力を振り絞って櫂を漕いだ。
第八十五話「スイッチ」 俺達は、自分の持っている全ての力を出し切るぐらいの気持ちで力を込めて櫂を 漕いだ。だが、それでも舟は壁へと吸い寄せられて行く。壁からは水が出ていて、 それが舟に入ってしまったら転覆しちまう。何とかそうならない様にしねぇと! 「ディト爺! やっぱ、原因はあの装置か?」 ディト爺は、ゆっくりとうなずいた。 「壊す方法はねぇって事だな。だったら、もう櫂を漕いで突破するしかねぇな!」 俺は、更に櫂を漕ぐ。だが、舟は一向に壁に吸い寄せられるだけ。 こんな仕掛け、無理があり過ぎる! いくらなんでも、俺達の力だけでは突破出 来ねぇじゃねぇかよ! ディト爺を見ると、何やらブツフヅと呟いていた。集中して、ディト爺が何を呟 いているのかを聞き取る事にすると、「第二百五十一条、基本的ボケの尊重……」 「何を意味不明な事を言ってんだよ!」 思いっきりディト爺を殴ると、俺は辺りを見回す事にした。もしかしたら、何か があるかもしんねぇからだ。 「ん? あのスイッチは?」 あの四角い装置ばかりに気を取られていて中々気付かなかったが、その装置の少 し右側に三角形のスイッチがあった。 「ディト爺、もう櫂を強く漕ぐ必要はねぇ。最後の手段が見付かったからな」 そう言いながらディト爺を見ると、ディト爺は、またまた猫スーツを着ようとし ていた。 「こんな状況で、変な事をしているのは誰かな〜!」 思いっきりディト爺を殴ると、ディト爺はにやりと笑った。 「ふふ、そんなに怒らんでいい。何故なら、お主用の猫スーツが用意さておるから じゃ!」 ディト爺はにやりと笑いながら、その猫スーツを高々と持ち上げた。 「誰用だって〜!」 俺は、ディト爺を殴り飛ばすと、櫂をゆっくりと漕ぎ、速度があまり速くならな いように調節した。 「ディト爺も、ゆっくりでいいから櫂を漕いでくれよ。速くなり過ぎたらやべぇか らな」 ディト爺は素直に櫂を漕ぎ出す。 ガコンッ! と、舟が壁に当たり、舟が揺れた。 「うぬ、倒れる!」 と、何故かディト爺は俺の方に向かって倒れてくる。 「元に戻りやがり!」 素早くディト爺を殴って元に戻す。そんな俺を見てか、ディト爺は寂しそうな顔 をした。 「どうして儂の愛を受けてめてくれんのじゃ?」 「気色の悪りぃ事を言ってんじゃねぇ!」 櫂で、ディト爺を思いっきり殴ると、ディト爺は何故かにやりと笑っていた。 「ふふふ、激しいあなたが好き」 「いっぺん沈めたろうか!」 思いっきりディト爺を殴っていると、足元で、ピチャッ、と音がしたので、慌て 足元を見ると、水が既に入り込んでいた。壁の方を見ると、壁かに流れ出る水が舟 の中へと入っていた。 俺は急いで、一本の櫂を持ち上げると、三角形のスイッチに当てようとした。だ が、長さは十分なのだが、どうも上手く当たらねぇ。早くしねぇと、舟は転覆しち まう。更に、その後は電流の流れる水の中へと……。こうなっちまったら、死んじ まう。 「ディト爺! 俺がスイッチを押すまで舟の中に溜まる水をかき出してくれ!」 ディト爺は、素早く手で水をすくい出す。俺は、櫂でスイッチを押そうとしてい た。だが、中々スイッチは押せなかった。そうこうしている内に、水は舟の中に溜 まって来やがる。 何としてでもあのスイッチ早く押さねぇとな。
