リミーク −時、君色に染まる−

第1章

「…もう‥君と離れたくない。…永遠の愛を誓うよ…パステル。」

 あれから、もう2年近くの日々が過ぎようとしている。
 わたしパステルはミモザ王女の件以来、単独行動をしているの。パーティのみんなと
離れてからの長い年月はわたしを大きく変えてくれた。
 17歳だったわたしも今年で19歳をむかえる。
 前よりも少し大人になったかな…(自分ではそう思ってる)
 本当は早くみんなと会いたくてうずうずしてたのを我慢して、自分を磨く努力をしてきた。
 みんなといて、足手まといと思わないようにするために。
 でも、それも今日でお終い。
 明日、みんなと会えるんだから!
「ギア! 来てくれたの!?」
 会う場所はどこにしようと迷ったけど、やっぱりわたしたちのいつもの場所。
 いつもお世話にになってたみすず旅館。
 約束の時間より30分早く着いたわたしを迎えてくれたのは、ギアだった。
「久しぶりだな、パステル。…随分会わないうちに綺麗になったな。」
「そんなことないよぉ! …でも前よりは大人のつもりよ。」
 そう言ったわたしの言葉に笑うギア。
 ギアにもあれ以来会っていなかった。
 前よりもなんだか柔らかい印象をうける。一段とカッコよくもなってて、ちょっぴりドキッと
してしまった。
 離れているとまた新たなところを見れるのかもしれない。
「そろそろクレイ達も来るはずなんだが…オレは手紙を貰ったからここに来たんだ。あれ
からずっと会わずじまいだったから、どうしても会いたくなってクエストも早く終わらせた。
…最初にパステルに会えて嬉しいよ。」
 ギアの目がわたしに向く。
 なんだか恥ずかしくてわたしはすぐ下を向いてしまったけど、その反応でもギアには
嬉しかったみたい。
 ギィィ
 みすず旅館のドアが開かれる。
 最初に見えたのは衣装におとらずのハデな赤がかった茶色の髪。そのあとなつかしい
顔がひょこり現れた。
「パステル!!」
 わたしを見るなり大きく目を見開いちゃって…。
「ぱーるぅ! ぱーるぅだお!!」
 キレイなブルーアイのルーミィはバタバタと駆け寄ってきた。
「ルーミィ!!」
 力いっぱいに抱きしめる。
「会いたかったよ、ルーミィ。病気とかしなかった?」
「るーみぃだいじょうぶだったよお。」
 その元気な声。なんだかホッとさせてくれる。
「パステルも元気そうで安心したよ。」
 ルーミィの後ろで和やかに見ていたクレイ。
「クレイ! ……なんだか変わってる!!」
「えっ!? そうかな?」
「うん! なんか大人っぽくなってる。」
 改めてみんなを見る。
 やっぱり2年もたつと変わってるんだというのを確信させられる。
 みんなから見るとわたしも変わっているのかな?

