誓う傭兵(21〜30)

(21)〜パーティーだから〜

それを聞いた悪魔の顔が突然変化した。
まるで未知のモノに遭遇したような・・・・・・・そんな顔。
「その様子だと・・・・・知っているようだな」
「あぁ、知っている。だがそれがどうした?」
「教えろ!!」
強く押し殺した声で悪魔に言う。
「おまえが知りたがっているモノを教えるほど俺はいいやつではない」
「まぁ悪魔ですからねー」
キットンがしみじみ言う。
「だったら、力ずくで聞くまでだな」
「人間ごときが!悪魔の俺に勝てると思っているのか!?」
また悪魔が高笑い。
「おい、おまえら」
サードさんが前を向いたまま言った。
「いいか、おれが悪魔に向かって走り出したら逃げるんだぞ」
「えっ!?」
「おまえらを殺したくはない、すぐに逃げるんだ」
「イヤです」
クレイがうつむいたまま言った。
でもサードは振り返りはしない。
「相手は悪魔だぞ!!」
「でも・・・・あなたは・・・・・・・俺達のパーティーです」
サードが振り返る。
「パーティーの一員ほったらかしてノコノコ逃げるヤツがどこにいるんですか?」
「そうだな・・・・ルーミィーだって助けてもらってんだ、それにパステルだって・・・・」
「そんなことは問題じゃないわ、ただ私達が彼をパーティーと思うかどうか、
それでいいんじゃない?」
私も同意する。
何かこうして改めてみんなと会ったとき、サードがすっごく身近に感じられた。
何かクレイ達と変わらないように。
ジュン・ケイから最強の傭兵だって聞いたって、たとえ後々山にこもったって、
この人は私達の仲間だ。
「勝手にしろ」
悪魔に向き直したサードが言う。
その言葉にはなんともいえない喜びが詰まっていたような気がした。
「じゃあ」
「お言葉に甘えて」
「いきますか」
クレイがシドの剣を抜き、トラップがパチンコに石を込める、ノルも斧を構え、
ルーミィーは杖を振り回す、キットンも魔法の準備をしジュン・ケイも剣をかまえる。
私もショートソードを抜いた。

(22)〜悪夢の始まり〜

「どうやら本気でやるらしいな」
悪魔が笑い混じりに言う。
「悪いがあいつのことを聞くまでは帰るワケにはいかないからな」
サードが言うあいつとはおそらく彼自身が言った悪魔のことだろう。
一体何があったんだろうか、その悪魔との間に。
「サード」
ボソッと、悪魔に聞こえない程度にクレイが言う。
「とりあえず俺とノル、ジュン・ケイにあなたで悪魔を囲むように戦う」
「あぁ、それがいいだろう」
ジュン・ケイが同意、
「私達は!?」
「トラップはパチンコで援護、キットンは『バンザイ魔法』をところどころ使ってくれ」
ここで一息つき
「パステルは・・・・・」
ふと困ったような顔になったが
「後ろから見守っていてくれ、俺達はそれだけで十分だ」
とサードが言う。
「わかったわ・・・・」
正直私が手伝っても何もできないだろう。でもサードがそう言ってくれて、
私は何だか涙が溢れそうになった。
「さっきから何を話しているんだ、俺は腹が減った」
悪魔がいらいらした声で言う。
「いいか、3・2・1で一気に走り出すんだ」
「OK」
「まかせろ」
「わかった」
「いくぞ・・・・・3・2・1」
小さくジュン・ケイがそう言うと、全員が走り始めた。
最初に悪魔に到達したのはサード
「はぁぁぁぁっ」
気合いと共に剣を振り上げる、
とその時、悪魔の手に黒い光が集まりシックルができた。
「死ね!!」
振り下ろされるシックル、あぁ、悪魔の方が少し早い!!
「・・・・・・クオッ」
と、その悪魔からうめき声がきこえる。その腹にはサードの蹴りがきまっていた。
「はっ」
跳び、回し蹴りを悪魔の顔面へ、そのままの状態で肩口に刀を振り下ろす。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ」
悪魔の悲痛な声が聞こえてくる。
その時、ジュン・ケイの剣が悪魔の胸に!!!
グサッ
両手用のロングソードが悪魔の胸を貫通する。
「てやぁぁぁぁ」
クレイの振り下ろした剣が悪魔の腕を切り落とし、ノルの斧は脇腹を直撃した。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
悪魔の断末魔が部屋に響く。
もしかして・・・・・・勝っちゃた!!?
「おろっ、もう勝っちゃったの」
トラップがパチンコに石を詰めたままの状態で言う。
「あぁ」
サードの笑顔、
そして悪魔の返り血(ものすごくドス黒い。あぁぁぁ気持ち悪い)で汚れた
みんなが歩いてくる。
「でも結局聞き出せなかったですね、悪魔のこと」
「まぁいいさ、そこまで急ぐことでもないし」
その表情にはちょっと「残念だったなー」っていうのがあった。
「でも一体その悪魔って何なんですか、どうやら何か込み入った事情がありそうですけど」
キットンが聞いてみる。
「あぁ、それは・・・・・・・」
ちょっと遠い目をしていたサード、銀色の目が細くなる。
「それは・・・・・・」
そう言ったサードの目がかっと見開かされる、その横腹には・・・・・・悪魔の指先が。

