こんこんっ。 誰かが扉をノックした。 「どなたですか?」 母上がベッドの上から尋ねる。 「・・・・ナレオです」 わたくしは母上の方をちらりと見る。 母上は微笑み、また扉の方に顔を向けた。 「どうぞ。入りなさい」 扉が開かれ、整った顔立ちの青年が入ってきた。 彼は扉を静かに閉めると一歩前に出て礼をした。 「許可なしの急な訪問の無礼をお許し下さい。どうしても王妃様に お話したいことがありましたので」 「いいのよ。この子と二人だけでちょうどさみしかったの。もっと 近くに来なさい。そこからでは話が聞こえないわ」 母上がそう言うとナレオは一礼をしてベッドの近く、わたくしの隣 まで来た。 改めて間近で見たナレオの姿は男らしく見えた。 昔はわたくしの方が背が高く、ナレオをまるで本当の弟のように思 っていた。それがいつの間にか背を抜かれ、わたくしの中で『弟』 ではない全く別の存在となっていたのだ。 「どうかいたしましたか?ミモザ王女」 ナレオが急にこちらに振り向いたので、ばっちり視線があってしま った。 わたくしは真っ赤になりつつ慌てて、 「い、いやなんでもないぞ!お主は母上に用があるのだろう?わた くしは下がっておるから、ゆっくり話をしてくれ。で、では母上。 わたくしはこれで」 急いでこの場から去ろうと後ろに振り向いたとき、手首を大きな手 でつかまれた。 「待って下さい、ミモザ王女!これから王妃様にお話しすることは 貴女にも聞いてもらいたいモノなのです!どうか、ここにいてもら えますか?」 「し、しかし・・・」 「ミモザ、ナレオがこうして言っているのだからお話を聞いてあげ なさいな。あなたにとって大切なことかもしれないでしょう?」 母上までが言うのだからしょうがない。 わたくしは心を落ち着かせてベッドのすぐ近くにあるイスに座った。 「・・・・・それでナレオ。聞いてもらいたい話とは何なのだ?」 「はい。いきなりなんですがこちらにいるミモザ王女を花嫁として わたしにもらえないでしょうか?」 ・・・・・・。 母上は口に手をあてて驚いた顔をし、わたくしは頭の中が真っ白に なっていた。 しばらくしてそのうち恥ずかしいようなうれしいようななんとも言 い表しがたい気持ちが心を支配した。 「あの−王妃様とミモザ王女?大丈夫ですか?」 「はっ!いかん、わたくしとしたことが・・・・。ナレオよ、冗談 を言うな。それともまた、お主の父に何かを言われその様なことを 言い出したのか?!」 「・・・・確かに今回の継承者争いの件では父の勝手な思惑に情け なくも振り回されてしまい、貴女方に大変ご迷惑をおかけしてしま いました」 「そうじゃ!!それなのにまた性懲りもなく、王位を狙っておるの か?それも今度はわたくしとの結婚という方法で!!」 違う!本当はこんなことを言いたいわけではないのだ! 不安なのだ。継承者争いの件の時、ナレオはわたくしに相談もして はくれなかった。事件が解決してもそのことについては何も話さな い。ナレオの気持ちがわからないままでいる。はっきりと知りたい。 答えをちゃんと教えて欲しいだけ・・・・・。 突然ぐいっと引き寄せられ、抱きしめられる。 「な、何をする!!無礼者!!!はなさぬかっ!」 「ミモザ王女・・・。貴女が私を信じられないのも当たり前です。 でも、これだけは本当のことなのです。貴女と結婚したいと言った のは父に言われたからではありません。王位なんていらない。わた しは貴女のことが好きだから言ったのです。私自身の言葉なんです」 涙がぼろぼろでてしまった。やっとナレオの気持ちが確かめられた のがとてもうれしかった。 「わたしは貴女がご存じのように自分の気持ちをあまり言わない人 間です。そのため貴女を不用意に困らせてしまうでしょう。そんな 人間と一緒になるのはやっぱり嫌でしょうか?」 (そんなことはない)と言おうとしたが、声にならなかった。 ナレオが困った顔をしている。 「ナレオ、ミモザは普段はとても正直な子なの。だけどあなたの前 だとどうしてもだめなようね。それでもいいのかしら?」 「母上・・・」 「はい。わたしが愛しているのはそんなミモザ王女なのですから」 母上はとてもうれしそうに頷いてわたしの方を見た。 「さあ、ミモザ!明日から大変よ?結婚式に向けていろいろやらな くっちゃいけないんですもの!」
1998年4月04日(土)14時07分02秒投稿の、瑞希 亮さんの新5巻予想ショートです。