第2章

「見つけた…やっと見つけたよ、パステル。すぐ…君に会いに来るよ…やっと会える」

 約2年ぶりにみんなと会ったわたしは喜びでいっぱい。
 それにみんなの顔を見たら少し泣いちゃったんだ…でもみんなには…内緒!
「クレイにトラップも背伸びたんだね。前よりも差つけられちゃったなぁ。」
 そう2年前よりも2人共すうだんカッコよくなってて見違えてしまいそう。
「…でも一番はやっぱりルーミィだよな。」
 ルーミィの頭をポンッと叩くクレイ。そう、今回一番成長していたのはルーミィ。顔はまだ
あどけないけど、背がなんと10センチも伸びていたの!
 これにはわたしもビックリしてしまった。
「るーみぃ大きくなったんだよぉ! ぱーるぅも大きくなったぁ?」
 話し方も前よりも子供さが抜けてて見かけだと7歳くらいの女の子みたい。
「うん! これでも少し伸びたんだよ。」
 わたしはエッヘンとしているとトラップはわたしの顔の下あたりを見ている。
「…何、 トラップ? ジロジロ見て。」
「…身長は伸びたかもしんねーけどよ…大切なトコが大きくなってねぇんじゃねぇの?」
 と、わたしの胸を指さし言った。
 バッシーン!!
 いい音が辺りに響く。
「…イッテーッ、なにすんだよパステル!」
「何よ! そっちが失礼なこと言うからじゃない!!」
「まぁまぁ、それぐらいにしとけよ2人共。」
 いつもの2人のやりとりとでもいうのかな?
 緊張はほどけたけど…やっぱ傷つくよなぁ。そりゃ、努力はしましたよ。したけど…大き
くならなかったんだもん!
「でも大人っぽくなってるよな。オレ、見たとき驚いたし。」
「えっ!? そう、クレイ?」
「あぁ、なぁ トラップ?」
「…まぁな。」
 ちょっとそっ気ないけど…嬉しい!
 今のわたしにとっては誉め言葉よね。
「積もる話は後にして、まずは腹ごしらえにしないか?」
「そうだな。」
 そう言うと、ギアがドアを開ける。
「レディーファーストで。パステル、ほら。」
 なんて、うやうやしくするんだもん!
「えぇっ、いいよぉ!」
「そんなこと言わないで。」
 と、手を引かれる。
 …なんだかみんな紳士的。もしかして、わたしを一人の女性として見てくれてるのかな?
 わたしはドアを出ると、何かにぶつかってしまった。
「…いったーい!」
 うぅっ 尻もちをついてしまった。
「ごめん! 大丈夫かい?」
 私の目の前に手が差し出される。いちおうその手に握り起きあがるとその人は私を見る
なり抱きついてきた。
「 !!  」
 ひぇーっ!! なに? 何なの?
「あのっ!? ちょっと!!」
「…やっと会えたよ、パステル!」
 へっ? 何でわたしの名前を知ってるの?
 この人はいったい誰なのー!!!

第3章

「僕の旅もこれでおわる……愛しい君を見つけたから」

 いきなり知らない人に抱きつかれてしまった、わたし。
 もうパニック状態。
「あ、あのー、放してくれませんか?」
 口ごもる様に言うとその人はより強く抱きつく。
「何を言っているんだい? 僕が抱きしめる度に君は喜んでくれたじゃないか。」
 わたしが喜んでた?
 そうだっけ? …って、会ったことないのにそんな事言うわけないじゃない!
「…とにかく放してください!」
 強引に離れると後ろにいたギアに腕を引っ張られた。
 そうだ! 忘れてた!!
 みんなの前で抱きつかれたんだよぉ! ひゃあ〜 恥ずかしい!!
「おまえは誰だ?」
 ギアがその人をにらみつける。
 けれどもその人のほうは、にこにこしながらあっさりと答えた。
「僕はパステルと結婚を約束した仲なんですよ。」
 えっ! 結婚!? わたしが??
 混乱しているわたしにクレイ達が難しい顔で聞いてくる。
「おい、パステル本当なのか?」
「そんなもん聞いたことないぜ!」
「パステルにもいたんですねぇ。」
「2年近く離れてた。相手がいてもおかしくない。」
「そうですね。パステルも女性ですしね。」
「男の一人もいなかったのがおかしかったってか?」
「そうかぁ。そうだよな、慌てることなんかないよな。」
 ちょ、ちょっと少しは疑う事を知らないわけ?
 それにキットンの『女性ですし』っての失礼じゃない!
 そんなことを考えながらもわたしの口は勝手に開いていた。
「知らない人よ! 名前だって知らないんだから!!」
 なんだか叫ぶ感じになってしまって、みんな驚いたみたい。
 でも、本当の事だもんね。いったいこの人…誰なの?

