(21) <<16.役割の名前・名前の意味 >> 「えっと・・・例えばだ。」 うん、とセイムがうなずく。ちょっと苦笑して彼に聞く。 「・・・もしシングスがセイムって名前だったらどう思う?」 「げぇっ!!」 一歩後ろに下がり思いっきり声をあげるシングス。 ・・・・かなりのいやがりようだ。 考えた私もそれに近い状態なのだからしょうがないと思うが。 聞かれた本人、セイムは・・・・というと、 「・うぇっ・・・きもちわる〜いぃぃ・・・・。」 「たしかに。」 顔をしかめてふるふると首を細かく振っている。 シルエットも私と同じように苦笑して例としてあげられた2人を見ている。 私は何となくセイムの悩みについて感じたことを言った。 「その点ではセイムの名前はもうセイムの一部なんじゃないのか? たとえ自分の役割からきた名前だとしても、だ。」 ・・・始めの『場所』で、もしシングスじゃなくてセイムが担当だったら、 あの時とは違った時間が流れていた、と思う。 それがシルエットだったとしても同じだ。 彼らには名前=役割がある。 違う名前をつけられていたらそれぞれの役割は変わっていただろう。 ここに来た少しの間で知ることができた シングスのちょっとしたやさしさも、隠された一面を持つセイムも、 私が泣いたことをほんとうにすまなく思ってくれたシルエットも、 今の彼らが持つ役割がなければありえなかったことだ、ということだ。 それに(これは会った者だから言えることだが)彼らの名前はもう彼らにしかあわないと思う。 名前から作られてももうそれは自分の物になっている・・・・。 しばらく私の足りない言葉で分かってもらえたのかな・・・と心配しながらセイムを見つめた。 「・・・・・・うん。」 なにか呆然と私を見ている彼がこくんとうなづく。 そしてその表情がだんだんと笑顔へと変わっていった。 「うん。そうだね!!」 「悩みを和らげる助けになったか?」 分かってもらえたようなのでちょっと安心しながら、 セイムの中にあっただろう物が軽くなったのか聞いてみた。 「うん!ありがとう!!!」 すると元気な彼の言葉といつもよりどことなく嬉しそうな笑顔が返ってくる。 よかった。どうやら力になれたようだ。 私もセイムの笑顔に笑い返した。 「よかったですね、セイム。」 「な、たいしたことねーって何度も言ったろ?」 シングスとシルエットが機嫌のいいセイムの肩や背中をぽんぽんと叩く。 彼らの言葉にただなにも言わずに笑っているセイム。 私達4人はしばらくの間お互いの顔を見ながら笑顔だけの心地良い無言の時を過ごした。 「あぁ!いけない!!時間がなかったんだ。」 沈黙を破ったのはシルエットのその言葉。 「お!そうだった・・・。」 「そうだった!!」 セイムとシングスも彼の言葉に思い出したように声をあげる。 「・・・?」 私はなにも分からず、どうしたんだ・・・?と彼ら3人を見下ろしていた。 ・・・つづく・・・
(22) <<17.時間まで >> 「どうしたんだ?」 そうやって聞くとシルエットが少し真剣な表情で言った。 「ミモザ姫に残された時間があとわずかしかないのです。」 「わたくしに残された時間・・?」 あとわずかしかない・・・?どういうことなんだ? 首をかしげてそう聞くと、 「ミモザ姫は選ばれた者としてこの世界に招かれてたの。」 セイムがそう言った。 が、その言葉の意味はわかってもさっきの問いの答えにはなっていなかった。 私がさらに分からない・・・という表情をするとまっすぐと私を見てシルエットが言う。 「あなたはここでのやるべきことをすべて終えました。」 「ああ・・・それがどうしたんだ?」 確かに私は3つのことを理解した。それになにかいけないことがあるのか? シングスがちょっと気まずそうな顔をしながら口を開いた。 「えっとな・・・本来外の人間は、ここ、闇の国にいるべき存在じゃないんだよ。」 その言葉にうなずく私。 そしてセイムがシングスの言葉の後に続ける。 「だからね、いまミモザ姫がこの国にいるのはすっごく危険なことなの。」 「・・・・えっ?」 ・・キケンナコト・・・? さっきの言葉を理解しきれていない私にシングスがもう1度大きな声で言った。 「危険なことなんだよ!!」 きけんなこと・・・。 ああ、危険なことか。 ・・・えっっ!? 「・・・・・・・。」 