(無題)(3)

〜歓迎パーティ――その前に〜

 そして翌日。
 あ、わたし達、昨日の晩はフェシーの家に泊めてもらったんだけどね。何しろ木
の割にはやたらと広いおうちだから。なんと、フェシーのお父さんは、この幻獣の
集落の村長さんみたいな人らしいんだ。
 えっとそれで今日なんだけど、フェシーの歓迎会(?)が開かれるらしくって、
朝から家中大いそがし。もう、メイドさんがあっちこっち行きかって、食事やらな
んやらがいっぱい運ばれてるの。こうやって見てると、なんかオウナーさんのうち
を思い出すなぁ。
 ……ってそういえば、わたし達オウナーさんに仕事頼まれてたんだっけ。あはは、
忘れてた。でも、1日くらいいいよね。急いでくれって言われなかったし。だって、
これでフェシーとお別れしなきゃいけないかもしれないんだもの。なるべくなら長
くいたいっていう気持ち、わかってくれるよね? それに……お金ないし。
「パステル、なにぼーっとしてるの?」
ついついいろんなことを考えてたら、後ろから声がかかった。
「……あ、リシェル、ミニア。あれ、わたし、そんなにぼーっとしてた?」
「してましたよぉ。あ、トラップさんのことでも考えてたんですかぁ?」
  ぶっっ!
 ミニアの言葉に、わたしは思いっきり吹き出した。なっ、なっ!
「な、なんでわたしがトラップのことなんか考えなきゃいけないのよぉ!」
「あれぇ? 違うんですかぁ?」
「違うっ!」
いきなり何言い出すんだか……? ああもう、リシェルだって苦笑してるじゃない。
「フェシーみたいなこと言わないでよね……」
言いながら、ここまで登る途中のことを思い出す。フェシーがしょっちゅうトラッ
プに突っ込まれてた――いや、トラップを突っ込ませてたのって、あとから聞いた
話では、トラップをからかってたらしいのよね。……いや、確かにわたし以外はみ
んな気付いてたみたいなんだけど。とにかく、とんだ思い違いよね!
「トラップなんて、口悪いし、すぐお金使うし、人の言うこと聞かないし、朝はい
つも起きてくれないし、ノックしないし、冷たいし……」
興奮してたからか、自分で口に出してるってこと、リシェルに肩をたたかれるまで
気付かなかった。見ると、リシェルもミニアもにこにこ笑ってる。
「あっはっは。それだけ悪いことを挙げられるってのもすごいと、ぼくは思うけど」
も、もしかしてリシェルも勘違いしてるぅぅーーっ!?

〜やっとこさ歓迎パーティー(1)〜

「お客様方、席に着いて下さい!」
 ものすごい人数が集まって、てんやわんやになっている会場(?)の前の方で、
口のところが何か変な感じになっている幻獣のお兄さん……だと思われる人が、こ
れまたものすごい大声で、お客さんを席に着かせている。きっと、あの口の変なの
が、声を大きくしてるんだろう。おまけに木の家だから、よく響く。
 それにしても、さすが集落の長のお嬢様の歓迎会。こんなにぎやかなパーティー
初めて見た。きっと、幻獣一族全員集まってるんだろうな。
 あ、違う。初めてだと思ったけど、他に1回だけ、もっとにぎやかなパーティー
見たことある。そう、ミモザ姫の、あの時! でも、その次ににぎやかな気がする。
「只今から、フェイク様が無事、この集落にお戻りになった、歓迎パーティーを始
めます。みなさん、盛大な拍手を!」
   パチパチパチパチ…………
 うわぁ、ものすごい拍手! しかも、歓声をあげるのはもちろん、調子にのって、
口笛を吹く幻獣までいてる。これだけしかいなくなった幻獣の、長の娘っていうこ
とは、人間で言う姫様にあたるんだもんね。いやいや、幻獣達にすれば、もっと重
大なのかもしれない。
「ではまず初めに、ラース・クレイド様から、ご挨拶をいただきます」
またひとしきり拍手が鳴り響いた後、奥の扉からすっごく綺麗な女の人……もとい
幻獣が出てきた。歳は、あんまりわからないけど、25歳くらいに「見える」。で
も、この話の流れからすると、あの人はフェシーのお母さんでしょ? 昨日はどこ
かに行っていたみたいで、顔を見るのは初めてだけど。だったら、フェシーが12
歳だから……だいたい若くても30ちょっと過ぎなんじゃないかな? って、あん
まし考えすぎても失礼だよね。へへ。
 そのフェシーのお母さん……ラ−スさんは、一見して、人間と変わらない。でも、
よくよく見てみると、額に小さな、角があった。ユニコーンっていう馬みたいなや
つの、あんな感じの角が。でも、それがすごく神秘的で、余計に綺麗に見えたんだ。
「さて、みなさん、今日はフェイクのために集まっていただいて、どうもありがと
うございました」
ここでぺこっと頭を下げる。そして頭を上げた後、にこっと笑って続けた。
「いえいえ、そんな固くなられずに、くつろいで下さいな。もう、うちのフェイク
が戻ってきて嬉しいかぎりなんですから、そんな、ねぇ。それに…………」
 …………な、長い!
 フェシーのお母さんのお話は、フェシーが生まれた頃の話から待っていた時の心
境まで、もう延々と続いた。なんか、シロちゃんのお母さんをほうふつとさせる。
もしかして、人間以外の種族の、女性でこれくらいの歳のひとって、みんなこんな
感じなんだろうか……。
 いやいや、シロちゃんのお母さんはまだ話すのが速かったからいい。このフェシー
のお母さんは、ものすごいスローペースで話すのだ!
 もう、トラップなんか、ぐーすかいびきかいて寝ちゃってる。ありゃ、ルーミィ
もだ。うう、よだれが机についてるよぉ。あとで謝っとかなきゃ。あと、ミニアも
こっくりやってたりするけど、横に座ってるセイムさんにしょっちゅう小突かれて
るから、なんとか起きてるみたい。他の人はだいたい大丈夫かな? エイオスは…
…姿勢を崩さないまま寝てるみたいだけど。ある意味すごい。
 とにかく、そんな居眠り者続出の話だったんだけど。幻獣の方々は全然寝ていな
いのよね。もしかしたら、慣れてるだけかもしれないけど。
 そして1時間くらいが経過した頃。お側にいてた幻獣が何かこそこそと囁いて、
やっと終った。きっと、長過ぎるからどうのこうのって言ったんだと思う。それに
しても……ああー、長かった!