(23)〜悪夢〜

「カハッ・・・・・」
血を吐き、倒れ込むサード、その横腹から悪魔の指先が引き抜かれた。
「いやぁぁぁぁぁ!!!!」
私の絶叫が部屋中に響きわたる。
「くっくっく・・・・油断したなー」
悪魔の、怒りを込めた静かな声が聞こえた。
見ると、胸から血を流し、右腕を切り取られ、脇腹から内蔵のえぐり出た悪魔が立っていた。
切り取られた右腕は、赤い血を滴り落としながら中に浮いている。
「馬鹿な!心臓を貫いたはずだぞ!!」
ジュン・ケイの声、
「それが人間と悪魔の違いだ。我ら悪魔は『魂』をやられない限り生き続けるのだ
その魂を他の場所に保管しているからなー」
「ちっ、そういうことか」
サードの声が聞こえる。
「サード!!」
「大丈夫か!!」
私とトラップが駆け寄ると、サードは手を挙げ
「水よ、その清らかなる生命を元に、我の傷を癒やし賜え、キュア」
静かにそう言って、挙げていた手を傷に当てる。
すると見る見るうちに血が引いて行くではないか。
「魔法を使えるの!!?」
「あぁ、まぁそんなところだ」
曖昧な返事、何かあるのだろうか?
「だが流石に俺も傷つきすぎた」
悪魔の声が聞こえてきた。
「おまえらの『魂』を元に体を作り直すとするか」
何!?何のこと?
「だがそれだけでは俺の気がすまん!!」
「ちっ、厄介なことになりそうだな」
トラップが呟く。
「おまえらの過去に一番悲しみ、怒り、そして絶望した瞬間を甦らせるとしよう」
一息おき、私達を見渡す。
「まずはそこのチビからだな」
それって・・・ルーミィー!!?
悪魔が何事かを呟いている、もちろん人間の言葉何かじゃない。
そして手をルーミィーにかざす。
「いやぁぁぁ、ママーー、ルーミィー怖いおう!!」
ルーミィーがいきなり泣き出した、たぶんズールの森の火事のことを
思い出しているのだろう。
「そんな!!何てことをするのよ!!!」
「次はおまえだ!!!」
そういって私の方に手をかざした。
崩れ落ちた家、食い荒らされた畑、引き裂かれた人形、そしてそれぞれに
駆け出していく子供達・・・・・・・・。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
目をふさいで必死に叫ぶ。しかし映像は消えない。
昔に何度もこの事を思い出していたが、こんなにリアルで、はっきりと思い出した
ことなんかない。小石の一つ一つまで見えてくる。
「野郎!!」
サードの声と足音、
「おまえには随分邪魔をさせられたよ」
そしてあの映像が消えた。ふさいでいた目から涙がこぼれているのがわかる。
そして目を開けると・・・・・・呆然と立っているサードの姿があった。
そして・・・・・・・・・・
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
私以上の叫び声、その顔に汗が浮かび、目には涙が浮かぶ。
私は目をつぶった、そんなサードをこれ以上見たくはなかった。
しばらく叫んでいたサード、
「やめて、やめて」
私は涙を流しながらそう叫ぶ、その瞬間・・・・絶叫がやんだ。
どうしたんだろう・・・・・・私はおそるおそる目を開けた。
そこにはサード立っていた。
髪の色が最初にあった時と同じく銀髪になっていたサードが・・・・・。