言葉を理解した瞬間私は目を見開いて3人を凝視した。 シルエットがゆっくりと言葉を捜しながら話し始めた。 「・・・外の世界の物は『光』と『闇』の両方の存在からつくられています。 我々の世界は『闇』のみで・・・・また『光』のみでつくられている世界も存在します。 けれども我々闇の者が光の世界に入ることはかないませんがね。」 ふっと苦笑するシルエット。他の2人も同じように苦笑した。 「どちらかのみの世界で、あなたがた外の方が暮らすのにはかなりの危険が伴うのです。 闇の世界にいる時、姫の中にある『光』がだんだんと 『闇』に侵されていき、最後には『闇』のみの存在となって・・・・ ・・・元の世界に戻れなくなってしまうのです。 別に戻れなくなっても良い方には関係のないことなのですが・・・。」 戻れなくなる・・・?それはダメだ。 私は必ず戻ると約束したんだ。 シルエットの話を聞いてそう心の中で思っていると、 その心がわかったのだろうが、にこっと笑って彼が言った。 「ミモザ姫は帰らなければならない方ですから。だから時間がないのです。」 その笑顔を見つめる私の手をセイムが掴んだ。 「ミモザ姫、何か僕たちに聞きたいことがあるって、たしか言ってたよね?」 「え・・あぁ・・。」 浅くうなずきながらそう答えるとシングスがちょっと呆れた顔で怒鳴った。 「あ〜も〜・・・あのままぼーっと見つめあってたら そいつに答えてやる暇もなくなっちまうんだよ!!いいのか!!!」 「それは・・・・よくない。」 何度か横に首を振るとシルエットがちょっとからかい口調で聞いた。 「眠れなくなるからですか?」 私はそれに苦笑だけ返した。 するとくすくすと笑いながらシルエットが言った。 「いまも時間はどんどん少なくなっていますから、 時間まではなんでもお答えいたしますのでどんどんお聞きください。」 「ああ、わかった。」 シルエットの両側でシングス達も笑っていた。 ・・・つづく・・・
(23) <<18.明かされる謎と託される謎(1) >> 「それなら・・・シルエットのはいいとしても、 シングス達の名前の意味をもう少し詳しく教えてくれないか? あのあと聞こうか・・・とも思ったんだが・・・・・。」 私は少し苦笑しながらそう話した。するとシルエットがさっきの笑顔のまま言う。 「セイムのことがあったから聞かなかったんですね?」 「・・・あぁ・そうだ。」 私がそうちょっと小さな声で答えると、セイムが悲しい顔をして謝った。 「ごめんね、僕のために・・・・。」 両手を振ってそんな彼にこう言った。 「いや、それは別にいい。今教えてもらえればかまわないのだからな。」 「では、彼ら2人の役割の内容を細かくお話しましょうか。」 「頼む。」 シルエットがそう言いながら闇の空間にすっと手を出すと4つの椅子があらわれる。 それをセイムが私に勧めてくれたので遠慮なく座らせてもらった。 3人が残りの椅子に座り終わるとゆっくりとシルエットが話し始めた。 「私のお客様ご自身に自分を理解させるのとは違い、 彼らはお客様によってつくりだす『物』が違うのです。」 「『物』が違う・・・?」 そう聞くと今度はシングスが腕組みして教えてくれる。 「ああ、あんたの時は俺のところは『自然』だったろ? 他には・・・・『親』とか『モンスター』、あと『人』ってのもあったな。」 ・・・『人』・・・? 「『人』って私がセイムの所でやったものか?」 「そうだよ。」 私が聞くとセイムがにっこりわらって答えた。 えっとぉ・・・・ 「それがシングスのところであった・・・ということは・・・・・。」 「相反する物だったんだな、そいつには。」 シングスがフッと笑む。 「人によって相反する物と同じ側にある物は違うのだな。」 私がそう言いながら軽く何度かうなづいていると、シルエットが 「それはそうでしょう。皆が皆同じ生活をしているわけではないのですから、 同じ物があるという人のほうが少ないくらいですよ。」 長い髪をさっとかきあげながらそう言った。 すると思い出したようにセイムが声をあげる。 「あ、でもミモザ姫とまったく同じ人がいたね。」 「おお、いたな。」 「はい。」 お互いを見てうんうんとうなづくシングス達。 「・・・えっ?」 ・・・いったい誰なんだ? そう思いながら3人を代わる代わる見ていると、シルエットが楽しそうな笑顔で教えてくれる。 「あなたのお父様ですよ。」 ・・・つづく・・・
