マリーナの悪戯

(1)

「パステル、着物、どれがいい?」
「えーっ、わたし、着物なんて着たことないよ?」
 ずらりと並べられた着物。ここはマリーナの店。そして、今日は元日だった。
「大丈夫。ちゃんと手伝ったげるからさ」
「う〜。じゃあ、コレ」
 そう言って、やわらかい赤色の、所々に花の模様のついたものを指差す。
「OK、コレね? じゃ、ちょっと待って」
 マリーナは手早くその着物をハンガーからはずし、パステルに着せた。そして帯
を結びながら言う。
「あ、そうだパステル。ちょっとお願いがあるんだけど……」

「ねぇねぇトラップ。ちょっと言いたいことがあるの。こっち、来てくれない?」
 綺麗な着物姿で顔を出したパステルに、パーティのみんなが呆然としている。呼
ばれたトラップ自身も、1秒ばかり反応が遅れた。
「……は?」
「もーっ、だから、2人で話したいことがあるんだってば!」
 わざわざ「2人で」を強調する。トラップは顔が赤くなるのをできるだけ隠すた
めに顔を背けながら返事した。
「な、なんだよ、気持ちわりーな」
 とか言いつつも、素直にパステルの所に行くトラップに、マリーナは内心ほくそ
笑んだ。

「で? 何だよ、言いたいことってのは」
 パーティ全員がのぞき見てるのにも気付かずに、話題を切り出す。もちろん、しっ
かり視線は外して。その様子が、「観客」側にとって、たまらなくおかしかった。
トラップが平然と保とうとするのに必死なのに対して、こっちは笑いをこらえるの
に必死だ。
「あのね、え〜っと……あ……」
「あ?」
 なにげなく言い淀むパステルに、トラップの顔はますます朱に染まる。観客側が
ついと身を乗り出した。
「あ……」
「あ?」
 パステルが少し目をそらして、うつむく。そして……
「あけましておめでとう!」
 いきなり笑顔に戻り、新年のあいさつを告げた。
「…………!?」
 あまりといえばあまりの展開に、しばらく言葉を失う。一時の後、自分のカンち
がいに、これ以上ないくらいに赤面した。それにパステルの言葉がとどめをさす。
「何を期待してたの?」
「なっ!? べっ、別に何も期待なんてしてねぇよっ!!」
「あれ? トラップ、なんでそんなに慌ててるの?」
「あ、あのなぁっ! てめぇが変なこと言うから……っ!」
「え? さっきのセリフならマリーナに、言えって言われたんだけど……?」
 マリーナの1つ目の悪戯は、見事に彼女の思い通りになった。

(2)

「う〜ん……」
「どうしたの、パステル?」
マリーナの家の2階の窓際で、パステルは、眉をへの字に曲げてうなっていた。何
か悩んでいるようだ。
「あ、マリーナ。あのね、ちょっと聞いてよ! キットンったらもう10日もお風
呂に入ってないのよ。臭くってたまらないんだけど、いくら頼んでも入ってくれな
いのよぉ。もう、信じられない!」

「あぁ、この薬草が足りない。あ、こっちもですか! はぁ、別に高くない薬草の
筈なのに、なんでどこにも売ってないんだろう……?」
マリーナがどうしようか考えながら1階に降りていくと、ちょうどそこでキットン
が怪しい薬草相手に、ぶつぶつとつぶやいていた。確かに臭い。キットンは階段か
ら少し離れた場所にいたが、まだ階段を降りきっていないマリーナの嗅覚までも刺
激した。
 そして、あと1段で階段を降りきる、という時。ふと、マリーナの頭にある考え
が浮かんだ。
(えーと、確かあそこに……)
即座に頭の中で地図を構成する。
「おや、マリーナじゃないですか。どうしたんですか?」
いきなり怪しい薬草達から頭を上げて、そこにいたマリーナに気付くキットン。
(うっ、こりゃパステルが悩むのももっともね)
あまりの臭さに思わず少し眉をしかめる。なぜ今まで気にならなかったのか不思議
になってしまうほどだ。
「キットンキットンっ! 4番通りにね、薬草類をたくさん扱ってる店があるんだ
けど、そこ、紹介してあげようか?」
明るい笑顔を造って、話しかける。すると、とたんキットンの表情がめちゃくちゃ
輝いた。
「ほっ、本当ですかっ、マリーナ! いや〜、ちょっと困ってたところなんですよ、
ぎゃっはっはっは! で、どこですか、そこは? 地図を書いてくれませんか?」
「ちょ、ちょっと待ってキットン。あのね、そこの主人って、ものすごいきれい好
きなのよ。あなた、その様子じゃもう何日もお風呂入ってないんじゃない? そん
なだったら、入ったとたんに追い出されるわよ。まずはお風呂に入ってから行かな
いとダメだと思うな」
機関銃のようにしゃべりだしたキットンに、慌てて待ったをかける。するとキット
ンは、ちょこん、と首を傾げて言った。
「別に関係無いと思うんですけどねぇ」
「あなたにとっては関係無くっても、その主人にとっては充分関係あることなのよ。
薬草、買いたいんでしょ? だったらお風呂くらい、入ってきた方が、いいんじゃ
ないかしら?」
「そうですかぁ? 私としては、入らなくてもいいと思うんですが……それなら仕
方ありませんねぇ」
マリーナの言葉に、渋々という感じでキットンは動き出す。
(これでOKね)
内心そうつぶやいて、また言葉を付け足す。
「じゃあ、キットンがお風呂入ってる間に、地図書いておくからね」

