（４１） ヒュー…‥ドーン 城の後ろから盛大な花火が打ち上げられて、いよいよという感じ。 わたしは…というと用意されていた服に着替えると外に出ていた。 「パステル！」 後ろからシニアがかわいいブーケを持ってきている。 「どうしたの、これ？」 「かわいいでしょ。アロウの花嫁になる人にプレゼントしようと思って昨日の晩に作った のよ。」 そのブーケは白とピンクの花がまとめられているやつ。 「わたしもこんなの欲しいなぁ。でもいつになるやら。」 「…あら、案外すぐかもしれないじゃない。」 「そんなことないよぉ、だってまだ結婚するような年じゃないし。それに相手がいないん だから。」 「………すぐ近くにいるのになぁ。」 「 え！？ 何か言った？」 「ううん、何でもない。それよりそろそろ会場に行ったほうがいいかもしれないわ。もうすぐ 始まるんじゃないかしら。」 「そっかぁ、そんなに時間ないんだっけ。」 「ほら、行きましょ。パステル。」 「うん！」 わたしたち２人は大きな城に設置された会場へと行った。
（４２） 会場へと行ってみるとびっくり！！ 観客がいっぱいいる。 「ねぇ、これってどういうこと？」 「…あっちゃ〜 また国王の提案でしょうね。客も入れて盛大にやろうとでも言ったんでしょ うねぇ。」 「でも、この中でやるのは恥ずかしいわねぇ。」 後ろからひょっこりと現れたマリーナはクレイたちと一緒にいた。 「パステル、がんばれよ。大丈夫だよそんなに緊張しなくても。」 「パステル 大丈夫 オレ 応援する。」 クレイとノルはしきりに緊張してきてるわたしに声をかけてくれるのよね。 パーティーの中にこんな人がいてくれて良かったかも。 だってあとがねぇ…。 「パステル、あめぇにうちのパーティーの家計はかかってんだからな。」 「そうですよ、ここで稼いでもらわなきゃ。」 まったくこの２人は、お金のことしか言わないんだから。 でもたしかに家計がかかってるのはたしかなのよね、とほほ…。 「ぱーるぅ、がんばるおぅ。」 「がんばるデシ、パステルおねーしゃん。」 この２人（１人と一匹）にこう言われるとがんばれる気がする。 「がんばるね、絶対お金を貰ってくる！！」 意気込んでわたしはみんなに言ってしまった。 「じゃ、行きましょうか。」 わたしたちは会場の中央へと入って行った。
（４３） 沢山の人たちの見ている中でわたしたち花嫁候補は舞台の中央に立っている。 みんなの視線がチクチクと刺さる気がするなぁ。 あ〜 早く始まらないかな。 「えー 皆様お静かに。これより王子の花嫁を決めるための開会式を行いたいと おもいます。では、国王から挨拶がございます。」 よっこらしょっとイスから立ち上がり観衆の前に国王は立った。 「皆の者、ここに次期国王の花嫁候補１５人が立っている。これからのパレオを引っ張って いく王子の大事なことだ。盛大に始めたい、そう思いこうやって街の者たちを集め開会式 を行えたこと嬉しく思う。これから数日かけて城で花嫁を決めることになり、今度皆の者 の前に立つときは花嫁を紹介することが出きるだろう。その日まで楽しみに待っていて くれ。今日は集まってくれたことに感謝する。」 国王が言い終わると観客のほうから拍手が起こっている。 １人１人の紹介はないらしいので、短くすんだ。 試験を受けていくのは明日からみたい。 でも、今からでも緊張するなぁ。 シニアの話だと、かなり変わったことをさせられるかもしれないと言っていたし。 国王は変わり者らしいから、検討がつかないみたい。 それなりに、何かやっとおいた方がいいのかなぁ。 なんかこう、冒険者みたいなモノならいいんだけど。 そんな調子のいい話はないもんね。 庭をブラブラと歩いていると、木々に水をまいているメイドさんを見つけた。 あれ！？ たしかあの人はぶつかった子だよね。 うーん、ちょっと話しかけてみようかな。