(24) <<18.明かされる謎と託される謎(1) >> おとうさま・・・・・? 「お父様!?」 本当なのか?疑いの目でシルエットを見つめていると本当だと静かにうなずく彼が見える。 そうだった・・・お父様はここに来ていたんだったな・・・・・。 私がそう思っているとセイムが元気にこう言う。 「やっぱり王様になる人となった人はおんなじなのかもね!」 その言葉に私は首をひねった。 「・・・お父様は王になってからここに来たのか?」 「ん?あぁ。確か・・・あんたが生まれてからだったかな?」 シルエットの方を見てそうだったよな、とシングスがそう言った。 「私が生まれてからだって?」 そう私が聞くと、セイムが不思議そうな顔をして聞き返す。 「そうだけど・・・それがどうかしたの?」 あの時に見た夢は・・・・私が小さかった頃、本当にあったことだ。 「・・もしかして夢で見たあの話をしてくれた時の前に・・・・・?」 「多分そうでしょうね。彼がミモザ姫にここの話をするきっかけを与えたのは きっと私達でしょうから。」 私が独り言をいうようにつぶやくとシルエットが気になることを言った。 きっかけを与えた・・・・ということは、 「お父様に何か言ったのか?」 そう聞くとにっこり笑顔で彼が答えた。 「『あなたのかわいい王女様もいずれここに来ることになりそうですよ。』と言ったんですよ。」 ”ガタン ” 「わかっていたのか!?」 シルエットの言葉を聞いた瞬間私は椅子から思いっきり立ちあがってしまった。 一瞬彼らはびっくりしたが、すぐに含み笑いに変わった。 そしてシルエットがさっきの問いに答えを返してくれた。 「はい。・・・覚えていらっしゃらないかもしれませんが、 あなたは小さな頃にこの扉を見ているんですよ。」 「??・・・見ていることが何か関係あるのか?」 私が座りながらそう聞くと3人がうなずいた。 「この扉は選ばれた者にしか開けられないと同時に、選ばれた者にしか見えないのですよ。」 シルエットがそう言うと私の頭の中にある疑問が浮かんだ。 あれ・・・?誰か扉が見えたのに開けられない者がいなかったか? う〜ん・・・・・誰だったかな・・・・・・・。 続けて彼が話す。 「ですからあなたがここに来るかもしれない ということが事前にわかっていた・・・・と言うことです。」 あっ!? 「ということはナレオも選ばれた者なのか!!」 前に乗り出しながらそう叫ぶと、目線を少し泳がせながらシルエットが言った。 「そうですねぇ・・・・多分来ることになるでしょう。」 「でもね、選ばれた者全員がここに入ることが出きるわけじゃないからねぇ・・・・。」 「どういうことだ?」 口元に右手の人差し指をあててそう言うセイムに私はそう聞いた。 するとシングスがセイムにかわって教えてくれた。 「扉が見えても開けられない奴がいるってことだ。」 見えても開けられない?同じ選ばれた者なのに?どうしてなんだ? 心の中でそう問う。 「中にお客様がいらっしゃる場合は他の方を招くことはできませんし、 まだ入る資格がない方もいらっしゃいますから。」 シルエットがまるで問いが聞こえたかのように(多分聞こえているのだろうが) 始めの疑問に答えてくれた。 「見えてんのにそのまんま開けられないで死んじまう奴もいるからな。」 「まあね。」 選ばれた者でも扉が開けられない者がいる・・・・・。 さっきも思ったが、同じ選ばれた者なのにどうしてそういうことが起こるのだ? ・・・・そもそも選ばれた者はどうやって選ばれるんだろうか・・・・・。 そう思って聞く。 「・・・・選ばれる者の基準は一体何なんだ?」 シルエットがにこっと笑って口を開いた。 ・・・つづく・・・
