白い「シアワセ」

 地に粉雪が舞い降りる。
 今日は聖なる日。セイント・クリスマス。

「メリー・クリスマス」
 数えきれない程の人々。そのほとんどの人がこの日には、この言葉を口にす
る。祝いの言葉。笑顔の、呪文。

『メリー・クリスマス!』
 そっとパーティの中から抜け出し、2人だけでクリスマスを祝う。自然に、
心の底から笑顔が生まれる。何も、おかしい事などないのに。
「何、笑ってんだよ」
「トラップこそ」
 幸せそうな微笑みから、大笑いに変わる。
「あっ……はっはっ……」
「あーっはっはっはっ!」
 ひとしきり、雪の中で笑い転げた後、2人は驚くほど素直に、想いを告げた。
「好きだよ、トラップ」
「おれも」
 そう、素直に。
「今まで何だったんだろね、わたし達」
「さぁな。ただの、仲間だったかも、な」
 2人に、暖かい粉雪が降り注ぐ。まるで、天から降りてきた天使のように。
 天使達は、この少女達を祝福し、地に降り立つ。
   今日は、ホワイトクリスマス。
「来年も、再来年も、その次も、ずっと、今日と同じ日に、この雪は降ってく
れるかな」
「たぶん、降るだろ。また、おれ達の上に」
 そして静かな口付けを交わす。それが当然の事であったかのように。きっと、
昨日まではずっと、自分の想いに悩み続けていただろうに。
「ねぇ、トラップ。雪だるま作ろうよ、雪だるま!」
「はぁ? なんでだよ」
「なんでも! いいじゃない。競争だかんね、どっちが先に作れるか。ほら、
早く早く!」
「へいへい……」

 数時間後。純白のグランドには、2組のカップルが肩を寄せ合っていた。

 12月、27日。
「あ〜ぁ、雪、全部とけちゃった」
 窓に頬杖をついたパステルが、言う。
「また降ってくれないかなぁ」
「どうせ、1年後には降るだろ」
「やだ。1年も待てない」
「っとにぜーたくなやつだなぁ、おめーは」
 ベッドから上半身を起こし、パステルの後ろ姿を見た。
「おれだけじゃあ、足りないってんだな」
「うん、足りないよ」
 外の景色から目を放し、振り向く。そして彼女は微笑んだ。
「トラップが、いるだけじゃつまんない。あなたとのシアワセが欲しいよ」


「ね、・幸せ・ってたくさんあるじゃない? でも、・シアワセ・は、1つし
かないよね」

 1998年12月25日(金)17時26分33秒投稿の、蒼零来夢さんのトラパスクリスマス短編です。

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