(41)〜悪魔降臨〜 「うっし、こんなもんかな?」 小1時間して、サードがあの魔法陣の中央に杖を持ったままたった。 その間はといいますとー。 ずっとリークと話し合っていたわけ。 あれだけ激しい戦闘がおこなわれた後だから、大きな魔法陣のところどころが 消えちゃって、その分を書き加えた後、またいろいろ話して、付け加えて・・・・・・。 私たちはただただ待つだけ。 話に加わればよかっただって? むりムリ、絶対無理。 だって、なんかいろんな専門用語みたいなもんが出てきて、話についていけないもん。 その間、ルーミィーとシロちゃんは眠ってしまって(ちなみに今も) トラップはトラップでジェームスと世間話をするし、私はといーうーとー。 何にもできなかった。 「気をつけて下さいね。不完全だったら、何が出てくるかわかったもんじゃありませんから」 もう龍牙砕のダメージを微塵にも感じていないようにリークが叫んだ。 もう、完璧にお仲間モードだ。 「ん〜、大丈夫とは思うけど・・・・・・やっぱ『不可空間静止抗』の方が不安だからな〜」 全然緊張なんてしてないんだろうね。 サードって、いっつもそうかも。 「大丈夫ですって。そっちの方は実験済みですから」 「あっ、そう。そりゃ助かったわ」 Vサインをリークに向ける。 ただ、顔は魔法陣を凝視していた。 「サード、大丈夫か?」 「トラップ、大丈夫だって。それよかおまえらの方が心配だよ」 今度は顔を上げてサードが言った。 「そうだな、避難しておいた方がいいか?」 「一応、戦闘は極力避けるつもりだけど・・・・・・。いざとなったら逃げてくれ」 語尾はまじめな顔でサードが言う。 戦闘を避けるったって・・・・・・。 ゼフさんの仇だったらムリじゃないのかな? それだけ言った後、今度は杖を持ち直した。 「んじゃ、やるかな」 「サード」 ふと振り向くサード。 「なんだ、パステル」 私は、その顔を見て、ホッとした。 ─いつものサードだ─ 「うん、頑張ってね」 「頑張ってね、か」 オウム返しに呟いて、微笑むサード。 「おう、頑張るわ」 といって、逆方向をむき直し、魔法陣の外に出る。 一つ深呼吸をした後、魔法詠唱を始めた。 『未知なる通路よ、未だ人知れぬ世界よ、今、我が道開きたり、その道よ、 我、望む者を呼び賜え。そして今、その者の名を呼ばん。ガルバード』 魔法陣から光が昇り、視界を遮っていく。 やがて光は闇にのまれ、私の視界も戻ってきた。 「あっ・・・」 思わず座り込んだ私。 それをとなりにいたトラップが支えたが、彼も崩れ落ちる。 「ったく、クレイの不幸がうつったか?」 私たちの視界には、悪魔がいた。 あの、二対四枚の羽を持つ悪魔が。
(42)〜150年〜 「150年ぶり、だな」 サードがポツリと呟く。 その表情からは、何の感情も読みとれなかった。 「150年、か」 低い声にだみ声、と思いきや結構澄んだ声。容姿とあってないから けっこう気持ち悪い。 周りを見回しているけど、どうやら今の状況を確かめているらしい。 「契約による召喚じゃないな。まったく純粋な召喚、か。人間界の 魔法技術の水準もここまであがってきたか」 感心しながら、ふと思い出したように顔を上げた。 「そうそう、150年前の契約の中で、たしかにあったな。おまえともう1人の暗殺依頼が」 「そーか、思い出したか。だったら教えてもらおうじゃないの」 サードが表情を作った。 笑っている。この状況で。 いったい、何を考えてんだろう。 「俺たちの、暗殺をおまえに依頼した依頼主を」 「えっ!!?」 意味がよくわからない。 すると、リークが補足してくれた。 「悪魔は、魂の契約と共に、その依頼を完璧に成し遂げるという義務があるんです。 むこうの世界の法律かどうかは知らないんですけどね。 よく悪魔を逆恨みする人がいますが、依頼を決行している間は、その依頼主の 意志がそのまま乗り移っているようなものですから、恨むなら依頼主を、が、筋なんです」 「ご名答、よく知っているな」 悪魔がリークを睨む。 それをなんなく微笑んで受け流したリーク。 何事もなかったかのようにまたサードにむき直した。 「悪いが、教えられないなぁ、それも契約のうちなんだ、決して口外にしないこと」 「堅いこと言うなよ、契約ナシでこちらに来れた第一号に選んだんだからよ。 そのくらいのサービスつけてくれや」 「だったら、契約をして聞き出せばいい。もちろん魂の契約だが」 「やーなこった。悪魔なんかと契約できるか」 前もだったけど、悪魔相手に怯みもしていない。 トラップと同様、この人の神経はどこをどう通っているだろうね。 「じゃあ、力ずくで聞いてやるさ。リーク」 といって、リークに何かを投げ渡す。 それは、龍口閉と地断線の反動をまともにくらい、ボロボロになった鞘。 「金属複製の魔法は知っているだろう?直してくれ」 「自分だって知っているでしょうに」 ブチブチいいつつも、鞘を地面に置き、魔法詠唱をはじめた。 するとどうだろう、見る見るうちに、鞘は元に戻っていった。 「えぇ、何で!!?」 「金属の接続部分を原子まで分解して、それからまた・・・・・・って言ってもわかりませんね」 そりゃそうだ。 「サンキュー、リーク」 投げ渡された鞘に、刀を収め、悪魔をにらみつける。 「手加減はしねぇ、いいな?」 「どうぞご自由に。私を負かしたらちゃんと教えてあげますよ」 でも、大丈夫だろうか、サードは。 いくら一時間くらい経っているからって、リークとの戦闘で受けた傷は 並大抵のものじゃなかったハズだし。 ましてや相手は悪魔でしょう!!? でも、私の心配なんてあの人に届くわけもなく。 悪魔、ガルバードとの闘いが始まった。