(25) <<19.明かされる謎と託される謎(2) >> 「心の中にある『光』です。」 「『光』?」 はい、とうなずいて話を続けるシルエット。 「闇の世界に外の方がいらっしゃることは危険だ、とさっきお話しましたよね。」 「ああ。」 確かにさっき聞いた。それが何か関係あるのか? そう思いながら彼を見つめた。 「招かれた方は『闇』に耐えうるちからを持っていらっしゃるのです。」 ・・・言葉の意味はわかる。つまりこういうことだろう? 心の中にある『光』が『闇』に耐えられる力を持っているから選ばれるのだ。 でも『光』が『闇』に侵されていくのはここで理解することを終えた後なのだろう? それならば『闇』に耐える力があまりなくても支障はないのではないか? すぐ帰ればいいことだろう。 「・・・?」 その辺りがわからず、ぱっとしない表情で3人を見ていた。 すると彼らは私の心がわかったかのように求めていた答えをくれた。 「『闇』にはね、さっき言ったことの他に恐怖を見せる力があるんだ。」 「心の中に強い『光』を持っていない者がここに来ると・・・心が壊れちまうんだよ。」 「だから闇の世界をつくりだした方がここに来る資格のある者を選んでいるのです。」 そうか・・・・それなら・・・・ 「心の中にある『光』の量が基準なのだな?」 そう聞くとシルエットがにこっと笑って言った。 「量だけではありませんよ。 たとえ少なくても『闇』に負けない質を持っていれば大丈夫ですから。」 「じゃあナレオもそれを満たせばここに来ることが可能だということだな。」 私はそんなシルエットを見ながら確かめた。 彼はなにも言わずにうなづいた。 しばらく無言でシルエットと見つめ合っていると、シングスがえっとぉ・・・と口を開く。 「・・・なぁ。」 私とシルエット、セイムも、シングスをどうした?という目で見る。 「なんか・・最初の質問の話題からかなり遠ざかってないか?」 ・・・・。 私達3人は顔を見合わせる。 「あや・・・そういえば・・・」 「そうですね。」 セイムとシルエットがそう言って苦笑する。 「名前のことはあれでわかった。大丈夫だ。」 私がそう彼らに伝えるとシルエットが軽く首を右に傾けてくすっと笑った。 「そうですか?それならいいのですが・・・・・・。」 するとセイムが同じように笑って新たに聞いてくる。 「・・・・ほかに何かある?」 私は少しの間思考を巡らせる。何か聞きたかったことがあったはずだ。 えっとぉ・・・・・そうだ! 「ここにアルメシアンという者が来なかったか?」 そう聞くとセイムが他の2人をチラッと見て私の問いに答えた。 「その人なら・・・ちょっと前に来たね。」 やっぱり・・・・。あいつはここに来ていたんだ。 だから先への扉のことを知っていたんだ。これでやっと確信が持てた。 でも、あそこまで私をここへ行かせたくないと言う必要があったのか?・・・・・。 シルエットがセイムの「ちょっと前」という言葉を具体的に言ってくれた。 「あなたがいらっしゃる5人くらい・・・30年ほど前のことですね。」 さっきの疑問を聞いてみる。彼らなら知っているだろうと思って。 「あいつは、私がここへ来ることを最後まで許さなかったのだ。 ・・・・そのわけがわかるか?」 するとどうしようかなぁ・・・・・と言う顔をしてセイムが話す。 「う〜んとぉ・・・・本人に聞いたほうがいいと思うんだけど、あの人見かけによらず 頑固で一途なんだよね。だからミモザ姫に言わない気がするから・・・・・・」 また彼はシルエットとシングスを見る。それに笑顔でうなずく2人。 セイムもそれを見て笑って言った。 「教えるよ。」 「あんたがもしかしてあいつと衝突した時に、お互い傷つかずに解決できるようにな。」 シングスがさっと足を組む。私はちょっと期待した目で彼らを交互に見た。 少しして、シルエットがゆっくりと口を開いた。 「あの方がミモザ姫がここに来ることを止めた理由は・・・・」 ・・・つづく・・・
(26) <<19.明かされる謎と託される謎(2) >> 止めた理由は・・・・? 「・・・かつて自分がここで苦しんだからですよ。」 苦しむ? 「特にシルエットんとこでな。」 シルエットの所で? 「彼はまだ自分をよくお知りではなかったのですよ。」 ・・・そうか・・・。 私は(苦しんだと言えば苦しんだことになるのだろうが)ある程度自分を知っていた。 だからほとんど苦労もしないで自分を理解できた。 自分を知らない者はやっぱり苦労するものなのだな・・・・。 2人の答えを聞いて心の中でそう思いながら1人で納得していると、 シングスとセイムが興味深いことを言った。 「それに俺んとことセイムのとこでかなり混乱してたから・・・・・な。」 「うん。」 「どうしてだ?」 私は心のままに聞いてみた。 するとセイムが目を細めて笑って言った。 「あのね、アルメシアンはほとんど一緒だったんだよ。 相反する物と同じ側にある物が。」 「・・・?」 わからない・・・。