その日の午後の事。
「ねぇ、マリーナ! キットンがお風呂入ったみたいなのよ! 信じられない、あ
のキットンが自分からお風呂に入るなんて。あぁ、でも、解放された気分……」
 マリーナの2つ目の悪戯も、彼女の思い通りになった。……臭かったけど。

(3)

 今日は2月3日。節分の日。

「おーい、豆買ってきたぞぉーっ!」
玄関の扉が開くと同時に、クレイの声が響く。そう、節分の日といえば、豆まき、
巻寿司を食べる、というのが習慣。ということで、クレイが豆を買い出しに行って
きたのだ。
「あ、おかえり、クレイ。じゃ、早速みんなで豆まきしようよ!」
マリーナが、玄関を振り返り微笑む。そしてその言葉に苦情が約1件。
「げーっ、豆まきなんかすんのかよ? 別にいいじゃん、んなことしなくても。め
んどくせー」
こいつに言わせれば、寝ている方がずっといいのだろう。だが、いくら本人が嫌がっ
てても。
「トラップぅーー!?」
「わっ、わーったよ。すりゃいいんだろ、すりゃぁ……」
さすがにパステルとマリーナの殺気がかったものには耐えられなかったのだった。

「鬼はぁぁ外ぉーー! 福はぁぁ内ぃーー!!」
叫びながら、外と中に豆をまく。そして、おおいに盛り上がり、豆まきが終わった
頃。いつの間にかキッチンに行っていたマリーナが人数分の巻寿司を持って出てき
た。
「豆の掃除はあとにして、先に巻寿司食べよ! 私の手製の巻寿司だよ!」
「うっわぁー、おいしそう。これ、マリーナが作ったの? いつの間に?」
「ルーミィおなかぺっこぺこだおう!」
「ルーミィしゃん、よだれたれてるデシよ」
「へー、用意いいじゃん。おれ、これもらうな」
お皿からぱっと取って口に放りこもうとしたトラップを、パステルが慌てて止める。
「だ、だめよ、トラップ! ちゃんと向く方向いて、黙って食べないといけないん
だから!」
「ふぅん……そうゆうもんか?」
いくらなんでも知らないわけないだろうのに、わざととぼけてみせる、トラップ。
「そうよ! 今年は確か……東北東だっけ?」
いきなり自信がなくなったのか、振り返って聞く。それにノルが、にこにこ笑いな
がら答えた。
「そうだ」

「いっただきまーす!」
ぱくり。全員がほとんど同時に巻寿司にかぶりつく。それからしばらく、みんな何
も言わずに黙々と食べ続けていた。この大人数でみんながみんな同じ方向を向いて、
黙って寿司を食べているのだから、想像すれば少し怖いかもしれない。
 と、突然。
「あ、パステル、あそこ……」
「え?」
マリーナの上げた声に、声をあげて振り返る。すると、パステルの視界には、にかっ
と笑っているマリーナが移った。
「やった、かかった」
「え? あっ!」
ようやくパステルは、自分が喋ってしまったことに気が付いた。うーっ、とマリー
ナを睨んで、口を開く。
「でも、マリーナも喋ったじゃない」
「あ……」
マリーナは思わず一瞬呆然として、それからぺろっと舌を出した。
「忘れてた」
それでも、一応強がりを言ってみる。
「いーのよ、別に。こういうことで幸せにならなくたって。幸せってのは自分で作
るものなんだもの」