(43)〜見逃して〜 「はっ!!!」 リークの刀が閃光する。 しかし、その全てを悪魔は避けているのだ。 そのうち、サードの左手は自分の背中に伸びていた。 「双・剣・舞!!!!!!」 背中に仕込んでいた刀(短いヤツ)と前から持っていた刀が、さまざまな煌めきを もって悪魔を襲う。 それぞれ、交差、時間差攻撃、十文字切り、と、様々な攻撃。 それは名の通り『舞』だった。 ─避けきれない、普通の人間なら─ だが、相手は悪魔。 上空に飛び、そのすべてが決まる前に避ける。 「ふむう、なかなか。いい太刀筋だ」 余裕、なんだろうか。 体のあちこちに、さっきの双剣舞の傷が残っているけど、危機感は感じ取れない。 「そちらが武器を持っているのなら、こちらも持たないとフェアじゃないな」 といって、先程からの澄んだ声とは違う、低く重い声で、何事かを唱えた。 すると、悪魔の手に、鎌が握られていたのだ。 昔読んだ小説、それとまったく同じように。 そりゃあパターンだなー、とか思いながらよんでたけど、現実で見るやっぱ違う。 「その翼がなけりゃあ、もっとフェアだけどな」 「無理を言うな、それだけは無理だ」 「けち」 うーん、余裕で会話している。 前と同じ事言いそうだけど、やめておこう。 「だったら、飛ばないでやろう」 「そりゃあフェアのためか?それともハンデか?」 「自分で考えろ」 言うか言わないか、いきなり急降下。 だが、サードの方には向かわず、私たちとサードの丁度中間地点くらいに降り立った。 「なんのつもりだ?」 「いい距離だとは思わんかね、おまえも狙える、おまえの仲間も狙える」 といって、こちらに振り向く。 ううう、そんな顔でみないでよぉ。 「中年1人、ガキ3人、エルフ1人、犬1匹か。なんともアンバランスなパーティーだ」 「ボクは違いますよ。正式な仲間じゃありませんし」 といって、リークは手を振る。 この人も余裕の表情。 っていうか、微笑んでるもんなぁ。 いつもだけど。 「それに、約2名寝ている。ふざけたやつらだ」 その約2名とは、いわなくったてわかるだろう。 「だからよ、何がやりたいんだよ?」 いらいらした口調のサード。 「私の魔法を最大限に使えば、こいつらが全員死ぬ、それくらいわかるよな」 「だーかーらー」 「そこで、だ。このまま私を見逃してくれないかね?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!!?」 片手を耳に当て、間抜けな返事をしたサード。 それが、私たちと同じ格好なので、思わず笑ってしまった。 「愉快な人間だ」 ククッ、と笑った後、サードに顔を向けた。 「もちろん、条件は提示する。どうだ?」
(44)〜一流〜 「条件〜!!?」 信じられない、といったような声でサードが叫ぶ。 そうよ、何考えてるの?この悪魔、ガルバードは。 だが、しばらく考え込み、そして顔を上げる悪魔、ガルバード。 「いや、やっぱりいい。どうせ上の者が許してくれないだろうからな」 「上の者って・・・・・・」 「上司だ」 ガクッ ホントに・・・・・・なんて言ったらいいか・・・・・・。 でも、驚いた。悪魔にも上下関係あるんだ。 もしかして、ちゃんとした国家があるのかも。 それでもって、国旗も国歌もあって、ときたま戦争も・・・・・・。 いっ、いけない。考えが危ない方向に進んでる。 「ったく、せっかく緊張感楽しんでたのに。台無しだ」 サードも、なにやら手を振ってる。 その何気ない動作、実は『あれ』をやっていたなんて、気がつくわけがない。 「まぁいいや、とにかく、あんたから、俺ら暗殺依頼の張本人を聞き出さなきゃな」 「あぁ、やってみろ」 といって、お互い得物を構えた。 が、サードがガルバードを挑発するように言った。 「さっきから、俺しか仕掛けてないからよ、そっちから仕掛けてきてよ」 「いいだろう、後悔するなよ」 といって、走り出す、が。 爆発が起こる。それが、悪魔の動きを止めた。 「く、小癪な」 「やっぱ、うまくいくなぁ」 サードはいっきに間合いをつめていた。 すかさず抜刀、横薙ぎに刀をいれるかと思いきや、足が悪魔の頭上に上がっている。 「虎・口・十・字!!!!!」 と、気合いが喉から出た刹那、踵落としと、剣の横薙ぎの交差攻撃が見事きまる。 避ける暇なんてない。文字道理十字の閃光が走った。 「ガッ!!」 頭が地面を割り、黒い血が地面に染み込んでいく。 ううう、前よか気持ち悪い。 「へっへーん、きまったぜ、虎口十字。