第八十六話「猫の呪い、再び…」 俺は必死になって櫂でスイッチを押そうとしている。隣では、ディト爺が必死に なって手で舟に溜まって行く水をかき出している。こんな状況は、ピンチという他 にねぇだろうな。 俺は何度もスイッチを押そうと櫂で狙ってみるが、全て外れている。ディト爺の 方は、必死に手で水をかき出しているものの、水が溜まるスピードの方が早く、舟 にはもう、かなりの量の水が溜まりつつある。 「ぬごっ! なんじゃと!」 突然、ディト爺が大きな叫んだ。その声を聞いて素早く振り向くと、なんと、舟 は、もう沈みかけていた。このままじゃ、あの電流の流れる水に入っちまう! も う、時間はない! 俺は再び向き直ると、櫂を持ち直し、そして、スイッチ目掛けて突っついた。 ガチッ! スイッチに命中したと同時に、大きな音が辺りに響く。すると、突然、舟が揺れ はじめた。いや、水に変化が起こってんだ! 「水が、減っていくわい」 それは、部屋全体に溜まっていた水が、全て何処かへと流されて行き、水は無く なろうとしていた。 しばらくして、水が少なくなってくると、床が見え始めた。どうやら、水は単な る足止めだったって事だな。水がなくなってこそ先に進めるって事なのか。 前方には、階段があり、その上方にはあの扉があった。 「ディト爺、先に進むぜ」 俺は、ゆっくりと歩き出すと、その階段を上って行き、扉の前まで来た。いつも のように、扉に罠がないかを調べるが、結局、罠はなし。俺は安心して扉を開けた。 扉を開けると、そこはまた似たような通路でも同じく左と正面は壁で、右側に通 路が続いている。 「ディト爺、ちゃんとついて来いよ」 「憑いて?」 と、ディト爺は妙な事を言うと、ディト爺は突然、あの玉を取り出した。 「ふふふ、猫の呪いはまだ憑いているかの〜?」 ディト爺はにやにやと笑いながら俺に近付いて来る。そんなディト爺を見て、俺 は後退して、通路へと進んで行く。 「や、止めろ。それは、俺を暴走させるだけだぜ!? 暴走したら、猫が俺を襲うん だぜ!?」 必死に訳のわからねぇ言い訳をするが、それもそこまでで、とうとうディト爺は その玉を俺に向かって投げた。 「猫〜!」 意味不明名な事を叫びながら、俺は走り、通路を一気に走り抜けようとした。だ が、玉は異常に速く飛んで来て、俺は当たった。その刹那、体の自由が効かなくなっ た。すると、体は猫の様に何処まで転がって行く玉を追い掛けて行く。 「にゃ〜!」 はっ! ち、違う! 口までもが、猫の呪いに!? 違う! 俺はこんな事をした いんじゃねぇんだ! だが、体は玉で遊び続けている。更に、遊び疲れたのだろうか、その場に座った。 「にゃ〜!」 ま、また鳴いていやがる! 俺は猫じゃねぇんだよ! あと、前に視線か勝手に動く。すると、そこには猫スーツを着たディト爺が立っ ていた。 「にゃ〜ん!」 更に、ディト爺は猫真似をしだし、そして、俺にじゃれてきた。 本当なら、叩きのめしているところだが、今は体が一切動かねぇ。体が自由に動 く様になったら絶対に叩きのめす! だが、猫の呪いにかかった俺は、ディト爺といつまでもじゃれあっていた。
第八十七話「離れた床」 かなりの時間が経過し、ようやくディト爺から解放された。勿論、何発か殴った。 通路の先へと進むと、またしても右側に扉があった。扉を調べたが、罠は無かっ たので、安心して扉を開けた。 扉を開けると、そこはまたしても部屋だった。俺達は部屋のへと入ると、今度も また、部屋の殆どの所に水が溜まっていた。 「あ……」 突然、ディト爺が未だに持っていた玉を手を滑らして落としてしまい、水の中へ と落ちた刹那、その玉がゆっくりと溶けていった。 「な、なんだ!? 水の階とか言っておきながら、なんで玉が溶ける様な危ないのが あんだよ!?」 だが、そう言っても何も始まらねぇ。今出来る事は、先に進む事のみだ。 辺りを見回すと、今いる所の床はすぐになくなっていた。だが、少し距離があい た所に、小さな床があり、更にその奥にも途切れ途切れになりながらも床が続いて いる。その先には、よく見ねぇとわからねぇが扉がある。どうやら、この途切れ途 切れになっている床を上手くジャンプしながら先に進めって言いたい様だな。 