(24)〜もう一人のサード〜

「ふぅぅぅーー」
サードが溜息をつく、でも何かイメージが違う・・・・・。
銀髪のせいだろうか?
そんなサードをみんなポカンと口を開けて見ている。
あの悪魔でさえ。
「なんだ、人のことジロジロみやがって」
サードが口を開いた。なにか聞き覚えのある声。
そう、最初にサードに会ったときの声だ。
「まぁいい、だいたいの様子は見ていたからな」
ここで視線を悪魔に送る。
「おい、俺達が探している悪魔のこと、言ってくれねーのか?」
「達って・・・・・・?」
「たぶん私達が知っているサードの事を言っているんでしょうね」
「どういうことなの?」
「ニブイやつ、二重人格ってことだろう?」
「二重人格!!?」
たしかにそういえばつじつまがあう。
でも髪の色が変わるなんて・・・・・・。
「どうやら二重人格のようだな、さっきの会話、聞いていなかったのか?」
「答えは変わらず・・・・か」
ニヤニヤ笑っている。なんかトラップに似ているような・・・・・・。
「力ずくで聞くか?だがそれは無駄だとわかっているだろう」
「まぁ、おまえの魂さえ見つければいいことだがな」
「魂を見つける!!?」
そこで大笑い。
血を流しながら笑っているわけで・・・・すっごく気持ち悪いんだなー、これが。
「いいことを教えてやろうか、俺の魂はこの部屋のガーゴイルの像の
どこかに封じてある」
「そんなことを教えていいのか」
「どうせ無駄な事だからな」
「ありがとよ」
そう短く言って両手を胸の前で組む。
「闇に閉ざされし真実よ、大地に封印されし宝物よ・・・・・・」
そこまで聞いた悪魔がサードに向かって駆け出す。
「馬鹿な、人間ごときが何故その魔法を!!」
「今こそ我の前に姿をあらわせ、そして我が手中におさまれ」
「させるか!!」
悪魔のシックルが振り下ろされる。
ガキンッ
クレイとジュン・ケイがそれを受け止める。
「サントラスティング!!!」
そう言うと眩い光がサードの手から発せられる。
「まぶしいデシ」
「まぶしいおう」
無邪気な一人と一匹の声が聞こえる。
そして光が引いたとき、サードの手の中の黒い、闇のような玉が握られていた。