これって、体の体勢きついから、 こっちも関節いてぇーんだ」 とかなんとかいいながら、ちゃっかりストレッチなんかしている。 倒れていた悪魔はというと、しばらくしてから立ち上がり、首をコキコキといわせたりしている。 「大した人だよ、ったく。人のドゥントゥ・ルックボムをすぐに模倣、さらに応用している」 リークがサードをみつめたまま言った。 「へんですね」 今まで口を閉ざしていたジェームスが、呟いた。 それを、耳ざとく聞きとがめたトラップ。 「んだよ、何がおかしいんだ?」 「いえ、たしかに虎口十字は決まってます。確かに血も流れている。 でも、実際のダメージは与えていないようなんです」 「えっ!!!?」 思わずガルバードを見る。 たしかに、傷からは血が流れているし、心なしか首も傾いているように見える。 でも、その当人は、何事もなかったかのように振る舞ってる。 「ドゥントゥ・ルックボムも当たってるんです。のわりには火傷の後もないし」 ジェームスは、なおも深く考え込んだ。 やっぱ、このおじさん、ただ者じゃないは。 「なるほど、剣撃と蹴撃とを組み合わせた連続攻撃。それがあなたの攻撃パターン」 それを聞いたサード、ピタリとストレッチをやめた。 「一回見ただけでその全てを見切る、か。一流だね」 「誉めていただいて光栄ですね。あなたも一流の剣士ですから尚更です」 うやうやしく、礼をするガルバード。 「そりゃどうも。悪魔の太鼓判がありゃあ、仕事が増えるだろうな」 丁重、というのだろうか、この返事の仕方は。 前も言ったけど、この人の神経、どこをどう通ってるんだろう? 「どーもダメージないみたいだな。もう一回試すか」 といって、刀を構え直すサード。 その時の攻防が終わったとき、信じられない事実を知ることになった。 確実に負けの決まる事実が。
(45)〜絶望〜 キインッ 刀と鎌が交差する。 数々の火花を散らし、30合ほどすると、まずサードが退く。 追うようにガルバードが前に出るが、途端に爆発。 ドゥントゥ・ルックボムが発動した。 「てやぁぁ!!」 「クッ!」 サードの抜刀術を、辛うじて止める、が、すぐに脚が悪魔の腹にきまろうとした。 が、それするも避け、さらに鎌が横薙ぎに一閃。 『風よ、無形のそなたは塊となり、鎚となれ、ウインド・ハンマー』 途端、不可視の力が悪魔を襲った。 ふきとばされはするが、やはりダメージは与えていない。 「だったら、これで」 サードが跳んだ。 そのまま、悪魔のところまで急降下していく。 「龍・首・断!!!!!!」 両手持ちで、しかもサードの体重全てがかかった一撃。 悪魔は、それを腰を落とし、受け止めた。 刀と鎌から火花が散った刹那、まるで火花が大きくなったがごとく、いきなり炎が走った。 それは、鎌をつたい、ガルバードを燃やしていく。 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 「これはきくだろう、魔法剣。剣撃と同時に、魔法を発動させるこの技だ。 魔法剣士が使える技でもトップクラスの技だからな。ダメだったら・・・・・・」 流石にその先の言葉は飲み込んだ。 全身火だるまになりながらもがく、ガルバード。 地面に転がり、もがき、苦しんでいる。 その絶叫は、この世のものとは思えない叫び。 だが、それがやがて嘲笑に変わり、やがて大きな笑いに変わっていった。 「んでだよ・・・・・・」 トラップが腰を抜かしたように座り込んだ。 いや、実際に腰を抜かしているのかもしれない。 「くっくっく、知らなかったか?」 立ち上がり、サードを凝視する。 炎はもう、退いていて、火傷どころか、サードがつけた傷すらもついていない。 「悪魔を殺すにはな、魔界のモノでしかできないんだよ。方法としては、魔界の炎の召喚、 錬金術による未知の物質の開発、などでだ。 まぁ、逆にこちらの物質や魔法は想像以上のダメージを与えるがな。 人間界の物質や、人間ごときの魔法でこの体は傷つくことはない。 痛みは感じるが、蚊に刺された程度のモノだ。まぁおまえの攻撃は別格だがな」 完璧無欠とはこのようなものだろうか。 私たちのこのさきにあるのは、絶望のみ・・・・・・? 「ったくよぉ、フェアじゃないな」 「しかたがあるまい。これが悪魔と人間の差、これが運命だ」 「運命、か・・・・・・」 サードが静かに呟く。 「だったら、俺がその運命を変えてやるさ」 というと、刀を地面に垂直に突き刺した。
