先への扉 外伝2

〜明日は違う未来がある・・・・かも?(前編)〜


「・・・・やーっと理解したな。」
おれは一通り話し終わって落ち着いたミモザをみてひとつため息をついて言った。
「やっと・・・ってそれはないだろう?ナレオ。」

― 彼女は5年前からずっとわからなかった
  『先への扉』が『先への扉』と呼ばれる意味を理解した。
  そして理解したらいてもたってもいられなくなっておれのところに報告に来たってわけ。

バンとテーブルをひとつ叩いてミモザがおれに言う。
「これでもわたくしは必死だったんだぞ。」
「必死ねぇ・・・・・案外今まで忘れてたんじゃないのかい?」
おれは腕を組んで疑いの目を彼女に投げかけた。
「(ギクッ)・・そっ・そんなわけないだろう・・?」
おれから目をそらして明らかに「忘れてた」って言っているミモザに苦笑する。
「・・・・ま、いーけどさ。ミモザの方が結果が出るのが遅かったんだし、無理ないか。」
「お前がわたくしより早く扉の意味がわかったのは
 あそこで理解したことの結果が早く出たからなのか?」
彼女の言う『あそこ』っていうのはもちろん『先への扉』の中のことだ。
おれもミモザが先への扉に行った3年後、入ることができた。
「ん、まあね。」
曖昧に返事をすると真剣な瞳でミモザが聞いてくる。
「一体何を理解したんだ?」
「・・・・え・っとぉ・・・・・・・・・・・・。」
それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おれが答えに困っていると、
「あの時わたくしが先への扉の意味を理解したら教えると約束しただろう?」
「・・・・・・・。」
「教えろ。」
こう詰め寄ってきた。
確かにおれが扉から帰ってきてあの言葉を言った時に約束したさ。
あの時おれはどうしてもミモザに扉の中でのことを言いたくなくてとっさにそう言ったんだ。
ミモザが扉の意味を理解したら中での事を教えるって・・・・・。
・・はぁ・・・・言いたくないこともあるのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
おれは約束を破ることもできなくてしぶしぶと口を開いた。
「・・・・・・・・・わかったよ。」
その言葉を聞いてミモザはまた椅子に座りなおし、おれの言葉を待っていた。
大きく息を吐いてから、おれは話し出した。
「始めに理解したのは・・・・親父さ。」
「ゾラ大臣?」
「そう。」
おれはうなづいてから肩をすくめて苦笑した。
「笑っちゃうだろ?あの時から何年か経ってるのに、まだおれは父さんに反発してたんだよ。」
「・・・理解してやったのか?」
「そりゃ・・そうじゃなきゃここにはいないよ。」
「・・・・・・。」
真剣なミモザの視線がじっとおれを見てる。
「・・・・今なら父さんの気持ちもなんとなくわかるんだ。
 父さんが自分自身満足したいって気持ちもあっただろうけど、
 大部分はおれのためなんだってね。
 なんに対してもヘラヘラしてるおれを見て、
 これは自分が何とかしないと・・・・って思ったんだぜ、きっと。」
そう言って笑うおれにミモザが次を促す。
「セイムのところは?」
ピタッと笑うのをやめおれはうつむいて小さな声でつぶやいた。
「・・・・・ミモザ。」
「えっ?」
聞こえなかったのか不思議そうな声を上げるミモザに、おれは今度は顔を上げて言った。
「ミモザを理解した。」
「わたくしを・・・・?」
驚いた様子で大きく目を見開くミモザに微笑む。
「あぁ。多分・・・ミモザと同じ所にたってミモザの辛さを一緒にわかってやりたい
 って思ってたからだと思う。」
「・・・・・・・いつからだ?」
少し眉間にしわを寄せておれに聞くミモザ。
「ミモザが扉から帰ってきてから。」
「・・あの時か・・・・・。」
その言葉にひとつうなづいておれは続けた。
「ミモザがあんなに苦しんでるなんて少しも知らなかった・・・・。
 だから少しでも力になれるようにって思って信じるって言ったんだ。」
「そうだったのか。」
ミモザがふっと肩の力を抜いて椅子の背に体重を預けた。
「それでおれがミモザと同じ側にいるんだって知ってあれを言ったわけさ。」
「『おれだけはミモザの味方だ』っていうあれか。」
「ん、そう。」
おれの答えにそうか・・・・と言ったミモザがまたじっとおれを見つめて聞いた。
「それでは・・・・・最後は?」
「・・・・・それは・・・・・・・・・」


(後編に続く)

