「わたしだったら大丈夫よ?」 窓際で満天の星空を見上げる兄の背中は妹の言葉に動揺した。 「あそこに戻りたいんでしょう?兄さん」 妹は知っていた。兄の心が求めている安らぎの場を。 そして兄が自分を心配してここに残ってくれていることも。 「でも、おれ…。まだ、もうちょっと、ここに、いる」 「兄さん」 兄さんは優しい。あの事件の後、再びここ、エンチラ−ダを訪ねてきてから 兄は色々やってくれた。新しく来た教徒の為の家造りや畑での農作業など、自 分から進んで教徒達を手伝ってくれている。だけど… 「あの人達は兄さんを家族のように思っています。本当に血の繋がっているわ たしと同じくらい、いいえ、それ以上だと思います」 兄はちょっと困った顔をしていた。妹が伝えようとしていることが分かって いるからだ。 そんな優しい兄の顔をしっかりと見つめ、妹は一通の手紙を兄の前に差し出 した。 「今日、兄さん宛に手紙が届きました」 兄はその手紙を受け取り、差出人の名を見た。そしてその名に驚き、急いで 中の内容を読む。 「これは…」 「仲間の1人が困っているのをそのままにするの?兄さん、行ってあげて。そ の手紙の差出人、キットンさんも兄さんの大事な『家族』なんでしょう?」 「メル…」 兄は目を瞑り、自分が一度死んで生き返ったときのことを思い出した。 あの時、自分にはこの目の前にいる妹の他にも『家族』がいるのだ、と心か ら実感した。血が繋がっていなくとも『家族』と呼べる存在があるのだと。 再び開かれた兄の目には限りない優しさと、妹に対する感謝の色があった。 「おれ、ド−マに行く。クレイたち、そこにいるから。それでキットン、助け る」 妹は、兄の言葉に満足した微笑みを見せる。決して寂しさは見せない。 「いいのよ、兄さん。今度は誰かのためでなく、自分のために、自分の意志で あの人達と一緒に旅をしてきて。そんな兄さんを、わたし、誇りに思うわ」 次の日、兄はもう一つの『家族』のもとへ、冬のド−マへと旅立った。
1999年7月04日(土)16時43分10秒投稿の、瑞希 亮さんのオリジナルショートです。