(46)〜決着〜 「刀無しで、私に勝負を挑もうと?」 「うーん、いろいろ試したいことがあるから。だけど、最終的には使うかもな」 といって、目の前で手をかざす。 丁度、丸くて小さい玉が手の中に収まるくらいの丸を作って。 「いいだろう。攻撃してみたらどうだ?」 「待てって、これ集中しないと出来ないんだからよ」 といって、しばらくそのままの体勢で(ほんと、微動だにしなかったんだから) 何かを念じるように目をつぶっていたサード。 が、いきなり目を開けて、ガルバードに向かって走り出す。 刀を持たずに。 「ヤケか?素手で私に勝てると思っているのか?」 楽しそうな声で(声だけ聞けばかなりいい方)鎌を構えるガルバード。 何の躊躇も無しにサードは型を構える。 「元々徒手空拳で戦っていたからな。そして、これと併用すれば・・・・・・」 などといって、一歩で一気に間合いを詰める。 一歩ったて、一気に数メートルを滑るような一歩だ。半端な速さじゃない。 「はっ!!!」 拳がつきだされたが、余裕で避ける、よいうより最初から当たっていなかったようだ。 が、ガルバードが吹っ飛んだ。 「ぐっ!!?」 「もう一丁」 後ろ回し蹴りが炸裂する、が。また当たっていない。 それなのに、何でガルバードの方が吹っ飛んでるの? 「ラスト・ワン!!!!!!」 無形の連続攻撃に耐えきれず、悪魔が倒れる。 跳び、右手を大きく振りかぶって、悪魔の腹部にパンチをいれる。 今度は、ちゃんと直撃しているのだ。 「ガハッ!!!!」 口から血を吐くガルバード。 返り血を浴びたサードは、ゆっくりと立ち上がり、刀に向かって歩いていく。 「終わった、のか?」 「いいや、やっぱりダメだった」 トラップの言葉にそう答え、刀に手をかけるサード。 その時、悪魔も立ち上がった。 「驚いたな。いったいその技はなんだ?」 「気、ですか」 サードの変わりにリークがこたえた。 すると、サードも首肯した。 「あぁ、そうだ。一応、無形で、しかも魔法にも属さないもんだから、効くと思ったけど。 やっぱダメだった」 何?最後の切り札が?ダメだったの? それじゃあ・・・・・・打つ手無し? 「気、か。確かにこちらの世界にはないが、何とか防ぎ切れた様だな」 「だからフェアじゃないんだよ・・・・・・あの悪魔には効いたんだがな」 「あぁ、あいつか」 ガルバードが思いついたように言う。 あの悪魔とは、以前ここで、サードたちと戦ったあの悪魔だろう。 「あいつは、ハッキリ言えば、もうこちらの世界のモノになっていたからな。 非合法な契約で、人間界に落とされたバカだったよ」 「どーしよっかなーあ」 サードが空を仰ぐ。 もちろん、洞窟の中から空は見えるはずもなく、暗い天井だけが見下ろしていた。 「切り札も封じられたんだ。降参しろ」 「誰が切り札使ったって?」 『えっ!!?』 この声はジェームスを除いた全員の声(寝てる1人と1匹も除いて) なに?切り札が他にあるの? 「気は、確かに俺の奥の手の一つだ。だけど、最高の技はまだ使っていない」 切羽詰まったこの状況でもけっこう余裕の感じ取れるサード。 なんだか、期待できそうだ。 後から聞いた話、かなり焦っていたというが。 「ハッタリ、にしては自信ありげだな。見せてもらおうか、その切り札とやらを」 ニッと笑って、サードは刀から手を離す。 「そうだな、最後の一本勝負、人生最大のギャンブルをやってみるか」 そういって、魔法詠唱を始めた。 けど、魔法は効かないはずじゃ・・・・・・。 『光よ、その全てを癒やす神の輝きよ。我が手中にとどまり賜え』 「光の魔法か?たしかに悪魔の弱点は光と言われてるが、わざわざ弱点をさらしたまま のうのうと生きているわけはないぞ」 続きの詠唱、それは少々声色が違っていた。 『闇よ、聖なる光を蝕む悪しき力よ。我が手中にとどまり賜え』 サードの右手に『光』左手に『闇』が現れる。 「同時に二つの魔法?バカな」 「彼の二重人格を利用しているんです。意志が二つあれば二つの魔法を同時に操ることも可能なハズ」 リークの驚愕、ジェームスの解説。 その二つの声の後に、悪魔の余裕の声が響いた。 「だからどうした?所詮人間界の魔法だ。恐れることはない」 『そして光よ闇よ。今、互いに対する二つの大いなる力よ』 二つの声がピッタリ合わさる。 右手、左手、それぞれが別々の意志に操られるように頭上に。 「─まさか、人間ごときが!!!!」 ガルバードが走り出す。 その表情には、焦りそのものだった。 『今、我が手中で混沌せよ』 『光』と『闇』が合わさっていき、『見えない力』に変化していく。 「間に合うか!!?」 後、10メートル。 『そして・・・・・・』 手が地面につきさしている刀に向かう。 「くっそぉぉぉぉ」 後、5メートル。 『我が刀の力となれ』 柄から刀身へ、『見えない力』が浸透していく。 その瞬間、地面から刀が抜け、それはガルバードを襲う。 サードが刀を抜き、そしてガルバードに向かって振りかぶったのだ。 「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」 「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」 そして決着がついた