という顔をした私にシルエットが詳しく教えてくれる。 「どちらも『人々』だったのですよ。ただ1つの違いを除いて・・・・。」 「ただ1つの違い?」 シルエットが深くうなずく。 「同じ側にいる物に、彼にとって唯一絶対の主人がいたのです。」 「主人って・・・・・お父様・・?」 私が確認するとにこっと笑みが返って来る。 「はい。」 「まぁ、今はあんただろーけどな。」 シングスの軽い声がそう言った。すぐ後にシルエットが話を続ける。 「そこからわかるように彼の心の中の基準はすべて自分の主人にとって 敵か味方か・・・・・・そういう見方しかできなかったのですよ。」 そうだったのか・・・・と納得した瞬間、私は彼の言葉にふと引っかかる物を感じた。 できなかった?なぜ過去形なんだ? シルエットにその疑問を聞く。 「・・・できなかった・・・・ということは今は違うのか?」 すると彼は苦笑してこう話す。 「あなたの心の中にほとんど『敵』と思われるものが少ないのに影響されてか 多少崩れてきているようです。」 「ミモザ姫のお父さんの時に『敵』だった人が、 ミモザ姫の時には『味方』になったりしてるからね。」 セイムも同じような顔をして言った。 「そうか・・・・・。」 やはりあれは私を心配してのことだったのだな。 ・・・?? ・・ということはあいつはここを私にとって悪いものと判断したということか? 彼らが言うことから推測すると・・・・・そういうことになるんだろう。 私のためでもありがた迷惑な時もあるわけだ。 ふうっ、と息を吐いて私は苦笑した。 「その辺りをわかってあげて下さればアルメシアンとの衝突も 軽いものですむのでは・・・・と思ったのですが。」 シルエットが無理かもしれませんね、と肩をすくめる。 「まあな。」 そう言って私も肩をすくめた。 するとシングスが右手の人差し指をピッ、と立てて言う。 「・・・あんたは今までのあんたでいいんだぜ。 気に入らないなら気に入らない!って言ってやりゃあいい。 だけどあいつの心の中にはいつもあんたがいる・・・・そこんとこを覚えといてやりな。」 「心にとめておくだけでおくだけでも違いますからね。」 「そうだよね!!」 他の2人も彼の後に続けて言った。 私達の仲がこれから悪化しないようにと心配してくれたのだろうな。 「・・・・ありがとう。」 私はここに来てもう何度目になるだろう言葉を彼らに送った。 ・・・つづく・・・
(27) <<20.光 >> ぴくりとシルエットが動きを止め、悲しいそうな表情をして言う。 「あぁ・・・もうすぐ時間です・・。」 もう?早いな・・・・・。 そう思いながら私はここに来た時から疑問に思っていたことを聞こうと彼に問う。 「えっと・・・あと1ついいか?」 「何でしょう?」 また表情を笑顔に変えてにっこりと私を見る。 私もつられて微笑みながら言った。 「お前達は外のことは何でも知っていると言っていたな?」 それにシルエットだけではなく、他の2人もうなづく。 「はい。」 「それならば私達外の者が、ここを『先への扉』と言うわけを知っているのではないのか?」 その問いにセイムがどうしようか?という瞳でシングスを見て言う。 「・・・うん。知ってはいるんだけど・・・・・ねぇ。」 「あん時は教えるわけにはいかなかったし・・・なぁ・・・。」 シングスもセイムを見て苦笑する。 「それを教えてくれないか?」 できるだけ真剣な表情で彼らを見まわしながらそう聞いた。 すると3人ははぐらかす様に笑って言った。 「・・・それはご自分でお考えになられた方がいいと思いますよ。」 「俺達がつけたわけじゃあないしな。」 「ミモザ姫が自分で見つけた方がいいと思うよ。」 「でも・・・」 わたくしには見当もつかない・・・・そう続けようとした途中、 シルエットのやさしくてかつ真剣な声が私の言葉をさえぎった。 「あなたなら見つけられますよ、その答えを。」 私なら見つけられる・・・・・?本当に? 目で彼らに問うと3つの落ち着いた笑顔が返ってきた。その様子を見て私が問う。 「あくまで自分で・・・・なんだな?」 「はい。」「うん。」「おう。」 「・・・・・。」 3人が同時にそう答える。それを聞いて私は1つ大きなため息をついた。 自分ならできると言われてうれしいのだが、何かその答えを見つけなければならない と思うと無意識にそれが出てしまったのだ。 そんな私の様子を見てくすっとシルエットが笑い、ヒントをくれる。 「どうしてもわからないというのでしたらあなたのお父様が、 ここを『自らが未来に進むための試練』と呼んだことをヒントとしてお考え下さい。」 「・・・・・わかった。」 シルエットに苦笑を返しながら私は一言返事をしたのだった。 ・・・つづく・・・
