その夜、シルバーリーブは風が強かった。空には闇より暗い雲が垂れ込め、時折白く 輝いていた。その雲がだんだん近づいてきたその瞬間、辺りは白転した。滝のような雨 が降ってきた。 そう、「嵐」がやってきたのだ。 明くる朝、猪鹿亭前は大騒ぎになっていた。よりにもよって猪鹿亭に落雷して、屋根 の半分が吹っ飛んでいた。幸い、主人にもリタにもルタにもけがはなかったが、店は休 業を余儀なくされていた。 「いやー、災難だったね」 「急に窓の外がオレンジ色になって、次の瞬間屋根がないの! もうびっくりしたわ! でも父さんはそうでもないみたいよ」 リタが指差した先では、やたら派手な中年男性と主人が話をしている。言わずと知れ たヒュー・オーシだ。 「いやぁ、災難でしたねー。でも、プルトニカン災害すぺしゃるに入ってて良かったで すなお客さん!これで一発逆転だ!」 「何に逆転するんだよ」 言いながらも主人の顔はまんざらでもない。 「まーねー。あのお金があれば屋根を修理しておつりが出るんだろうけど、でもねぇ……」 リタが口を開きかけた瞬間、彼女はふとあることに気がついた。 「あんたら何やってんのよ」 見ると、妙な5人組が猪鹿亭の回りの地面をいじっている。見られてることに気づい たリーダー格の戦士風の男は、仲間に目配せして、 「戦士ヴォルト・ライアールト!」 「同じく戦士アンペール・ストローム!」 「僧侶ドネル・シュラーク!」 「盗賊ビスマス・クリプトン!」 「魔法使いサンドラ・ジェネール!」 「我ら!」 「エレキテライト・ハンターズ!!」 と妙なフリをつけて叫んだ。 「…………」 奇妙な沈黙が漂う中、彼らは再び作業を始めようとしていた。村人たちは目を点にし ている。やっとのことでその沈黙を破ったのは、変な客には商売柄慣れてるリタだった。 「もしもし?」 「むっ! 我々の意表つきを破るとは、お主なかなかやるな」 と、ヴォルトと名乗った男が答えたが、 「ほら、ここなんかちょうどいい具合に帯びてますよ」 「よし、掘ろう」 ドネルと名乗った僧侶のつぶやきにヴォルトはすぐにシャベルを取り出して掘ろうと する。後はリタが何を言っても答えようとせず、仲間内で夢中で話し合っている。 「あの〜」 「うん、ここなんかもいいですね」 「え〜と……」 「ほら、ビスマス、あんたも手伝いなさい」 「え? 俺、鍵より重いものもったことないよ」 「そのセリフは聞き飽きたわ」 「へいへい。やれやれ、サンドラにはかなわんぜ……」 「その……」 「きゃっ! ビリッときたわ!」 「だからアンペールは特に注意しろって言ったんだ。感電するぞ」 「そんなこと言ったって、あたしファンブルが多いことは良く知ってるでしょ」 ………… 「えーかげんにせんかーい!!!」 リタの大声が村中に響き渡った。他の村人その他はまだ硬直している。 「どうしたの? 何か問題でもある?」 アンペールが平然と答えた。 「どうしたもこうしたもないでしょ! いきなり人の店の前掘り出して! 邪魔よ! やめなさい!」 「何、30センチくらいだ」 ビスマスが言った。 「30センチも掘るの!? 冗談じゃないわ! だいたい修理の邪魔よ! 何考えてん のよ! 「我々はエレキテライト・ハンターズだ!」 ヴォルトは胸を張った。 「そんなこと知らないわよ! だいたいエレキテライト・ハンターズってなによ!」 ヴォルトはなら仕方ないという感じでもったいぶって説明し始めた。 「そう、あれはまだ天地が定まってなかったころ……」 ぱぃ〜〜〜ん☆ 「て・み・じ・か・に」 リタがフライパンでヴォルトの頭をどついた。 「ど、どこに持ってたそのフライパン」 「ウェイトレスのたしなみよ。次は包丁でも投げる?」 「わ、分かったよ。あのな、エレキテライトっていうのはな……」 エレキテライトというのは、エレキテルシリーズの動力源となる貴重な鉱物である。 ある条件下で落雷が発生したとき、雷が落ちた地面にできるが、それを採取する方法を 知るものは、雷神を信仰する僧侶の中でもごく一部である。ドネルはその方法を知る数 少ない僧侶の一人なのだ。ちなみに採取することができる期間は落雷後約1日とされて いる。 「そうゆうわけで、そうゆうことなのだ。ちゃんとそれ相応の迷惑金は払うからな」 「うむ。金がもらえるならいいぞ」 「父さんはだまってて!」 