(47)〜絶望の中の光〜 静寂が訪れた。 どちらも背中を向けたまま微動だにしない。 トラップが、ゴクリと喉を無理矢理湿らせたところで、サードが口を開いた。 「終わった、な」 「あぁ、終わった」 ガルバードも口を開く。 いったい、どちらに軍配が上がったの? 「しかし、人間が合成魔法、さらにそれを魔法剣とするとは、な」 「一応神獣の血が流れれるんだ」 「そりゃ驚いた。唯一無二の一族か」 どっかで聞いたことがある言葉。 「光と闇、その二つが完璧に合わされば、まったくの「無」になるんだからな。 刀に依存させれば、刀そのものをまったく別のモノに変えることができる。 それもまた、未知のモノだから、決まると思った」 思った!!? それって・・・・・・効かなかったって意味!? 「あぁ、それはたしかに効くよ」 それじゃあ!!! 「そう、か」 勝ったの!!? 「完璧に合成できたら、の話だったがな」 最後のガルバードの一言を言った時、お互い体から血を流し、倒れる。 だけど、すぐにガルバードの方が立ち上がった。 でも、サードは・・・・・・サードは胸の辺りから次から次に血が流れ出てる。 「よかったよ、不完全な、『光』と『闇』の合成魔法で。完璧だったら一発で・・・・・・」 そのさきを飲み込んだのは、己の敗北する姿を想像したからに違いない。 でも・・・・・・サードは・・・・・・。 「サーーーーーーード!!!!」 トラップがサードの元に駆け出す。 そのまま、トラップの後ろを追うリーク、ジェームス、そして私。 サードは、左肩から右の腰の部分まで、真っ直ぐに斬られている。 血はまだ流れてるし、それに目は開いていない。 「そんな、死んだらいや、目を開けて、お願い・・・だ・・・から」 絶叫から涙声に、声が変わっていく。 サードは・・・・・・でも目を開けてくれない・・・・・・。 「おい、勝手に死ぬな。おまえに言いたいこといっっっっぱいあるん・・・だか・・・ら・・・よぉ・・・・・・」 トラップが泣いてる。 涙を隠そうともせずに。 「トラップ、パステル」 後ろからジェームスが声をかける。 穏和な手を肩に乗せてきた。 「んだよ・・・・・・気休め・・・よし・・・てくれよ」 トラップが彼の手を振りほどく。 「大丈夫ですよ、彼、生きています」 「えっ!!?」 「大丈夫だ、脈あり、ちょっと出血多いけど・・・・・・彼の生命力なら大丈夫」 リークから希望の声が上がった。 かれも、あの時と同じく、微笑みながら涙を流している。 「ゥ・・セ・・・・・・エ」 目が開いた。 そして、サードが何か呻いた。 「んだって!?もっかい言ってくれよ」 トラップが問い返すと、サードが今度はちゃんと口を開いた。 「ウルセェ・・・ッテ・・・・・・・タンダ」 いきなりの憎まれ口。 この・・・・・・この男は、もう。 「とりあえず、回復魔法を」 といって、リークが右手を挙げ、何事かを呟いた。 優しい光が、手から現れて、サードの傷口に触れたとき、その傷はみるみる治って・・・・・・いかなかった。 「なんでだ・・・・・・なんで、回復魔法が効果を現さないんだよ!!!」 「無駄だ」 後ろから声をかけられる。 いたのは、悪魔、ガルバード。 サードにつけられた傷は、少しずつ治ってきている。 「魔界の金属が材料である、この『死神の鎌』だ。斬られれば再生不能。 己の自己治癒能力でしか回復せんわ!!!」 「んだって!!?それじゃあ・・・・・」 「回復は、できない」 トラップの驚きを、悪魔が一笑する。 「だーいじょーぶ。半分神獣の血が流れているんだ。自己治癒能力は高い。 それに、現に、ほら。もう喋れてる」 余裕の笑みを浮かべる。 んとに、この人は、もう・・・・・・。 心配した私がバカだったよ。 「パステルおねーしゃん」 えっ、えぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!! いきなり場違いな声、思ったら、シロちゃん。 さっきまでルーミィーと一緒に寝ていたはずなのに。 さっきの騒ぎで・・・・・・起きちゃった? 「パステルおねーしゃん、この人、誰デシか?」 「なっ、なに悠長なこといってんだ。どっからどーみても悪魔だろう? 早くこっちこい?」 ちなみにシロちゃんの立ち位置は、ガルバードと私たちの間。 「トラップあんしゃん。何を言ってるデシか?この人人間デシよ。ちょっと匂いが変デシけど」 『えっ!!?』 めずらしくジェームスも驚いている。 すると悪魔、鎌を握り直し、鋭い目つきでこちらを見た。 「ホワイトドラゴンの子供、か。ただの犬と思って油断したのが悪かった」 大きく溜息をつき、 「そうか、知られてしまったか。だったら死んでもらおう」 ・・・・・・なんですと!!!? と、思うか思わないか。鎌を振りかぶったガルバードが目に入った。 狙いは、シロちゃん。 「あぶねぇ!!!」 トラップのパチンコが悪魔の頭に命中。 「こざかしいは!!!!!!」 悪魔から見えない力が発された。 何の抵抗もなく、全員が吹き飛ぶ。 「いよいよ、やべぇな」 入り口付近まで吹き飛ばされ、トラップが呻く。 リークは気絶をしている、ジェームスも。 シロちゃんは、必死に立ち上がろうとして、そして倒れ、また立ち上がろうとした。 ホントに、健気な子だなぁ。 こんな状況で、こんなこと考える私も私だけど。 サードは、手に力が入らないみたいで、刀を何度も取り落としていた。 トラップはガルバードをにらみつけている。 私は、前から受けた衝撃と、地面に叩き付けられた衝撃で喋ることもできなかった。 「皆殺しだ。我々の正体の一部すらも知った者は」 我々!!? その言葉の矛盾を感じながらも、私は思った。 このまま、死ぬんだ。 目をつぶる。 こんなことで、死ぬんだ。 「死ね」 鎌が振り上げられ、そして空気を裂く音が聞こえた。 続いて金属音。 痛みは、ない。 ただ、ガチガチという、金属同士が擦り合う音が聞こえてきた。 「クッ、クク、ククク」 トラップの驚きの声。 おそるおそる目を開ける。 黒髪の男がいた。 その人は、悪魔の鎌を受け止め、耐えている。 そして、私はその人の名前を叫んだ。 「クレイ!!!!!!」
