カランカラン。 ドアベルが鳴り、ガチャという音がして入り口の扉が開かれる。 太陽は沈み、エベリンに夜の闇が訪れる頃。 マリ−ナは古服の整理に追われていた。3月になって気候がだんだん暖かくな ってきたため、商品の衣替えをしているのだ。 そして新しく店に出す商品につけるための値札を書いていたとき、ドアが開く 音を聞いた。 「あの−、すいません。もう閉店時間を過ぎちゃったんですけど・・・」 そう言いながら床に散らばっている古服を踏まないように、入り口にいる人物 に近づく。 そこにいた意外な人物にマリ−ナは少し驚いた。 「ギアじゃない!!どうしたの、一体?」 ギアと呼ばれた細身の魔法戦士はマリ−ナの姿を見つけ、 「特に用事はないんだ。しかし、凄い量の古服だな。足の踏み場がない」 「まぁね。毎年この季節になるとこうなっちゃうのよ。あ、こんなとこで立ち話 もなんだから、奥でゆっくり話しましょ。冷えたビ−ルでも飲む?」 「ああ。じゃあビ−ルじゃなくて、熱いコ−ヒ−にしてくれないか?」 「熱いコ−ヒ−?ギアがコ−ヒ−飲むのってなんか意外ね」 「普段はあまり飲まない。今、ちょっとあることを思い出してたら飲みたくなっ たんだ」 何かを思い出し、苦笑するギアにマリ−ナは不思議そうな顔をしたが、何も聞 かずに店の奥へ案内した。 「あの事件が解決して、パステル達がシルバ−リ−ブに戻ってからもう一ヶ月も たっちゃったんだね・・・」 マリ−ナは冷たいコ−ヒ−を一口飲んで、静かに微笑みながら言った。 マリ−ナにとって一ヶ月前のことは懐かしく、そしてまるで昨日のことのよう に思えた。 きっと、自分の前に座って熱いコ−ヒ−を飲んでいるギアにとっても印象深い 思い出だろう。いや、彼の場合、自分なんかよりももっと深い想いを抱いている に違いない。 「ねぇ、ギア」 「なんだ?」 「今頃パステルたちは何をやっているのかしら?」 突然の質問にギアはしばし目を瞑って考え、ゆっくりと目を開きカップを置い た。 「・・・そうだな。普通に考えるなら、どこかで新しいクエストに挑戦している はずだろう」 「普通に考えなかったら?」 「シルバ−リ−ブでのんびりやっているんじゃないか?」 マリ−ナが「何故そう思うの?」と聞くと、 「彼らには典型的な冒険者という感じがしない。冒険者の集まり、と言うよりも 家族と言っていい。そう思ったからだ」 「あのパ−ティは大人のあなたから見たら、子どもの集まりに見えるんでしょう ね」 お人好しで、おっちょこちょいで、それでも一生懸命な冒険者たち。つい面倒 を見てあげたくなってしまうようなパ−ティだ。彼らを見ていると、本当に羨ま しく感じた。 「子どもでもあるけど、大人でもあるパ−ティだと思うよ」 「・・・・・・」 ギアはコ−ヒ−を一口飲んでから、言葉を続けた。 「子どもと大人が全く別のモノだとは俺は思わない。『子ども』は『大人』の一 部分だ。そして『大人』は『子ども』の一部分でもある。『大人』も『子ども』 も似た者どうしなんだ。どこにも『大人』と『子ども』の境界線なんてない」 ギアの言葉はマリ−ナにとって意外なモノだった。そして何故か、嬉しくも感 じられた。 「・・・ギア、あなた変わったわ」 「俺もそう思う。彼らの、パステルたちの影響なんだろうな」 「ええ・・・。ギアが言ったとおり、パステルたちはきっとゆっくり、のんびり と時を過ごしているんでしょうね」 マリ−ナはシルバ−リ−ブにいる最高に幸せなパ−ティのことを思い、そのパ −ティに出会えた自分がとても幸せな存在に思えた。
1998年5月30日(土)15時23分39秒投稿の、瑞希 亮さんの新5巻予想ショートです。