(25)〜悪魔の末路〜

「頼む・・・・それだけは、それだけは傷つけないでくれ!!」
悪魔がサードに嘆願する。
左手に悪魔の『魂』右手に刀を持ったサードは見下すように言った。
「おまえが俺達が探している悪魔のことを言ってくれたらな」
「ぐっ・・・」
何か・・・・サードさんがやたら怖かった。
いままでのサードは明るく、前向き、そして何より強い人だった。
このサードは何か・・・・冷たく、冷酷、冷血って言葉が妙に当てはまっていた。
そういえば私達はサードのことを良く知っていない。
ジュン・ケイから最強の傭兵だってきいたけれど・・・それはあるのだろうけど、
そんな彼がどうやっていままで生きてきたのか、それは誰も知らないのだから。
「こたえろ!!」
銀髪がなびき、銀の目が細められる。
「いや、それよりも無条件でおまえに願いを叶えさせよう、永遠の命か、
全てを支配できる力か、使い切れない財力か?」
「そんなものはいらねぇ」
そう言うと、刀を闇の玉へ向けた。
「やめろ、やめろ!!!」
それを言うか言わないかのところで、サードは闇の玉に押し込んでいった。
「ぐわぁぁぁぁ!!!!」
悪魔の叫び声が響きわたる。
血を流しながら叫んでいる悪魔は、何だかとても哀れに見えてきた。
「もういいでしょう」
クレイがサードの右手を押さえる。
「もう、これ以上やったって、何も変わりはしません」
「そうだぜ、サード」
トラップも前に進み出る。
「俺はこいつを助けるなんて賛成できねぇ、でもおまえが悪魔を殺すことは
それ以上に賛成できねぇことだ」
「わかった・・・・言うから助けてくれ・・・・・」
悪魔が苦しみながら立ち上がる。
「だから魂を返してくれ、そしたら教える」
サードは悪魔を見据えていたが、やがて魂を悪魔の方に投げた。
そして悪魔がそれを受け取るや否や、
「かかったなー!!!」
悪魔の目が血走り、残った左手には作り出された黒い玉があった。
「死ねぇぇぇぇーー!!!」
投げたその先にはサードとクレイ、そしてトラップが!!
だが玉はその三人に届く前に消滅した。
「馬鹿な!!!」
何度も何度も投げる、だが闇の玉が届くことはない。
「防御壁か!!?何故人間ごときの防御壁を俺は突き破れない、ましてさっきの魔法・・・・」
そこまで言った悪魔が後ろに一歩退く。
「まさか・・・・・・おまえは・・・・・・・」
その時悪魔がまた苦しみだした。
「があぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
今度は一体?サードさんも「何が起こった」みたいな顔をしている。
「すみません・・・・ガルハード様・・・・・おゆ・・・るし・・を」
そして膝を突き、静かに倒れた。
しばしの沈黙・・・・・・。
「死んだ・・・・・のか?」
ジュン・ケイがその沈黙を破った。
「あぁ、どうやらそうみたいだな」
「たぶん同じ悪魔に殺されたんでしょうね、サードが探す悪魔を言おうとしたから」
「おそらくその悪魔がこいつを殺したようだな」
めずらしくクレイが冴えたことを言う
「結局、聞き出せなかったか・・・・・・・・」
「残念だったデシね・・・・・・」
「うん・・・・とにかく・・・・・帰ろう」
私の言葉を最後に、その部屋にまた沈黙がおとずれた。
永遠の沈黙が。

(26)〜珍道中〜

「結局・・・・謎ばかりが残りましたねー」
「あぁ・・・・・」
キットンの言葉にクレイは曖昧な返事。
ここはシルバーリーフのみすず旅館、あの後、洞窟から出てここに帰ってきたのだ。
と一言で言い表せない事ばかりあった。
まず、サード(銀髪のままだが)が、「外で待っててくれ」と言い残し、洞窟へ。
小一時間経った頃に出てきた。
ワケを聞いても話してくれなかったが・・・・・・・・。(実は自分が倒した
スケルトンやゾンビを埋葬しに行ったとはまだ、だれも知らない)
ジュン・ケイと別れたんだけどね・・・・・・・。
んでだ、その後サバドの町で結婚式があったので立ち会った。
それがねー、珍しいんだよー。
何と、指輪の変わりに腕輪を交換していたからねー。
キットンの話によれば地方独特の文化があるから、他にイヤリングや
首輪、果ては足輪(?)を交換するところもあるそうだ。
一度見てみたいモノである。
まぁそんな珍道中の中で、私達が一番気になっていたモノ。
サードの事である。
その四枚の羽の悪魔は一体何なのか、そいつと昔、何があったのか、
何故私達と同行しているのか。
そして二重人格の理由。
三番目の質問は私がぶつけた。
最強の傭兵が何故私達みたいなヒヨッコパーティーと同行しているか
聞いてみたかったから・・・・・・。
答えはというと・・・・・「似ている・・・・からかな!?」だそうだ。
それ以上のことは言ってくれなかった。
二重人格の理由はキットン。
最初は私達もびっくりしていた。
まさかそんなことを聞くとは思っていなかったからだ。
キットンの話によれば、
「人間、二重人格にはそれなりの理由があるんです、例えば過去に
大きなショックを受けたとか、催眠術によって無理矢理押し込まれたとか・・・・・」
で、その答えは・・・・・。
「俺が話すべき事は話すがそうじゃないモノは話さない、こいつ本人に聞くことだ」