(48)〜強くなる光〜 「どうして、クレイが?」 そうよ、クレイはたしか、ゼンばあさんの所に行ったはず。 すると、いつもどおりの声で、こたえた。 「話は後だ、パステル。それよりジェームスと、それと・・・・・・その人も、早く起こした方がいい」 その人とはリークの事だろう。 そっか、クレイ事情知らないんだよね。 「あっ、そうだ」 「おい、起きろ、起きろ!」 「つつつ・・・・・」 「あたたたた・・・・・・」 リークが頭をしきりに振りながら起きあがり、ジェームスは故知を抑えながら立ち上がる。 そして、すぐに状況を察知、戦闘態勢に入った。 「おい、そこのファイター、伏せろ」 リークもクレイのこと知らないんだよね。 いきなり命令されたけど、そこはクレイ。 すぐに伏せた。 『風よ、無形のそなたは塊となり、鎚となれ、ウインド・ハンマー』 さっきサードが使った魔法。 でも、それは確実にガルバードを吹き飛ばした。 壁に思いっきりぶつかり、上から落ちてくる岩に押しつぶされていった。 でも、死なないんだよね。 「クレイ、なんでここに!!?」 「ヒールニトンに行ってる途中、キットンにゼンばあさんからテレパシーが届いたんだよ。 急いで引き返して、ホーキンス山にむかえってね。一回シルバーリーフに戻ってからヒポちゃんに乗って急いで行ったんだけど。 で、JBから事情聞いた後、ここに来たんだけど、またあの罠にかかって・・・・・・。 俺だけ運良くここのすぐ近くに来てたんだ」 「でも、私たちの時には作動しなかったけど?」 「ガルバードの魔力に共鳴して復活したんだろう。ヘタすればモンスターも復活している」 「まじかよ・・・・・・」 リークの解説にうんざりした声のトラップ。 「ところで、何なんだ?あの人は」 クレイがさしたのは、リークではなく悪魔。 「人!!?何いってんだよ、クレイ。そこどう見たって悪魔じゃないか」 「はぁ、どこをどう見たって人間だぜ?」 もちろんクレイが嘘を言うわけがない。 でも、トラップが行ってることは事実だ。 なんせ私たちにもそう見えるのだから。 「おまえにはどういう風に見えるんだ!!?」 いきなりのサードの質問。 クレイはうろたえながらもこたえた。 「銀色の長い髪だな。それを後ろで結んでる。目の色は、赤いけど。 けっこう綺麗な顔だぜ。男だけど」 「おい、翼は見えるか?」 「翼!!?んな天使じゃないんだから生えてるわけないじゃん」 それって・・・・・・どういうこと? 私たちには悪魔の姿に見えて、クレイとシロちゃんには人間の姿に見える。 「後から人間が来るとはな、迂闊だった」 静かにそう言った後、全ての岩を吹き飛ばし、こちらに歩み寄ってくる。 「とにかく、サードの傷が治るまで時間を稼ぐことです。全員でなんとかしましょう」 ジェームスがすっかりやる気になっている。 「怪我デシか。ボク血を使って下さいデシ」 「そうだな、シロの血もダメかもしらねぇけど、無いよりましだ。おい、パステル!」 「えぇっ!!?」 いきなりトラップから声をかけられ、驚く。 「俺らは時間稼ぎをする。その間にサードにシロの血を飲ませるんだ。 いいか、急いで失敗するんじゃねぇぞ」 「わっ、わかったわ!!」 急いで水筒を取り出し、水をコップにつぐ。 「ホワイトドラゴンの血、か。やっかいだな」 「くるなら来い」 クレイが剣を構える。 「我々の正体の一部を知った者たち、生かして置くわけにはいかない!!!!」 いきなりダッシュ。 背中の翼を利用して、一気に加速している。 「くっ!!!」 金属音、クレイが彼の攻撃を止めたのだ。 伊達にサードから剣の修行を受けただけのことはある。 「おらおらおら!!!」 すさまじい連続攻撃。 さすがのクレイもこれには防戦一方だ。 「ツッ!!?」 悪魔が一瞬のすきを見せる。 トラップのパチンコが目の回りに命中したのだ。 そこをすかさずクレイが狙う、が。 悪魔はすでに鎌を振りかぶっていたのだ。 ─罠だ─ トラップがパチンコを放つのも計算済みだったんだ。 クレイも、これは避けられない。 ─やられた─ シロちゃんの尻尾にショートソードを入れようとしたところで目をつぶる。 でも、悲鳴も何も聞こえてこない。 また、ガチガチという金属が擦れ合う音が。 「ナイス、ジェームス」 続いて、何かが斬られる音と、ガルバードの悲鳴。 何かの衝撃音が聞こえた後、また岩が砕ける音。 えっ、えぇ!!? 目を開けてみると、悪魔の鎌が幾重もの鎖に繋がれ、巻き取られている。 その鎖の発信源はジェームスの両袖の下。 そこから伸びているのだ、鎖は。 「どこにそんなもん仕込んでたんだよ」 「腹の所だ」 言葉遣いも変わっている。 そう、心なしか、ジェームスのお腹の部分は、へっこんでいた。 「パステルおねーしゃん、もう終わったデシか?」 「あぁ、ごめん。もうちょっと待ってて」 「そうデシか。早く終わらせて欲しいデシ」 私はすぐにショートソードを持ち直し、シロちゃんの尻尾に入れ、すぐに水に入れた。 それをサードの口に流し込む。 絶望の中に差し込んだ光。 それは少しずつ強くなっていった。