（４４） 「あの〜…‥。」 後ろから声をかけると彼女は驚いたみたいで「ひゃぁ！！」という声を出してしまった。 ちょっと苦笑いで謝る。 「ご ごめんなさい。そんなにびっくりさせるつもりは、なかったんだけど…。」 彼女は驚いた拍子に服に水がかかったの絞っている。 すると、笑って 「いいんですよ、全然気にしませんから。それより水かかりませんでした？」 「ううん 全然かかってないよ。」 「ほっ、良かった。お客様にそんな失礼なことしたら怒られちゃいますから。」 水が出っぱなしのホースを止め、彼女はにっこり笑っている。 「アロウ王子の花嫁候補のお一人の方ですよね。昨日のパーティーの自己紹介のとき わたしもメイドとしてあの中にいたんですよ。えっと…たしか…。」 「パステル・Ｇ・キング。パステルでいいよ。あなたの名前も聞かせてくれる？」 「…セティといいます。」 なんか黙り込んじゃった。 「どうしたの セティ？」 「…本当の名前じゃないんです。わたし拾われた子だから…。」 「 えっ？」 「この近くの森に捨てられていたのを今の国王様が拾ってくださって、それからここの メイドとして働くようになったんですよ。」 そう言って笑ってる。 「…シニアが…あっ、シニアっていうのはわたしの仲間で花嫁候補の１人なんだけど…。」 「知ってますよ、シニアさんのことは。昔よく城に来てましたから。」 「そうなんだ。そのシニアが言ってことなんだけど、あなたのことを「キャットラル」の種族 だって言ってたの。」 「…ええ、それも知ってますよ。子供の頃からこの耳は目立ってましたから。」 耳を引っ張っている。 そして今度はそれを強く引っ張った。 「どうしたの！？そんなに強く引っ張ったらちぎれちゃうよ！！」 「いいんです！！ これさえなけえば…わたし…。」 まだ引っ張っている彼女をわたしは止めた。 彼女の頬には涙が流れてる。 優しく包み込むようにしてわたしは彼女に聞くことにした。 「…セティ。聞かせて、何があったの？」
（４５） 「ねっ！ わたしに話してみて。」 泣いているセティにハンカチで涙を拭いてあげる。 まだ年としては、１３〜１４歳くらいなのに辛いことを受けたみたい。 「……アロウ王子様から『好きだ』って言われたんです。」 えぇっ！？ じゃあ アロウが告白した人ってセティ！！ 「ど どうして断ったの？」 「パ パステルさんがなぜ知ってるんですか？？」 うひゃ〜 墓穴を掘っちゃった。 「あ〜 う〜ん とそれは……この際だからはっきり言うけど、アロウに相談を受けたのよ。 女性の方は男に告白されて、どう思うかって。その時に告白した女性がいるって聞いた のよ。……その女性ってセティだったのね。」 セティは顔を、か〜っと真っ赤にさせた。 「でも その時セティは涙を流して走り去ったって聞いたんだけど…どうして？」 「ほ 本当はうれしかったんです。でも…わたし人間じゃないから…。」 「そんな！ 種族とか関係ないよ！！」 「で でも。王子の花嫁の耳がこんな猫の耳をしてるなんて…絶対に反対されます。 だから…あの時そのまま走っていったんです。」 「………ねぇ、セティ。アロウのこと好き？」 彼女はもじもじさせながら言う。 「……はい。」 「じゃあ、問題ないじゃない！ その気持ちだけでもアロウに伝えとかなきゃ。アロウは すっごく悩んでるわ。どうして涙を流していたのか。 ねっ！ 今からでも行って気持ちを 伝えましょ。」 わたしからスムーズにこんな言葉が出るなんて思いもしなかった。 なぜだろう？ とても今、胸が熱い。 「…いいのかな？」 「当たり前よ！ 好きっていう気持ちに種族なんて関係ないわ！ 大事なのはお互いの 気持ちよ、気持ち！！」 セティは、ちょっとためらったが決心したみたい。 「…わたし王子に言ってきます。『好き』だって。」 「 うん！！」 心から嬉しかった。 わたしはなんか応援してる気分。 ２人の気持ちを知ったからなのかな？ この後の２人がどうなるのか、ちゃんと助けてあげないとね。