で、今は別室にいる。
どうやら私達と同行を続けるつもりらしい。
「そう言えば・・・・・クレイは」
いつの間にかクレイが消えていることに気付いた。
「おりょ?確かにさっきまでここにいたはずなんだけどなー」
トラップも気がついてなかったらしい。
「どうしたんだろう・・・・」
私達がクレイのことを思っていた頃、クレイは単身、サードの部屋の前に立っていた。

(27)〜クレイの決意〜

ノックの音がした
「入っていいですか?」
誠実な男の声が聞こえてきた。
「どうぞ」
ベットに腰掛け、刀を磨く手を止めて、銀髪のサード・フェズクラインがこたえた。
横にはすこし短めの刀もある。
ガチャッ
ドアが開き黒髪の男、クレイ・S・アンダーソンが入ってきた。
「何のようだ?」
また刀を磨き始めた。
「えぇ、ちょっと・・・・・」
曖昧にこたえ、ふと思い出したように、
「あのー、もう一人のサードはこの会話聞けるんですか?」
どっちが本物かなどクレイにはわからなかったが、こういっておけば大丈夫だろうと思った。
「ちょっとまってろ」
そういって目をつぶった。
「大丈夫だ、聞いている」
目を開け、そう言った。
「へぇー、わかるんですか?」
「まぁな、目をつぶれば会話もできる」
「凄いな・・・か」
「で、何のようだ?」
感心するクレイの言葉を遮り、サードが言葉を出す。
「えぇ、実は・・・・・・・」
ふと真顔になるクレイ。
サードもこれはなにかあるのだろうと刀を鞘に納めた。
「俺が代々騎士の家系ってのは知っているでしょう」
頷くサード。
「だから、将来は絶対騎士にって育てられてきたんですよ、実際兄貴達は
もう立派な騎士になっている」
無言でクレイを見つめるサード、その目がキラリと輝いた。
「俺もだから修行に出た。その途中で挫折しそうになったんだけど、パステルに
こう言われて立ち直りました」
一息つき
「『クレイはクレイでいい』って」
何も喋らないサード
「俺ってこの『クレイ』の名前に押しつぶされそうになってたんです、
この名前は元々俺の曾祖父『青の聖騎士』の名前なんです、知っていますよね?
でもパステルに言われて気付いたんです。俺は俺だ、誰とも違うんだって」
「まさかそんなことを言いに来たんじゃないだろうな」
サードが話を割る。
「まさか」
笑ってこたえたが、すぐに真顔に戻る。
「で、そう言われる前に、あのジュン・ケイに会ってたんですよ、彼は
誰のために戦うワケじゃなく、自分の限界を知るために傭兵をやってるって。
そういえば騎士と言えば誰かのために戦っているでしょう、国なら国、
王や王紀もあります」
それとなく頷くサード
「そうなると俺は誰のために戦うのかって思ったんですよ、兄貴達と
同じく国のために戦うか、それとも冒険しているうちに見つけた国や人
のために戦うか」
「だったらその答えを見つけたのか?」
「えぇ」
クレイが元気にこたえる。
「俺は・・・・・」
一息つき、一気に言う。
「俺は、俺のパーティー達の為に戦いたい、あいつらの守る騎士になるんだ」
しばらくの沈黙、お互い見つめ合っている。
「まったく、こんなに近くに答えがあったなんて・・・・・気付きませんでしたよ」
笑って言うクレイ、そこには今までになかった開放感みたいなものがあった。
「だからそのためには強くなければならない、以前ノルが一回死んだ時
みたいな思いはしたくないから、もちろん他の奴らにも」
ぐっと手に力を込めるクレイ
「で、俺に話した理由は?」
「だからそのために、大切な人たちを失わないために」
そこまで聞いたサードは思った。
・・・・・・・・似ている・・・・・・・・
「だからお願いです、俺に剣を教えて下さい」
いままで気付かなかったが腰にシドの剣を帯びていた。
無言で見つめるサード。
そして刀を大小二つ手に持ち、ドアに向かった。
・・・・・・・・ダメか・・・・・・・・
クレイの顔に諦めの色が出てくる。
「なにぼーっとやってんだ」
ふと顔を上げるクレイ、後ろを振り向くとドアを開けているサードの姿があった。
「おい、早く来い」
クレイの顔に希望がわいてくる。
「おまえに剣術の基礎からたたき込んでやるから。覚悟しとけ、いくら弱音を吐こうが
ビシビシいくからな」
「はい!!」
明るくこたえたクレイはサードの後をつづいた。