〜明日は違う未来がある・・・・かも?(後編)〜


うつむくおれに彼女は先を促すようにおれがさっき言った言葉を繰り返す。
「それは?」
「それは・・・・」
・・・言えるわけがない。
いや・・・言いたくないだけかもしれない・・・・・。
どちらにしたっておれは・・・・・・・・・
ぶんぶんと頭を振っておれは言った。
「・・・・・・やっぱり言えないよ。」
ガタンと椅子を立ってミモザが言う。
「約束だっただろう?」
「約束でもなんでも言えないものは言えないんだよ!!」
おれも立ちあがって彼女に正面から訴えた。
しかしミモザはおれの言葉がいつもと同じ軽いものだと思ったんだろう。
教えろ!とかなんとか言ってしまいにはおれを追いかける始末だ。
・・・・・・言ってしまおうか?
でも、言ってもし・・・・―――だったら・・・・・・・・・?
・・・あ――・・・もうわかったよっ!!
おれはくるっと回れ右をして、後ろから追いかけてくるミモザの肩をガシッとつかんだ。
「・・・ナレオ?」
「・・・おれが最後に理解したのは・・・・・・・・・・・・・」
不思議そうにおれを見るミモザに今までで1番真剣な眼差しを向ける。
「・・・・・ミモザが好きだってことだよ。」
「えっ!?」
おれの言葉にピタッと動きを止めるミモザ。
そんな彼女をおれはじっと見つめた。
しばらく音の無い時間が流れる。
だんだんおれはミモザと向き合ってるのが恥ずかしくなってきて、
肩を持っていた手を離し、うつむきながらこう言った。
ミモザが信じていないんじゃないかと思って・・・・・・・。
「・・・・本気だからな。ずっと待ってたんだ。」
ミモザが『先への扉』の意味を理解するのを・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
しばらくおれはミモザの反応を待った。・・・・ただし、うつむいたままで。
顔が見れるわけないだろ?あんなこと言ったあとでさ。
・・・・・でもずっとなんの反応もなかった。
だから彼女が心配になって恐る恐る顔を上げてミモザを見る。
ミモザはさっきの驚きの表情のままじっとおれを見ていた。
「・・・・・おい、ミモザ?どうしたんだ・・・?」
そう声をかけるとミモザはくるっと身体の向きをドアの方へ向け、
「・・・・・・帰る・・・・・・・・・」
と歩き出したのだ。
「えぇっ!?おい、ミモザ!!」
おれはもちろん追いかけた。何か言わなきゃいけないと思って・・・・。
彼女はドアを開けるためにドアノブに手をかけたその時、
おれはその手に自分の手を重ねて言った。
「・・・帰るのはかまわないけど・・・・本気だから。・・・考えておいてくれよ。」
ミモザは表情すら変えずおれの手をもう片方の手でどけて扉を開けた。
“パタン”
そしてそのまま部屋から出ていった・・・・・・。
「・・・だから言いたくなかったんだよ・・・・・・・・・・・」
おれは彼女が消えていったそのドア見つめながら1つため息をついた。
・・・・もう側にいさせてもらえなかったらどうしよう・・・・・・・・・・・・・・
やっぱり言わないほうがよかったんだ。
ずっと言いたかったけど・・・・・・言わないほうがよかったんだっ!!
側にいてミモザの力になれたらそれでよかった・・・・・・
・・・いや、それでいいとは思ってなかった・・・・・・・・・な。
できるならもっとミモザに近い存在になりたかった。
今よりももっと側にいてミモザを助けてやりたかった。
だから言ったんだ。
言えなかった・・・・言いたくなかったけど、言ったんだ。
ミモザが好きだって・・・・もしかしたらっていう可能性に賭けて・・・・・・
“ゴンッ!”「あっ・・!!」
突然ドアに何かあたった音がした。(ついでに声も。)
おれはビクッとして思考を止める。
まさか・・・・・・・と思ってドアを開けると、
案の定、額を押さえたミモザが立っていた。
「・・あっ・・・・・・・・・やぁ・・・・・。」
恥ずかしそうに上目でおれを見るミモザに、えっと・・・と尋ねてみた。
「・・・・・・もしかしてずっとここにいたのか?」
「・・・・・・・・あぁ・・・。」
「・・中に入りなよ。」
顔を真っ赤にしてうつむいてそう言った彼女に苦笑しておれはそうすすめた。
外に居させるわけにはいかないからな。
何かあったら困る。・・・・おれも含めてね。
するとミモザはふるふると首を横に振ってこう言う。
「いや、いい。ただこれが言いたかっただけだ。」
「これ・・・?」
おれが聞くと、落ち着いた笑顔で彼女が言った。
「気づかせてくれてありがとう。」
「・・・・えっ?」
「・・・じゃあ、また・・明日な!」
“パタン”
「・・・・えっ?」
言い終わるとミモザはドアを閉めて行ってしまった。
どういう意味かわからない言葉を残して・・・・・・。
おれはまたまた彼女が去ったドアを見つめていた。
・・・・・さっきとは違う思いで。
・・気づかせてくれてありがとう?・・・・・もしかして・・・・・・・・
「もしかして・・・?」
しかしいくら考えても答えは出てこなかった。
その答えを知っているのはミモザだけなのだから・・・・・・。
「・・あ――――・・・きになる――――――――――!!!!!」
おれは不思議な気持ちを抱えながら答えの出ない自分の頭をかきむしった。



“ギィッ・・・パタン”
「・・・・・・・・・・・・・・。」
自分の部屋に戻ったミモザはベッドに寝転んだ。
暗いその部屋で目を閉じて荒い呼吸を整える。
そしてミモザは小さな声でつぶやいた。
「・・・明日からまた違う未来が見れそうな気がする・・・・・・・・」
その表情は暗くて判断できそうもなかったが、
開けられたカーテンから差し込むほのかな星の光が
ミモザのほんのちょっとあがった口元を照らしていた。



 END

 1999年8月06日(金)22時58分46秒〜8月06日(金)23時00分08秒投稿の、リューラ・F・カートンさんの小説「先への扉」外伝その2です。

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