（４６） 告白するときほど、勇気のいることはないかもしれない。 相手にちゃんと気持ちが伝わるかな？ とか。 なんて言えばいいのかな？ とか。 相手は何て答えるんだろう？ とかね。 何かプレゼントを開くように、胸をドキドキさせながら待つ瞬間。 不安と期待でいっぱいなのかもしれない。 「やっぱりもう一度、アロウから告白された場所に呼び出した方がいいかもしれないわよ。」 もう一度の告白のため、作戦をねっていた。 「そうね それも手紙に『もう一度、あの場所で待ってます』って一言書いて。アロウに渡す のは、セティ以外、私たちの誰かが渡した方がいいわね。」 わたしたちは、 マリーナとシニアにこの事を話していた。 何故？ っていうと、ほらよく言うじゃない。 『三人寄れば文殊の知恵』 って。 まっ、ホントはわたしたち２人じゃどうしたらいいか迷っていたところに２人が来たからなん だけど。 でも、この２人がついてれば大丈夫！ 「…やっぱり渡すのはパステルがいいわよね。」 へっ？ 何言い出すのぉ マリーナ！ 「そうね、その方がいいかも。」 あぁ、シニアまで。 「どうしてわたしなの？？」 「だってアロウから相談されたのはパステルだし、そのことを知ってるのもパステルだけ。 私たち２人が渡すのは変じゃない。大丈夫よ、心配しなくても。ただ渡すだけなんだか ら。‥問題はセティがどうやって告白するかよねぇ。」 「「う〜ん…」」 わたしたちは考え込んだ。 わたしは、あーでもない、こーでもないとパンクしそうなくらい考えるんでけどそれが なかなかで。 「…あのわたし…素直に今の気持ちを言うのは変でしょうか？」 セティがわたしたちに言ってきた。 「全然、変じゃないわ。それが一番いいと思うし。…じゃあ、アドバイスとして聞いててね。 まず１つは声が小さくならないこと。せっかくの気持ちが聞き取りづらいと台無しだしね。 それと、相手の目を見て言うこと。これなら、ググッとくるはずだから。」 シニアのアドバイスをセティは真剣に聞いている。 やっぱり２０歳ともなると、言うこと違うなぁ。 …でも、シニアってギアのこと好きなんだよね。 告白って、他の誰かにしたことでもあるのかなぁ。 「…ねぇ、ちょっと話は変わるけど。シニアって、まさか誰かに告白したことがあるとか？」 そうシニアに聞くと、彼女は顔を一気に真っ赤にさせた。 「 えぇっ！？ そ そんなふうに思う？」 「「「うん！思う！！」」」 ３人一緒に声を合わせて言うと観念したかのようにシニアが話してくれた。
（４７） 「本当は…。」 シニアは話ずらいそうにしゃべっている。 「本当は？」 後押しするかのように聞くと、話してくれた。 「…告白はしてないの。…ただ、ほら‥告白してくる人がいたから。」 「何人ぐらい？」 「えぇっ！？ えーと 分かんないくらいかな。」 分かんないくらいって‥それって。 「数え切れないほど『好きだ』って告白されたってこと？」 「…うん。」 照れながら言うシニアは、なんか年下のように感じてしまった。 「も もちろん全部断ったわよ。」 「えぇーっ 何で？」 「だ だってその頃にはもういたんだもん。…好きな人。」 あっ そうかギアのことだ。 「でも、その中に『この人いいなぁ』って思う人いなかったの？」 興味津々でマリーナが聞いてる。 「…１人いたかな。」 「ホント？ ねぇねぇ教えて！！」 身を乗り出して聞くわたしたちに圧倒されて、シニアもたじたじになってる。 「さぁ、白状しなさい！！」 恋の話になると女の子ってこんなにも代われることを気づかされた。 そんな年頃なのかな？ きっと…。
（４８） 告白してきた人の中で１人だけ気になる人がいた。 そう答えてくれたシニア。 数十人の告白を断ってきたシニアにそんな人がいたのなら、やっぱり聞きたい。 「別に特別に変わった人だとかじゃなかったの。冒険者で彼は風を操ることのできる人 だった。……会ったのはアロウたちと一緒に冒険に出ていた時なの。」 「一緒の仲間になったとか？」 「‥ううん。ただ、目的が同じだったからそこまで一緒に行こうって事になっただけ。 とても面白い人で周りをすぐ楽しくしてくれた。けれど、そこまで。別に恋愛感情は 持たなかった。その時の私には、好きな人がいたから。………彼に好きだと言われ たのは、別れる前日の日、大きな湖でだったの。…驚いたわ。まさかそんなこと 言われるとは思っていなかったから。」 「彼には何て言ったの？」 「…ごめんなさい。好きな人がいるからって。…そのときの彼の優しい目が好きな人と 同じ目をしたの。