第4章

「離れない…僕は君から離れない…離さないよ、パステル」

 彼が一体何者なのかは分からないけど、わたしの名前を知っていたり結婚を約束した
仲だと言うし、ほっとくわけにもいかず宿屋の奥で話をすることになった。
「…あの〜、お名前聞いてもいいですか?」
 わたしは彼にそう聞くと、しょんぼりした様な顔をした。
「パステルは覚えていないんだね…無理もないかもしれないけど。僕の名前はダスト。
ダスト・ラノムスっていうんだ。」
 なんかどこかで聞いたことのあるような…。
 まぁ、気のせいだとは思うけど。
「そのダストさんがパステルと結婚の約束を本当にしたのか?」
 機嫌悪そうにトラップが聞いてるんだけど、その彼はわたしのほうをじっと見つめてて
話を聞いてない。
 うぅ〜、なんか情熱的な目で見つめられてるよぉ!
 少しドキドキ。
「ダストさん!!」
 大きな声で呼んだクレイにやっと彼は気づいたらしく目を違うほうに向けた。
 はぁ〜、なんか呪縛からとかれたみたい。
「…あぁ、僕とパステルが結婚の約束をしたのは、今から300年近く前かな。」
 えっ??
 …さ、さ…300年!?
「んな、バカなことあるわけねぇだろ! パステルはまだ19だぜ。生きてるはずねーじゃ
ねぇか! なぁ、クレイ?」
「あぁ…あのダストさん。本当に300年も前に?」
「えぇ、もちろん。」
 にっこり笑って答える彼。
 わたしにも何がなんだか分からなくなってきた。
 300年前にわたしと結婚の約束をしたなんて…普通…できないよね。
「生まれ変わってきたんですよ。僕もパステルも。」
「生まれ変わった?」
「そう、パステル…君と僕は300年前、恋に落ちた。許されぬ恋だと知っていたけど止める
ことはできなかったんだ。君が他国の王子と結婚するときに約束した。『今度、生まれ
変わったときは結婚しよう』…と。」
 わたし…この人と恋に落ちたの!?
「…だったら何故あなたは覚えていて、わたしは覚えていないの?」
「分からない。ただ僕は頭の奥に君の顔と名前を覚えていた。それから昔のことも思い
出したんだ。…だからこうやって迎えにきたんだよ。」
 わたしの昔のことなの?
 本当にわたしは彼と恋をしたの?
 300年前……わたしは生まれ変わり。
 また彼と恋に落ちるの? 分からないことだらけ…。

第5章

「君の記憶の中に…もう僕は存在しないのだろうか。愛しい君の心の中には…」

 混乱しているパステルをよそに、他のみんなはいきなり現れたダストのほうに目がいき、
それぞれいろんな思いがあった。
 クレイはもっと詳しい話を聞かなければと思っている。
 トラップは厄介な奴が現れやがって! と彼を見ていて、キットンは前世の記憶を持って
いるダストに興味をもった。
 ノルはパステルを心配し、ルーミィとシロちゃんはダストに話しかけ、ギアの胸の奥には
嫉妬らしきものがわき上がってきていた。
「あの、ダストさん。もっと詳しいことを聞かせてくれませんか?」
 ルーミィたちと話していたダストは
「いいですよ」
 そう言って、話し始めようとしたがそこにトラップが口をはさんだ。
「となりの部屋で話そうぜ。…今のパステルには荷が重すぎるからな」
 トラップは立ち上がりとなりのドアを開け、みんな入れと合図する。
 最後に入ろうとしていたギアは1人パステルと置いておくのを心配したが
「こんなときは1人にしたほうがいーんだよ」
 そうトラップに言われ、ゆっくりと入っていった。
 1人だけ部屋に残されたパステル。
 でもそんなことは全然気にならなかった。逆に1人になりたかったから…トラップがみんな
をとなりに連れていってくれたのは有り難かった。
「……わたし、どうしたんだろう」
 話をきいてから脳裏に何か姿らしきものが見え始めていた。
 人の形が2つ。ここは…草原だろうか? 遠くに街がが見えている。
 近づいてくる人の顔が少しずつ見えてきた。
「…!!」
 その顔が分かったとともにパステルの前世の記憶は開かれていった。
 となりの部屋へ移動した者達は、そのころダストの話を聞いている。
「その時代の僕たちは身分相応の相手としか恋愛ができなくてね、それはちゃんと知って
いたんだ。僕の身分はただの平民でパステルの身分は由緒正しき貴族のお嬢さんだった
から許されるはずもない恋だったんだ。…それでも僕らは愛し合っていった。会うときは
いつも街から少し離れた草原で時間を過ごして……何も贈り物ができない僕に彼女は
いつだって言ってくれていた。『あなたさえいれば…』 と。そんな彼女を愛せて嬉しかった
よ。喜びさえ感じていた」
 懐かしそうに語るダスト。
 遠い日を見るかのように話していく。
「でも彼女が結婚をしなくてはならない時期がきたとき、僕らは引き裂かれてしまった」
「…偽装結婚か」
 ギアが不愉快そうに言う。
 ダストも口を重くした。
「その通りだ。どこかの貴族の男との縁談が持ち上がり、パステルは外へでれなくなって
しまい会うことができなくなった。でも、僕は屋敷の前まで毎日のように足を運んだ。
会えることを信じて…けれど皮肉だね。そんなに日はたたないうちにパステルの結婚の
日は決まった。」
 まだダストの話が続こうとしたのをドアの音がさえぎった。
 となりの部屋にいたパステルが入ってきたのだ。
 そのパステルからこんな言葉が出た。
「もしかして…明日じゃなかったかしら? ……結婚した日は」