(28)〜訪問者〜

「ふぅー」
井戸からくんだ水で顔を洗い、私は溜息をついた。
「おい、パステル」
上の方から声をかけられた、振り向くとこんな早くに起きるハズのない
トラップの姿があった。
「あぁ、トラップ、丁度良かった」
そして二人同時に
「クレイ帰ってきてねーか?」
「クレイ帰ってきてない?」
同じ事を聞く二人の間に冬の風が吹く。
「やっぱりいないか」
頭をかきながらトラップが呟く。
そう、クレイはいまだに帰ってきていない。
あの後、小一時間くらい経って、流石におかしい、と感じた私達は宿屋の中を捜索した。
サードもいないことに気付いたんだけどね。
二人に何が!?とは思ったモノの、まぁもう寝る時間だと気付いた私達。
朝になれば帰ってくると思い、そのまま寝たものの・・・・・。
さっきの会話のような状態なんだ。
「おい、どうする?シルバーリーフ中探すか?」
やっぱり幼なじみだね、心配だから早起きしたんだろう。
「うん・・・・でも先に朝食を食べよう」
「そうだな」
珍しく素直なトラップが窓から姿を消したとき、私は宿屋の中に入った。

「結局帰ってきてませんか」
キットンが席に着きながら言う。
「くれぇーいないんかー?」
ルーミィーが聞いてくる。
「探すデシか?」
「うん、とりあえず朝御飯にしよう」
バタンッ
そう言ったとき、食堂のドアが開いた。
「サード!」
銀髪に黒のセーター、ジーンズといった服装のサードがドアを閉めながら歩いてきた。
「サード、クレイ、知らないか?」
ノルが聞いてみる。
「さぁね、北の森か、はたまたそこに行く道のところでくたばってるか、または・・・・」
そう言ったとき、サードの後ろから長身の男が入ってきた。
クレイだ!!
「クレイ、何処行ってたんだ!!」
トラップが詰め寄る。
「俺、疲れたから寝る」
心底疲れたような顔でそれだけ言ったクレイは階段に向かった。
「おい、クレイ!!」
その後ろをトラップが追う。
「へぇ、結構体力あるな」
サードがその後ろ姿に声をかけると、クレイは力無く手を振った。
それを笑いながら見ていたサードは、
「あーあ、腹減った、おばちゃん、メシ食わせてくれ」
そう言われたおかみさんは「はいはい」と言いながら調理場に歩き出した。
「ねぇ、一体何してたの?」
そういう私を「まぁまぁ」と抑えたサードは
「剣の修行してた」
「剣の修行!!?」
「そう」
「何で?」
「本人がしたいと言ったから」
「クレイがですか?」
「他に誰がいる?」
何ともリズムカルな会話だこと。
「クレイが剣の修行ですか・・・・・。そりゃまた何で?」
「本人がしたいと言ったから」
「だからその理由を・・・・・・」
私が詰め寄ると
「あいつから口止めされているんだよ、その理由を、だから俺は言わない
言ったら傭兵の信頼ってのが崩れるからねー」
そうサードが言ったか言わないか、いきなり廊下から乱暴な足音が聞こえてきた。
何だ何だとみんなが音の先を見る。
小太りで、前頭部に髪のない、背は私くらいのチョビ髭のおじさんが歩いてくる。
「あぁ、サードさんこんなところにいたんですか、探しましたよー」
その小太りの男が私達に近寄る。
「何だ、ジェームスか」
サードにジェームスと呼ばれた男、胸元から白い封筒を出し、
「新しい仕事です。そうですねー、一週間後にはここを発って下さい」
「ええぇぇぇぇーー!!!!」
私達の叫び声がみすず旅館に響いた。

