Dearest Love

 小鳥の声が聞こえる。銘々が、朝の日差しを浴びて、今の季節を楽しんでい
た。
 一一ここは、みすず旅館。

「ねぇ、トラップどこ行ったのかしら?」
「さぁ? そういえばさっきから見かけないな。まあ夕方までには帰って来る
だろうけど」
 それはいつものパーティの中。別にめずらしくもない会話が交わされる。
「もう、まぁたギャンブルでもしに行ったのかしら?」

 所は変わり、ここは村外れの野原。辺りに生えた色とりどりの花は、そよ風
に揺れている。そして風の中には少年の足音が混ざる。
「あーぁ。らしくねーことしてんなぁ……」
 ぶつぶつ言いながらも顔は微妙にほころんでいた。目的の花を探し、歩きな
がら考える。あいつはどんな笑顔を見せてくれるだろうか? と。
「あれ……かな?」
 目を止めた所には紫のチューリップ。やって来た少年はさっそく、色鮮やか
なものを選び何本か摘む。そしてまた歩き出した。もう1つ、探している花が
あった。
 少し強くなった風に少年はその赤い髪を遊ばせる。日はもう真上に来ていた。

 突然ふと歩みが止まった。そして方向を変えて歩き出す。少年が2度目に足
を止めた所には、桃色の薔薇があった。
 薔薇を摘んだ少年は、2つの花をまとめながらシルバーリーブに向かった。
花が枯れないうちに着くために、少し早足になる。

「あ、トラップ! どこ行ってたの?」
 シルバーリーブを歩く少年の耳に、声が届いた。
「いや……パステル、これやる」
 そう言って摘んできた花を、声を掛けてきた少女に渡す。
「これ……花束? う、うそぉっ、トラップが!?」
 少女は不器用にまとめられた花束を見て、目を丸くした。
「うるせーな。いらねぇんだったら捨てるぞ、コレ」
「やだ、いるいるっ! 綺麗な花……ありがとう、トラップ!」
 少女は満面の笑みを浮かべた。
 一一2つの花の花言葉。それは「愛の誓い」。少年は、少女の素朴な笑顔に
永久(とわ)の愛を誓う。

 「Dearest Love」。
 「最も大切な人」へ、愛を込めて、花を贈ろう。

 1998年8月16日(日)19時57分02秒投稿の、蒼零来夢さんのトラパス短編です。

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