第6章

「君のことを考えるだけで、僕の胸は張り裂けそうだ。…心が君を求めている」

 前世のパステルが結婚した日は、明日?
 その疑問をダストからではなく、となりの部屋にいたパステルの口から聞くことになった。
「…思い出したんだね、パステル」
 ドアの横に立ったままのパステルにダストが手を差し伸べる。
 うやうやしくその手を取ると、優しい目で話しかけた。
「えぇ、あなたと恋人であったことも…明日が無理矢理に結婚させられそうになった日で
あったことも思い出した」
 久しぶりに逢った恋した人。
 パステルは迷いや動揺はなく、晴れた日の海のように静かである。
 でも、何も感じていなかった。
 目の前にいるのは愛していた人。だけど、自分の胸は何も反応しない。ドキドキしない。
 ダストを懐かしい目で見ているだけである。
 それに気づいたのか分からないがトラップは、外へと出るドアに手をかけた。
「今は2人だけにしとこーぜ」
 そう言って出ていく。
 重い足を動かすかのように、みんな出ていこうとするときにルーミィが1人ですねている。
「ぱーるぅといっしょにいるんらもん」
「パステル、大事な話。オレとあっちで遊ぼう」
「ボクもルーミィしゃんと遊ぶデシ」
 イスに座り続けているルーミィを肩に乗せ、ノルは外へと出ていった。
 他のみんなは無言で出ていく。
 部屋に残されたのはパステルとダストの2人だけ。
 静かな空間が流れる。
 ダストにとっては夢でいつも見ていた時間。
 先に口を開いたのはパステルであった。
「…ダスト、逢えたのは嬉しいけど…これ以上、何も望まないで欲しい」
「……どう意味だい、パステル?」
「このまま、帰ってほしいの」
 記憶が戻ったパステルから言われた言葉。
 愛する人から「帰ってほしい」と言われたダストの心は一気に暗くなった。
「……どうして? やっと逢えたのに」
 答えないパステル。
 ダストの頭の中はいろんな考えが渦巻いている。
「あの男たちか……」
「‥えっ?」
「…あの男たちが君を放さないでいるんだね。それなら言ってくれなきゃ。僕が今すぐに
あいつらから引き離してあげるよ」
「ちょ、ちょっとダスト!」
 パステルの声は届かずダストは外へと飛び出していった。
「…何をするつもりなの……ダスト?」
 ここで何が何でもダストを止めておくべきだったと後で後悔することになるのだった。

 1998年9月28日(月)18時30分45秒〜1999年1月23日(土)14時00分47秒投稿の、みすなさんの新5巻予想小説です。まだ継続中です。

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