 マリーナの3つ目の悪戯は、少し失敗してしまった。

(4)

 マリーナは、にぎわう街の通りを、自分の店に向かってひとり歩いていた。今日
は2月の14日。バレンタインデーならではのにぎわいだった。
「あのー」
いきなり背後から声がかかる。一瞬他の人にかけられたものかと思ったが、振り返っ
てみるとマリーナと同じくらいの年の女の子が、しっかり自分の方を向いている。
「なんでしょう?」
使い慣れた営業スマイル。
「あの、クレイ・S・アンダーソンさんのお知り合いの方ですよね?」
クレイに用事。と、いうことは、大体想像がつく。どこからクレイの名前まで聞い
たのか……。
「はい、そうですけど」
「あ、じゃあ、あの、クレイさんに渡したい物が……」
「わかりました。どこで待っておくよう伝えましょうか?」
言っている途中なのにちゃんと伝わっていることに驚いたのか、女の子は目を丸く
した。そして1秒後、今度は顔が真っ赤に染まる。
「あの、中央通りの噴水の前で……。あっ、私、ペリシア・G・ケティといいます」
「ペリシア・G……ケティ?」
「はいっ!」
 ふーん。
 マリーナは、ちょっとした悪戯を思いついて、心の中で微笑んだ。

「ただいまー」
いつものように扉を開けると、そこにはクレイとトラップ、そしてノルがいた。
「おかえり、マリーナ」
「よぉ」
クレイとトラップが言ったそれぞれのあいさつに会釈で答える。そして、悪戯を仕
掛け始める事にした。パステルがいないうちに……。
「あ、クレイ、ある女の子がチョコレート渡したいから中央通りの噴水の前まで来
てほしいって」
「……え?」
「よっ、クレイちゃん、もてるね〜っ」
クレイが、横でニヤニヤしながら茶化したトラップの頭を軽く叩きながら、マリー
ナに確認してくる。
「中央通りの噴水の前?」
「そう。イニシャルだけ教えてあげるわ。P・G・Kよ」
「え……っ」
見事にひっかかってるみたい。困惑した表情になり、ちらっと横のトラップを見る。
そのトラップも、見てると面白い。マリーナがイニシャルを言ったとたん、微妙に
表情が変わった。本人は隠してるつもりみたいだけど。
「ほら、早く行ってきなさいよ。その子、待ってるよ」
「あ、ああ」
そしてクレイは複雑な表情のまま、表に飛び出した。
「……なぁマリーナ」
「気になるんだったら行ってきたら? そういうの得意でしょ、トラップ?」
「なっ、誰も気になるなんか言って……!」
「ふーん、じゃぁ気にならないんだ。クレイ、今ごろ2人でロマンチックにデート
してるかもね」
「…………行ってくりゃーいいんだろ、行ってくりゃぁ!」
   バタンッッ!
 派手な音をたてて扉から出ていくトラップを見て、マリーナはほくそ笑んだ。

『マリーナッ!』
それからしばらくした後、再び乱暴に扉が開けられた。
「おめー、騙しただろぉっ!?」
「何の事? わたしは事実しか伝えなかったけど……」
「くそー、ハメられた……」

 マリーナの4つ目の悪戯は大成功をおさめた。

(5)前編

「いや〜、今日は絶好の悪戯日和だわ!」
 マリーナが、居間でくつろいでいるパステル達に聞こえないよう、小声でつぶや
いた。ちなみに、ここは台所。昼食を用意している途中だ。包丁がトントンと、小
気味のいい音をたてている。
 そうそう、今日は4月1日。世間にとってはあまり目立たない行事であっても、
マリーナには大きな行事。今日は朝から心がはずんでいた。その上、空は雲ひとつ
ない快晴。まあ、悪戯に天気が関係あるのかといえば……。
 あるのだろう。きっと。そういうことにしておこう。
「さてさて、今日は誰をだまそっかなぁ♪」
 こうしてマリーナの4月1日が始まる。