「ディト爺、ここは慎重に行けよ。変な事を言うのは絶対に禁止だ。下手すりゃ死 んじまうからな」 よ〜くディト爺に言い聞かせると、俺は早速進む事にした。 まずは、床の端まで行くと、一気にジャンプをして次の床へと簡単に着地する。 「ディト爺はまだそこで待ってろよ。俺がもう一つの床へと飛び移るまで待ってろ」 そう言って、俺は再び次の床へと飛び移る。 結構楽じゃねぇか。この調子だと、簡単に行けそうだな。などと余裕のある考え を持っていると、突然足場が動きはじめた。 「うわっ!」 体勢を崩してしまい、何とか床の上に転がっただけですんだ。 「一体どうなってんだ!?」 ディト爺の方を見ると、その間にあった床もゆっくりと動いていやがる。どうや ら、全ての床が動いている様だな。 「ふむふむ……。どうやら、この部屋の床は動く様じゃな」 ディト爺は何とものんきな事を言っていやがる。 「ディト爺! なんとかタイミングを見て上手くジャンプしろよ!」 ゆっくりとうなずくディト爺を見ると、俺は正面を見た。正面には、床が行った り来たりしていやがる。だが、動くスピードはそれ程速くはねぇ。これならなんと か行けそうだ。 「行くぜ!」 タイミングを見て、一気にジャンプをする。そして、なんとか次の動く床の上に 上手く着地する。後方を見ると、ディト爺も同じく床を渡って来ている。 正面を見ると、今度の床はさっきの床よりも速くなっていやがる。よく見ると、 その先は更に速くなっていやがる。 「ディト爺! 気を付けろ! 先に進めば進む程、床は速く動いていやがるぜ!」 そう言うと、俺は前方に動く床をじっと見た。
第八十八話「消えたディト爺」 しばらく前方の床をじっと眺めていると、その速さに目が慣れてきて、タイミン グを見て一気にジャンプをした。 「おっと!」 一瞬、床に着地した瞬間、足を滑らしそうになったが、何とか体勢を元に戻して 確りと立つ。足元を確認すると、ふー、と大きく息を吐き出した。 後ろを振り返ると、ディト爺が上手く行けているかを確認すると、ディト爺は少 し遅いながらも、ちゃんと床を渡って来ている。 「ディト爺! あまり無理すんなよ! 無理し過ぎて、死んじまったら大変だから な」 そんな事を言いながら、俺は前方に向き直ると、次の床を見た。次の床は、少し 速さが変わっているな。速くなったり、遅くなったりしていて、中々速さのコツが つかめねぇ。だが、この床からあの床までの距離はさほど大きくはねぇ。つまり、 法則さえわかれば何とかなるって事だ。 しばらくその床を、じっと見ていると、ある事に気付いた。あの床は、五秒単位 で速さが変わっているんだ。つまり、五秒経過すると速くなり、また五秒経過する と遅くなる。飛ぶタイミングは、遅った直後が一番良い。 じっと床を見て、その時を待っていると、床が速くなったと同時に、五秒を数え る。すると、すぐに床の速度が遅くなる。素早くその床の向かう方向に狙いを定め る。 「今だ!」 一気にジャンプをすると、次の床へと見事に着地する。足場をよく確認すると、 また前方にある床を見た。 「ぬお〜!」 突然、後方でディト爺の叫び声が聞こえて来る! 素早く振り替えると、そこに は水に溶けゆく猫スーツがあっただけだった。辺りを見ても、ディト爺の姿は見当 たねぇ。 「ディト爺ー! 返事しろー!」 だが、返事は返って来ない。それどころか、猫スーツはどんどん溶けていく。も しかして、ディト爺は……。いや、そんな訳ねぇ! 絶対に生きている! 殺して も殺しても、墓を破壊してでも生き返って来る奴だからな。 俺は何度もディト爺の名を呼び続けたが、結局返事は返って来なかった。 一体、どうしたってんだよ……。 あの猫スーツは、もう完全に溶けてなくなっていた。それはまるで、ディト爺の 死を意味する様に見えた。 ディト爺、一体何処に行ったんだ? 死んじまったって事はねぇよな? 必ず生 きているよな? 俺は、必死に辺りを見回し、ディト爺の姿を探し続けた。だが、ディト爺の姿が 見付かる事はなかった。