(29)〜あばよ〜

「で、そのおっさんは?」
私達から事情を聞きいたトラップは信じられないといった表情でこちらに問いかけてきた。
「うん、この宿屋に泊まるっていってた」
「よぉし、そいつの所になぐり込みだ!!」
いきなり立ち上がると本当に行ってしまいそうなくらいの勢いでドアに近づいた。
「よせ」
サードがトラップの腕をつかむ。
「何でだよ、おまえがどっか行っちまうんだぞ!それを黙って見ていられるか!!」
「トラップ・・・・やめとけ・・・・」
ベットで寝ていたクレイが弱々しい声で止める。
「おい、クレイ。こんまま黙ってサードをどっかやっちまう気か?」
「そうじゃない、サードの意見を聞いてみようと言っているんだ」
「くっ・・・・・」
流石のトラップもクレイには逆らえない。
「ねぇ、サード。あなたはどうするの?」
「・・・・・・・このまま、その依頼主のところに行く」
静かにそう呟く。
それを聞いたトラップはサードの胸ぐらをつかみ
「何でだよ、おれたちをこのままほっといてどっか行くのか!?それほど
俺達はおまえにとって何ともねぇ存在か!!?」
「そうじゃない!!」
一瞬静まり返る部屋。
「誓ったんだ・・・・・昔・・・・」
トラップが手を離す。
「自分自身に、そして親友に、他にも・・・・・・・」
「その誓いってなんですか?」
キットンが聞く。
「前にも言っただろう、俺の口から言うべき事は言わないって・・・」
「だったら!!」
トラップの肩が震えている。
「だったら・・・・話せる状態になればいいんだ。おまえじゃなくて元の
サードだったら話せるんだろう・・・・・」
「そうよ、元のサードはどうなったの、いつ戻るの!!?」
私もサードの近くに駆け寄る。
「俺があいつに体を受け渡せばいい」
「それじゃあ」
「仕方ないな、あいつに戻してやるよ」
そう言うと、クレイが寝ているベットに腰をかけ、首の後ろに両手を回した。
何をやっているんだろう?そう思っていると手に何か握られていた。
先にクリスタルのついたペンダント。
クリスタルは六角形にさきの尖った綺麗な形をしていた。その上不思議な光を出していた。
それを握り直し、
「おまえ達とはもうサヨナラだな。あばよ」
そう言うと目をつぶった。
いきなり後ろに倒れ込む。
「いってぇー!!」
クレイの膝の上に倒れたもんだから、クレイの痛がること痛がること。
眠気も去ったみたいね。
「おい、サードが!!」
クレイが叫ぶ。
その当人、サードは・・・・・。
「あぁー、頭痛ぇー」
そう言って起きあがったサードに・・・。
「サード!!!」
私は夢中で飛びついた。
「うわぁぁぁぁ」
再び悲鳴を上げるクレイ。
理由は私に抱きつかれたサードがまたクレイの膝の上に倒れたワケ。
私を抱きとめられなかったサードは・・・・・・・。
茶色の髪に戻っていたのだ。