〜やっとこさ歓迎パーティー(2)〜

 そしてフェシーのお母さんの、長い長いお話が終った時。また、あの声が大きい
司会の幻獣が出てきた。
「続きましては、皆様御待望の、フェイク・T・クレイド様に御登場願います」
 フェシーは、今回のパーティーの主役でしょ? だから、控え室に行って着替え
てたんだ。やっぱり、綺麗なドレスとか着て来るんだろうなぁ。
 司会の幻獣が、ゆっくりと扉を開けた。この会場にいるすべての生き物が息を詰
めてその扉を凝視している。そして、完全に開ききった時、幻獣達の全員が、すご
い歓声をあげた。
 ……はっきり言って、すごく綺麗。もしわたしが横に並んだら、月とすっぽんじゃ
すまないくらい、綺麗。これでもわたしの方が5歳は上なんだよ〜!? 12歳の
子供に負けるわたしって一体……?
「えっと、いきなり何か言えと言われたもので、何を言えばいいのかわからないん
ですけど……。とにかく、私をずっとここで待っていてくれたみなさん、それに、
ここまで連れてきてくれたパステル達、ありがとうございました! ほんとに・あ
りがとう・としか言えないくらい、嬉しいです。今わたしが伝えられる言葉はこれ
だけですが、これからも、こんなわたしを見守っていて下さい。それでは、乾杯!」
 フェシーの言葉を合図に、ワインが注がれた、数百のグラスが心地よい音を鳴ら
した。まぁ、わたしやルーミィやキットン、ミニアのはジュースだったりするけれ
ど。そんなこと、関係ないもんね。
 わたしは、乾杯した後、中のジュースを一気に飲み干した。うわぁ、おいしい!
これ、ここら辺でしかとれない、トートの実っていうやつの汁をしぼって作った、
極上品なんだそうだ。ちなみに、おかわり自由。ま、そうじゃなかったらとても一
気に飲む気にはならなかっただろうけどね。はは、これが貧乏人の悲しいところ。
「ぱぁーるぅ、たべんのかぁ? だったら、ルーミィ食べたげるよぉ!」
「えっ? あ、ルーミィ、食べるから、置いといてっ!」
 いかんいかん、ぼーっとしてる場合じゃなかった。さすがに食べ物の方までおか
わり自由じゃないもんね。ルーミBに取られる前に食べてしまわないと。
 そう判断したわたしの手がフォークにのびた時、後ろから聞き覚えのある声が掛
けられた。
「あ、いたいた、パステル。ね、一緒に食べてもいいかなぁ」
「フェ、フェシー!?」
確かにそこにいたのは、さっきまで前にいたフェシーだった。ううん、ここまで来
るのにそんなに時間がかかるわけじゃない。問題は、このパーティーの主役がこん
なところにいてていいのかってこと。んで、ちょっと聞いてみたんだけど。
「へへ、抜け出してきちゃった」
だそうだ。でも、捕まえられて引きずられて行かれたりしてないし、別に大丈夫な
のかも知れない。
「それじゃ私、ご飯持ってくるね。ちょっと待ってて!」
「うん、わかった」
 ……こうして、幻獣達のパーティーは続いていった。



 1999年4月19日(月)19時18分05秒〜5月14日(金)19時16分34秒投稿の、蒼零来夢さんの長編です。継続中。以降は、ここでの掲載が初めてになる予定です。

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