(28) <<20.光 >> 「時間だな。」 「時間だね・・・・。」 「・・時間・・・・か。」 3人はあまり見せたことのない複雑な表情をしてそれぞれがつぶやいた。 「・・・・・。」 私はその言葉を無言で聞いていた。 すっとセイムが立ちあがり、今までで1番の笑顔で言う。 「僕、ミモザ姫に会えてよかったよ!」 続いてシルエットとシングスが立ち、いつもの顔で話す。 「あなたは今までの外の方とは『光』の性質が違います。 私達もそんなあなたに何か大切なことを教えられた気がします。」 「俺達は闇・・・。いつでも影からあんたを見てるぜ!!」 そして私の目の前にシルエットが片膝をついて微笑んだ。 「もしも思いに迷う時があったなら、目を閉じて闇をお見つめ下さい。 きっと何かが見えてきますよ。」 「ありがとう、本当に。」 3日・・・本当に短い間だった。 でもその短い時間で私は色々なことを教えられた。 私は無力な自分を知り、無知な自分に気づいた・・・・。 彼らが居なければどうにもならなかったことがいくつもある。 ・・・ここから出ればもう2度と会う事はないだろう。 しかし私は忘れない。ここであった事はすべて。 3人の事は絶対に忘れない。 心からの思いをこの一言にこめて言いながら私は椅子から立ちあがった。 すると今までそこにあった椅子は闇に溶けてなくなった。 再び立ちあがったシルエットを真ん中に3人が横に一列になる。 「それじゃあまたね!」 「さようなら・・・。」 「じゃあな!!」 『ミモザ姫。』 私は目を見開いた。 ・・・始めてシングスが私の名前を呼んでくれたのだ。 何かが嬉しかった。 別れの言葉を言われたのに、彼らとの関係が切れたように思わなかった。 見開いた目を細め、多分ここに来てから1番の笑顔で彼らの言葉に返事をした。 「ああ!!」 『あなたの心に残った《闇》があなたの《光》に役立ちますように・・・・。』 その言葉を言うと、彼らは闇に姿を消した。 でもまだ近くに居る。私はそれを感じていた。 いつのまにか目の前に扉があった。 「さあ、扉をお開けください。」 シルエットの声が闇に響く。 「タイムリミットはもうすぐそこまで迫っています。」 ゆっくりと私は扉の取っ手に手を伸ばす。 「扉の先には何が見えますか?」 ”ガチャッ ” ・・・眩しい・・・・ 扉が開くと真っ暗だった周りが光でいっぱいになり私は目を細めた。 ?? ・・何かある・・・? だんだんと目が光に慣れてくるとそれが人の形だということが分かってきた。 一体誰が・・・? 急に目に痛い強い光がおとなしく柔らかい物へと変わった。 すると目の前には微笑んで私を見ているナレオが居た。 「おかえり、ミモザ。」 ― おかえり その言葉を聞いて無償に悲しみと喜びが沸いてきた。 あぁ・・私は帰ってきたんだ・・・。 「・・・・ただいま。」 自分も微笑み返しながらそう言葉を返した。 ・・・つづく・・・
(29) <<21.光 その先・・・ >> それから4日後・・・・ ミモザはキスキン国の女王になった。そしておれは彼女の補佐官としてそばに控えている。 ・・・えっ?お前は謀反を起こした大臣の息子なのに、どうしてそんな地位にいるかって? その理由はミモザが「先への扉」から出てきたその日の約束にあるんだ。 あの後、ミモザがおれとアルメシアンを自分の部屋に連れてって、 扉の中でのことを教えてくれたんだよ。 そこでミモザは苦々しい顔をしてまで自分の心を話してくれた。 おれ達はそこまで彼女が悩んでることすら知らなかった。 何と言っていいのかわからないから話の間中ずっどミモザを見つめていた。 悔しいけど・・・・正直言って解決法は全然見当たらなかった。 でもそのままにしておいたらミモザが苦しむ。 彼女が彼女じゃなくなってしまいそうで・・・俺は何か言わないと、と思って口を開いた。 「えっと・・・・ミモザ。それは皆が皆、疑ってるわけじゃないと思うな。 疑ってる奴がいないとは言えないけど・・・・・さ。」 