(49)〜お頭〜 「驚いたな」 パタパタと、手を振りながら出てきたガルバード。 「人間ごときが、これほどやるとは・・・・・・・」 右手を挙げる。 すると、ジェームスに取られていた鎌が、生きているもののようにガルバードの手に戻ってきた。 「これだけの達人が揃っているんだ。一気に殺せば、上から褒美が出るかな」 あれだけやられているのに、まったくの余裕。 たしかに、あれだけの攻撃でも、悪魔は死ぬことはない。 「余裕だな」 「実際そうだからな。魔界の物質、魔法、または創造のモノでしか私を倒すことは出来ないからな」 念を押すように言う。 だから、時間稼ぎをするのだ。 サードが復活し、あの魔法剣をもう一度、今度は完成させるため。 「時間稼ぎ。ホワイトドラゴンの血を使っているから、更に時間が短くなる、か」 ふと、考えて。 「次の一回だ、それで終わらせる」 言ったすぐ後、クレイの方向にダッシュする。 第1撃、受け止めた、2撃、また、受け止めた。 火花が散り、トラップのパチンコが注意を逸らす。 だが、そのうち、ガルバードの手がクレイのおなかに伸びて・・・・・・。 「がっ!!!」 クレイが吹っ飛ぶ。 私たちの横を通って、遥か後方、階段の所まで。 「げっ!!!!!」 続いてトラップ。 彼はひらりひらりと、攻撃を避けていた。 「トラップ、横に跳べ」 すぐに跳ぶ、が。 悪魔の蹴りが、トラップのみぞおちにはいった。 地面をのたうちまわって、そして止まる。 かなりの呼吸困難に陥っている。 「なっ!!?」 リークの目の前に、悪魔が現れる。 一瞬の移動、まったく目に見えなかった。 「うらぁぁぁぁ!!!」 即座に真空の鎚を放ったが、横に避ける。 続いて第2撃、それすらも避けてしまった。 ガルバードが鎌を振り上げる。 彼は魔法使い、接近戦には弱い。 「また、おまえか」 後ろから鎖が伸びてきていた。 それは、ジェームスが放ったモノ。 彼の目つきは、いつもの陽気なおじさんのモノじゃなかった。 百戦錬磨のベテラン戦士。 「一番強そうだったから、一番最後の楽しみにしようと思ったが」 「そこまで見抜くとは、さすがは悪魔」 サードが皮肉を込めて言う。 それは、まるでジェームスにも向けられているかのようだった。 「そうだな、やはり最後がいい」 鎌を手から離し、リークの腹にパンチが入った。 そのまま、倒れ込み、ピクリとも動かない。 「よかった、殺してないようですね」 「おい、ジェームス」 いきなりサードが立ち上がった。 まだ、怪我をしているのに。 「そんな、サード、傷口が開くよ」 「ジェームス、このまま全員回収して逃げろ。俺がけりつける」 刀を握る握力まで取り戻している。 大した回復力だ。 「それはできません。あなたを放って置いて、そのまま帰ったら、お頭に叱られます。 それはあなたもよく、知っているはずですよ。あなたが死んでも、同じ事です」 「そうだった、な」 急に納得、座り込んだ。 その「お頭」って誰なんだろう? 名前を口にしただけで、サードを黙り込ませる。 いったいどんな人なんだろう? 「時間稼ぎだったら、私にも出来ます。大人しく座って置いて下さい」 その直後、ジェームスの鎖がさまざまな動きを見せる。 交差、螺旋を描きながらガルバードを縛り、見事五体を封じた。 「やるな、なかなか」 「これくらいできないと、あの船には乗れなかったからな」 また言葉遣いが変わってる。 ある種の二重人格だ。 あの船、ってのは疑問だけど。 「まあまあにして、まだまだだ」 鎖が弾け跳ぶ。 空中に放り出されている鎌を手に、ジェームスに直進。 「はっ!!!」 横薙ぎに一閃、しかしジェームスが跳躍した。 そりゃあもう、高い高い。 さまざまな飛び道具が、正確にガルバードに向かっている。 そのいくらかは、刺さっているが、全然痛みとか感じていない。 「それで逃げたつもりか!!!!!!」 そうよ、悪魔には翼がある。 壁を跳び、跳び、そして地面に着地する間にも、いろいろな飛び道具を放っていた。 でも、致命傷には至らないし、動きも鈍らない。 「くっそ」 サードが立ち上がり、刀を手に取る。 「ダメよ、ジェームスを信じなきゃ」 抑え込む、でも、男と女の差。とてもかなうはずがない。 でも、相手は汚しているのよ?そんなに非力なつもりはないけど。 「だってよ、でも。あいつが死んだら・・・・・・」 「今のあなたじゃ、ジェームス助けるどころか、死んじゃうよ。それより、 怪我を治した方が、ジェームスのためでもあるよ」 「そうだ、けが人は黙っていろ」 えっ!!? いきなり後ろから声が聞こえた。 振り向く、が、誰もいない。 ただ、紫色の残像が見えたような気がした。 「クリス・・・」 サードが呟いた。 クリスって、あのクリス!!? 驚いて前を見る。 追いつめられるジェームス。 迫るガルバード。 そして、見えるようで見えない、紫色の残像。 彼の、紫の長髪が、それだろう。 キィィィィン ガルバードの鎌と、何かがぶつかった。 ハッキリ見える、紫の髪。 手には、槍が握られていた。 そして、ジェームスの歓喜の声。 「お頭!!!!!」
