鉄格子がはめ込まれた四角い窓からは、弱々しい月と星の光がこの部屋に降り 注いでいた。 よほど疲れていたのだろう、彼女はおれの肩に寄り添ってぐっすり眠ってい る。 誘拐され監禁されてもこうして眠ることができるのは彼女の前向きな性格のた め、と言ったらちょっと怪しいかも知れないが、おれは彼女のそう言うところも 好きだった。 「彼の言ってたとおりだな」 彼女は文句を言っていたが、彼は彼なりに彼女を信頼して認めているのが彼の 言葉から分かった。仲間としてか、それともまた別の存在としてか・・・ 「仲間、か・・・懐かしいな」 ゆっくり、目を瞑ってみる。 昨日のことのような、遠い日々のことが思い出された。 思い出した記憶の一欠片はクエストに挑戦中とか、戦闘中とか特別印象深い物 ではなかった。いつもクエストから帰ってくると行った酒場で、仲間同士が飲み 合う何の変哲もない、いつもなら他の記憶達で隠れてしまっているような場面だ った。 その頃はまだマイトやバイルやゾファ−がいて、おれの隣りではサニ−・デイ ズが笑っていた。これからもずっと笑っていてくれると心から信じていた、あの 頃・・・。 そこで何を話していたのか、忘れてしまっていた。別に大したことではなかっ たと思う。相変わらず酒癖の悪いマイトをおれとバイルが相手して、おれ達がマ イトを抑えるのに悪戦苦闘している姿をサニ−・デイズは明るく笑い、ゾファ− は静かに笑って見ていた。 彼らはおれにとってもう一つの家族だった。長く旅を共にしてきたためか、い て当たり前の存在だった。 おれはまたゆっくりと目を開けた。 昔は彼らを思い出す度、涙がでてきていたが今はもうそんなことはなかった。 「それほどあれから長い時間が過ぎ去っていったということか・・・」 思い出したくないから、忘れていたいから無我夢中で生きてきた。独りで。 でも、もうそろそろいいのかも知れない。 いつかまた失ってしまうのではないか、という不安もある。 だけど、不安に怯える暇があるのなら今度こそ失わないよう、しっかり守って いればいい。 何かが吹っ切れたような気がした。 「・・・マイト、バイル、ゾファ−、サニ−・デイズ。やっと、訪れることがで きるんだ」 あれ以来訪れることのなかった彼らが眠る場所に、かつての仲間の前に。 ・fin・
1998年06月29日(月)04時37分35秒投稿の、瑞希 亮さんのオリジナルショートです。