「それはわかっている。・・・でも信じられないんだ。 疑ってる者の声は小さくても耳に入るのに、信じている者の声は全く聞こえない。」 うつむいたままミモザが少し震る手を握り締めながら言った。 その言葉におれはちょっと思いついた。 「・・・・!! それならおれがミモザのやることはすべて正しいんだって信じたとしたら 少しは楽になる?」 「えっ?」 おれをどういうことだ?という瞳で見る彼女にわかりやすくまとめてもう一度言う。 「1人でも信じる者がいれば、ミモザは自分のやっていることに自信が持てる?」 しばらく黙っているミモザをおれとアルメシアンはじっと見つめた。 そして、 「・・・・・・あぁ。」 その返事を聞いておれは明るい声を上げた。 「なら決まり!!」 「はっ?」 「おれがミモザのことを信じるよ。 だからミモザも自分のやることに自信持ってやりなよ。」 おれの言葉に不安げな顔をして言う。 「でも・・・もしわたくしが間違ったことをやったら・・・・・・?」 「それは実行する前にだめだって言ってやるよ。」 「わたしもお手伝いいたしますよ。」 それにおれ達はミモザがおれ達を信じてくれるように、頼ってくれるように できるだけおちついた感じで話した。 「・・・・・・・ありがとう。」 彼女はそう言ってうっすらと微笑んだ。 ・・・まっ、こういうことでおれはミモザの側にいるわけ。 彼女が間違った方向へ進みそうになったら、おれとアルメシアンが止める。 ・・・・3人いれば何とかなるんじゃないのか?な〜んて軽い気持ちでやってるけど。 ミモザなら民のため、国のために一直線に進んでいってくれると思う。 キスキンはミモザを道しるべにこれからきっとどんどんよくなっていくだろう。 おれもできるかぎり手伝わないとね。 あ、余談だけど、それから2年後。 おれは「先への扉」を開けた。そして戻った後にミモザに言ったんだ。 「おれだけは絶対ミモザの味方だからな!」 って。 彼女はびっくりしていたよ。 でも次の日反対に驚かされたことがあったんだ。 ミモザは『話官』という役職を作るって言い出したんだ。 話によるとその『話官』っていうのは、簡単に言えば相談所みたいなものかな? 民や城中で働く人々や高官達の思っていることを聞き、 それを王に伝えて政治など、国の役にたたせる・・・・ま、こういうことらしい。 始めは城中だけで実施して、いろいろと不満や希望を言ってもらいたいんだそうだ。 彼女はその任におれが就けっていうんだ。 まったく・・・・開いた口がふさがらなかったよ。 そしたらミモザが言ったんだ。 「わたくしだけの味方だと言ったのはお前だ。 この役目は信じられる者にしか任せられない・・・・。」 ・・・・原因を作ったのはおれのほうだったらしい。 ま、結局やることになっちゃってさ、始めはかなり危なかったよ。 だって誰も来ないんだから。 でもミモザが高官たちに頼んだりして、上のほうの者が来てくれるようになると 城中のいろんな人達がパラパラとおれのところに訪れるようになった。 さすがにたくさんの人数の話を聞くとストレスがたまるんだけど、 おれはこの話をミモザに伝えているのでたまるとすぐにぬけていった。 人の話を聞くのはおもしろいからこの役についてよかったかな?なんて思うけど、 おれでさえストレスがたまるのにミモザは・・・・・と考えるとホント怖くなってくるよ。 彼女の力になるためにがんばる! そう新たに誓った頃だった。 その3年後には『話官』制はかなりの成果をあげ、国中に広がっていくようになる。 ・・・つづく・・・
(30) <<22.先への扉 >> 私がキスキンの女王になって5年が過ぎた。 国もどんどんと成長して、各地からたくさんの人々が来るようになった。 『話官』制度もうまく機能するようになり、徐々に国中に広まりつつある。 そんなある日の夜のことである。 いつもどうりに1日の仕事を終え、夕食を食べ、自分の部屋でやっと落ち着いた時、 ふとカーテンの間から夜の闇に光る無数の星が見えた。 何かその隙間から見えた風景が気になって私は窓を開けてベランダに出た。 「・・・・・・・・・・・・。」 そこには昔見たあの星の海が広がっていた。 ― どうしてもわからないというのでしたらあなたのお父様が、 ここを『自らが未来に進むための試練』と呼んだことをヒントとしてお考え下さい。 