(50)〜クリスの実力〜 「ジェームス!!!!」 「大丈夫か?」と、続くだろう、普通は。 しかし、この人はおそらく、「常識」というものを知らないのであろう。 「禁句1回、罰金だからな」 「はい」 頭をうなだれるジェームス。 禁句とは、たぶん「お頭」のことだろう。 「今のおまえと私の間に主従関係はないんだからな」 「よーく、存じております」 といって、すごすごと私たちの方に戻ってくるジェームス。 そのまま見逃したガルバードは、いったい何を考えてるのかわからない表情。 そもそも、悪魔の表情からは何も感じ取れないのだが。 「んだよ、クリスか」 横で座り込んだサード。 すっかり気の抜けた表情だ。 「けが人は大人しく寝ていろ。早く傷を治しておけ」 「はいはい」 というと、なんと。 寝始めたではないか!!! 「ちょっと、こんな時に・・・・・・」 「こんな時なんだからこそ寝るんだ。こっちの方が早く傷が治るんだよ」 言うだけ言って寝てしまった。 ちゃっかり、いびきまでかいて・・・・・・。 「貴様、誰だ?」 ガルバードの質問に、律儀にこたえるクリス。 「クリス・メグリアーザ、四代目襲名の鍛冶屋」 少し顔を上げる。 「人間としての義務を果たせない人間。そして・・・」 表情が変わった。 怒りも、悲しみも、その目にはない。 「虚無」 まさにそれそのものだった。 「『闇を知る者』ですよ」 最後は敬語だったが、何か物言えぬ迫力があった。 『闇を知る者』、リークがサードに向けて言った言葉、そして自分もそれだと肯定している。 いったい、闇を知る者って・・・・・・。 「なるほど、とすると、そこの中年、それに魔法使い、そして魔法剣士もそうらしいな」 「まあ、な。魔法使いの方は知らないが、たぶんそうだろう」 「この世に十数人しか存在しない『闇を知る者』が、この場に4人も揃っているとは・・・・・・」 最後の方には、もう戦闘態勢に入っていた。 鎌を振り上げたのだ。 「この場で殺せば、悲しむ人間が減るというものだ」 目をつぶった。 いくらなんでも、鍛冶屋にガルバードの相手がつとまるわけがない。 なんの音も聞こえてこない。 金属音も、空気を斬る音も、何かが切れる音も。 時間が止まったように。 「心配いりませんよ、ほら」 ジェームスの声。 目を開てみる。 最初は、ガルバードが止まっているだけに見えた。 だけど、小刻みに震えている。 よーく、目を凝らしてみた。 神業、という言葉が一番似合うのかもしれない。 鎌の先端と、槍の先端。 そこが、重なっているのだ。 もちろん攻撃を仕掛けたのはガルバード。 受け止めたのは、クリス。 クレイですら、受け止めるのがやっとだったあの攻撃を。 槍の先端で、しかも鎌の先端を止めたのだ。 もちろん衝撃だってあるし、向こうだって押すだろう。 でも、まったく微動だにしない。 お互いが、止まっている。 いや、ガルバードは震えているのだが。 「でも、何で動けないの?」 「当然だよ、動けなくって」 後ろから別の声が聞こえた。 クレイだ。 「クレイ、大丈夫!!?」 「あぁ、ノルに起こしてもらったから」 「ノル!!!!」 クレイの後から、ノルも来ていた。 倒れかかったクレイを支え、そして地面に座らせてやる。 「でも、どういうこと、動けないって?」 「あの状態で、退くとする。すると、すぐに攻撃を受けるんだ。上に退けば石突きが腹に。 下に退けば槍先が頭を貫ぬく。横にずらしても同じ事。 だから押しているんだろうけど、まったく動じない。だから、動けない」 よーくはわからなかったけど、けど。 クリスが優勢だって事はわかった。 「あっ、でも。どうしたって死ぬことはないんだから、攻撃を受けても・・・・・・」 「それが、出来ないんだろう」 クレイの額から汗がしたたり落ちる。 「あの目で、睨まれたら、たとえ死ななくても退かないだろう」 目!!? クリスの紫水晶の目。 それは、美しく、しかし冷血に輝いている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!? 気のせいかもしれないけど、クリスの目が少し、赤みがかっているように思えた。 「実力がどれほどか。それはサードが寝ているからわかるよ」 「サードが寝てるから!!?」 それって、傷を早く治すためじゃないの? 「俺たちが戦っているときでさえ寝なかったんだ。そのサードが寝たっていうことは・・・・・・」 戦局はいっこうに変化しない。 「それほど、クリスの実力を信じてるって事だよ」
1999年7月29日(木)19時12分40秒〜8月07日(土)18時58分33秒投稿の、PIECEさんの長編「闇を知る者」(41〜50)です。