「マリーナぁ、ごはんの用意、わたしにも手伝わせて!」
元気のいい声と共に、パステルがひょこっと顔を出す。その瞬間、マリーナは頭の
中でポンと手を打った。
「あ、それじゃあ、それ、味見してくれる?」
そう言って、鍋で火にかけているスープを指差す。
「オッケー、これね?」
そう言ってパステルは、小さな皿を取り出して、そのスープを少し入れた。
 こくっと一口。
 …………。
「えっと、マリーナ、これ……」
「美味しくないでしょ? だってまだ調味料とか入れてないもの」
「…………だまされたぁ」

 そして。
「おまたせ、ごはんできたよーっ」
にこにこしながらテーブルに昼ご飯を並べる。みんなの分を並べ終わり、食事も始
まった頃、パステルが思い出したように口を開いた。
「あ、そうそう、みんな聞いてよー。あのね、マリーナったらひどいんだよ。さっ
きお昼ごはん手伝いにいったらねぇ、いきなりだまされたの!」
そう言って、ぷぅっと頬を膨らませる。
「ま、おめーほどだましやすい奴もいねぇしな。そういうスキがあんのがわりーん
だぜ」
そのパステルに、トラップがにやにやと笑いを浮かべながら言葉をぶつけた。
「なっ、なによ、トラッ……!」
「あら、そういうトラップも、この前誰かにだまされてたじゃない」
いつものように始まりかけた2人の口論(?)を、同じようににやにや笑いを浮か
べたマリーナが断ち切る。
「げっ、あんでんなこと知ってんだよ、おめーっ!」
「え、ほんとにそんなことあったんだ?」
みんなにそう思い込ませて、追い詰めてやろうと思ってたのに。まさかほんとにそ
んなことがあったとは。
 マリーナは頭の中で、チッと舌を鳴らした。まぁ、かえっておもしろかったりも
するのだけれど。
「ほんとにあったんだ……って、まさか……」
「当り前じゃない。そんなこと初めっから知らなかったのにねー」
顔をひきつらせて言ったトラップに、いとも簡単に言ってのける。ほんの少し、ト
ラップが言葉を失った瞬間、今度はパステルが、さっきの仕返し、とばかりに次か
ら次へと言葉を並べ出した。
「ほら、見てみなさい! トラップだってだまされてるじゃない! しかも、その
・誰か・と、マリーナと、2人でしょ。わたしはマリーナだけだもん。だいたいねぇ
あなたはいつもいつも…………」

(5)後編

 パステルとトラップを、無事だまし終えた後、マリーナはクレイ、ルーミィ、キッ
トン、そしてシロちゃんまでも順調にだましていった。……といっても、ほんの小
さな事で、だけれど。さすがに、ルーミィやシロちゃんを本気でだますわけにもい
かない。だから、マリーナの良心が痛まない程度の事。
 あ、あそこにいっぱいドーナツが! とか、ね。
「さってさて、あとはノルだけよね。我ながらなかなか順調なエイプリルフールだ
わ。え〜っとノルは……っと」
 近くの公園あたりにやまをかけて、探しにいく。きっとノルの事だから、たいし
てはずれてはいないだろう。
 どんな事でだまそうか。
 なにしろ、ノルである。なかなか名案など思い浮かばない。
 ま、その場で何か思いつくでしょ。
 結局、マリーナにしてはめずらしく、行き当たりばったりで行くことにした。そ
れからしばらくして、咲き乱れた桜の花が見えてくる。公園だ。
「ん〜、ノルノル……あ」
公園の入り口に着いたマリーナは、少し背伸びをして、ノルを探した。そして、あ
る一点で視線を止める。もともと大きいノルだ。すぐに見つかった。小さな桜の木
の下で、小鳥と戯れている。
「おーい、ノル!」
マリーナは、大声で叫んでから、手を振ってノルのところへ駆けていった。
「マリーナ。何だ?」
そう言って、つぶらな瞳をマリーナに向ける、ノル。その瞳に見つめられた瞬間、
マリーナの口から言葉が出てこなくなった。
 きっと、この人は、わたしがだましても、今のようににこにこ笑っているんだろ
うな。
 ふっと頭の中に、そんな考えがよぎる。そして、その直後、マリーナの口から出
たのは、こんな言葉だった。
「ううん、何でもないんだけど。散歩してたら通りかかったの。ね、小鳥さん達、
元気そう?」

(この人だけはだませないなぁ。きっと、あと10年経っても、無理だろうな)

 マリーナの5つ目の悪戯には、大きな大きな越えられない関門があった。

(6)

