「謎の襲撃者〜さんだあ・ぼると! 2〜」

「あ〜あ。やーっぱ温泉はいいわよねー」
 ここはヒールニント温泉の旅館『緑の山』の露天風呂。数日前、やっとのことでここま
で来たエレキテライト・ハンターズの面々は温泉で羽を伸ばしていた。

 アンペール・ストロームとサンドラ・ジェネールは露天風呂の風景を楽しんでいる。こ
この露天風呂からの眺めは、ヒールニント一ということで知られている。
 アンペールは続ける。
「やなことぜーんぶ忘れて、ぼーっと出来るし、美容にはいいし。言うことないわよねー」
「そうね。とりあえず、あのばかどももいないし」
 と、建物のほうから足音が聞こえてきた。
「あら、あたしたちのほかに泊まり客っていたかしら?」
「うーん……わたしたち以外にはいなかったみたいだけど」
 そして、露天風呂に人影が現れた。背は160センチ位。茶色い髪に細い目が印象的な、
顔の整った、しかしどこか暗い女性だ。
「……すまない。……ここに、ビスマス・クリプトンという人物が泊まっていないだろう
か?」
「え? ビスマスに何の用よ?」警戒しながらサンドラが答える。
「そうよ。お風呂にくるんなら服ぐらい脱ぎなさいよ」
 ……たしかに彼女はその場には合わない服を着たまま。
「そーゆー問題じゃないでしょ?」
「だって、大事なことじゃない。お風呂は裸の社交場よ。隠さないのが礼儀ってもんじゃ
ない?」
「そうなんだけどさ。たしかに事実よ。でもそんなこと今は関係ないじゃない。この人は、
別にあたしたちと交歓を交わそうってわけじゃないんだろうし」
「交換? 何を取り替えるの?」
「交換じゃなくて交歓! 交流を交わそうってことよ!」
「はあ、いい感じ」
「そ・れ・は、好感!」
「……話をしてもいいだろうか?」彼女はむっつりとしながら言う。
「あら、ごめんなさい。わたしったら。あははははは」アンペールは笑ってごまかした。
「……ある事情があってな。彼をずっと探していたのだ。どうしても会わなければならな
い。今どこにいる?」
「……人にものを聞くときは、名乗ってからじゃない?」
 サンドラは疑わしそうな目で見ている。
「隠し立てするとろくなことがないぞ……」
「つまり、答えるつもりはないってこと?」
「聞きたければ自分の腕で聞け……」
「そう……じゃ、わたしからいくわよ!」
 アンペールは湯船から飛び出して、彼女のほうへ走ろうとする。しかし。
「きゃっ!」
 ごん☆
 アンペールは濡れた床に足を滑らせて、頭をぶつけてあっさり目を回してしまった。
「……やるわね……」
「……いっとくが何もしてないぞ」
「ふん。いいわけするなんて弱い証拠よ。今度はあたしよ!」
 サンドラは呪文を唱える。
「……だれがいいわけした?」いいながらも彼女は身構える。そして、
「イチニッ・サンダー!」サンドラはいつも通りに得意呪文を唱えた。
 しかし、サンドラの手のひらから雷が生じた瞬間。
 びびびびびびびび☆
「きゃー!!」
 だっぱーん☆
 サンドラは感電して目を回して、倒れて湯に浮かんでしまった。
「ばかが……濡れた体でサンダーなど唱えるからだ……」
 彼女は素っ裸で倒れている二人を冷ややかに見下ろしながらつぶやいた。

 そのちょっと前。ヴォルト・ライアールト、ドネル・シュラーク、ビスマス・クリプト
ンの三人は、男風呂から女風呂のほうを見ていた。
「くそー! この木がなかったら少しは見えたかもしれないのに!」
「ねえ……やめましょうよ。まるっきり怪しいですよ僕たち」
「何を言う! 女風呂のぞきは男のロマンだ!」
 そんなものにロマンを語るな。
「くー! 見えそうで見えない! 悔しいぞ! ……へ、へ、へっくしっ」
 ビスマスが、ちょうどその時話題にのぼったとも知らず言った。
「なら、諦めましょうよ。宿の人とか他の人に見られたらなんて思われるか」
 ドネルがとりなすが、
「うぬぬぬぬぬ……見えない……」
 ヴォルトは垣根にくっついたまま離れない。
 三人は知らないが、絶対に見えないように位置を考えられてるのは言うまでもない。見
えそうで見えないのがここのウリだったりする。
 そのとき。
「きゃっ!」
「何か聞こえましたか?」
「さあ?」
 ドネルが気づいたが二人は気づかなかったらしい。しかし、
「きゃー!!」だっぱーん☆
「あれはサンドラの声だったな」
「そうでしたね、女風呂で何かあったんでしょうか」
「すわ、一大事!」
「すわって何だ、すわって」
 そんな事を言いながらも、三人は下着を急いで着て、武器を取って女風呂へ走った。

 しかし、女風呂に走り込んだ瞬間。
「わ、わたたたたたた!」
 どっこーん☆
 からからからん☆
 ヴォルトは足を滑らせて桶の山に突っ込み、そのまま動かなくなった。
「うぐっ! ……う〜ん……」
 ぶっ! ばた! ぴゅー……
 ドネルは素っ裸で伸びてる女性二人を見て、鼻血を噴き出して気を失った。
 そして、ビスマスの視線は、ただ一人立っている、その場にはまるっきり合わない服を
着た女性のほうを向いている。
「また、おまえか……」
「久しぶりだなビスマス。今回はこないだのようにはいかないぞ……」
「おまえねー。もういいかげんにしないか? 給食のプリン食っちまったことなら謝るぞ」
「それだけじゃないっ! 給食の空揚げ食べたこと、オーナリ食べたこと、バナナ食べた
ことエトセトラ! 食べ物の恨みは恐ろしいんだ! 覚悟!」
 彼女は素早くレイピアを抜いて攻撃してくる。足場がかなり悪いのに足さばきは確実で、
結構レベルは高いようだ。ビスマスはしかし、盗賊らしくひらひら避けてかすりもしない。
一進一退の攻防が続いたそのとき、わずかなスキをついたビスマスはどこからかハリセン
を取り出して、
「そこだー!!」
 ぱしーん☆
 彼女の頭をたたいた。
「い、いったーい!」
 彼女はあっさりレイピアをほうり出して頭を抱え込んだ。
「なんだ。打たれ弱さは変わってないじゃないか。攻撃の腕は確かに上がったみたいだが。
紙ハリセンであっさり戦意喪失するか? 普通」
「くー……。覚えてらっしゃい! 次は負けないぞ!」
 彼女はそう言いつつ温泉をあとにした。
「食い物くらいで命をねらわれてたまるか……」
 ビスマスはそう彼女に言おうと思ったが、怒ってまたレイピアを振り回されたら困るの
でやめた。ともかく、謎の襲撃者は去っていった。あとには、気を失ってる人間四人。

 後日、サンドラはこう思ったという。
「結局、彼女の名前は何だったのよ?」
                                  END

 1998年7月24日(金)12時02分09秒投稿になっている、わたしの短編5作目です。
 「さんだあ・ぼると!」の続編ですが、この名前が明らかでない彼女の名前は、いまだ謎のままです。
 これもほとんど、ノリだけですね(いつもか?)

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