「……おまえ、母さんに似てきたな」 「ありがと」 その間にも他のメンバーは黙々とまではいかないが作業を続ける。そのうち土が山に なって店の前に集まってきた。 「これをどうするのよ」 リタが聞く。こうなると怒りより好奇心のほうが強くなっていた。 「この山に呪文をかけます。すると、山の中にエレキテライトが生成します」 言うとドネルは呪文を唱え始めた。すると山が鈍く光ってくる。その光が爆発し、皆 が目を覆ったところで、 「終わりました。さて、探しますか」 「待て!!」 見物人の山から1人の魔道士が出て来た。 「わたしはマーリン・クロスロードと言う。別の目的でこの村に来ていたが、エレキテ ライトと聞いてほってはおけん。そのエレキテライト、譲ってはもらえまいか? もちろん、金は払うが」 「金がもらえるならいい……」 「あんたは黙ってなさいヴォルト! ドネルとあたしの苦労を無にする気!」 ゲシッ☆ サンドラが蹴っ飛ばす。 「それより勝負といきましょう。あなたが勝ったらエレキテライトはあげるわ。あたし が勝ったらあなたは諦める。 それでいいでしょ? メンバーはうんうんとうなずく。こうなったサンドラを止めることができる人間を彼 らは知らない。 「じゃ、いくわよ! イチニッ・サンダー!!」 「むっ! ロッカイウラ・コールド!」 ピリビリパシバシッ☆ 「チャージなしでサンダーとは、やるな」 「あなたこそあの瞬間で返すとは、やるわね」 二人はニヤリと笑う。そして睨み合う。 「どうでもいいけど、店の前で魔法戦なんかやらないで欲しーわ。何が飛んでくるかわ かんないじゃない」 「そんな時のために、プルトニカン町中ドンパチ保険・まじかるヴァージョンがあるん ですねー。これならはぐれ魔道士がいきなりファイアー・ボールを撃っても大丈夫!」 ヒュー・オーシの説明を主人は熱心に聞いている。 「……やってなさい」 リタがつぶやいたそのとき、場が動いた。 「アッファズ・サンダー!」 「なにっ! どこだ!」マーリンが横を向いた次の瞬間、 ドッカーン☆ 「ほっほっほっほ。あたしの勝ちね」 「な、何ということだ……ファズさんに気をとられるとは……不覚……ぐふっ」 黒焦げになったマーリンがつぶやく。 「大丈夫。死にゃしないわよ。アッファズ・サンダーは威力はそんなにないから。 さ、邪魔者は消したわ。さっさと持ってっちゃいましょ」 メンバーは手際よく山をかき分けた。そのうち、明るい黄色の鉱石が何個か出て来た。 「これがエレキテライトです」 「へぇー、きれいね」 リタはしばらくその石を見ていたが、何かに気がついたように顔をあげた。 「ところで、1日のうちに採取しないとだめなのよね? なんであなたたちそんなにタ イミングよく雷が落ちたところにいるの? たまたまってわけじゃないんでしょ? ど うやって予測すんの?」 好奇心にとりつかれたリタが聞くと、 「予測できるわけないじゃないか。我々が今日ここにいるのは、昨日からここにいるか らだ。昨日の夜ドネルが雷曇を呼ぶ奇跡をしたうえで、サンドラが最大級のサンダーを 放って、この近辺で落雷に似たことが起こるようにしたんだ」 「ヴォルト!」 アンペールが叫んだがもう遅い。まわりにはどこからともなく取り出したクワや棒な んかを持った村人たちが集まってきた。 「……なるほど。あんたらがこのさわぎの原因ってわけね」 先頭に立ったリタがフライパンを振りかざしながらいった。 「……やばい。……逃げるぞ!」 ビスマスが叫んで、エレキテライト・ハンターズは脱兎のごとく逃げ出した。 俺が何をしたー!」 「しゃべり過ぎよあんたは! も少し静かにしなさい!」 ヴォルトとサンドラが叫びながら走っていく。 「待たんかーい! せめて穴くらい埋めていかんかーい!」 リタの叫びはむなしくズールの森に消えていった。 こうして「嵐」は去って行った。後には猪鹿亭の空掘と山になった土、黒焦げの人間 が残された。その黒焦げマーリンがつぶやく。 「こ、こんなんでいいのか……ぐふっ」
END
1998年5月12日(火)17時53分06秒投稿になっている、わたしの短編4作目です。
初めて小説掲示板のために書いた作品で、オリジナルなキャラ満載です(というよりオリジナルじゃないキャラはリタとヒュー・オーシだけという……)。
はっきりいって、ノリだけで書いた作品です。
(なお、掲載されたものを読みやすいように訂正してあります)