シルエットの言葉が私の頭の中に響いた。 そういえばまだ、人がなぜ『先への扉』と呼ぶのか分かっていなかったな。 一体どうしてそう呼ぶのだろうか・・・・・・・・。 ― もしも思いに迷う時があったなら、目を閉じて闇をお見つめ下さい。 きっと何かが見えてきますよ。 また違う言葉を思い出して私は苦笑した。 思いに迷ってはいないんだけどな。 ・・・・・・でもやってみるか。何か分かるかもしれない。 私は手すりに右手を乗せ、そっと目を閉じて目の前に広がる闇を見つめた。 ― じゃ、なんか分かったら呼べよ!俺の名前はシングスだ。 最初、何もわからずに歩き出してモンスターに襲われて・・・・・・いろいろあったな。 そして私は自然はなくてはならないものだということを理解した。 ― 僕のとこはシングスのところとは違う意味で危ないところばっかりだから、 シルエットが一緒に行きなさいって。 この時はシングスの時と同じように一人で行くものだと思っていて いっしょに行くって聞いた時、本当に安心した。 あの女の人に大切なことを教えられて・・・・・私は理解したんだ。 人が何を望んでいるのか知らなければならないということと、 自分が自分を信じなければいけないことを。 ― おはようございますミモザ姫。昨夜はよくお眠りになられましたか? 最後は闇の中に写るもう一人の自分との戦いだった。 あの時はまさかシルエットだとは思わなくてびっくりしたな。 ・・・・・・そこで私は言ってしまったのだ。 私なりに最善の道を選んで進んできたのに 過去のことで陰口を言う城の者達に対する行き場の無い思いを・・・・・・。 「一体わたくしにどうしろと言うのだ!!!」とね。 ・・・・・その時までは何もできなかった。良い方法を考えることもできなかった。 でも今は? 今は違う。 あれから私はできないなりにもきちんと考えるようになった。 自然を壊さないように、共存できる国をつくるように努力している。 時々隠れて町に出て、私が治めている国を見に行き人々の思いを教えてもらう。 少し時間はかかったが「話官」制をつくり城に仕える者、国民の声を聞いて より良い国をつくるために頑張っている。 ・・・あれっ? 何か頭に引っかかる物を覚えて私は目をあけた。 そして悟る。 あの時理解したものがすべて何らかの役にたっているじゃないか!! ― 『あなたの心に残った《闇》があなたの《光》に役立ちますように・・・・。』 ― 『あなたの心に残った《思い》があなたの《未来》に役立ちますように・・・・。』 ・・・・そうかそういう事だったのだ。 だからお父様が「未来へと続く扉」・・・『自らが未来に進むための試練』と言っていたのだ。 確かに理解したことがすべて私の未来に繋がっている。 より良い未来に進むことが出来ている・・・・・ような気がする。 だから『先への扉』なのだ。 やっとわかった。 やっと・・・・・・・・。 そう思ったら胸が何かでいっぱいになってすごく嬉しい気持ちになった。 いてもたってもいられなくなり、私はベランダから部屋へと戻り、 部屋から急いで外へ出て一直線にある部屋に向かった。 私の絶対の味方の所へ・・・・・・・。 場面は変わってまわりは一面の闇・・・・。 少しの光も無いそこに3つの影がある。 「やっと理解したようですよ。シングス、セイム。」 ゆっくりと閉じていた瞳を開け、側にいる2人に落ち着いた笑顔で言った。 「・・・あの人?」 「えぇ。」 上目でシルエットを見て聞いてくるセイムにそのままの表情でうなづく。 それをみて他の2人の顔も笑顔へと変わる。 「そうか・・・よかったな!」 「そうだね!!」 「あの方なら絶対に見つけられると思っていましたよ。」 「あん時言ったようにな。」 『・・・・・・・・。』 シルエットの言葉にシングスが一言付け足すと3人は無言で互いの顔を見回し、 クスッと笑いあった。 「頑張ってね!」「頑張れよ、ホントに。」「頑張ってくださいね。」 『ミモザ姫』 もう直接会う事は無いだろうミモザに自分たちの声が届くことを祈りながら 3人は自分達にとって特別な彼女の名前を呼んだ。 「私達は闇・・・。いつでも影からあなたを見ていますよ。」 END
1999年4月24日(土)22時01分21秒〜8月06日(金)22時54分49秒投稿の、リューラ・F・カートンさんの長編小説「先への扉」です。