第八十九話「落ちる!?」 辺りを何度も見回し、ディト爺を捜しているが、未だに見付かる気配はなかった。 「一体何処に行ったんだ? 死んじまったのか?」 そんな事を呟きながら、辺りを見回していた。 いつもなら、このぐらい経っているとそろそろディト爺が現れるはずなんだが、 それでもディト爺は現れはしなかった。 それでも探し続けていたが、結局は見付からずだった。 「仕方ねぇ。先に進むとするか……」 最後に辺りを見回すと、俺は前方の床を見た。前方の床は、またしても動きが速 くなったり遅くなったりしている。しばらく見て、そのパターンを覚えようとした が、どうも変だった。突然速くなったり、突然遅くなったりして、更には止まった りしている。もし、今まで速く動いていた床が、ジャンプした瞬間に床が止まって しまったら確実に溶けて死んじまうって事だな。 「何とかしてパターンを……」 そんな事を呟きながら、じっと眺めていた。すると、ある法則が見えてきた。床 の動きには四つあり、速くなる、遅くなる、止まる、普通なスピードがある。そし て、その組み合わせは三パターンある。初めが遅いと次は速くなり、その次は止ま り、最後は普通の速さとなる。次のパターンは、初めが遅いと次は普通の速度で、 その次は止まり、最後は速くなる。最後のパターンは、初めは普通の速さで、次は 止まり、その次は速くなり、最後は遅くなる。 「さってと、さっさと渡るか!」 床をじっと見ていると、速くなり、止まる。 このパターンから察すると、次は普通の速度だ! 現在、床が向かっている方向 は右方向。少し距離をあけて飛ぶべきだな。 狭い床の上で、軽く助走を付けてジャンプをした。 「なんだと!?」 ジャンプをした刹那、何故か床の動く速度は 遅くなりやがった! しまった! もう一つそんなパターンがあったんだ! やべぇ! だが、俺の着地する予定の場所には床はまだ来てはいない。つまり、このまま俺 は死んじまうって事か!? 「ディト爺〜!」 最後に、ディト爺を頼る様に大きく一叫びすると、俺の体は下へと落ちて行った。 「まだ死ぬでないぞ〜!」 突然、何処からかディト爺の声が部屋中に響くと、俺の体は宙に浮いたまま止まっ てしまった。 「ふむ、どうやら間に合った様じゃな」 その声は、上の方から聞こえて来た。上を見ると、ディト爺が天井に張りついて いた。そういや、そんな発明品もあったよな。天井に張りつく様な発明品が……。 「って、なんで天井にいるんだよ!」 「ふむ、詳しい話はこの部屋を抜けてからじゃよ」 そう言うと、ディト爺は俺を上へと引き上げて、天井まで来ると、ディト爺は大 きな吸盤を俺に渡した。 「ほれ、究極くっ付きタコタコ君じゃ」 なんでそんなネーミングをするんだ、と思いつつ吸盤を両手に持ち、天井に思いっ きり強く張りつけた。少し手が震えているのがわかった。腕が震えて当たり前だ。 下とはかなりの距離がある。ここから落ちてしまったら確実に死んじまうだろうな。 そんな事を考えていると、ディト爺はにやりと笑いながら俺を見た。 「そんなに怖がらんでいいわい。もっと気楽にせんとな。それと、足にもこれを付 けるのじゃ」 そう言いながら、ディト爺は笑っていた。 そりゃ、ディト爺は慣れているかもしんねぇけど、俺は慣れてねぇんだぜ。 ディト爺から足用の吸盤を受け取ると、それを足に付けて、そして天井に強くくっ 付けた。 「さて、先に進むかの」 ディト爺は俺が足に吸盤を付けたのを確認すると、天井を進みはじめた。それに 続いて俺も天井を慎重に進みはじめた。