(30)〜サードの過去〜

「大体の状況は解っている、要するに俺の過去を聞きたいわけだろう?」
「ええ、そうです」
クレイが遠慮がちに言う。
「よくわかりますね」
「あぁ、二重人格といっても互いに存在を確かめ合っているワケだから
俺がこの体を支配している時はこいつは俺の目をとおして全てを見ていられる
逆もまた然りだ」
「で、それなんですよ、一番私が聞きたいところは」
キットンが本題に入った。目は見えないものの表情は真剣そのもの。
「何故二重人格何ですか?」
「わかった・・・・ある程度の事を話そう」
そう言うとクリスタルのペンダントを首に付けた。
黒いセーターの上でクリスタルが踊る。
「まずは自己紹介からだな」
えっ?何でそんなことをする必要が・・・・・・
「俺の名前はサード・フェズクライン。ジグレス二百三十四年六月四日生まれだ」
「へぇー、六月四日・・・・・・・・えぇ!!?」
「何だって!!?」
「ジグレス二百三十四年生まれ!!?」
「今って・・・・ジグレス四百三十八年だよな・・・・・」
「ってことは・・・・・・」
「サードは人間じゃないのか・・・」
最初はすっごく驚いていた私達だが、最後は何か意気消沈としてきた。
「そうだ」
短くそう答えるサード。その顔になにか寂しげなモノがあった。
「だったら何だ?エルフ・・・・耳は尖ってないよな?」
「ハーフエルフも違うだろうし・・・・・」
「その他の種族にも思い当たる節はありませんねー」
キットンがモンスターポケットミニ図鑑をめくりながら言う。
「一体何ですか?」
短く溜息をついたサードが消えるような声で言った。
「・・・・・・・・神獣だ・・・・・・・」
「なにっ!!?」
「!?」
「まさか!?」
「あわわわ・・・・」
それを聞いたクレイは横に置いてあったロングソードを構えた。
「嘘でしょう・・・・・そんな・・・・・・神獣だなんて・・・・・・・」
「本当だ・・・・・いや、正確に言うと少し違うがな・・・・・・・・」
サードが淡々と話し始めた、クレイも少し警戒の色がとれていった。
「おまえたち・・・・約二百年前の『神獣狩り』の事は学校で習っただろう」
「・・・・うん・・・・・」
「誰か習った内容を言ってくれ・・・・」
「では私が・・・・・」
キットンが遠慮がちに進み出た。
「神獣は友好な種族だとされてきていました。実際一緒に共存していましたからね。
ただその生体は不明で、寿命も不明。その姿は千差万別、世にも恐ろしい姿をしている
ものもいれば小さい昆虫程度の大きさのものもいますし・・・・もちろん
人間の姿をしたものも・・・・・・。そして事件がおきました
当時勢力拡大中だったロンザの重臣を五名殺害し、「危険だ」という
政府の命令で神獣一匹をとらえる事に莫大な賞金が得られるとか・・・・。
それが当時冒険者支援グループのない冒険者には格好の獲物だったんでしょうね。
そして、殺戮が始まりました。
捕らえられた神獣は合計で一万以上と言われています。
絶滅したと思われましたが、その後、それに関わったロンザの重臣、
十人が暗殺され、それが神獣の仕業と言われ、いまだに追われ続けている・・・・」
いつもの軽い調子と違い、厳かに言ったキットン。
それを聞き終わったサードは今度は長い溜息をついた。
「やっぱりそんなところだと思っていたよ、その事件の真相、教えてやろうか?」
どことなく怒りのこもった声でサードが言う。
「実はな、神獣は重臣を一人も殺しちゃいない、一方的に殺されただけなんだ」
「えぇーー!!」
「だったらなんで・・・・それまで仲良く共存してきているんでしょう?」
クレイが叫ぶ。
「誰かが噂を流したんだよ、『神獣の血を飲めば、永遠の命を得られる』ってね」
「つまり・・・・それを聞いた重臣達が国王に報告、永遠の命は人間にとって
最高の願いですからね、国王は目がくらんでありもしない事を流し、
『神獣狩り』を開始した。もちろん冒険者達が動くことを計算にいれてね」
「なっ、そんなことを・・・・」
「正解だよ、キットン」
サードが言う。
「そして俺のオヤジが殺された・・・・。そして、母までもが非難されたんだ・・・」
「非難!?殺されたんじゃなくて?」
「そう、俺の母は・・・・・・人間だったから」
「えぇーー!!」
今日は良く叫ぶがそれだって仕方がないことだと思う。
「俺は神獣と人間のハーフ、この世に二人といない新しい種族だ」
「なっ!?」
「そして、その悲しみと、怒りと、絶望の淵に沈んだ俺は・・・・もう一人の
人格をうんだ」
「それが・・・・もう一人のサード」
「あいつに支配された俺は、体の中で泣き、叫んだ。その感情があいつに
移って、そしてあいつは復讐をやった」
「おい、まてよ、その噂って本当なのか?」
「本当だよ、誰が流したかは知らないがな」
「まさか・・・・・」
「そう、ジェームズがその一人だ」
「そんな・・・・・」
「続きを話すぞ。そのまま俺達は殺戮を繰り返した。人間そのものが
憎かったからだ!そして・・・・・そんなときあいつに出会った」
そう言うサードの目は・・・・・数百年前の風景を映し出していた。

 1999年4月06日(火)13時02分39秒〜4月15日(木)19時04分03秒投稿の、PIECEさんの長編その3です。

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