 待ちに待っていた日がきた。
 マリーナは、今日のこの日のために1週間くらい前から緻密な(?)計画を練っていたのだ。
 今日は七夕。普通に生活を送る上では、それほど重要な行事ではないのだけれど……。
「あ、おはよう、マリーナ!」
「おはよ、パステル。今日、何の日か知ってるよね?」
「今日……7月7日? あ、七夕!?」
「そう、それでね……」
 マリーナは、意味ありげににやっと笑い、
「みんなで短冊、書かない?」

「短冊?」
 とりあえずみんなのいるところで話をしようか、ということになり、朝食の場でもう1度提案した結果、第一声はクレイのこの言葉だった。
「ぱぁーるぅ、たんらくってなんらぁ?」
「何デシか?」
「短冊っていうのはね、七夕のときに願い事をそれに書いて笹に吊るすと、願い事が叶うっていうやつのことよ」
 パステルが説明すると、1人と1匹は納得したように頷いた。
 それに代わって今度はトラップが口を開く。
「でもなんだっていきなりんなこと言い出したんだ?」
「第一、笹はどうするんです? 笹がなければ短冊を書いたところで吊るすこともできないと思うのですが」
 2人の言葉に、マリーナはにっこりと笑って、
「もちろん、普通に短冊を書くんじゃないわよ。……というか、笹には吊るさない」
と言うと、みんな「は?」というような顔になった。
「笹はいらないのよ。そもそも笹に吊るすのは、神様か誰かに願い事を叶えてもらうためでしょ? だから、その神様の代わりに、わたしたちが叶えるの」
 みんなが余計にわからないといった表情になったのを見て、マリーナが付け足すように言う。
「具体的に言うとね。願い事を短冊に書くでしょ? ここまでは同じで、その後、それをくじびきにして引くの。そして、自分が引いた人の書いた願い事を叶える。もちろん自分のものが当たったら引きなおしね。ただし、その願い事は絶対に他の人に言わないこと。自分が書いたのも、引いたのも。その代わり、人に見られたら恥ずかしいとかそーゆー理由で無難なもの書いたりするのはナシよ。面白くないもの」
 ここまで説明し終えたとき、クレイが口を開いた。
「でもその場合、叶えられないものだったらどうするんだ? 例えば、おれが『いいアーマーが欲しい』とかって書いたって、経済的に無理だろ」
「うん。だから絶対無理だと思われる願い事は書かないことね。もし自分が引いたものが絶対無理だとか、無理ではないけどやるわけにはいかないこと――例えばトラップが、ギャンブルのお金が欲しいとかそんなこと書いたりしても、お金あげるわけにはいかないじゃない? だからそういうことが書いてあった場合は、書いた人に内容の変更を求めることもできる、ってことでどう?」
 そう言ってぐるっと見回すマリーナ。
 最初に反応したのはキットンだった。
「それ面白そうですねぇ。何より神様の代わりに自分で叶えるってところがいい! 神頼みより信憑性も高いですし、人の願い事を叶えると言うのも面白そうです」
「うん。おれも、そう思う」
 でも、ノルまで賛成したのを見て、トラップが慌てて反対する。
「おいおい、マジかよ!? こいつのことだから何考えてんだかわかんねーぜ。おれは降りるからな!」
 その言葉にマリーナは「意外!」といった顔をして、
「あら、わたしはただ楽しみたいだけよ。もちろん、わたしも参加させてもらうからね」
 と言った。「パステルは?」とパステルの方に顔を向ける。
「う〜ん、わたしも面白そうだなーって思うんだけどね。でもこれって、ルーミィとシロちゃんはどうするの?」
「うん、そのことなんだけどね。抜けてもらうのもちょっと可哀想だし。だから、やってもやらなくてもどっちでもいいよ。よほどのことじゃなかったら2人でもできると思うし」
 そう言うと、パステルは「そっか」と頷き、そして「じゃあわたしもやってみたいな」と言った。
 残っていたクレイも賛同したので、マリーナは満足そうに微笑むと、再びトラップの方に視線を向ける。
「みんなやるって言ってるんだけどー、あなただけやらないってことは、ないよね?」
 その微笑みには、有無を言わせぬ何かがあったという……。


 1999年1月05日(火)16時56分33秒〜4月02日(金)23時14分42秒投稿、続いてここでの掲載が初めてになる、蒼零来夢さんの小説です。

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