第九十話「理由」 俺は、ディト爺の後ろに続いて天井に張り付いて進んで行く。しばらくそうして いたから、天井に張り付いて進むって事が慣れてきた。 「なあ、どうやってあの状況から逃れたんだ?」 「ふふふ、その事は後でじゃ。とにかく、今はここの部屋を出る事じゃ」 そう言うと、ディト爺はペタペタと吸盤の音を立てながら先へと進んで行く。俺 は諦めてディト爺の後を進んで行った。 しばらく進んで行くと、前方に行き止まりが見えて来る。 ディト爺は、そこで壁に足の吸盤を付けると、ゆっくりと降りて行く。下の方は 床が壁と隣接している。このまま壁に沿って降りて行くと、上手く下に行けそうだ な。 俺も続いて壁に吸盤を張り付けて壁を降りて行く。 「ほれ、あまり高くはないから、ある程度の高さまで来たら飛び降りるのじゃぞ」 そう言うと、ディト爺は足の吸盤を壁から外し、左手の吸盤を外すと飛び降りた。 俺もある程度の高さまで降りて行くと、足と手の吸盤をはがして床へと飛び降り た。 「よっと!」 床へと着地すると、そして、辺りを見回すと、壁に扉があった。罠がないかを調 べると、罠がない事が判明した。そして、その扉を開けると、入って行った。俺の 後ろに続いてディト爺も入ってくる。 扉を通ると、正面は壁で、右方向は通路が続いている。左方向は壁がある。 俺はディト爺を見ると、その場に座り込んだ。続いてディト爺も座り込む。 「さてと、そろそろ話してくれねぇか?」 「ふむ、では話そうかの」 ディト爺は、ゆっくりと口を開いた。 「その前に、お茶でも飲まんか?」 ディト爺は袋からコップとお茶を取り出す。お茶をコッブな入れると、俺はコッ プを受け取った。 「まずは、一体どうやってあの状況から天井まで一気に行ったんだ?」 すると、ディト爺はお茶をゆっくりと飲むと、コップを床に置いた。 「ふむ、儂はまず、前方の床に向かってジャンプをした時じゃった。タイミングを 間違えてしまったのじゃ。そして、落ちそうになったのじゃ。その時じゃ……」 ディト爺は、突然袋からあの溶けてしまったはずの猫スーツを取り出した。 「この猫スーツが助けてくれたのじゃよ」 「どういう事だ?」 俺は不思議そうにディト爺を見た。すると、ディト爺はその猫スーツを高々と持 ち上げた。 「実は、この猫スーツは、水などを含むと浮く性質があるのじゃ。じゃが、あれに 浸かれば溶けてしまう。じゃが、少しの間ならばその効果はあったのじゃ。偶々手 元にあったから、儂は迷わず落としたのじゃ。すると、それは見事に浮かび上がり、 儂はその上に乗り、適当に発明品を袋から出して、それを使ったのじゃ。それが、 この『究極世界一周ぶっ飛び君』じゃ」 「変な名前を付けんじゃねぇ!」 思いっきり殴ると、ディト爺はその『ぶっ飛び君』を取り出した。それは、変わっ た靴で、底の方に何かの穴がある。しかも、普通の靴よりもかなり靴底が大きく、 何かが入っている様だった。ディト爺はそれを俺に渡すと、にやりと笑った。 「な、なんだ!? 重いな……」 そう、見かけよりかなり重い。多分、靴底に何かが入っているからだろうな。 「これはじゃな、靴底に小さな魔力エンジンがあってな、大気中に散らばっている 魔力を吸い取る事により、風が巻き起こり、飛行が可能となるのじゃ。じゃが、一 方方向にしか飛ばん」 「そのまま空に飛んで行く気か!」 思いっきりディト爺を殴ると、お茶を一気に飲み干した。
1999年7月25日(土)18時48分02秒〜8月01日(土)20時13分15秒投稿の、帝王殿の小説第八十一話〜第九十話です。