その目で見つめられたとき、あの人に吸い込まれそうだった。 そのとき、私の心の奥で『この人とこのまま一緒にいてもいいんじゃないか』っていう 声が聞こえて誘惑されそうだったわ。」 「…なぜ、誘惑されなかったの？」 「彼がね、私に手を差し伸べて言ったの。『今度会ったとき、まだ君が独身だったら 僕が花嫁にもらいますからね』って。それを聞いたときうれしかった。でも、まだその頃 の私は子供だったのね。反発しちゃった。『その頃には、きっと愛する人が隣にいる んだから！』って、帰ろうとする彼に言っちゃった。それでも彼は笑顔で振り向いてくれ たんだけど。」 「…その彼とはどうなったの？」 「まだ会ってないわ。いつ会えるか分からないし。それに私もどうなってるか分かんない しね。」 言い終わった後のシニアは微笑みを浮かべていた。 「はーい、これでおしまい。ほら、それよりもセティのことを考えなきゃ。明日から実行よ。」 その日のわたしは、とてもうれしかった。 セティが告白する勇気を持ってくれたこと。 あとにわたしにこっそり言ってくれたシニアの言葉。 『あなたたちの恋愛の参考になってくれたかしら』 普段なかなか聞けないことを教えてくれるシニアにわたしはお礼がしたいと思った。 そんな充実した日が続くといいのに…。
（４９） わたしは、朝早くにセティの書いた手紙をアロウの部屋へと持っていくところだ。 ただ、手紙を渡すだけなのに緊張してしまう。 どうやって渡そう？ なんて考えてるうちに、アロウの部屋の前まで来てしまった。 ええーい、いきおいでなんとか行っちゃえ！！ コンコン ドアをノックするとアロウの声が聞こえた。 「どうぞ、開いてますよ。」 緊張しながらドアを開けると、そこには広い窓ガラスがあった。 「いい眺めでしょう？ 僕この景色を見るのがとても好きなんです。」 見とれそうなくらいに広がる景色。 わたしはガラスに顔をくっつけて見ていた。 「パステル 何か用があるのでは？」 あぁ、そうだった！ 「うん。実はね…これ読んでほしいの。」 手紙を差し出すと、アロウは受け取ってくれた。 「…今、見てもいいんですか？」 「えっ！？ えーと わたしが出ていったら、開いて。」 急いで出ていこうとするわたしにアロウが言ってくれた。 「パステル、ありがとう。」 「ううん。別に礼なんかいいよ。それより、ちゃんと答えてよ それ！」 手紙を指さすと、わたしは部屋から出て行った。 「パステル！ どうだった？」 シニアたちが駆け寄ってくる。 「バッチリ！！」 「「「ほ〜っ」」」 ３人の安心した声が聞こえる。 「これであとはセティの番よ。セティ、しっかりね！！」 「 はい！！！」 元気のいい返事をするセティ。 絶対大丈夫。 絶対、成功する。 だって、好きあってる２人なんだもん。 もう、大丈夫だよね。
（５０） 心がそわそわして落ち着かない。 今日から花嫁候補の決戦があるのもだけど、それよりも気になるのは…。 「あっ！ セティが帰ってきた！！」 セティのもとへと駆け寄って行くと彼女はうれしい顔をした。 「上手くいったんだ！！ おめでとう セティ！！！」 ぎゅ〜うとセティを抱きしめる。 だってだって嬉しいんだもん。 「皆さんのおかげです。ありがとうございました。」 そんなぁ そこまでのことしてないけど。 でも、ホッとしたぁ。 どうなるかハラハラしてたんだもん。 「…あとは、国王に許してもらえるかよね。」 シニアが腕を組んで考えている。 そっかー その問題が残ってるんだよね。 「それに、第一花嫁候補たちはどうする？」 マリーナの言うことも問題だよね。 なんかすごいことばっかり残ってない？ 「…花嫁候補の方はそのままにしときましょ。決まるのにはかなり日数がかかるし。 それに後の２つはアロウとクレイたちにも協力してもらおうと思ってるの。」 クレイたちにも協力してもらうことがあるのかなぁ。 どんなことになるのかまだ分からないけどしょうがないよね。 ２人のためだもの。 よーし、がんばるぞ！
1998年7月11日(土)21時40分48秒〜7月21日(火)18時30分24秒投稿となっている、41〜50話です。コメントはなし。